雨の日にはJAZZを聴きながら

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Brussels Jazz Orch. 『 The Music of Michel Herr 』

2008年06月15日 20時17分57秒 | Large Jazz Ensemble
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百花繚乱の欧州ビッグバンド界。たとえば、Paris Jazz Big Band、Vienna Art Orchestra、Orchestre National De Jazz、The NDR Big band 、それからBohuslan Big Band など、どれも超絶技巧を駆使した個性的なコンテンポラリー・ビッグバンドであり、長年愛聴してきたが、ここにきてとりわけベルギーのBrussels Jazz Orchestra ( 以下BJO )が群を抜いて面白い。

個人的には99年の『 The September Sessions 』がきっかけでBJOを聴き始めたが、05年の『 Counter move 』( 前項あり )で一気に爆発し、以後、彼らに対する熱き思いは冷めることを知らない。

そんなBJOの通算9枚目の新作がやっと届いた。今年の2月には発売されていたが、日本に入ってきたのは最近のこと。この最新作はタイトルにも冠してあるように、ベルギー・ジャズ界の大御所 Michel Herr ミッシェル・ハーが作曲・編曲から指揮まで、すべてを手がけた渾身の一作だ。昨年リリースされた前作『 Changing Faces 』( 前項あり )がデヴィッド・リンクスのヴォーカルをフューチャーした作品であり、完成度としてはかなりイイ線をいっていたが、BJOのサウンドを楽しむにはやや物足りない印象を受けた作品であっただけに、待ちに待ったBJO待望の新作と言えよう。

ミシェル・ハーとBJO との交流のきっかけは、古くはBJO の前身であるベルギー国営放送( BRT : the Belgian Radio and Television )オーケストラの時代まで遡る。76年に、当時BRTオーケストラのバンドリーダーであったアルト奏者Etienne Verschueren エティエン・ヴァーシューレンに依頼されて、ミシェルがビッグバンドのためのスコアーを書いたのが始まりだった。以降ミシェルは、コンポーザーとしての才能を買われ、ビッグバンドやストリングスのための音楽から、テレビ音楽や映画音楽まで、幅広く活躍することになる。最近でもThe WDR Big Band、The Metropole Orchestra、The NDR Big Band、ACT Big Band など、数多くの第一線で活躍する著名なビッグバンドに曲を提供している。

93年にBRTオーケストラからBJOに変わった後も両者の交流は続き、前述した99年の『 The September Sessions 』でもミシェルは≪ Celebration Suite ≫ という12分にも及ぶ組曲を提供している。なお、この曲は今回の最新作でもリアレンジされ再演されている。また、前作『 Changing Faces 』でも、アレンジャーとして参加したりと、常にBJOのブレインとして関わってきたという歴史がある。

さて、本作はすべてミシェルのオリジナルで固めた2枚組で、それそれ4部構成からなる2つの組曲を含む全11曲。トータル104分にも及ぶ大作である。全てが本作のための書き下ろしというわけではなく、以前に書かれすでにいくつかのアルバムに録音されている楽曲も含まれている。しかし、そのような古い楽曲も最新のアレンジが施され、よりモダンに装いを新たに生まれ変わって再演されているようだ。

卓越した技術をもったBJOのメンバーは、この膨大なスコアーをたった2日半で録音したという。今回、ミシェルの楽曲と聞いて、はじめは優しい哀愁美豊かな楽曲が中心になるのか、と想像していたが、意外に従来のBJO(フランク・ヴェガネ)の作風を踏襲するような、トラディショナルな枠に捉われない創造的な楽曲が多く、非常に楽しく聴くことができた。

珍しくフランク・ヴェガネの静かなエモーショナルを湛えたバラードも聴かれるし、ナタリー・ロリエのピアノもいっそうの冴えを見せているし、なによりも新入りのギターリスト、ピーター・ハートマンズが美しい。それから、BJO からThe Metropole Orchestra に鞍替えしたと思われていたドラムの Martijn Vink マタイン・ヴィンクが再び参加しているのもうれしい。

切れ味鋭い各セクションのソリ、そして高揚感漲る鳥肌モノのトゥッチ。前代未聞の機動力をもって怒涛の如く押し寄せるキメに次ぐキメ。まさにBJOの真価を体感できる究極の一枚ではないか。

このところ毎日聴いているが、聴くたびに心揺さぶられる味わい深い作品だ。

 
3 songs upload by criss

Brussels Jazz Orch.  『 The Music of Michel Herr 』 2008 W.E.R.F. 067-068

Michel Herr(comp,arr,cond)
Frank Vaganee(bandleader,as,ss,fl)
Serge Plume(tp,flh)
Nico Schepers(tp,flh)
Pierre Drevet(tp,flh)
Jeroen Van Malderen(tp,flh)
Marc Godfroid(tb)
Lode Mertens(tb)
Frederik Heirman(tb)
Laurent Hendrick(btb)
Dieter Limbourg(as,fl)
Kurt Van Herck(ts,ss,cl)
Bart Defoort(ts,cl)
Bo Van der Werf(bs,bcl)
Peter Hertmans(g)
Nathalie Loriers(p)
Jos Machtel(b)
Martijn Vink(ds)

  今日の歩数 : 5956歩
  昨日の歩数 : 6331歩
一昨日の歩数 : 4243歩 
二昨日の歩数 : 6694歩
出張のため、体重測定なし


David Linx And The BJO 『 Changing Faces 』

2008年04月22日 21時51分08秒 | Large Jazz Ensemble
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 ベルギーの首都ブリュッセル中心街からアントウェルペン州に向かい北上すること車で約30分。ちょうどブリュッセルとアントウェルペンの中間に位置する人口76000人の小さな街メヘレン。街の中心を緩やかな弧を描きながらデイル川が流れ、地元の人々が集うマルクト広場にはゴシック調の聖ロンバウツ大聖堂がその威容を誇っている。春になると美味しいホワイトアスパラガスが獲れるこの美しい街にBrussels Jazz Orchestra ( 以下BJO )の本部はある。

   BJOは93年にフランダース地方出身のジャズ・ミュージシャンであるフランク・ヴェガネ(as)、マーク・ゴッドフロイド(tb)、セルジュ・プルーム(tp)らによって創立された比較的新しいジャズ・オーケストラだ。前身はベルギー国営放送( BRT : the Belgian Radio and Television )のオーケストラであり、同オーケストラが経済的理由により解散したために、メンバーの受け皿として創立された。

  初期のBJOはフランダース地方に伝わる楽曲を主なレパートリーとした完全なドメスティック・バンドであったが、近年は積極的にオリジナル曲も導入する一方、デイヴ・リーブマン、フィル・ウッズ、ケニー・ホイーラー、トム・ハレルらなど、国内外の一流のミュージシャンを招いてツアーも行ない、各地で高い評価を得ている。

  2000年にマリア・シュナイダーを招いた際には、彼女に「 This band is phenomenal! It's the best band I ever worked with 」と言わしめたほどだ。

  百花繚乱の欧州ビッグバンド界の中でも、Paris Jazz Big Band と並び、今最も刺激的なサウンドを奏でるビッグ・バンドとして注目されている。そんなBJOの新作がとどいた。前作『 Dangerous Liaison 』( 2006 ) では地元のロイヤル・フレミッシュ交響楽団との総勢100名を超す壮大な共演盤で聴き手の度肝を抜いたBJO だが、今回はベルギーの鬼才ヴォーカリスト、David Linx デヴィッド・リンクスを迎えて録音された。

   デヴィッド・リンクスは、1965年ベルギーはブリュッセル生まれ。10代半ばから音楽活動を開始し、シンガーとしてはもちろん、ピアニスト、ドラマー、パーカッショニストとして、ヴィクター・ラズロ、スティーブ・コールマンらとのコラボレーションや、スライド・ハンプトン、ジョニー・グリフィン、マーク・マーフィー、サヒブ・シハブらといったベテラン・ミュージシャンとのセッションで話題を集めた。

