雨の日にはJAZZを聴きながら

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金曜深夜のジャズ日記

2008年02月29日 23時49分55秒 | JAZZ


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The Classical Jazz Quartet  『 Play Rachmaninov 』 2006 Kind of Blue 10004
ケニー・バロン、ステフォン・ハリス、ロン・カーター、ルイス・ナッシュのカルテットによるクラシックを題材にしたシリーズは本作のラフマニノフ以外にも、バッハとチャイコフスキーがあります。もともとは2002(3)年にVertical Jazz Lebel から発売になったシリーズですが、2006年にKind of Blueからリマスターとして蘇りました。ラフマニノフのピアノ協奏曲2番をボブ・ベルデンがアレンジ。現代盤MJQとも呼ぶべき4人が気品に満ち溢れた素晴らしい演奏を繰り広げます。ラテン・タッチのアレンジなので、最初はちょっと倒れそうになりましたが、聴き込むうちにすっかり魅了されてしまい、今ではすっかり愛聴盤化しています。リマスターを謳うだけあって録音も実に素晴らしい。


Rachmaninov  『 Piano Concertos No.2&3 』 1994 Grammophon
ラフマニノフは最も好きな作曲家の一人で、特にこのピアノ協奏曲第2番が一番好き。本作はアバド指揮のベルリンフィルで、ピアノはリーリャ・ジルベルスタイン。個人的にはアシュケナージよりもこちらがお気に入りです。


Franco Ambrosetti  『 Grazie Italia 』  2000 enja 9379 2
拙ブログにもたびたび登場するアンブロゼッティですが、彼の最高傑作は?と聞かれたら迷わず本作だと答えるでしょう。それくらい素晴らしい。カンツォーネの哀愁を帯びたメロディーに身も心も揺さぶられます。瞠目すべきはダド・モロニとアントニオ・ファラオの演奏です。2人とも信じられないくらい巧い。


Orchestre National de Jazz  『 Monk Mingus Ellington 』 1993  Label Bleu
 Ambrosetti の 『 Grazie Italia 』を聴いていたら、無性にビッグバンドを聴きたくなってきた。久し振りにONJでも聴くか。と、CD棚を眺めながら今日はDenis Badault の三部作の中から 『 Monk Mingus Ellington 』 を引っ張り出してきました。流石に午前1時を回っているのでヘッドホンで聴くことにしましょう。お~、この変態アレンジはたまりません。多少酒が入っているからなおさらです。摩訶不思議な桃源郷へ誘うに魅惑の世界。ユーホリックに満たされ、あ~極楽極楽。


Hal Galper  『 Children of The Night 』  1997 double time records
ヘッドフォンをつけて超絶爆音でONJを聴いていたら、もう一枚爆音で脳髄直撃してくれそうな盤を聴きたくなり、Micheal & Randy Brecker が参加しているHal Galper の本作を取り出して聴いています。本作が録音された78年といえば、ブレッカー・ブラザーズの『 Heavy Metal Be-Bop 』が制作された年でもあるわけで、結構、意外な感じがします。ご存じのようにソースは『 Redux'78 』と同じニューオーリンズでのライブですが、個人的には本作のM-1≪ Speak With A Single Voice ≫の鬼気迫るブレッカーとギャルパーのソロが好きなので『 Redux'78 』よりも聴く機会が多いです。膨大なマイケル・ブレッカー参加作品の中でも傑出の出来の良さではないかと思うのですが。


Mike Ledonne  『 Night Songs 』 2005 savant SCD2067
マイク・ルドンは大好きなピアニスト。90年代のcriss crossに残された諸作品にも愛着がありますが、近年のものでは本作が愛聴盤です。いつでも安心して聴ける質の高い娯楽性が魅力ではありますが、なんとなく、ジャズに対しての一本筋の通った職人気質の姿勢に、理屈抜きに魅力を感じてしまうんですよね。実に味のあるピアノを弾くミュージシャンです。


Scott Wendholt 『 From Now On... 』

2008年02月26日 21時08分59秒 | JAZZ
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20世紀の初めの頃、ニューオーリンズの黒人ブラス・バンドから発生したジャズは、アメーバーの如く様々な音楽形態を吸収、消化することによって発展してきたわけですが、90年代に入るとその発展進化の速度は緩やかに減速し、以後ほとんど進化らしい進化を示していないのではないかと、この95年録音のスコット・ウェンホルトの『 From Now On… 』(criss cross 1123)を聴きながら思ったりしています。

たとえば、本作などを「2007年録音のcriss crossの最新作だよ」って友人に聴かせてもおそらく「これ、カッコイイね~」と納得して聴き惚れてくれるでしょう。逆にいえば、10年前と今ではほとんどそのジャズの方法論は変わっていない、ということになりますね。極論すれば、使用するイディムもリズムも作曲法も何もかも全て90年代に一応の終着点に達した、と言ってもよいかと。

好奇心旺盛な私としては、常に現在進行形のジャズを聴いていたいと足繁く輸入盤店に通ってはいるものの、最近はほとんど未知のジャズ形態に遭遇することはありません。今後もドラスティックにジャズが進化することはおそらくないのでしょうね。そんな絶望にも似た諦めを胸に、今日もDiskunionの扉を開けちゃうわけで、それなら買わなきゃいいじゃん、と友は言うけど、そう簡単に止められない猟盤生活。なぜなら中毒だから。要するに一種の病気ですから。

それはさておき、スコット・ウェンホルトと聞いてもあまり馴染みがないかもしれませんが、秋吉敏子ビッグバンド,ボブ・ミュンツァー・ビッグバンド,マリア・シュナイダー・ビッグバンド,カーネギーホール・ビッグバンド,最近ではバンガード・ビッグバンドなどで活躍しているので、ビッグバンド・ファンにはそれなりに人気のある吹き手です。

