雨の日にはJAZZを聴きながら

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Maria Schneider 『 Sky Blue 』

2007年08月25日 11時46分42秒 | Large Jazz Ensemble
先週の8月18日、19日の二日間、毎年恒例の「YAMANO BIG BAND JAZZ CONTEST」が開催されました。以前は毎年楽しみにしていた催しだったのですが、最近は参加者増加のために会場が日本青年館(1360名収容)から府中の森芸術劇場(2000名収容)に移ってしまったことや、更には我が家に子供が生まれてからは家族で優雅にコンサート鑑賞ともいかなくなったことなどから、残念なことにここ数年は足が遠のいでいます。でも結果は気になるもので、山野楽器のHPから審査結果を覗いてみると、今年の優勝バンドは国立音大ニュー・タイド・ジャズ・オーケストラとのこと。僕のお気に入りの早稲田ハイソは4位。慶応は3位。国立音大って最近強いですね。一度も聴いたことないので是非来年は観に行きたいです。と思っていたら、今年のコンテストの模様が初のDVD発売になるという情報が山野楽器のHPに掲載されていました。5500円はちょっと高いが買ってみようかな。

さて、今日もビッグバンド作品のご紹介です。今、ニューヨークで最も人気のあるビッグ・バンド、マリア・シュナイダー・オーケストラの第6作目にあたる新作『 Sky Blue 』が発売になりました。2004年の前作『 Concert in the Garden 』がartistShareからのオンライン配信&通販という販売形態をとりながらも第47回のグラミー賞( Best Large Jazz Ensemble Album )を受賞したことで話題になったのも記憶に新しい彼女ですが、今回はスタジオ録音ということもあり、『 Concert in the Garden 』や『 Days of Wine and Roses 』のような観客視線を意識したダイナミックで娯楽性のある作風ではなく、非常に優雅で微妙に揺らぎながらドラマティックに展開する楽曲をかいてきました。

正直なところ今までの作品は世間が評価するほど良いとは思っていなかった(デビュー作の『 Evanescence 』はなかなか良かったけどね)のですが、この新作は素晴らしいです。やや全体には大人しい音作りで、ビッグ・バンド的ではないのですが、すべての物語がまるで夢のなかで進行しているかのような心地よいサウンドがたまりません。特にM-1 ≪The Pretty Road ≫は絶品です。イングリッド・イエンセンのフリューゲルホーンがふわ~と入ってる2分54秒、その瞬間が鳥肌ものです。大好きなルシアナ・ソーザのヴォイスもオーケストラに美しく溶け込み、まさにそこは夢の楽園、シャングリラ。

メンバーは、ティム・リース(as,ss,cl, fl,)が抜け、その代りにスティーブ・ウイルソンが加入してる以外は前作から大きな変化はありません。クラリス・ペン、ベン・モンダー、フランク・キンブロー、スコット・ロビンソン、そしてドニー・マッカスリンなど、分かる人にはわかる実に贅沢な布陣です。

オーセンティックなビッグ・バンド・ジャズのような高揚感は得られませんが、爽やかなそよ風に優しく頬を撫でられたような余韻を残してくれる、そんな作品です。

Bohuslan Big Band 『 Play ZAPPA 』

2007年08月24日 23時26分58秒 | Large Jazz Ensemble



ひとくちにジャズ・ファンと言っても、昨今のジャズの多様化に伴い、そのファンの趣向は様々で、十把一絡げで括れるほど単純ではありませんが、たとえば大雑把に二分法でジャズ・ファンを分類してみるならば、

50年代から60年代のジャズ・ジャイアントの作品を愛しみながら繰り返し繰り返し聴き込むことでジャズに対する理解を深化させていくことに喜びを見出すファン(A)に対して、常に新しい未知のジャズを求めて新譜を片っ端から買いまくるファン(a)。