  80年代にはジェームス・ボールドウィン・プロジェクトの中心的メンバーとして活躍し、トリビュート・アルバム『 A Lover’s Question 』をクレプスキュリールから発売。90年代にはいるとその甘く中性的な歌声を生かしてPOPS/ AORの作品を数枚リースしているが、ほとんど話題にはならなかった。一方でディーデリク・ワイセルズとのコラボレーションを通じて現在に至るまで数多くの作品を制作している。90年代のディーデリクとの作品は独特の静謐な音世界を構築し高い評価を得たが、内省的で自己陶酔的な作風は好き嫌いの分かれるところだ。しかし最近の作品は以前に比べずいぶん聴きやすくなったように思う。

   今回の作品も安心して推薦できる内容だ。全12曲。大部分がデヴィッドのオリジナルで、ディーデリクとの共作やミシェル・ハーやバート・ヨリスのオリジナル、さらにはジョビンやイヴァン・リンスの曲も取り上げている。イヴァン・リンスは一曲だけだがヴォーカルとしても参加しているのがイヴァン・ファンの僕にとってはとっても嬉しい。また、アレンジャーとして何故かステファン・ギロームが名を連ねている。

  変拍子を大胆に取り入れ、さらにビート、リズムを極限まで細分化しながらも全員が一糸乱れずグルーブできるBJOの各人の演奏力はおそらく世界でも軽く5本の指に入るであろう。デヴィッド・リンクスのスキャットも人間ワザとは思えぬ超絶技巧ぶりで、器楽奏者と同等の立場でコード・プログレッション上を自由にアドリブできるその技量は、まさにジャズ・ボーカリストと呼ぶにふさわしいのではないか。クレヴァーさが漂う甘い彼の歌声は個人的には好きなのだが、やや個性が強いため聴き手を選ぶかもしれない。実際に聴いて判断してもらいたい。

   ところで、BJOのOfficial Site を覗いてみると、ミシェル・ハーが作曲・編曲・指揮で参加した最新作『 The Music of Michel Herr 』( W.E.R.F. )が既に2月に発売になっているようだ。


3 songs upload by criss

David Linx and The Brussels Jazz Orchestra  『 Changing Faces 』 2007  0+music

Paris Jazz Big Band 『 Paris 24H 』

2008年03月07日 23時28分08秒 | Large Jazz Ensemble
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久し振りにビッグバンド作品から一枚、今年になりハマりにハマっている超愛聴盤を紹介したいと思います。何はともあれ、Youtube にアップされているこのライブ映像を見てください。



どうですか? 凄いでしょ。演奏しているのはフランスの“ Paris Jazz Big Band ”というビッグバンドで、この曲は彼らの通算3作目にあたる最新作『 Paris 24H 』に収められている≪ Galeries ≫という曲です。

“ Paris Jazz Big Band  ”は、サックスの Pierre Bertrand ( ピエール・ベルトラン ) と トランペットの Nicolas Folmer ( ニコラ・フォルメル )が中心となり、フランス国内の若き新鋭達と中堅実力者を集めて1999年1月に結成された新興ビッグバンドです。フランスには“ Orchestre National De Jazz ( ONJ 1986~ ) ”という政府の資金援助で運営されている名門ビッグバンドがありますが、PJBBもSpedidam(アーティストの権利保護を目的とした音楽業界団体)、BNP Paribas (フランスの大手銀行グループ)、それからSelmer などの企業バックアップのもとで運営されているビッグバンドです。流石は芸術大国フランスですね。


Paris Jazz Big Band  『 Paris 24H 』 2004 Cristal Records

本作は2003年録音され、2004年にフランスのCristal Records から発売になっていた作品ですが、昨年 Influence というレーベルから本作品も含めPJBBの3作品すべてがリイシューされ、日本盤としてもバウンディ株式会社がディストリビューターとなり、国内盤が手軽に手に入るようになりました(しかも1800円)。ちなみにInfluence から昨年、David El Malek の諸作品もリイシューされていました。

聴いてお分かりのように、昔懐かしスイング系でも、気難しいコンテンポラリー系でもないロックビートを基調とした、言わばフュージョン系のビッグバンド・サウンドを特徴とするバンドです。Herbie Hancook の Head Hunters、Weather Report、Brecker Brothers などを聴いて青春を過ごした世代には絶対共感してもらえるサウンドだと思うのですが。ビッグバンドではBob Mintzer Big Band に近いテイストがあるかもしれません。

基本的には16人編成で、その都度、ゲスト・ミュージシャンを招いてライブ活動を行っているようです。メンバーも流動的で、たとえば創立当時はピアニストはEric Legnini でしたが、現在は日本でもファンの多い Alfio Origlio に代わってますし、ドラマーも初代 Andre Ceccarelli からよりタイトなフュージョン系を得意とする Stephane Huchard に交代しています。

管楽器奏者に目を向けてみると、Michel Legrand のバンドメンバーであるフルート奏者 Herve Meschinet 、フランス・ジャズ・ファンに絶大な人気を誇る Stephaane Guillaume 、それから日本盤もリリースされているフランスの次世代を担う若きトランペッター Fabien Mary など、信じられない豪華凄腕ミュージシャンが名を連ねています。

この素晴らしい作品は、2005年の ≪ Django d'Or Award ≫  (ジャンゴ金賞)およびフランスの権威ある音楽賞 ≪ Les Victories Du Jazz ≫ を獲得しています。また、フランスのジャズ専門誌 JAZZMAN で最高評価の四つ星を、テレビ情報誌 Telerama でもやはり最高評価の “ ffff ” を受けるという実績を得ています。

2000年のデビュー作『 A Suivre 』や2002年の第二作『 Meditrrraneo 』よりも個人的にはよりフュージョン色を強めた本作の方が好みですが、前2作も地中海風の爽やかなノリで、タンゴあり、スパニッシュありの色彩感豊かな好盤です。が、一枚買うなら、絶対、この 『 Paris 24H 』がイイですよ。

Paris Jazz Big Band の Official Web Site はこちら

Biographyに関しては、ブログ『 晴れ時々ジャズ 』のアーティチョークさんのこちらの記事に詳しく載ってますので、参照してみてください。

最後に、この映像もカッコいいですよ。


P.S.  Nicolas Folmer の第三作目となる作品が発売されたようです。VENTO AZUL RECORDS さんで入手できます。僕は既にオーダー済みです。
それから、Official Web Site のこちらを見ますと、 『 Paris 24H 』のDVD作品が3月13日にリリースされるようですね。詳細は不明ですが。これは楽しみです。


Brussels Jazz Orchestra 『 Countermove 』

2007年11月19日 21時10分35秒 | Large Jazz Ensemble

ブログもご覧ください。

≪ Belgian Jazz Vol.2 ≫

先日のエリック・レニーニ、一昨日のナタリー・ロリエと、せっかくベルギー人アーティストの話題が続いたので、しばらくはベルギー関連の作品で綴って行こうかと思っています。

で、今日はブリュッセル・ジャズ・オーケストラを引っ張り出して聴いております。
「な~んだ。またビッグバンドかよ~。」と言わないでくださいね。これが滅茶苦茶カッコいいですよ。ホント。絶対お薦め。ヨーロッパ圏のビッグバンド界の台風の目であることは間違いないです。歴史は浅いのですがその結束力、機動力の強さ。技術面での完成度とその技術をフルに発揮できる楽曲の良さ。どれをとっても世界レベルです。