簡単に彼の経歴を紹介しておきますと、1965年,コロラド州デンバーで生まれたスコット・ウェンホルトは,小学3年生の時にトランペットを習い始め、高校1年の時にクラスメイトだったGreg Gisbert(グレッグ・ギスバート)に聴かせてもらったウイントン・マルサリスをフューチャーしたアート・ブレーキー&ジャズ・メッセンジャーズの『 Straight Ahead 』に衝撃を受け,初めてビ・バップの洗礼を受けたそうです。なんと当時、彼の自宅にはジャズと言えばチャック・マンジョーネやスパイロ・ジャイラのレコードしか無かったといいます。1983年にインディアナ大学に入学すると、David Baker (デイヴィッド・ベイカー)(エンジニアの方ではないよ)に師事し,ジャズ学を4年間学びました。当時の仲間にはBob Hurst(ボブ・ハースト),Ralph Bowen(ラルフ・ボーエン),それに後にポップス界でもビッグスターとなったChris Botti(クリス・ボッティ)もいました。卒業後はシンシナティに移住し、ロックン・ロール・バンドに参加して遊園地での定期的なギグを行っていたようです。ニューヨークに進出したのは意外に遅く90年代に入ってからで、92年にはVincent Herring(ヴィンセント・ハーリング)の正式メンバーに抜擢されています。その後は彼の卓越した技術が認められ、前述したようなニューヨークの一流ビッグバンドから引く手あまたで現在に至っています。

ウェンホルトは現在までに計5枚のリーダー作を制作しています。まずはcriss crossから『 The Scheme of Things 』(1993)、『 Through The Shadows 』(1994)、『 From Now On… 』(1996)(本作)の3枚。その後、double time records と契約し、『 Beyond Thursday 』(1997)、『 What Goes Unsaid 』(2000) の2枚をリリースしています。

私はcriss cross の3枚しか所有していませんが、どれも現代的で洒落た都会的なアレンジが施されたハード・バップです。ヴィンセント・ハーリングとのダブル・フロントの第一作。ドン・ブレイデンと組んだ第二作。そしてテナーのTim Ries(ティム・リーズ)、トロンボーンのSteve Armour(スティーブ・アーマー)、アルトのSteve Wilson(スティーヴ・ウイルソン)らなどの辣腕どもが参加した本作と、いづれも甲乙つけがたい秀作ぞろいです。(いずれ他の作品も取り上げますね)

個人的には、“ ジャズは管だ! ”、そして“ 管は多いほど面白い ”と思っているので、この第三作が一番のお気に入りです。しかも結構好きなティム・リーズやスティーヴ・ウイルソンが参加しているのでなおさらです。しかし本作において瞠目すべきは、管陣営ではありません。ビリー・ドラモンドこそ本作の肝なのです。ホント、ビリー・ドラモンドの鬼気迫るプレイが凄まじいのです。こんな壊れたドラモンドは聴いたことがありません。意味不明の煽りには開いた口が塞がりません。でも、まあ、最近でこそ知的で繊細なプレーが目を引くドラモンドですが、昔のOTB時代は叩きまくっていましたからね。そんなに不思議ではありませんかね。

肝心のウェンホルトは、流石にビッグバンドで鍛えられただけあって、フレーズもよく歌うし、切れ味も鋭く、隙がありません。俺はアドリブで勝負するぞ、といった自分の持てる力を目一杯詰め込んだ直球振りも清々しく、気持ちがいいですよ。まあ、このcriss crossというレーベルに吹き込みをもつトランペッターには、既にメジャーとなったBryan Lynch 、Ryan Kisor、 Jeremy Pelt、そしてJim Rotondi などがいる一方で、いまだにcriss cross の殻を破れずにいる優秀な吹き手が沢山いますよね。Alex Sipiagin、John Swana、Joe Magnarelli、Tom Williams、そしてGreg Gisbertなどなど。

今聴いているウェンホルトもそんな中の一人ですが、腕前は前者達と比べてもなんら遜色ない技術力を持っていると信じていますので、あまり保守的にならずガンガン暴れまくって生きのいい作品で私たちを楽しませてほしいものです。

Scott Wendholt 『 From Now On... 』 1996 criss cross 1123
Scott Wendholt (tp)
Tim Ries (ts&ss)
Steve Armour (tb)
Steve Wilson (as)
Bruce Barth (p)
Larry Grenadier (b)
Billy Drummond (ds)

金曜深夜のジャズ日記

2008年02月22日 22時15分45秒 | JAZZ
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やっと妻と子供が眠りについたので、これから寝るまでの数時間、思う存分ジャズを聴くぞ~。明日は仕事が休みだし。


BeatleJazz  『 A Bite of The Apple 』 2000 Zebra Acoustic
今日の朝、通勤の車の中で “ Mingus Big Band ” を聴いていたら、無性にデイヴィッド・キコスキーが聴きたくなり、まずははじめにビートルジャズを取り出してきました。ビートルズ解散30周年,ジョン・レノン没後20周年の年である2000年に結成されたデイヴィッド・キコスキーのトリオ作品。このシリーズは現在までに4作品リリースされていますが、本作はその第一弾。世に星の数あるビートルズ・カヴァー作品の中でもかなり優秀な作品ではないでしょうか。ジョン・レノンの≪ Love ≫に感涙。


Alex Sipiagin  『 Prints 』 2007 Criss Cross
キコスキーつながりでもう一枚。アレックス・シピアジンのクリスクロス通算6枚目の作品。キコスキーのローズ,かっこ良過ぎ。ジャズの現在進行形、いや、未来形がここにある!昨年は聴きまくった作品ですが、久しぶりに聴いてやっぱり凄いと実感。面子も最強。


David Kikoski Quintet  『 The 5 』 2002 DIW
キコスキーのCriss Cross盤もイイけど、やっぱり一番好きなのはこのDIW盤。同時録音のトリオ作品『 Comfortable Strange 』よりも好き。単純に管好きなだけですが。キコスイーの周りにはいつも素晴らしいミュージシャンが集まるようで,本作にもシマス・ブレイク,アレックス・シビアジンが参加しています。5拍子のM-2≪Song in Five≫がお気に入りで、それだけ聴いて次へ。