スタンダードなジャズを好むファン(B)に対して、フリーやアヴァンギャルドなジャズを好むファン(b)。

欧州ジャズ・ファン(C)に対して、欧州ジャズなど米国ジャズの模倣に過ぎないと蔑視する米国ジャズ・ファン(c)。

録音の優れた作品をハイエンド・オーディオで聴くいことに音楽的快感を求めるファン(D)に対して、オーディオに金をかけるくらいなら一枚でも多くのディスクを買い漁った方が良いと思っているファン(d)。

ジャズは自分で演奏しなきゃ本当の素晴らしさを体感できないとひたすら練習に励むファン(E)に対して、自室に閉じこもり孤独にスピーカーの前で瞑想に耽るファン(e)。

そして、コンボ系を好んで聴くファン(F)に対して、ビックバンド系こそジャズと思っているファン(f)、などなど。

ちなみに僕の場合は、aBCdeF でしょうか。つまり、オーソドックスな欧州のコンボを中心に新譜を買い漁る、オーディオに無頓着な偏愛ジャズ・ファン、といったところです。さて、当然それぞれをクリア・カットに二分できるわけではなく、その共通集合帯も多分に存在するわけですが、そんな中、最後に挙げた“ コンボ系を好んで聴くファン(F)と、ビッグ・バンド系こそジャズと思っているファン(f) ”の集合の交わりは極めて少ないのではないでしょうか。時にはお互い排他的な態度で攻撃し合うこともあるくらいです。コンボ対ビッグ・バンドの戦いは永遠に続くのでしょうね。

さて、前回はコンボ派の僕にとってはブログ始まって以来、初のビッグバンド作品であるONJ (オルケストル・ナシオナル・ドゥ・ジャズ)を紹介しましたが、今回もビッグ・バンドの作品を聴いてみましょう。

スウェーデンが世界に誇るビッグ・バンド、Bohuslan Big Band (ボヒュスレーン・ビッグバンド)は、スウェーデン軍師団の軍楽隊をその起源に持つビッグバンドで、94年に設立されました。ベーシストの森泰人さんが在籍していることで日本でも注目されているBBでです。

BBBの前身であるウデバラ・ビッグバンドの作品を含め、現在までに計11作品を制作していますが、僕が所有しているのはそのうち5作品のみです。また、Spice of Life からルー・ソロフをソリストに迎えて制作されたガーシュインの『 Porgy & Bess 』というライブDVD作品があります。このDVDはおそらくBBBの唯一の映像作品だと思われますが、なにしろオーベ・インゲマールソン(ts)やピアニストが不在で、しかもヨーハン・ボリストルム(as)のソロがほとんどないため、個人的にはいまひとつの作品です。

僕が所有するのは、
1)『 Pegasos 』 Jukka Linkola & BBB ( 1994年 Imogena IGCD50 ) 
2)『 The Blue Pearl 』 lars Jansson & BBB ( 1996年 Phono Suecia PSCD97 )
3) 『 One Poem One Painting 』 lars Jansson & BBB ( 1998年 Imogena IGCD74 ) 
4)『 Faces 』 BBB ( 2000年 Imogena IGCD84 )
5)『 BBB Plays Zappa 』 BBB ( 2000年 Imogena IGCD89 ) 
6)『 Temenos 』 lars Jansson & BBB ( 2003年 Spice of Life SOL SC0005 )

以上、6タイトルです。

最新作は2005年にスウェーデンEMIのCapitol Records から発売された『 Fyra kungar och en dam 』 です。詳しくは BBBのOficial Web Site をご覧ください。

さて、今日はこの中から『 BBB Plays Zappa 』を紹介しましょう。タイトルが示す通り BBB がフランク・ザッパの楽曲ばかりをアレンジ、演奏した作品です。この企画はトロンボーンのニクラス・リュードが長年温めていたもので、友人のギタリストであるパトリック・エーンボーグと共同で実現させたものです。