まずはBJOの歴史について簡単に記しておきましょう。BJOは1993年、ベルギー北部、フランダース地方出身のジャズ・ミュージシャンである、フランク・ヴェガネ(as)、マーク・ゴッドフロイド(tb)、セルジュ・プルーム(tp)らによって創立された比較的新しいジャズ・オーケストラです。もともとは、ベルギー国営放送( BRT : the Belgian Radio and Television )オーケストラが経済的理由により解散した後のメンバーの受け皿としての役割を果たしていました。ですから初期のBJOはフランダース地方に伝わる楽曲を主なレパートリーとしていました。しかし、今世紀に入ると積極的にオリジナル曲を導入し、また国外のソリスト、たとえば、デイヴ・リーブマン、フィル・ウッズ、ケニー・ホイーラー、トム・ハレルらなどを迎え、指揮者としてもマリア・シュナイダー、ビル・ホルマン、ケニー・ワーナーらを起用するなどして、その演奏レベルを向上させてきました。ですから、1968年から2002年までのビッグバンド作品を紹介したジャズ批評誌112号『 ジャズ・ビッグバンド 』では、BJOは取り上げられておりません。もし今、特集が組まれれば間違いなく巻頭ページで特集記事が組まれることでしょう。

それでは全くBJOが国内で紹介されていないかというと、実はですね、早い時期から「 BJOはイイよ 」って言っている方がいらっしゃるんですよ。その方はMOONKSでお馴染みの大河内善宏氏であります。MOONKSの方々が推薦する85年以降の名盤150枚を紹介した『 MOONKS JAZZ MUST 150 』の中でBJOの『 The September Sessions 』( 1999 DE WERF ) が取り上げられているんです。流石、大河内氏ですね。さらには、この作品を含めBJOの作品を3作品も国内盤販売した ガッツプロダクションの笠井隆氏の慧眼と採算度外視(日本ではビッグバンド物は全然売れません)のジャズへの情熱にも脱帽です。

余談ですが、今こうして僕らがヨーロッパ圏のジャズを享受できるのも、昨日お話にも出た星野秋男氏や杉田宏樹氏、そして笠井隆氏や澤野由明氏らのお蔭であるわけで、彼らのご尽力なくして現在の欧州ジャズ・ブーム(?)というか、その市場はあり得なかったわけで、本当に頭が下がる思いがします。

さて、BJOは今までに下記の8作品を制作しています。

1) Live (1997)
2) The September Sessions (1999)
3) The Music Of Bert Joris (2002)
4) Kenny Werner Plays His Music With The BJO (2003)
5) Meeting Colours - with Philip Catherine (2005)
6) Countermove (2006)
7) Dangerous Liaison - with deFilharmonie (2006)
8) Changing Faces - with David Linx (Oct 2007)

最新作は8)のデヴィッド・リンクスとの共演盤ですが、これはまだ日本には入ってきていないと思います。日本で手に入る最新作となると7)のロイヤル・フレミッシュ交響楽団との壮大なる共演盤になります。ベルギー人トランペッター、バート・ジョリスがBJOとロイヤル・フレミッシュ交響楽団に委嘱されて作曲したオーケストラ作品です。ジャズとクラシックの華麗なる融合。感動の大スペクタクル巨編。と言ったところですが、これが凄い迫力なのですが、やはりクラシック寄りの作風であるため、BJOの真価を体感するにはちょっと不適切な作品かもしれません。でも何度も言うようですがその迫力たるや尋常ではありません。

僕が所有しているのは2)から7)までですが、やっぱり大河内氏の推す2)『 The September Sessions 』と今回紹介する6)『 Countermove 』がまさに究極とも言えるほどのクオリティーの高さで、大推薦です。ビッグバンド・ファンならずとも御一聴を。お願い。それ以外の作品については今日は面倒なので触れませんが、駄作は一枚もありませんので何処から喰いついても美味しくいただけると思いますよ。

で、ちょっとBJOのOfficial Web Site を覗いてみたら、なんと既に来年2月発売の作品が紹介されているんですね。タイトルは『 The Music of Michel Herr 』 ということで、ミッシェル・ハーの作品集みたいです。ついでに現在のメンバーを見てみますと、ピアノのナタリー・ロリエは健在のようです。でもしかし、あれ、ドラマーが Martijn Vink (マタイン・ヴィンク)から Klaas Balijon (クラウス・バリジョン)に代わっています。マタイン・ヴィンクはジェシ・ヴァン・ルーラーのバンドで活躍していた人で、結構好きでしたが脱退したうようです。それじゃ何処へ行ったの?と、調べたら隣国オランダのビッグバンド、Metropole Jazz Orchstra (メトロポール・ジャズ・オーケストラ)に加入した模様。MJOは世界でも珍しいストリングス部を持つビッグバンドですね。エルビス・コステロとの共演盤『 My Flame Burns Blue 』(前項あり)が昨年発売になっています。これ、イイですよ。

ということで、話が逸れてしまいましたが、兎に角、切れ味鋭い各セクションのソリ、そして高揚感漲る鳥肌モノのトゥッチ。怒涛の如く押し寄せるキメに次ぐキメ。間違いなく聴き手にカタルシスをもたらしてくれるはずです。各メンバーについても言及したかったのですが、今日はここまで。

まだまだビッグバンド界には、掘り尽くせぬ一大鉱脈が眠っているわけで、これからも少しづつ紹介していきたいと思います。

Vince Mendoza 『 Vince Mendoza 』

2007年10月20日 06時33分24秒 | Large Jazz Ensemble
音楽シーンへの貢献度の割に、一般音楽ファンへの知名度が意外に浸透しないミュージシャンが少なからずいるものです。Vince Mendoza (ヴィンス・メンドーサ or ヴィンス・メンドゥーサ)もそんな一人ではないでしょうか。

80年代後半にピーター・アースキンの秘蔵っ子として颯爽と登場した彼は、89年に満を持してデビュー作『 Vince Mendoza 』を発表します。本作は全8曲で、≪ You Must Believe In Spring ≫ を除く7曲がすべて彼のオリジナルという力作で、85年から88年の間に録音された音源が集められています。ピーター・アースキンの伝手で集められたビッグバンドのメンバーはマイケル・ブレッカーをはじめ、ボブ・ミュンツァー、ボブ・マラック、マーヴィン・スタム、ドン・グロルニック、ジム・マクニーリー、マイク・スターン、チャック・ローブ、ウィル・リー、リンカーン・ゴーイング、etc。もちろんピーター・アースキンも叩いています。

今、CDのクレジットをみると、そのメンバーの豪華さにあらためて驚きます。今や押しも押されぬトップ・ミュージシャン達が名を連ねているわけで、よくも新人無名のヴィンスのもとに、しかも録音時点ではCD化も予定もなかったのにもかかわらず、これだけのメンバーが集結したものです。

こんな豪華メンバーに恵まれたせいもあり、本作の完成度は尋常ではありません。通常、これだけキャラの立ったビッグ・ネームが共演すると、お互いに相殺しあい、結局破綻し、良い結果が生まれないことも多いのですが、本作はそんなピットホールに陥ることもなく、素晴らしい出来栄えです。これもやはりヴィンスの完璧なるスコアの成せる技でしょうか。

このCDを手に入れた89年は、僕は、エリントンやベイシーにやや食傷気味になっていた時期でした。ジョージ・ラッセルやギル・エヴァンスなども聴いてはいましたが、その作為的な編曲や理屈っぽさが鼻につき、今一つ好きになれず、ビッグバンド・ジャズから遠ざかっていました。そんな時期に本作を聴き、衝撃を受けたのです。比喩的な表現ではなく、本当に身震いしたのです。こんなビッグバンド・サウンドもあったのか!こいつはホント、天才だ~!と、ひとり興奮していたのを今でも鮮明に覚えています。