Daniela Schachter  『 I Colori Del Mare 』  2006 Splasc(h)
しり取りゲームみたくなってしまったけど、アレックス・シビアジン絡みでもう一枚。イタリアはシシリーで育ち、現在は米国で活躍中のダニエラ・シュヒターの作品。アレックス・シビアジンって日本では未だにアンダーレイテッドな存在ですが、相当巧い吹き手です。コンテンポラリーでミステリアスな音も出せれば、ブリブリの豪快な高速ブローもカッコいいし、個人的にはここ2~3年の間,かなりハマってます。ダニエラ・シュヒターは頭でっかちで作為的な匂いのする作曲をするのが気になりますが、彼女も凄腕ですよ。ジミー・グリーンも好調。


Jacques Pelzer  Open Sky Unit  『 Never Let Me Go 』1990 Igloo
今日帰宅したら、Vento Azul Records さんに注文してあったジャック・ペルツァーの 『 Never Let Me Go 』、ジョー・キーネマンの『 Integration 』、それとギド・マヌサルディの『 Introduction 』が届いていました。早速、ジャック・ペルツァーから聴いてみることにしましょう。本作は例の『 幻のCD廃盤~』に掲載されていた作品。ベルギー・ジャズ界の重鎮にして、エリック・レニーニの恩師であるペルツァーの幻の逸品です。ペルツァーのCDは、75年の『 Song For Rene 』しか所有しておらず、これが大した出来ではなかったので、彼に対してあまり好印象は持ってなかったのですが、この『 Never Let Me Go 』は遙かにイイ感じです。ペルツァーって涼しげな音質で何となくリー・コニッツ似かな。


Horace Silver  『 Paris Blues 』 2002 Pablo
2月4日に,ホレス・シルバーの58年ニューポート・ジャズ・フェスティバルでの未発表音源ライブ盤『 Live at Newport 58 』が発売になりました。とっても欲しいのですが、仕事が忙しくまだ買いに行ってません。明日にはやっと手に入れられそうです。その前に、62年のパリでもライブ盤『 Paris Blues 』でも聴いて気分を盛り上げておこうかな。62年というとブルー・ミッチェル=ジュニア・クックの黄金期真っただ中。この時期のホレスの作品は、同時期のJMの作品と比べても遜色ない出来の良い作品が目白押しです。第二のJMと言っても過言でないでしょう。62年正月に初来日し、いたく日本を気に入ったホレスは、同年7月に『 The Tokyo Blues 』(BN 4110)を録音。その足で10月にパリに乗り込んだので、≪ The Tokyo Blues ≫や≪ Sayonara Blues ≫なども演奏されています。ライブ盤だとホレスの跳ね方も尋常ではありません。


Nicki Parrott  『 Moon River 』 2007 Venus
女性のベーシストだと思って買ったら完全なヴォーカル作品でした。ベースは弾いてはいるのですが、ほとんどソロもなく平凡な演奏です。声質は誰にでも好かれそうな無難な印象を受けます。選曲も万人受けしそうでしす、とりあえずヴォーカルでも聴こうかな、って思ったときに手が伸びそうです。≪ Takin' A Chance On Come Love ≫が好き。


Marcin Wasilewski Trio  『 January 』 2008 ECM
Simple Acoustic Trio のポーランド人ピアニスト,マルチン・ボシレフスキのECM最新盤。日常の憂鬱な出来事をすべて中和し、洗い流してくれそうな,澄み切った音の世界です。普段はあまりECMを聴かない僕でも買うくらいですから、かなり売れているんでしょうね。このところ眠りにつくときに毎日聴いています。では,おやすみなさい。

The Nuttree Quartet 『 Standards 』

2008年02月21日 22時36分10秒 | JAZZ
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John Abercrombie、Jerry Bergonzi、Adam Nussbaum、Gary Versace ら4人によるユニット “ The Nuttree Quartet ”の第一弾。発売はスイスに本部を構える新興レーベル“ Kind of Blue ”。このレーベルは、≪ 世界最高位のスタジオで世界最高位のミュージシャンによる演奏 ≫をモットーに、2トラックライブ録音に拘った品質本位の作品を制作しています。発足は2006年で、現在(2008年2月)までに25作品をリリースしていますが、個人的に記憶に残っている作品としては、2006年のフィル・ウッズの『 American SongBook 』、2007年のマーク・ソスキン『 One Hopeful Day 』や Los Angels Jazz Ensemble 『 Expectation 』 などでしょうか。どれも格調高い内容、抜群の音質、そして丁寧に作り込まれたパッケージで、所有することの喜びを味わえる素晴らし作品でした。

さて、本作ではゲイリー・ヴェルサーチはピアニストではなく、オルガニストとして参加しています。ジョンアバもバーゴンジーもオルガン大好きアーティストであるのはご存じだと思います。ジョンアバは90年代にジョンアバ=ナスバウム=ダン・ウォールのオルガン・トリオでECMに3作品を残していますし、バーゴンジーも同時期にバーゴンジー=ナスバウム=ダン・ウォールという全く同じ布陣で数多くのオルガン・トリオ作品をDouble Timeに残しています。そしてジョンアバは昨年あたりにジョンアバ=ナスバウム=ヴェルサーチのトリオでギグっていますし、さらにはジョンアバとバーゴンジーは昨年リリースされたバーゴンジのリーダー作『 Tenorist 』(Savant)(前項あり)で共演しています。“友達の友達はみな友達”といったところでしょうか。たぶんそんな経緯もあって、今回のカルテット結成に至ったと思われます。