僕は高校の頃からプログレ好きで、その流れでいつのまにかザッパを聴くようになった部類なので、かれこれ25年のザッパ・ファンになるのですが、ここで取り上げている楽曲をみると結構知らない曲もあったりします。決してヒット・パレード的な選曲ではないので、意外にザッパ・ファンでも未知の曲として新鮮に楽しめると思います。

「俺はザッパなんか聴いたことないからどうせ聴いても面白さがわかんねーや。」なんておっしゃるあなた。そんなことは絶対ありません。ザッパ好きにはたまらないお宝であり、ザッパを知らない人にとっては、本作を聴いたあと、本物のザッパを聴いてみたくなるような、そんな作品です。

ギターのパトリックは完全にロック・ギタリストです。強烈なヘヴィネスを発散させています。ザッパのヴォーカル物はちゃんとヴォーカリストが参加しています。このミア・ケンフ(?)というヴォーカリストも男気溢れるロッカーなんです。結局、ザッパよりもギターやヴォーカルがかなりヘヴィーです。ですから全体にロック色の強い作品に仕上がっています。そのあたりが好みも別れるところかもしれません。ディープ・パープル、レッド・ツェッペリンで少年時代を過ごした世代、ピンク・フロイド、キング・クリムゾンの好きな人、チェイス、タワー・オブ・パワーなどのブラス・ロックのファンの方々ならきっと気に入ってくれるはずです。

M-2 ≪Sinester Footwear≫ の壮大なプログレッシブ・ロック的アレンジは圧巻ですし、M-7 ≪Trouble Every day≫などは、原曲よりもむしろ本作の方が正直カッコいいです。

本作はコンテンポラリー・ビッグバンドの系譜からはちょっとはずれるかもしれませんが、一流のジャズメンがザッパに対する尊敬と敬愛の念を込めて制作された、元曲をも凌駕するほどの圧倒的なサウンドを楽しめるビッグバンド・ジャズの傑作として、BBB未聴者にぜひお薦めしたい作品です。


『 Pegasos 』 Jukka Linkola & BBB ( 1994年 Imogena IGCD50 )
やっぱりザッパのカヴァー物はどうも苦手だな~という方にはこれ。事実上のBBBとしての初録音盤。フィンランドの作曲家兼ピアニストであるユッカ・リンコラがBBBに書き下ろした作品集です。非常に魅力的なソリストが何人も登場します。


Orchestre National de Jazz 『 la fete de l' eau 』

2007年08月18日 21時27分05秒 | Large Jazz Ensemble
最近の国語の教科書には夏目漱石や森鴎外らの作品は登場せず、それらに代わって俵万智や赤川次郎らの作品が掲載されているそうです。昔懐かし教科書の定番であった『こころ』や『高瀬舟』が消えて無くなるのはとっても寂しく思いますが、これも時代の流れなので仕方ないのでしょうね。

ところで今日、仕事帰りに最近発売された『 Jazzとびっきり新定番500+500 』( MOONKS著 大和書房 )を買ってきて、先程からビール片手に、「なんでガネーリン・トリオが定番なんだぁ~?」とか、「アムステルダム・ジャズ・クインテットが出てらぁ~、大河内さんはやっぱり流石だ!」なんて呟きながらパラパラ捲っていましたが、このMOONKSの方々も「古典的な定番はこの際飛び越えてしまおう! ジャズは世界中でどんどん進化している。8ビートや16ビートで育った人だからこそ楽しめる現在進行形の新定番。」と言い切っております。いつまでもチャーリー・パーカーだとかバド・パウエルだとかを、これからジャズを聴いてみようとという方々に勧めても絶対ジャズ人口は増えない。共感が得られない。御尤もであります。教科書の世界と同様、ジャズの世界にも新定番が求められているわけですね。