個人的にはピンク・フロイドの『 原子心母 』、ニュー・トロルスの『 Concerto Grosso 』、イエスの『 海洋地形学の物語 』などを初めて聴いた時のような、壮大なヴィジュアル・イメージを想起させる作品だったのです。組曲ではないのですが、連続する物語を紐解いていくようなワクワク感が最後まで持続するのです。色鮮やかな景色が連続変化して、聴き手自身が主役になって進行するアドヴェンチャー映画のようでもあります。まさに仮想サウンド・トラック的な作品なのです。

つまるところ、いかに多くのヴィジュアル・イメージを聴き手の脳内に投影できるか、ということが大切だと思うわけです。その点において、まさに本作はビッグバンド史上、軽く10本の指に入る傑作だと、言いたい。

ラテンの血脈を受け継ぐヴィンスが、その血筆で記した扇動的な重層美旋律。その複雑で時に変態的ですらあるスコアを、嬉々として演奏するマイケル・ブレッカーやマイク・スターン。まさに至福のひと時をもたらす極上の一枚です。

彼は本作の後、『 Start Here 』(90年)、『 Instruction Inside 』(91年)、『 Jazzpana 』(92年)、『 Sketch 』(93年)と毎年、精力的に作品を発表。しばらく置いて、99年にはロンドン・シンフォニーとの共演盤『 Epiphany 』をリリースしていますが、その後はリーダー作を制作していないのが残念です。

近年では、ジョニ・ミッチェル、ジェーン・モンハイト、ビヨークなどの作品でアレンジャー(残念ながらストリングス・アレンジのみのことが多いのですが)として参加し、商業的にも成功しているようです。現在までに15回ものグラミー賞ノミネートを果たし、昨年の49回グラミーでは、ランディー・ブレッカーの『 Some Skunk Funk 』で「 Best Large Jazz ensemble Album 」部門で3回目のグラミー賞を受賞しています。

いずれにして、このような名盤が、今迄全然話題にならないことが、僕は、残念でたまりません。ぜひ、御一聴を。

P.S. マイケル・ブレッカーは晩年、ビッグバンドに興味を抱いていたと言われます。03年の『 Wide Angles 』が14人編成の変則 Large Ensemble でしたが、ビッグバンド・ジャズとは言い難い作品でした。マイケルのリーダー作はもちろん、膨大な彼の参加作品群の中にも、ほとんどビッグバンド作品は存在しません。そのような意味でも、本作 『 Vince Mendoza 』は、マイケルのビッグバンド・ソリストとしての演奏を記録した貴重な作品だと思います。

Vince Mendoza 『 Vince Mendoza 』1989年 Fun House 32GD-7022

Vince Mendoza の Official Web Site はこちら

HR Big Band 『 Once In A Lifetime 』

2007年10月05日 23時56分21秒 | Large Jazz Ensemble
明日から「横濱ジャズプロムナード2007」が始まります。街吹く風も涼しくなり、街路樹の葉が色づきはじめるこの季節に、みなとみら地区を気ままにぶらつきながらライブをハシゴする。ジャズ・ファンにはたまらない秋の風物詩です。僕も明日は仕事で行けないものの、明後日の日曜日はぜひ出かけたいと思っています。遠足前夜の子供のように、今からわくわくしているのですが、実は、今年はいまひとつ盛り上がりに欠けるんですよね、個人的には。

というのも、今年の参加バンド中、本当に聴いてみたいと思わせるバンドはクリスチャン・ジェイコブ・トリオぐらいなんですよ。というか、今年って、邦人バンドばかりで、外国人バンドがほとんど参加していないではありませんか。こんな外産バンドが少ない横濱ジャズプロムナードって初めてではないでしょうか。毎年、入場者数が増加しているのですから、もう少し欧州のミュージシャンを招いても採算とれると思うんですけどね。でもまあ、クリスチャン・ジェイコブだけでも十分もとは取れそうなので行きますが。それにティネカ・ポスマのバンドにロブ・ヴァン・バヴェルも参加しているみたいだし。

さて、今日も引き続きビッグバンド作品を聴いております。HR Big Band は前述したように、フランクフルトに本部を置く HR ( Hessischer Rundfunk : ヘッセン放送協会)が運営するビッグバンドですが、他の公共放送局専属のビッグバンドよりもかなり “ Polystyle ”で “ Versatile ”な集団として本国でも人気を集めている名門ビッグバンドです。本作『 Once In A Lifetime 』も、ハモンドの名手、ジョーイ・デフランチェスコをソリストに迎えて制作された珍しい作品です。僕の知る限りデフランチェスコがビッグバンドと共演した作品は本作だけですし、そもそもビッグバンドとオルガンの共演自体、ほとんど類を見ない形体ではないでしょうか。

ヨルグ・アヒム・ケラー( Jorg Achim Keller )率いる鉄壁のビッグバンドをバックに、デフランチェスコは水を得た魚のように流暢に鍵盤を転がし、時には情熱的にレスリーをグルグル回転させ盛り上げていきます。演奏される曲は ≪ I'm a Fool to Want You ≫ や ≪Everything Happens to Me ≫ などのスタンダード。ジョビンの ≪ Once I Loved ≫ と ≪ Meditation ≫ が作品全体の中で一服の清涼剤的役割を果たしています。本作ではデフランチェスコはベース・ペダルを一切使用せず、ウッド・ベース奏者を置いているのも彼にとっては珍しいことではないでしょうか。

全体的にビッグバンド陣のソロが少なく、バランス的にはデフランチェスコに重心が置かれた作風ですが、ハモンドとホーン・アンサンブルが醸し出す音の陰影感が素晴らしい、クオリティーの高い作品ではないでしょうか。


HR Big Band 『 Once In A Lifetime 』2006年 TBC 26502
Jorg Achim Keller (arr & cond)
Heinz Dieter Sauerborn (ts,as, ss, cl, fl)
Tony Lakatos (ts,ss,fl)
Harry Peterson (ts, cl, fl)
Steffen Weber (bs,ts,as,cl,b-cl,fl)
Rainer Heute (bs,b-cl,fl)
Paul Lanzerath (tp,flu)
Martin Auer (tp,flu)
Thomas Vogel (tp,flu)
Axel Schlosser (tp,flu)
Gunter Bollmann (tb)
Peter Feil (tb)
Christian Jaksjo (tb)
Manfred Honestschlager (b-tb)
Werner Vetterer (g)
Thomas Heidepriem (b)
Joey DeFrancesco (Hammond)
Jeff Hamilton (ds)




The DRJO with Eliane Elias 『 Impulsive ! 』

2007年10月01日 21時55分52秒 | Large Jazz Ensemble
デンマーク放送ビッグバンド( Danish Radio Big Band )が世界初の政府支援のジャズ・ビッグバンドとして旗揚げされたのは1964年のこと。現在までに同楽団で指揮ならびにソリストとして客演したミュージシャンは100人を超え、誰もが認めるヨーッロッパを代表する名門バンドとして、ビッグバンド界に君臨しています。

そんな同楽団の歴史の中で、ビッグバンド・ファンならずとも思い出される出来事が2つあります。ひとつはサド=メル・オーケストラを辞めたサド・ジョーンズがその活動拠点をコペンハーゲンに移し、そこで同楽団のバンド・リーダーとして活躍したこと。そしてもうひとつは、1985年、コペンハーゲンのレオニ・ソンング音楽賞を受賞したマイルス・デイビスを招いて開催されたDRビッグバンド20周年記念コンサートの模様が、『 Aura 』という作品としてリリースされ、2つのグラミー賞を受賞したことです。

ところで、同楽団をDanish Radio Big Band ( DRBB ) と呼んだり、また、Danish Radio Jazz Orchestra ( DRJO ) と呼んだりと、統一されていないのを不思議に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。実はこれは、バンド・マネージャーの交代に伴い2回、名称変更がなされたためなのです。