タイトルが示すようにスタンダードやジャズメンのオリジナルを10曲演奏しています。聴くまではハードでファンキーかつグルービーな演奏を予想していましたが、やはりダン・ウォールではなくヴェルサーチがバッキングすると全体の音の印象がだいぶ変わるものです。スタイル的には似ていますが、ヴェルサーチの方がより洗練されていてクールにソロを決めるタイプです。右手のスピード感はウォールに軍配があがりますが。もともとヴェルサーチはピアニストだったので、やはり左手のベースラインはちょっと輪郭がぼけていま一つコード感が希薄な感じがします。同じピアニスト出身のオルガニストでも,ラリー・ゴールディングスあたりは左手も強力ですけどね。ただ、ジョンアバの浮遊系、スペース系の音響には非常に相性が良いようで、気持ちのいいノリを演出しています。バーゴンジーはいつもの調子でブリブリ・ゴリゴリの極太フレーズを連射し、なかなか良いのですが、90年前後の一連のRed Records作品あたりの凄さを知っている耳には、やはり少々物足りなさを感じてしまいます。バーゴンジーとジョンアバって、技術的には超一流なのに、日本ではあまり人気はありませんが、思うに,これぞバーゴンジーのキメのフレーズ、これぞジョンアバのキメのフレーズ、といったものがほとんどないんですよね。いわゆる盛り上がったところでの独特のストック・フレーズみたいなものが皆無なのが、彼らの印象を希薄にしているのでしょうか。つまりは、ストック・フレーズや手癖に頼らず、常に真剣に即興に取り組んでいるということなのでしょう。パット・メセニーでも、信じられないくらい巧いけど、ストック・フレーズの連結でソロを乗り切っている節がありますものね。バーゴンジーは近年、Savantから『 Tenor of The Times 』(2006)(前項あり),『 Tenorist 』(2007)と2作品をリリースしましたが、単純に好き嫌いで言い切ってしまうと、今回の最新作が一番好き、です。最後に、2月25日にヴェルサーチの新作がCriss Crossから発売になるみたいです。タイトルは『 Outside In 』。ドニー・マッカスリン(ts)を加えたオルガン・カルテットのようです。


J.D.Allen 『 In Search Of 』

2008年02月19日 22時51分45秒 | JAZZ
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前回取り上げたジェラルド・クリーヴァーの新作『 Gerald Cleaver’s Detroit 』にも参加していたD.J.Allen( 1972~ )のデビュー・アルバム『 In Search Of 』(1998 Red Records )です。彼はG・クリーヴァーと同じくデトロイト出身で、同郷のジェームズ・カーター( 1969〜 )よりも3歳若いことになりますが、ジェームズ・カーターに比べほとんど世間では知られていない吹き手です。少なくとも日本には彼のファンはほとんど生息していない模様。実際、インターネットで検索し彼の情報を収集しようと思っても、ほとんどヒットしません。辛うじてウィキペディアに簡単なバイオグラフィーが掲載されているだけです。そんな知る人ぞ知る存在であるD.J.アレンですが、現在はトリオ編成で、Smalls, Fat Cat, Jazz Standardsなどのニューヨークのクラブを拠点として活動しているようです。また1999年以降にはCindy Blackman (シンディー・ブラックマン)のバンドに参加し作品も残しています。その一方では、デイヴ・ダグラスの“ Don Cherry’s Symphony Improvisers ”というプロジェクト・メンバーに名を連ねたりもしています。私の知る限り彼のリーダー作は本作『 In Search Of 』と2001年にCriss Crossに吹き込んだ『 Pharaoh’s Children』だけですが、ウィキのバイオによると、2007年に『 I AM – I AM 』というタイトルのトリオ編成の作品があるようですが、それ以上の情報は全くつかめず詳細は不明です。ということで、私の手元には2枚のリーダー作と,サイドメンとして参加している諸作品、Russell Gunn(ラッセル・ガン)の『 Blue on the D.L. 』、Fabio Morgera (ファビオ・モルジェラ)の『 New Hopes 』『 Colors 』『 Slick 』、それから Orrin Evans(オリン・エバンス)の『 Easy Now 』などがありますが、それらの中でもぶっちぎりで出来が良いのがこのデビュー作です。赤、黒、白のあまりセンスが良いとは言えないレタリングに、チープなD.J. アレンのコラージュ。どうみても手抜きジャケットなのですが、内容は素晴らしい出来です。矢継ぎ早に畳み掛けるコルトレーン・マナーに則った激しいブローからは、 ストイックなまでに自己練磨を続ける真摯な音楽的意志が伝わってきます。また、ロドニー・グリーンの激しい煽りもたまりません。 一瞬、コルトレーン=エルビンの図式が頭をかすめます。なお、本作で彼は1999年のイタリア新人最優秀賞を獲得しています。 このデビュー作以降の彼のスタイルは、時にエリック・ドルフィー風であったり、時にPost-Bop流儀の浮遊系であったりと、いまひとつ統一感に欠ける印象があります。悪く言えば、自分が選択すべき方向性を暗中模索している状態。でもたぶん、ヴァーサタイルな器用なミュージシャンなのでしょうね。J.D.Allen  『 In Search Of 』 1998 Red Records 123283-2J.D.Allen  (ts)Fabio Morgera  (tp)Eric Revis  (b)Rodney Green  (ds)Shedrick Mitchell  (p)J.D.Allen  『 Pharoah's Children 』  2001 Criss Cross 1221全体の音の感触は、デビュー作に比べてぐっと現代的。Fabio Morgera  『 New Hopes 』 2001 What's New Records  WNCJ2105現在はニューヨークで活躍中の片腕のイタリア人トランペッター、ファビオ・モルジェラの作品群にもD.J.アレンはよく登場します。90年代に一世風靡したアシッド・ジャズ・ムーブメントで有名になったモルジェラですが、ブームが去った後は、ここで聴かれるような真面目なハード・バップを演奏しています。爽やかでどこか懐かしい60年代ブルー・ミッチェルを彷彿とさせる好盤です。Russell Gunn 『 Blue on the D.L. 』 2002 High Note Records HCD70871曲だけJ.D.Allenが参加。ここでは音の跳躍が激しいエリック・ドルフィー風の尖ったソロを展開しています。