などと思いを巡らせながら唯今、先日買ってきたマリア・シュナイダー(Maria Schneider)の新作『 Sky Blue 』を聴いているのですが、これが実に素晴らしい。今までになくロマンチックで、まるで全ての物語が夢の中で進行していくかのようなふわふわとした聴き心地。特にM-1 ≪The Pretty Road ≫は絶品です。今までの彼女の作品の中では個人的にはベストです。

そんな彼女たちが身を置く≪ビッグ・バンド≫というカテゴリーでも確実に新定番は生れているのですね。≪ビッグ・バンド≫と聞いてはじめにデューク・エリントンやカウント・ベイシーの名前が頭に浮かぶようでは古い。現在進行形のコンテンポラリー・ビッグ・バンドを聴こう! という訳で、拙ブログ始まって以来、初となるビッグ・バンド作品の紹介です。

ONJ (オルケストル・ナシオナル・ドゥ・ジャズ)は、マリア・シュナイダー・オーケストラやボーヒュスレーン・ビッグ・バンドらと並んで、個人的に最も愛聴しているビッグ・バンドです。優雅で贅沢な気持ちに浸りたければマリア・シュナイダー。とにかく超絶技巧のビッグ・バンド・サウンドを聴きたければボーヒュスレーン・ビッグ・バンド。そして斬新で楽しいビッグ・バンドを聴きたいときは迷わずONJをお勧めします。

ONJは1986年に創設されたフランスの国営ジャズ・オーケストラです。国営というのは珍しいしですよね。デンマークのDRJO(デンマーク放送ジャズ・オーケストラ)も政府援助の団体ですが、それ以外もあるのでしょうか?僕は知りません。さすが芸術先進国として名を馳せるフランスです。日本も見習って“NHK Jazz Orchestra ”なんていうのを設立して欲しいものです。

で、このONJの面白いところは、クラシックの世界ではよくありますが、招いたミュージック・ディレクターに任期を持たせ、一定の期間ごとに交代させるという運営形態をとっている点です。今までにアントワン・エルヴェ、ローラン・キュニー、クロード・バルテレミーら計8人がディレクターの座に就いています。現在はヴィブラフォン奏者のフランク・トルティラーが就任しています。政府は≪金は出すが口は出さない≫方針で、任期中の音楽的方向性からメンバーの調達まで一切をディレクターに任せています。よって一口にONJとは言っても、一定の質は維持しながらもディレクターによって全く異なるジャズが聴こえてくるところがこのオーケストラの最大の魅力になっています。

そんな中、僕が最も気に入っているのが“バルテレミーのONJ ”なのです。バルテレミーは89年から91年に最初のディレクター就任を果たしていますが、2002年に再びディレクターに返り咲いています。最初の任期中には『 Clair 』、『 Jack-Line 』という2大傑作を世に送り出しています。今日紹介する『 la fete de l' eau 』は2004年に制作されたもので、前作に負けず劣らず優れた作品です。ほぼ全曲バルテレミーの作曲で、複雑な和声を駆使した高度な楽曲ばかり15曲。あまりの複雑な楽曲にバンドマンの悲鳴が聞こえてきそうです。以前、「ジャズ批評」99号にバルテレミーのインタビュー記事が掲載されていたのですが、その中で彼は「さあ皆さん、好きに演奏してくださいと言っても、そうぐちゃぐちゃにはならないでしょう。だったら私がぐちゃぐちゃに演奏されるように書けばよい(笑)。」と話していました。

バンドの編成は、2トランペット+3トロンボーン+2サックス+ギター+ドラム+ベース+ヴィブラフォン+アコーディオンのちょっと変わった12人編成。フランス人特有の諧謔さと近未来的SF感覚を併せ持ったアヴァンギャルドなサウンドで、普段コンボ・ジャズしか聴かないジャズ・ファン、あるいはビッグ・バンドは好きだけどスウィング、モダンしか聴かないファンにはかなり刺激的だと思います。機会がありましたら御一聴されてはいかがでしょうか。