64年の発足当初は ビッグバンド ( DBBB ) という名称でした。しかし、92年にピーター・H・ハーセンがプロデュサー兼バンド・マネージャーに就任した際、それまでのメインストリーム系の既存の曲を演奏するビッグバンドから、今後は自己のオリジナル曲を演奏することに主眼を置くオーケストラとして活動していくことを強調するため、ジャズ・オーケストラ ( DRJO ) という名称に変更したのでした。

しかし、01年にロックやポップス業界での業績を高く評価されマネージャーに抜擢されたモルテン・ヴィルヘルムが、再び DRJO から DRBB に名称を戻したのでした。その裏には公的なバンドであってもある程度の収益を上げなければ経営存続できないという台所事情が関係していたようです。高踏的でアーティスティックなサウンドでは客が呼び込めない。より大衆にアピールする、分かりやすいビッグバンド・サウンドを奏でることが同楽団に課せられた課題だったのです。そのため、“ Jazz Orchestra ”ではなく“ Big Band ”と変更し、冬になるとせっせとクリスマス・コンサートの巡業を行い、往年のスイング・ジャズも演奏し、普段はジャズを聴かない人々にもホールに足を運んでもらうことに成功したのでした。それでも03年には同楽団への政府予算は削減されたようです。ますます営業に精を出さなければ存続が危うい、そんな苦境に立たされているのが現状のようです。

さて、今日聴いているのは、95年に同楽団の首席コンダクターに迎えられたボブ・ブルックマイヤーが、イリアーヌ・イリアスをソリストとして制作した作品『 Impulsive ! 』( 96年 stunt records ) です。この作品はホント、素晴らしい出来です。手元には10枚以上の同楽団のアルバムがありますが、もちろんその中ではベスト。さらに欧州ビッグバンドの作品群の中でも、ベスト5に入るくらいの出来の良さだと思っています。何が素晴らしいかというと、兎に角、彼女のピアノがイイのです。イリアーヌ・イリアスというと、≪ 美貌 ≫、≪ ランディ・ブレッカーの元妻 ≫、≪ ボサノヴァ・ピアニスト ≫ などと言った言葉で括られることが多いように思いますが、意外に硬派なピアノを弾かせても凄く巧い人なんですよね。本作のM-2 ≪ So In Love ≫ でもピアノ・ソロなど浮き立つような華麗さを秘めた叙情的なフレーズを連発し、もう鳥肌が立つほど感動的です。

そして彼女の持ち込んだオリジナル曲を上品に優雅にアレンジしたボブ・ブルックマイヤーの手腕もお見事です。もともとDRBB はトランペット×5、トロンボーン×5、サックス×5、リズム×5 の総勢20名の通常のフルバンよりも大編成である所が売りなのですが、本作はブルックマイヤーの気品に満ちたアレンジのために、tutti の場面でも全然高圧的でなく、聴き疲れしないのです。ですからコンボ系のジャズ・ファンでもすんなり馴染めるビッグバンド・サウンドだと思います。

本作は01年のグラミー賞にノミネートされた実績がある秀作です。DRBB でとりあえず一枚、という時にはぜひ本作を手にとってみてはいかがでしょうか。

P.S. 本作と似た企画で、ジム・マクニーリー(彼は98年から02年まで、同楽団の首席指揮者でした)指揮、リニー・ロスネス客演、作曲の『 Renee Rosnes and The Danish Radio Big Band 』 ( 03年 Blue Note ) という作品がありますが、このリニーの作品は本作とは対照的に硬質で迫力のあるサウンドで、よりコンテンポラリー度が高めな作品です。


HR Big Band 『 Do It Again 』

2007年09月27日 21時49分47秒 | Large Jazz Ensemble
SWR ビッグバンド,WDR ビッグバンド,NDR ビッグバンドと,ドイツの公共放送局専属のビッグバンドの作品を聴いてきましたので,最後はフランクフルトに本部を置く HR ( Hessischer Rundfunk : ヘッセン放送協会)ビッグバンドの作品を聴いてみましょう。本楽団は他の楽団同様,最初はダンスのバックバンドとして1946年に結成されましたが,ここ30年の間にジャズのビッグバンドとしての活動を専業とするようになったようです。

残念ながらOfficial Web Site を見てもきちんとしたdiscography が明示されていませんので,現在までにどのくらいのカタログを有するのかわかりませんが,Wikipediaには2001年以降の作品が掲載されていますので,興味のある方はこちらをどうぞ。

本楽団が他の公共放送局専属楽団と違うところは,そのカヴァーする守備範囲の広さです。スウィング・ジャズ,モダン・ジャズ,ライト・ミュージック,アヴァンギャルド・ジャズからヒップ・ホップまで,様々な音楽をそのレパートリーに持ち,数多くのフェスティバル,定期コンサートなどにももちろん参加する,おそらく地元フランクフルトでは子供からお年寄りまで,あらゆる年齢層の方々に愛されるビッグバンドなのでしょう。技術的にもSWR, WDR, NDR ビッグバンド らと全く同格と言ってよいでしょう。

「五線譜に書かれてある音楽なら何でもやりますよ。だって私たち,ヘッセン放送協会に勤めるサラリーマン・ミュージシャンだも~ん。」みたいな意識があるのでしょうか。ある意味,節操無い活動ですが,あくまで public band ですから仕方ありません。

で,僕が所有する作品は,『 Swinging Christmas 』( 2002 ),『 Two Suites / Tribal Dances 』( 2003 ),『 Do It Again / Plays Three Decades of Steely Dan 』( 2004 ),『 Once in A Lifetime 』( 2006 ),の計4枚です。

『 Swinging Christmas 』は,マージョリー・バーンズという米国生まれの黒人歌手と,昨年の横濱ジャズプロムナードでもルイス・ヴァン・ダイクのバンドで来日したオランダ人ヴァイブラフォン奏者,フリッツ・ランデスバーゲンをフューチャーしたクリスマス・ソング集です。まあまあ,楽しい作品です。

『 Two Suites / Tribal Dances 』はドイツ人の作曲家兼アレンジャー兼指揮者のラルフ・シュミッドと,オランダ人の作曲家兼アレンジャー兼指揮者であるマーティン・フォンデの二人がそれそれ組曲を披露した2部構成の作品。ミュージカル~現代音楽~アヴァンギャルド・ジャズの刺激的な楽曲。

『 Once in A Lifetime 』は,ジョーイ・デフランチェスコとジェフ・ハミルトンが客演した作品。スタンダードも演奏しており聴きやすい作品。

そんな訳で, HR ビッグバンドの作品は一作ごとに作風が全く異なるので,新作が出るのが楽しみなバンドである反面,作品ごとの好き嫌いがはっきりしてしまいやすい傾向にあります。その中でも僕が最も気に入っているのがこのスティーリー・ダン集である『 Do It Again / Plays Three Decades of Steely Dan 』です。“ Three Decades of Steely Dan ”と聞いてピンときた方はけっこうなSD マニアですね。SD のベスト盤に『 A Decade of Steely Dan 』からを捩ったタイトルなのでしょうね。

それにしても SD のカヴァーするのってかなり自信がないとできないことです。SDの曲って,超一流のミュージシャンを沢山起用し,極めて繊細なスタジオ・ワークで時間をかけて作り込まれた完全なる楽曲ですからね。下手にアレンジできない,弄りようがないわけです。さらに限りなくデジタルに近い,いわば人間的なブレ,揺らぎみたいなものを一切排した楽曲なので,人間的,有機的なサウンドが醍醐味であるビッグバンドとは対極にあるのですから,これに挑戦するのは大変です。ですが,これがかなり出来がよい仕上がりになっているので感心しちゃいました。アレンジャーはフレッド・スタム( Fred Sturm )というアメリカ人です。