Gerald Cleaver 『 Gerald Cleaver's Detroit 』

2008年02月13日 16時12分14秒 | JAZZ
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デトロイト出身のドラマー,ジェラルド・クリーヴァーの『 Adjust 』( 2001 FSNT )に続く第二弾。個人的にはリック・ロウの『 The Late Late Show』やベン・ウォルツァーの『 One Hundred Dreams Ago 』での繊細で緻密なプレイが印象的だったドラマーという認識があります。しかし,マシュー・シップ,ウイリアム・パーカー,ロスコー・ミッチェル,クレイグ・タボーンら界隈で目撃することも多く,一般的には,フリー/アバンギャルド系のドラマーと位置付けされているようです。僕にとってはマシュー・シップらの音楽は完全に越境音楽であり,本来ならスルーするところですが,この最新作にはベン・ウォルツァー、J.D.アレン、ジェレミー・ペルトらが参加しているので,まあ,そんなにぶっ飛んではいないだろうと予想し買ってみました。ジャケットもカッコいいしね。

ますは簡単に彼の経歴を紹介しておきます。
1963年,ミシガン州デトロイトで生まれたジェラルドは,ドラマーであった父親の影響で幼少期にドラムを手にしました。また,小学校ではバイオリンを,中学高校ではトランペットもマスターしたようです。10代の早い時期からその頭角を現し,地元デトロイトのプロに混じって演奏活動をはじめるという早熟ぶり。ミシガン州立大学の音楽教育学科に在籍中に,米国芸術基金( National Endowment For The Arts )の奨学金を獲得し,ビクター・ルイスに師事。1992年に大学卒業後は地元で後進の育成に力を注ぐ一方で,ウェンデル・ハリソン,エディー・ハリス,ダイアナ・クラール,ドン・バイロンらと共演を果たしています。1995年にはミシガン州立大学ジャズ学科の助教授に就任し,さらに1998年には同大学のジャズ学部でも教鞭をとり,1999年にニューヨークに移り住んでいます。彼は現在までに南北アメリカ,ヨーロッパ,オーストラリア,日本などを数多くのアーティスト,例えばフランク・アムサレム,ジャッキー・テラソン,ロスコー・ミッチェル,ジョー・モレノ,ブルース・バース,マシュー・シップ,クレイグ・タボーンらとツアーで訪れています。2001年には“ Gerald Cleaver’s Veil of Names ”名義で初リーダー作『 Adjust 』をFSNTよりリリースしたことは前述の通りです。

ところで,ジェラルドのデビュー作『 Adjust 』については,HP『ジャズ新譜ナビゲーター』の管理人であるナカーラさんが以下のようなコメントを書かれていますので,勝手ながら引用させていただきます。

「全体に、いかにも頭でっかちの、よくある暗く冷たいフリー系のサウンドが漂うばかりで、ジャズ音楽における躍動感に対する認識が決定的に欠けている。(もちろん、最近よく話題になる「美旋律」なるものも、聴くことはできない) 他のメンバーも、「行きそうで行かない」様子眺めのプレイの連続で、欲求不満が残り,評価はやや厳しめの2つ星としたい。」(ジャズ雑感より)

僕はこのデビュー作を聴いてはいないのですが、おそらくワイド・レンジなジェラルドの仕事の中では、どちらかというとアバンギャルド寄りの作品なのでしょう。音楽性よりも精神性やメッセージ性に重点を置く作品が苦手な僕が聴いたとしても、きっとナカーラさんと同様の感想を持ったと思います。でも、今回の最新作はご心配ありません。ちゃんとFSNTらしいコンテンポラリーな演奏をしています。

全13曲ですべてジェラルドのオリジナル。非4ビート系主体で、複雑な楽理に基づいたフレーズ、変拍子、ポリリズム、アゴーギクと、コンテンポラリーな楽曲に不可欠な要素を全て満たしていますし、弛緩しない緩やかな疾走感を保った各人のソロもお見事です。全体に漂う心地よいアングラ臭もいかにもFSNTらしく魅力的です。

アンドリュー・ビショップは初めて耳にする吹き手ですが、慟哭するバスクラなどは一瞬、エリック・ドルフィーを彷彿させ、とっても刺激的です。それに対して、やや物足りないのがJ.D.アレンです。1999年のデビュー作『 In Search Of 』 (RED)がめちゃくちゃ凄くて(絶対お薦め!!)、以来大ファンになったものの、最近はあまり元気がないような気がします。新譜の噂も聞かれないな~と思っていたところに今回のジェラルドの新譜に参加していたということで、かなり期待していたのですが、良くも悪くも垢抜けちゃって、昔のコルトレーン・ライクな爆裂ソロが聞こえてきません。これにはちょっと残念としか言いようがありません。

ベン・ウォルツァーも要所要所で切れのいいソロを披露してくれています。ベン・ウォルツァーはFSNTから3枚リーダー作を発表していますが、個人的には、唯一ジェラルドが叩いていない作品『 For Good 』が愛聴盤です。この盤でのドラムはホルヘ・ロッシですが、イイ演奏しています。特にM-3での煽り方は鳥肌モノです。

それは兎も角として、この作品、お茶の水Diskunionの店頭でのポップには“デトロイトの名に相応しい重量級ジャズ”とありましたが、思ったより軽く、あっさりしていてやや拍子抜け。しかし、FSNTファンの僕としては、妙にこの空気感が肌に合っちゃうんですよね~。

Gerald Cleaver 『 Gerald Cleaver's Detroit 』 2007 FSNT
Jeremy Pelt (tp)
J.D.Allen (ts)
Andrew Bishop (ss, ts, b-cl)
Ben Waltzer (p)
Chris Lightcap (b)
Gerald Cleaver (ds)

