スティーヴ・コールマンやグレッグ・オスビーらが牽引者となり80年代に一世風靡した《 M-BASE 派 》が後に《 ブルックリン派 》と呼ばれた事は,比較的ミュージシャン達も限定されていたし,音楽自体も当時のいわゆる《 新伝承派 》と明確に区別できたので問題なかったのですが,近年の《 現代ブルックリン派 》とか《 新ブルックリン派 》とか,あるいは《 ブルックリン派第二世代 》と呼ばれる人々は,どうも曖昧なカテゴリーで理解しにくいのです。
《 新ブルックリン派 》のミュージシャンと言えば,マーク・ターナー,トニー・マラビー,クリス・チーク,それにドニー・マッキャスリンらあたり (あら,全部サックス奏者だ) から,最近ではボブ・レイノルズなどもその中に入るのでしょうか。レーベルで言えばFSNTから作品を出すミュージシャンに《 新ブルックリン派 》は多いですよね。でも,《 MYコンテンポラリー・ジャズ 》と《 新ブルックリン派 》はほぼ同じような意味で用いられているようでもあるし。マルサリスを中心とする極一部の《 新伝承派 》以外はみな程度の差はあれ《 新ブルックリン派 》のような気もするし。
でも,例えば,テレンス・ブランチャードなどはデビュー当時は《 新伝承派 》に分類されていましたよね。でも最近の作品などはどう見てもBe-Bopとはかけ離れたジャズであって,むしろ《 新ブルックリン派 》に近かったりしますし,そう考えると《 新伝承派 》とか《 新ブルックリン派 》とか言った分類はあまり意味がないとも言えますね。でも全く聴いたことのないミュージシャンを説明する際には便利な表現ではありますが。
閑話休題。ローガン・リチャードソンは1980年,カンザス・シティー生まれで,例の如く,バークリー音楽院出身です。バークリーでは,スティーヴ・ウイルソン,マーク・ターナー,ヴィンセント・ハーリング,ジョージ・ガゾーン,レイチェルZ,ゲイリー・バーツらのレッスンを受けているようです。本作がデビュー作ですが,サイドとしてはジョー・チェンバースの『 Outlaw 』( 2006 Savant )とグレゴリー・ターディーの『 Steps of Faith 』( 2007 SteepleChase )に参加しています。後者は所有していますが,どうもターディーの作品の中では地味な印象を持った作品で,リチャードソンもそれほど暴れていません。タイトル『 Steps of Faith 』(信仰の道のり)からも分かりように,精神的,内省的,思索的な作品で,以前のようなイケイケ・ハード・バップではありません。余談ですが,彼は敬虔なクリスチャンのようですよ。
全10曲で,全て彼のオリジナル。変拍子のそれこそ《 M-BASE 派 》風の楽曲があるかと思えば,浮遊感漂うコンテンポラリーな楽曲もあり,はたまた,エリック・ドルフィー風の絶叫型ブローあり,と様々な表情を見せるローガン。《 ローガンは,私が今まで長い間見て来たいかなるアルト奏者とも違い,肉声に似た柔軟さと器用さを併せあわせ持ったミュージシャンだ。》とグレッグ・オスビーがコメントしているように,どんなジャズもこなせ,それでいてどんな場面でも個性的なソロがとれる,優れたアルティストであると思いました。《 ローガンは現時点ではあまり知名度は高くないが,近いうちに多くの人が知ることになるであろう素晴らしいプレーヤーであると私は信じる。》とグレゴリー・ターディーが言っているように,これからの活躍が楽しみなミュージシャンです。
Logan Richardson の Official HP はこちら。
Logan Richardson 『 Cerebral Flow 』 2006 FSNT 278
Logan Richardson (as)
Mike Pinto (vib)
Mike Moreno (g)
Matthew Brewer (b)
Nasheet Waits (ds)
Thomas Crane (ds)