余談ですが、そろそろディレクター交代の時期ですが、次期ディレクターはジャン・ピエール・コモあたりが来るんじゃないかと予想しているんですが、どうなるか楽しみです。

ONJのOfficial Web Site はこちら。全作品のジャケ付きディスコグラフィーとそれそれの作品の収録曲の中から数曲づつ視聴もできます。




Evgeny Lebedev  『 Fall 』

2007年08月13日 21時35分17秒 | JAZZ
1984年モスクワ生まれのピアニスト、エヴジェニー・レベデフの2005年録音のデビュー盤。録音時は若干20歳、と言うと同じロシア出身のエルダー・ジャンギロフ(キルギス出身)を思い出しますが、ジャンギロフが幼少期から既にアメリカに渡り音楽教育を受けたのに対してレベデフは、モスクワ1623学校、モスクワ芸術大学、そしてグネーシン音楽大学と、一貫してロシアでの音楽教育で鍛えられたピアニストなのです。

正直なところ、ロシア生まれ、ロシア育ちの生粋のロシアっ子のピアノ・トリオを聴くのは今回が初めてでした。ロシア人ピアニストと言えば、澤野商会から再発されたコンパス盤 『 Live in Groovy 』 で話題となったウラジミール・シャフラノフが既に有名ですが、彼の場合は若くしてフィンランド ( 妻がフィンランド人 )、更にはニューヨークに活動の場を移してしまったため、全くと言っていいほどロシア訛りのない洗練されたスタイルに変貌してしまっていますし、寺島靖国氏推薦のセイゲイ・マヌキャン・トリオでピアノを弾いていたヴァレリー・グロホフスキー(Valeri Grohovski)にしても、やはり早い時期からアメリカに渡り、フランス、コスタリカなどを中心に世界的な活動( クラシック分野でも活躍 )を行っていて、そのスタイルは耽美的、叙情的な欧州ピアニストのそれに近似しているように思われます。

バルド三国の一つ、旧ソ連エストニア出身のトヌー・ナイソーの 『 With A Song In My Heart 』 (2003 sawano )を聴いた時も、あまりにもエヴァンス的なその手法に拍子抜けしまった、なんてこともありました。

本当のロシア的なピアノ・トリオというものはあくまで幻想に過ぎず、実際には米国、欧州との音楽交流、ミュージシャンの拡散、放出、流入によりロシアらしさというものが存在しなくなっているのかと思っていました。80年代のペレストロイカに続く91年のソ連崩壊により、ロシアの音楽家は表現の自由を手に入れたその一方で、資本主義経済の下、音楽商業的な成功を求められたミュージシャン達は、より住みやすい土地を求めて次々と海外に移住していったといわれています。そんなロシアのハードな音楽事情の中、純然たるロシア産ジャズ・ピアニストであるエヴジェニー・レベデフが母国レーベルから作品を送り出してきたということは注目すべき出来事です。

彼のオリジナル曲6曲にW・ショーターの ≪ Footprints ≫、≪ Fall ≫ とK・ギャレットの ≪ Journey for Two ≫ を挟み込んだ全9曲の構成。非4ビート系のグルーブ感に溢れるオリジナルに耳が奪われます。スパルタニズムなロシア音楽教育で鍛え上げられた強靭な左手から繰り出されるソリッドなリフに乗せて始まる冒頭の≪ Footprints ≫で、ほとんどの聴き手は“何かやってくれそうな予感”を彼に感じ、胸が高鳴るはずです。

若い世代だからこそ生まれ得るポップな語法に満ち溢れた作曲能力も素晴らしく、また一方では、エルダー・ジャンギロフに欠けていた抒情性も上手く表現されています。しかも決して取って付けたような抒情性ではなく、陰影深く、夢幻的な美しさを纏った抒情的バラード・プレイは20歳そこそこの少年が紡いでいるとは俄かに信じられません。さらに付け加えるならば、超絶技巧を遺憾なく見せつけるレベデフの脇を固めるベースとドラムスもかなりのテクニシャンです。