P.S. リック・ロウの『 The Late Late Show 』については、ブログ仲間のmonakaさんが以前に書かれています。→こちら

Dylan Cramer 『 Remembering Sonny Criss 』

2008年02月10日 22時39分55秒 | JAZZ
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いきなり回顧的な話で恐縮ですが、僕が初めてジャズの魅力に目覚めたのは大学浪人生活をしていた81年のこと。勉強中にたまたまFM放送から流れてきたジョー・サンプルの『 Rainbow Seeker 』(今思えば思いっきりフュージョンですが)を耳にした時でした。

そして、大学入学後は軽音楽部に籍を置きながら貪るようにジャズ・ジャイアントの名盤を聴きまくりました。それこそ夕食を抜いて浮いた金でLPを一枚、また一枚と買い集めるような日々でした。巷で名盤と呼ばれ賞されているLPは一通り聴き終えたかなと思った確か83年か84年頃、当時入り浸っていた新潟市のジャズ喫茶A7で衝撃的な作品に出合ったのです。

それが何を隠そうソニー・クリスの『 Go Man 』だったのです。中低音域では掠れ、高域では艶があり派手ですが、ともすれば俗臭芬芬たる印象も受けかねないそのアルトの音色は、一度聴いて耳に焼きつきました。今思えば、ジャズの魔力にとりつかれ、そのジャズ魔界の扉を開いた瞬間だったのかもしれません。

僕をジャズ・ファンにした瞬間の音楽『 Go Man! 』の出会いから早いもので25年もの月日が流れてしましたが、今でもソニー・クリスは僕のアイドルであることには変わりありません。

もちろん“ Criss ”という僕のHNは、彼の名前から頂戴したものです。

当時はそれほど知名度のあるアーティストではありませんでしたが、それでも結構日本では人気がありました。しかし、ジャズは日々進化し続けていくもので、スタイル的にはパーカー直系で保守的バッパーだった彼の名前が話題にのぼることは、最近ではほとんどなくなってしまいました。

たまに我が家のターンテーブルに『 I’ll Catch The Sun 』、『 Out of Nowhere 』、それに『 Up, Up and Away 』などを乗せながら、≪ 彼の後にも先にも、こんな煌びやかな音色で派手に吹きまくるアルトっていないよな~≫と感慨深く聴いておりましたが、昨年夏に出版された『 Jazzとびっきり新定番500+500 』(MOONKS 著 / 大和書房)をぱらぱらめくっていましたら“ソニー・クリスがアイドルのアルト吹き”というカナダ人の吹き手、Dylan Cramer (ディラン・クレイマー)が紹介されていました。なんでも『 Remembering Sonny Criss 』というソニー・クリスのリスペクトアルバムは幻化して入手困難とのこと。とは言うものの、最近では“廃盤”“レア盤”がいとも簡単に再発されてしまうご時世。むしろそういった入手困難なブツこそ、再発されやすい感もありますし。

というわけで頭の片隅に記憶し日々過ごしていましたところ、なんと先日、お茶の水Diskuinonで見つけちゃいました、これ。新譜コーナーには陳列されておらず、しかもジャケットが変更されていたので危うく見逃すところでした。

なんでもこのデュラン・クレイマー(1958年 バンクーバー生まれ)というアルティストは、13歳でサックスを手にし、その4年後にたまたまソニー・クリスのLPを聴いて彼に傾倒していき、19歳になった77年に故郷のバンクーバーからロサンゼルスに移住し、そこでクリスがピストル自殺する(と言われているが真相は不明)77年11月までの8ヶ月間、彼に師事したそうです。現在は故郷のバンクーバーに戻り、後進の育成に力を注いでいるようです。

本作の録音は1997年で発売は2000年。ピアノ・トリオをバックに配したカルテット編成で、クリスとも共演していたベースのルロイ・ヴィネガー(99年死去)が参加しているのが憎い配慮です。全10曲で、うち5曲がクリスのオリジナルで、他の5曲も生前クリスが好んでレコーディングした曲ばかり。お約束の≪ Saturday Morning ≫はもちろん、≪ The Isle of Cella ≫や≪ Tin Tin Deo ≫なども演ってます。一聴してクリスに酷似していると感じますが、その後に本物のクリスを聴くとやっぱり違うものです。はっきりしているのはクリスの方が饒舌で技術的にも巧い。それから、クリスが場末の酒場で焼酎をすすりながら聴きたくなるジャズなのに対して、デュランの方はホテルのラウンジでバーボン片手に上品に聴きたくなるようなジャズです。品位の違いが音に表れているんですね。まあ、これは好みの問題だし、比較しても仕方ないのですが。

≪よく似てるね~、すごい、すごい≫という以上の感動はありませんが、個人的にはこれはこれで懐古的、感傷的な気分に浸れる愛聴盤になりそうです。

Dylan Cramer の Official Web Site.
(現在までに発売された3作品の中から、数曲のサウンド・ファイルがフル・ヴァージョンで自動演奏されますよ。)

John Taylor 『 Whirlpool 』

2008年02月08日 22時40分58秒 | JAZZ

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英国ジャズ界の至宝、ジョン・テイラー(1942年英国マンチェスター生まれ)の2年ぶりとなる新作。前作『 Angel of The Presence 』同様、CAM Jazzからのパレ・ダニエルソン、マーティン・フランスとのニュー・トリオでの録音です。

前作は非常に評判が良かったと記憶していますが、それまでの甘さを完全に排した硬質なリリシズムに貫かれた作品作りから、芳醇な浮き立つ香りを放つ耽美的リリシズムにその演奏スタイルを微妙に変化させていったことが、それまでジョン・テイラーを敬遠していた人々をも魅了し、結果的に高セールスに結びついたのではないでしょうか。