変に原曲のイメージを崩さないようにアレンジするのではなく,時には大胆な解体,再構築を施し,原曲に新たな命を吹きこむことに成功しています。ゲスト・ギターリストのライアン・フェレイラ( Ryan Ferreira )もスティーブ・カーンやラリー・カールトンらを模倣するのではなく,フランク・ギャンバレ風に馬鹿テク炸裂の暴れようで,開いた口が塞がりません。この人,本当にSD聴いたことあるのかしら。

副題『 スティーリー・ダンの30年 』とあるように,72年のデビュー作『 Can't Buy A Thrill 』から2000年の『 Two Against Nature 』までの作品の中から万遍なく選曲されています。細かい事言うと,M-9 《 The Goodbye Look 》は SD の楽曲ではなく,ドナルド・フェイゲンがソロ・アルバム『 The Nightfly 』の中に納めた楽曲です。兎に角,前述したボヒュスレーン・ビッグバンのフランク・ザッパ集といい,WDR ビッグバンドのウェザー・リポート集といい,カヴァー集と言えど欧州の超一流エリート集団が目指す山はエベレスト級です。自慢げに超難曲をサラっと演っちゃいますから欧州のビッグバンドのレベル高いです。

こんな凄腕集団なのですが,メンバーをみるとほとんど日本では無名なミュージシャンばかりです。唯一有名な方はマルチ・リード奏者のトニ・ラカトスぐらいでしょうか。

もし,SD には興味が無いというなら,ジョーイ・デフランチェスコがフューチャーされた『 Once in A Lifetime 』が万人受けするかもしれません。

最新作は,映画音楽界でも有名なコリン・タウンズ( Colin Towns )がアレンジ&指揮し,ビリー・コブハムが客演したマハビシュヌ・オーケストラ集『 Meeting of The Spirits 』ですが,ブログ“ Jazz & Drummer”のnary さんがレビューしていますのでぜひご覧下さい。

最後に,ヘッセン放送局専属のジャズ・ユニットには,このHR ビッグバンド以外にも HR ジャズアンサンブル( HR Jazzensemble , Jazzensemble Des Hessischen Rundfunks )という組織があります。58年にアルバート・マンゲルスドルフが旗揚げした large ensemble unit ですが,最大でも9人編成,つまりナイン・ピースなのですが,トランペットなしの変則的なナイン・ピースで活動しているバンドです。メンバーは流動的ですが,核になるメンバーはマンゲルスドルフ兄弟,澤野商会からの『 YOGI JAZZ』の復刻で話題になったヨキ・フロイト,Globe Unity Orchestra にも参加していたハインツ・ザウアー,それに馬鹿テク若手サックス奏者のクリストフ・ラウアーらと凄いバンドです。HR ビッグバンドが一般大衆受けする活動に主眼を置いているのに対してHR ジャズアンサンブルは、かなりアーティスティックな活動に力を入れています。これに関してはまた近いうちに取り上げますね。では、また。

The NDR Bigband 『 Bravissiomo 』

2007年09月17日 22時10分47秒 | Large Jazz Ensemble
ドイツの地方放送局専属ビッグバンドの中では前述のSWR(南西ドイツ放送協会)ビッグバンド、WDR(西ドイツ放送協会)ビッグバンドなどと並び、最も古い歴史を有するNDR(北ドイツ放送協会、本部はハンブルグ)ビッグバンドの、結成50周年を記念して制作された未発表音源集です。

NDRビッグバンドは1945年5月に結成されました。はじめはダンス・バンドとしての仕事がほとんどでしたが、60年代末には定期的にジャズの演奏も行うようになり、71年にウォルフガング・クナートがプロデューサーに就任してからはより一層ジャズに重心を置くようになりました。しかし当時はビッグバンドのメンバーの中に本当のジャズ・ミュージシャンと呼べる人材はハーブ・ゲラーを含め2,3人しかおらず、結果的に数多くの客演ソリストを迎えて経験を積むことで、その実力を高めていったビッグバンドであったようです。

更には80年にオーストリア人ピアニスト、ディーター・グラヴィシュニックを指揮に迎えたことで、ドイツが世界的に誇る名ビッグバンドに成長していったのでした。80年代後半にはバンド運営が窮地に追い込まれた時期もありましたが、最近は国民のジャズに対する理解度も高まり、財政的は安定しているようです。

それにしても放送局が運営するビッグバンドが存在するなんて羨ましい限りです。欧州にはドイツのこれらのビッグバンド以外にも、有名なDanish Radio Jazz Orchestra ( or Bigband ) やThe Norwegian Radio Orchestra(これはノン・ジャンルのビッグバンドですが)などがありますが、アメリカには全く存在しませんよね。

で、本作はディーター・グラヴィシュニックが指揮した80年から本作発売の96年までの約15年間に開催された百を超えるコンサートの中から選ばれた珠玉の12曲が収められています。その中には20人のソリスト、9人のアレンジャー、そしてディーター・グラヴィシュニックを含む4人の指揮者が名を連ねています。また、12曲中11曲が未発表曲です。

客演者はジャケットにも記載があるように、チェット・ベイカーをはじめ、ゲイリー・バートン、ハーブ・ゲラー、ジョニー・グリフィン、ハワード・ジョンソン、アルバート・マンゲルスドルフ、スタン・トレイシー、そしてジョー・パスなどと豪華。

ホレス・シルバー作 ≪ Sister Sadie ≫ での爽快感極まりないジョー・パスのソロ。妖艶な響きを発すマルチフォニック奏法を駆使し ≪ Mood Indigo ≫ を奏でるマンゲルスドルフ。有機的なアンサンブルをバックに ≪ Diango ≫ の甘酸っぱいメロディーを紡ぐチェット・ベイカーなどなど。聴きどころ満載の素晴らしいコンピレーションです。

Joe Zawinul 『 Brown Street 』

2007年09月15日 22時23分40秒 | Large Jazz Ensemble
ジョー・ザヴィヌル氏が今月11日、ウイーンの病院で皮膚癌のため亡くなりました。享年75歳でした。86年にWeather Report を解散後も The Zawinul Syndicate 名義で精力的に活動し、今年もヨーロッパ・ツアーを挙行するなど、70歳を過ぎて益々元気な姿を見せていたザヴィヌルだけに、非常に残念な思いでいっぱいです。

とは言うものの、現在のオーストリア男性の平均寿命が日本とほぼ同じ77歳ということですから、そういう意味では天寿を全うしたと言って良いのかもしれません。むしろ亡くなる直前まで現役ミュージシャンとして第一線で活躍されていたわけですから、本当に幸せな人生であったと言ってよいでしょう。

ザヴィヌルは今年の夏も6週間に及ぶヨーロッパ・ツアーを挙行しています。しかし,そのツアー中,車椅子でステージにあがり,メンバー紹介の際も決して立ち上がることはなかったといいます。コンサートの最後の頃にはかなり疲れきった様子で,痩せ衰えていることがはっきり見てとれる程であったようです。そんなザヴィヌルは,7月のパリのジャズ・フェスティバル( Jazz a la Villette )で,自己のバンドを率いて同フェスに出演していたウェイン・ショーターをゲストに迎えて競演を果たしています。Weather Report解散後,ほとんど競演することが無かった二人が,どうしてこのフェスティバルで競演したのか。今思うとジョーのショーターに対するお別れの挨拶だったのかもしれませんね。

そんな彼に追悼の意を込めて,今晩は遺作となった『 Brown Street 』を大音量で聴いております。期せずして本作はこのところ拙ブログで集中的に取り上げているビッグバンド作品で,しかも前回取り上げたドイツの地方放送局専属のSWR( 南西ドイツ放送協会 )ビッグバンドと並び同国のエリート集団であるWDR( 西ドイツ放送局 )ビッグバンドとの競演盤です。