そういう僕も、今迄、90年代のピーター・アースキンとのECM盤群以外、あまりジョン・テイラーを聴くこともなかったのですが、『 Angel of The Presence 』以降、いきなりジョンの愛好家になってしまいました。これもCAM Jazzの持つ素晴らしいプロデュース力の賜物ではないでしょうか。この2000年に発足したイタリアの新興レーベルCAM Jazzは、もともとは映画のサウンドトラックを制作していた会社ですが、このレーベルは良くも悪くもミュージシャンを甘口に調理しまう傾向があり、エンリコ・ピエラヌンツィ、エンリコ・ラヴァ、サルバトーレ・ボナフェテ、ロベルト・ガトー、そしてアントニオ・ファラオなど、みんなCAM Jazzからの作品はメロディー重視の甘味な作風ばかりです。そんなわけで刺激的な作品が少ないのが気になりますが、今回のジョン・テイラーの場合はそのCAM Jazzマジックが彼の作品には好影響をもたらしたと言ってよいでしょう。

ジョンのオリジナル曲が3曲。盟友ケニー・ウィーラーのオリジナル曲が3曲。そのほかにグスターヴ・ホルスト≪In The Bleak Midwinter ≫とガーシュインの≪ I Loves You Porgy ≫という曲構成。音はECMのようにすごく透明度が高いが、ECMよりははるかに温度感が高い。大好きなパレ・ダニエルソンの重厚なベース音も生々しく記録されていて驚くばかり。もともとパレは弦高を上げて力強く弾くNon-Amplify なベーシストですが、その特性が忠実に記録されていてます。以前のジョンの曲は、非常に抽象的で観念的なテーマが多かったのですが、ここではいい塩梅にわかりやすいテーマを奏でています。いつもの天才的な閃きをもったフレーズも健在ですが、才を衒う高踏的な楽曲は皆無ですので安心して聴けます。そういう意味では少々ありふれた欧州叙情派路線ではあるかもしれませんが。

ジョンは今までオーディエンスに媚を売らないアーティスティックな創作活動を主に行い、1993年のコローニュ音楽院の教授就任以降は、後進の育成に力を注いだりしているため、どうしても知名度が浸透していなかった感がありますが、このところの一連のCAM Jazz作品で、今迄アンダーレイテッドな扱いに甘んじてきた彼も、一躍ワールド・ワイドな舞台に登場してくる可能性がやっと出てきました。知的で学究的な雰囲気をもったスタイルはそのままに、温かい空気感の漂うメロディックな創作活動を今後も期待したいものです。

John Taylor  『 Whirlpool 』 2007  CAM Jazz CAMJ 7802-2
John Taylor  (p)
Palle Danielsson  (b)
Martin France  (ds)


John Taylor  『 Decipher (邦題:覚醒)』  1973 MPS
ジャズ批評別冊『 ピアノトリオ1600 』の中で、“ ヨーロッパ・ジャズの金字塔 ” と紹介された彼の代表作。印象的なジャケットなので知らない人はいないでしょう。ここ10年の間に2回、国内盤CDが発売され、誰でも手軽に聴けるようになりましたが、それ以前は目が飛び出るほどの高額取引商品で、庶民には高嶺の花であったLPです。何かが乗り移ったかのように、鬼気迫る激しい打鍵。決してジャズのメインストリームではなかった英国で、しかも70年代初頭に、このような高い技術を持ったミュージシャン達(特にドラマーのトニー・レヴィンが凄い!)がいたなんて、信じられません。

John Taylor  『 Rosslyn 』  2003 ECM
2002年に英国の“Contemporary Music Network (現代音楽ネットワーク) ”が主催するツアーの一環として、ジョンの60歳記念コンサートが開かれ、それに合わせて結成されたのが、マーク・ジョンソン、ジョーイ・バロンからなるトリオ。本作は彼らの唯一の記録です。マーク=ジョーイのリズム隊の作品には大きくはずれることはないと思っていますが、これもなかなか素敵な作品です。音数少なめで幾分内省的なスタイル。空間処理が絶妙で、音粒の余韻が素晴らしい。近年、ジョンの作品にはドラムレスであったり、ベースレスであったりと、変則的な作品が多かったので、そういった意味でも本作は大変貴重な作品です。


Peter Erskine  『 Juni 』  1999  ECM
ピーター・アースキンは、ジョン・テイラー、パレ・ダニエルソンのメンバーで、1992年以降、計4枚の作品を発表してきました。本作はその第4作目となる作品です。あくまでドラマーがリーダーであるため、ピアノ・オリエンテッドな趣をもたず、三者対等な会話を通して繰り広げられる自由(とは言ってもフリー・フォームではないが)な音世界を表現しています。しかし、どの作品も抽象絵画のような分かり難さをもった作風ですので、万人受けはしないでしょう。瞑想者向け。


Pat Metheny 『 Day Trip 』

2008年02月03日 17時25分50秒 | JAZZ
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パット・メセニーの実に8年ぶりとなるトリオ作品。今回はベースにクリスチャン・マクブライド、ドラムスにアントニオ・サンチェスという最強リズム陣を擁しての作品です。

本トリオが結成されたのは2002年で、アメリカやカナダ全土はもちろんのこと、欧州、アジア、オーストラリアなどで不定期にツアーを興行してきました。本作は2005年のアメリカ・ツアー中に、たった一日とれたオフの時間を利用してニューヨークのスタジオで録音された記録です。『 Day Trio 』(日帰り旅行)というタイトルの由来は“たった一日で大急ぎで終えた仕事”という意味合いがあるようです。昨年秋には、このメンバーを再招集し、数か所の大学やコンサート・ホールで予備公演を終え、今回のアルバム発売に合わせて2月初めよりアメリカ・ツアーを行っており、各地で話題をふりまいています。( source は jazzreview.comhmv.com です。)

周知の通り、パット・メセニーはデビューの初期からパット・メセニー・グループ(以下PMG)とソロの両方の活動を並列で行ってきました。PMGではパット・メセニーとライル・メイズの2人が思い描く音の桃源郷を具現化する場であり、細部まで緻密にアレンジされたスコアを大編成でライブ演奏することに主眼が置かれています。したがってアドリブ・パートはあるにせよ、極めて即興性は低いサウンドです。つまりはサウンド・クリエーターとしてのパットの力量が発揮されたコンセプト作品であるわけです。

それに対して、ソロ名義の作品では本来のジャズの持つ即興性を重要視した作風が多く、現在まで様々なプロジェクトが組まれてきました。特にパットのギター+ベース+ドラムからなる“トリオ”物では、パット・メセニーのジャズ・ギタリストとしての素養を最も如実に表現できるフォーマットとして重要な位置を占めています。

僕はどちらかと言えばPMG贔屓派です。アメリカの広大な自然に恵まれた田舎町。あるいは南米の賑わう港町や市場。そんな情景を連想させ、聴き手を夢心地にしてくれるあの音世界は、他のアーティストでは味わえません。

さて、現在までに制作されたトリオ作品は、最新作『 Day Trio 』を含め以下の6枚です。

『 Bright Size Life 』 (1976 ECM)[Jaco Pastrius, Bob Moses]
『 Rejoicing 』 (1983 ECM)[Charlie Haden, Billy Higgins]
『 Question and Answer 』 (1990 Geffen)[Dave Holland, Roy Haynes]
『 Pat Metheny Trio 99→00 』 (2000 Warner)[Larry Grenadier, Bill Stewart]
『 Pat Metheny Trio 99→Live 』(2000 Warner)[L.Grenadier, B.Stewart]
『 Day Trio 』 (2008 Nonesuch)[Christian Mcbride, Antonio Sanchez]

では、時系列に沿って久しぶりに聴き直してみましょうか。


『 Bright Size Life 』 (1976 ECM)
パット・メセニーのデビュー作。録音された75年当時はパット21歳、ジャコ23歳という若さ。ジャコは『ジャコ・パストリウスの肖像』を録音した直後で、全くの無名時代でした。パットは既に現在のスタイルがほぼ確立されており、はじめから天才であったことがうかがえます。フォーク、カントリー、ジャズなど、何でも飲み込んだ変幻自在の卓越した演奏です。また、個人的にはここで聴かれるジャコの演奏は、彼の生涯中、ベスト・パフォーマンスだと思っています。ジャコの精神的に健全であった頃の数少ない演奏が収められていて、ジャコ・ファンにはマスト・アイテムでしょう。タイトル曲≪Bright Size Life ≫はその後もたびたびステージで演奏された名曲で、近年にリチャード・ボナ、アントニオ・サンチェスでのトリオで演奏された映像がYoutubeで観ることができます。(ジャコよりボナの方がはるかに巧いのね。)
37分の短い作品ですが、密度が非常に高く、パット・メセニーのトリオ作品中、2番目に好きな作品です。


『 Rejoicing 』 (1983 ECM)
チャーリー・ヘイデン、ビリー・ヒギンズという、個人的にはあまり好きでないメンバーのため、所有していてもほとんど聴いたことがなかった作品です。パットが尊敬するオーネット・コールマンの曲を3曲取り上げています。一曲目のホレス・シルバーのオリジナル≪Lonely Woman≫でのアコースティック・ギターの音色は素晴らしいと思いますが、全体にあまり余韻が残らない地味な印象を受けてしまう作品です。


『 Question and Answer 』 (1990 Geffen)
これはトリオ作品の中でも最もジャズっぽい作品です。デイヴ・ホランド、ロイ・ヘインズと、メンバー的にも最高です。僕の一番のお気に入り作品です。ドラムの音がオン・マイクでしかもデカイ音で生々しく記録されているので、ロイの音だけ聴いていても興奮してきます。英文ライナーノーツによると、PMGとしてのレコーディングとツアーが終了した1989年12月に、パットは気分転換に何かシンプルな演奏をしてみたいと思い立ち、クリスマス直前の数日間とれたオフを利用して、旧友であるデイヴ・ホランド、ロイ・ヘインズに声をかけ、録音目的でなく、ただ楽しむためにリハーサル・スタジオを押さえたそうです。しかし、たまたまパワー・ステーションが一日だけ空いたため、そこに移動して演奏したといいます。みんな小さなクラブでギグっているような雰囲気での演奏でしたが、偶然にテープが回っていたため、こうして記録物として残すことができたようです。それにしてもエキサイティングでテンション高い名演です。特に≪All The Things You Are≫でのソロは圧巻です。残念ながらこのメンバーでの映像は残されておりませんが、スティーブ・スワロー、ボブ・モーゼスとのトリオで≪All The Things You Are≫を演奏している映像がYoutubeにアップされています。ここでもパットのソロは神がかり的で凄いです。


『 Pat Metheny Trio 99→00 』
1999年当時、ニューヨークで最先端を突き進む最強のリズム隊を従えてのトリオ盤。同時に発売になった『 Pat Metheny Trio 99→Live 』 もレパートリーに往年の名曲を取り上げるなど、若干内容が違いますが基本的には同様の作品です。ラリー・グレナディアはブラッド・メルドーのレギュラー・メンバーでしたが、スケジュールの空きを見て、パットのトリオに参加するという超多忙スケジュールでした。
この二人がリズムを刻めば兎に角、斬新で躍動感のあるジャズになっていきます。たとえパットがいつもと変わらないスタイルで演奏しても、出来上がった音楽はとっても新しく感じるから不思議です。『 Question and Answer 』 や『 Bright Size Life 』 に比べるとやや衝撃度は低めですが、これはこれで素晴らしい出来だと思います。

ということで、本題の『 Day Trip 』ですが、反論を恐れず言ってしまうと、まあ、それほど印象は良くなかったです。いまひとつ元気がないような。サンチェスはいいとして、マクブライドはパットのスタイルに迎合するだけで、あまり自己主張をしていないように聴こえてしまうのです。マクブライドは演奏技術も完璧で、演奏のレンジも非常に広く、汎用性に優れた素晴らしいベーシストではありますが、優等生すぎてお行儀がイイのですね、少なくともこの作品では。もう少し捻じれてブレて暴れてもいいのではないでしょうかね。

せめてリチャード・ボナ(フレット・レスで)か、スコット・コリーで組んでもらえれば.....と思うのは僕だけではないでしょう。