ザヴィヌルとWDR ビッグバンド。意表を突く組み合わせですが、事の始めは2001年のことでした。カリフォルニア州ロングビーチで開催された国際ジャズ教育協会( International Association of Jazz Educators )主催のカンファレンスで、ザヴィヌルが欧州ジャズ・フェスティバル協会( European Jazz Festivals Organizaiton : EJFO )から国際ジャズ賞を授与された際、授賞特別コンサートとしてWDR ビッグバンドとWeather Report 卒業生 (ピーター・アースキン、ビクター・ベイリー、アレックス・アクーニャ)が、往年のWR名曲をヴィンス・メンドゥーサによるアレンジで披露したことが発端でした。ちなみにこの時はザヴィヌルは演奏には参加せず、あのTribal Tech のスコット・キンゼイがキーボードで参加しています。

更に2002年には、Leverkusener Jazz Festival の中で、ザヴィヌルの古希(70歳)のお祝いとしても、WDR ビッグバンドとWeather Report 卒業生による同様のライブが披露されたことが伏線となり、2005年暮れについにザヴィヌルとWDR ビッグバンドの共演が実現されたのでした。

このWDR ビッグバンドとの共演は“ Joe Zawinul Projects ”と銘打って、2005年11月にスペインやドイツでのフェスティバルに参加していますが、本作はそれらに先立つ10月に一週間行われたライブ音源が使われています。ライブ会場となったのは、ザヴィヌルが2004年にウイーンに出店した“ Joe Zawinul’s Birdland ”です。

このビッグバンド作品の仕上がりに気を良くした彼は、2006年にはニューヨークに渡り、 Kristjan Jarvi’s Absolute Ensemble と共演したり、更には2007年に、National Orchestra of France とも共演したりと、かなり Large ensemble に傾倒していったようです。

Zawinul Online にヴィンス・メンドゥーサのインタビュー記事が掲載されていますが、その中に、
≪ Vince tells me he will be working with Joe and the Metropole Orchestra of the Netherlands in January 2008. It’s possible we may see a CD out of this project as well.

とあります。もう少し長生きしてくれたなら、僕らはもう一枚のビッグバンド作品を聴くことができたのに。本当に残念でしかたありません。







SWR Big Band feat. Phil Woods 『 Jazz Matinee 』

2007年09月10日 23時14分34秒 | Large Jazz Ensemble
前回に引き続きフィル・ウッズのビッグバンド作品のお話をいたします。
本作はフィル・ウッズがドイツの名門、SWR ビッグバンドと共演した96年の作品です。ドイツ人集団らしい重厚で硬質なアンサンブルをバックに、ウッズが自からがアレンジしたオリジナル曲を中心に吹きまくる快作です。

ところでドイツにはARDと呼ばれるドイツ公共放送連盟という公共放送局の組織があり、地方の放送局とネットワークを形成しています。つまり、南西ドイツ放送協会(SWR)、北ドイツ放送協会(NDR)、西ドイツ放送協会(WDR)、ナイエルン放送協会(BR)、ヘッセン放送協会(HR)、中部ドイツ放送協会(MDR)、ベルリン・ブランデンブルグ放送協会(RBB)、ザールランド放送協会(SR)、ブレーメン放送(RB)の計9つの地方放送局と連合を組んでいるのです。そしてその中の多くが放送局独自の交響楽団やビッグバンドを所有しているですね。

交響楽団はブレーメン放送(RB)以外の8つの地方放送局に存在しますが、ビッグバンドはそれほど多くはありません。南西ドイツ放送協会(SWR)、北ドイツ放送協会(NDR)、西ドイツ放送協会(WDR)、それにヘッセン放送協会(HR)ぐらいどと思います。(誤っていたらお教え下さい)

最も国際的に有名なのは WDR Big Band でしょうか。最近ではジョー・ザビヌルの『 Brown Street 』やランディー・ブレッカーの『 Some Skunk Funk 』でも共演したりと、その知名度を上げてきています。WDRは9つの地方放送局中、最大規模の放送局でもあります。

ちなみにDR Big Band というのがありますが、これはドイツ放送局専属のビッグバンド、というわけではなく、Danish Radio Big Band の略称です。また、BR Big Band というのは、ブレーメン放送局ビッグ・バンドではなく、Buddy Rich Big Band のことですので、お間違えなく。

閑話休題。僕の手元にあるSWR Big Band の作品は本作以外にJens Winther をフィーチャーした『 Jazz in Concert 』(1995 hanssler )しかありませんので、SWRのサウンドをここで語るには情報量不足ですが、 『 Jazz Matinee 』でのスタイルは、ウッズの楽曲だけにコンテンポラリー度は低めで、オーソドックスなモダン・スタイルですので、万人受けする作品かと思いますが。

SWR Big Band のメンバーで有名なミュージシャンでは、ピアノのクラウス・ワーゲンライターとアルトのクラウス・グラーフ、それにテナーのピーター・ウェニガーぐらいでしょう。クラウス・ワーゲンライターは“ Trio Concepts ”のピアニストとして有名ですよね。ピーター・ウェニガーは教則本なんかも出している教育者(どこかの教授だったような気がします)で、私はサックス・トリオの『 Legal Paradizer 』( 2003 Skip )しか所有していませんが、何処となくジョシュア・レッドマンみたいなつかみどころのない、切れそうで切れない、不思議なフレーズを朗々と吹く人です。

Jazz Class Orch. Meets Phil Woods 『Porgy and Bess』

2007年09月03日 01時51分06秒 | Large Jazz Ensemble
本作も『 Embraceable You 』同様 Philology の94年の作品です。イタリアの“ Jazz Class Orchestra ” というビッグバンドとの共演で、お馴染みの『 Porgy and Bess 』集です。個人的にはジャズ・アレンジとしては、あまりにも手垢に塗れた感のある楽曲に、やや食傷気味ですが、なかなかアレンジはポップで聴きやすいです。ビッグバンドとしてのレベルは並ですが、洒落たアレンジ力で聴かせるタイプのバンドですね。特にM-2 ≪ Here Come de Honey Man ≫ などはラテン・タッチの爽やかなアレンジが元曲のメロディーにうまく溶け込み、何とも言えない優しい空気感を演出しています。大音量の多重和声で圧倒するわけでもなく、力まず、スマートに語りかける、なかなかお洒落なビッグバンドです。ライナーノーツによると85年に結成されたようですが、なにしろイタリア語なのでそれ以上は読む気になれず、またネット検索をかけてもほとんどヒットしないため、彼らの情報は皆無です。かろうじてヒットした記事はすべて90年代中ごろまでのものですので、おそらく現在は解散してしまっているのでしょうね。

Phil Woods meets Big Bang Orch 『 Embraceable you 』

2007年09月02日 00時09分48秒 | Large Jazz Ensemble
無類のフィル・ウッズ好きを自負する私ですが、彼の作品を収集しているとけっこうビッグバンド物が引っ掛かってきます。確かにウッズのあの艶やかな音には華があり、その他大勢のビッグバンドの音に決して埋もれない強烈な個性と技量がありますから、ビッグバンドのソリストとしては非常に魅力的なわけです。思えは昔は数多くの有名ビッグバンドから誘いがかかり、客演ソリストとして数多くの作品に参加していました。50年代のディジー・ガレスピー・オーケストラを起点として、クインシー・ジョーンズ、オリヴァー・ネルソン、ミッシェル・ルグラン、ギル・エヴァンス、ボブ・ブルックマイヤーなど、数多くのビッグバンドを験しその編曲能力を磨き、近年は自らリーダーをとりビッグバンド作品を制作しています。今日はそんな彼のビッグバンド作品の中から比較的最近のものをCD棚からひと掴みしてきました。まずは88年にPhilology に吹き込んだ『 Embraceable You 』を聴いてみましょう。

ジャズ評論家,杉田宏樹氏の名著『ヨーロッパのJAZZ レーベル』(河出書房新社)の中で《 ウッズのPhilology第一作が, 『 Embraceable You 』で~ 》とありますが、実はPhilology にはこの『 Embraceable You 』以前に、80年録音87年発売の『 The Macerata Concert 』というLP3枚組Box Set が存在します(前項あり)。

まあ、それはさておき、パオロ・ピアンジャレッリ氏によって召集させられたメンバーがなかなか良いのです。ダニーロ・レア(p)、エンゾ・ピエトロパオリ(b)、ロベルト・ガトー(ds)というリズム隊。そう、つまりは “ Trio Di Roma”ということですね。それにトランペットの3人が、なんとマルコ・タンブリーニ、フラビオ・ボルトロ、そしてパオロ・フレズですからね。凄いです。今じゃ絶対実現しないであろう豪華な布陣。ちゃんとみんなソリストとしても活躍しています。しかしなんだかんだ言ってもウッズのソロのスペースが広く、ビッグバンドがウッズのソロを際立たせる役割に徹しているパートも多分に見られ、また録音もウッズが引き立つように録られており、ウッズ・ファンにはヨダレもんです。タイトル曲《 Embraceable You 》での天空を飛翔していくかのような壮快でエレガントなウッズのソロが白眉です。

Phil Woods meets Big Bang Orchestra 『 Embraceable you 』
1988年 Philology 214W25-2
Phil Woods (as)
Giancario Maurino (ss,as)
Mario Raja (ss,ts)
Maurizio Giammarco (ts)
Roberto Ottini (bs)
Marco Tamburini (tp,flu)
Flavio Boltro (tp,flu)
Paolo Fresu (tp,flu)
Danilo Terenzi (tb)
Roberto Rossi (tb)
Marco Rinalduzzi (g)
Danilo Rea (p)
Enzo Pietropaoli (b)
Roberto Gatto (ds)
All Arrangements by Mario Rja


Bobby Watson with Tokyo Leaders BB 『 Live at ~ 』

2007年09月01日 20時13分38秒 | Large Jazz Ensemble
“ 東京リーダーズ・ビッグ・バンド ”は新橋のライブハウス“ SOMEDAY ”のハウスバンドで、オーナーの森茂信氏が選りすぐりの国内トップ・ミュージシャンを集め、96年に立ち上げたビッグバンドです。現在も不定期にライブを行っていると思われますが、僕も以前、“ SOMEDAY ”がまだ新大久保にあった頃、数回ライブを観たことがあります。中路英明さんや多田誠司さん、それに納 浩一さんらの素晴らしいプレーを目の当たりにして、正直、「日本人ってこんなに上手くなったのかぁ~」と衝撃を受けた記憶があります。本作は森氏が15年来の旧友であるボビー・ワトソンを“ 東京リーダーズ・ビッグ・バンド ”のゲスト・ソリストに迎えて“ SOMEDAY ”で録音された99年の作品です。

ボビー・ワトソンは米国では“ Tailor-Made Big Band ”というグラミー賞にノミネートされたこともあるビッグバンドを率いて活動しているのですが、このライブ録音にあたっては、その2か月前に森氏自らが渡米し、 “ Tailor-Made Big Band ”用のスコアから12曲を選び持ち帰り、事前に“ 東京リーダーズ・ビッグ・バンド ”だけで数回のリハーサルを行ったとのこと。全曲ワトソンのオリジナルで、ジャズ・メッセンジャーズ在籍の頃に作曲し、JMのレパートリーとしても有名な ≪ In Case You Missed It ≫から、最近作曲した作品まで、新旧交えての選曲で、どれもポップで喉ごしの良い楽曲ばかりで感心します。そして、この作品の凄いところは、何と言ってもその迫力と熱気。小さなハコの中で繰り広げられる轟音絵巻が見事にパッケージされているんですね。決してHi-Fi な音ではないのですが、生々しい臨場感がかなりダイレクトに伝わる凄い音なのです。

レーベルは Red Records ですから、当然、Executive Producer としてはセルジオ・ヴェスキ爺がクレジットされていますが、実質的には森氏が作りたい音が具現化された作品なのでしょう。いや~、これは最初に聴いた時は倒れそうになりました。ひとつ残念なのは、各曲ごとのソリストの名前がクレジットされていないことです。ビッグバンド・ファンならずとも必須の作品だと思います。大推薦盤です。

Bobby Watson with Tokyo Leaders Big Band
『 Live at Someday an Tokyo 』 1999年 Red Records 123290-2
佐々木史郎(tp)
小幡光邦(tp)
松島啓之(tp)
岡崎好朗(tp)
中路英明(tb)
佐藤春樹(tb)
北原雅彦(tb)
堂本雅樹(tb)
多田誠司(as)
池田篤(as)
佐藤達哉(ts)
菊地康正(ts)
黒葛野淳司(bs)
今泉正明(p)
納浩一(b)
岩瀬立飛(ds)
稲垣貴庸(ds) 

Maria Schneider 『 Sky Blue 』

2007年08月25日 11時46分42秒 | Large Jazz Ensemble
先週の8月18日、19日の二日間、毎年恒例の「YAMANO BIG BAND JAZZ CONTEST」が開催されました。以前は毎年楽しみにしていた催しだったのですが、最近は参加者増加のために会場が日本青年館(1360名収容)から府中の森芸術劇場(2000名収容)に移ってしまったことや、更には我が家に子供が生まれてからは家族で優雅にコンサート鑑賞ともいかなくなったことなどから、残念なことにここ数年は足が遠のいでいます。でも結果は気になるもので、山野楽器のHPから審査結果を覗いてみると、今年の優勝バンドは国立音大ニュー・タイド・ジャズ・オーケストラとのこと。僕のお気に入りの早稲田ハイソは4位。慶応は3位。国立音大って最近強いですね。一度も聴いたことないので是非来年は観に行きたいです。と思っていたら、今年のコンテストの模様が初のDVD発売になるという情報が山野楽器のHPに掲載されていました。5500円はちょっと高いが買ってみようかな。

さて、今日もビッグバンド作品のご紹介です。今、ニューヨークで最も人気のあるビッグ・バンド、マリア・シュナイダー・オーケストラの第6作目にあたる新作『 Sky Blue 』が発売になりました。2004年の前作『 Concert in the Garden 』がartistShareからのオンライン配信&通販という販売形態をとりながらも第47回のグラミー賞( Best Large Jazz Ensemble Album )を受賞したことで話題になったのも記憶に新しい彼女ですが、今回はスタジオ録音ということもあり、『 Concert in the Garden 』や『 Days of Wine and Roses 』のような観客視線を意識したダイナミックで娯楽性のある作風ではなく、非常に優雅で微妙に揺らぎながらドラマティックに展開する楽曲をかいてきました。

正直なところ今までの作品は世間が評価するほど良いとは思っていなかった(デビュー作の『 Evanescence 』はなかなか良かったけどね)のですが、この新作は素晴らしいです。やや全体には大人しい音作りで、ビッグ・バンド的ではないのですが、すべての物語がまるで夢のなかで進行しているかのような心地よいサウンドがたまりません。特にM-1 ≪The Pretty Road ≫は絶品です。イングリッド・イエンセンのフリューゲルホーンがふわ~と入ってる2分54秒、その瞬間が鳥肌ものです。大好きなルシアナ・ソーザのヴォイスもオーケストラに美しく溶け込み、まさにそこは夢の楽園、シャングリラ。

メンバーは、ティム・リース(as,ss,cl, fl,)が抜け、その代りにスティーブ・ウイルソンが加入してる以外は前作から大きな変化はありません。クラリス・ペン、ベン・モンダー、フランク・キンブロー、スコット・ロビンソン、そしてドニー・マッカスリンなど、分かる人にはわかる実に贅沢な布陣です。

オーセンティックなビッグ・バンド・ジャズのような高揚感は得られませんが、爽やかなそよ風に優しく頬を撫でられたような余韻を残してくれる、そんな作品です。