ロシア・ジャズと言えば、どうしても前衛・即興音楽家の独壇場であり、更には彼らを取り巻くジャズ評論家達も非常に学究的、哲学的であり、僕のような軟弱ジャズ・ファンには近寄りがたい領域だったのですが、こんなピアノを聴いてみると、やはりロシアにもスタンダードでコンテンポラリーなジャズがしっかり根付いているんだなあ、と実感し、少しだけロシア・ジャズが身近に感じられるようになりました。

レベデフは2004年にはバークリー音楽院の奨学金を獲得し米国での活動の足掛かりを築き、おそらく現在、母国と米国の両方で活動していると思われます。今後の活躍が大いに期待したいものです。

Evgeny Lebedev  『 Fall 』  2007年発売  One Records??
Evgeny Lebedev  (p)
Anton Chumachenko  (b)
Alexandr Zinger  (ds)

視聴はこちらで。



レベデフがバークリー音楽院の発表会?に参加している時の映像です。マーカス・ミラーがゲスト参加しています。

Thomas Clausen 『 Back To Basics 』

2007年08月08日 21時10分50秒 | JAZZ



2003年の『 Balacobaco 』以来、4年ぶりとなるデンマーク人ピアニスト、トーマス・クラウセンの新作。前作が“ Brazilian Quartet ”としての作品だったが、今回はデンマークの若手ベーシストとドラマーを起用しての最新レギュラー・トリオでの録音。クラウセンはデンマークでは有名なエヴァンス系のピアニストであるが、あまり日本では馴染みがなく、83年に Baystate から発売された木全氏のプロデュースによる 『 The Shadow of Bill Evans 』 ぐらいしか聴いたことがないという方も多いのではないか。しかも最近は録音も少なく、同国の俊英ピアニストであるカールステン・ダールやキャスパー・ヴィヨームの陰に隠れて、今一つ元気がない印象を受ける。元々それほど自己主張の強いピアニストではなかったので、現在の百花繚乱の欧州ピアニスト界にあって、かなり地味な存在になってしまったように思われる。そんなクラウセンであるが意外にプロとしての活動は長い。20歳の時に当時欧州に活動の場を移していたデクスター・ゴードンに見出され、プロとしての第一歩を踏み出した。パレ・ミッケルボルグのビック・バンドやスモール・コンボにデクスターと一緒に参加する一方、73年にはジャッキー・マクリーンの 『 Ode To Super 』 で初録音を果たしている。そんな中、78年には初めて自己のフュージョン・バンド“ Mirror ”を立ち上げ、79年にCBSに同名の作品を残している。80年には彼を高く評価していたケニー・ドリューの薦めでドリューの自己レーベル、Matrixから初リーダー作 『 Rain 』 を発表した。メンバーはベースがニールス・ペデルセンでドラムスがアージ・タンガードであった。さらに83年には同メンバーで 『 The Shadow of Bill Evans 』 (木全信氏とケニー・ドリューのプロデュース)を Baystate から発売した。80年代には数多くのエヴァンス・トリビュート作品が制作されたが、本作はそんな中にあって一際エレガントで美しい作品であった。ニールス・ペデルセン、アージ・タンガードと結成したトリオがクラウセンの“ 第一期ピアノ・トリオ ”とするならば、87年にアレックス・リール、マッド・ヴィンディングらと結成したトリオは云わば“ 第二期ピアノ・トリオ ”である。このトリオで88年には 『 幻のCD 廃盤・レア盤~ 』 にも紹介された 『 She Touched Me 』 を録音している。さらに90年には同メンバーで第一回JAZZPAR コンサートに参加。その際共演したゲイリー・バートンとは2作品を制作している。この頃にラーシュ・メラーの 『 Copenhagen Groove 』 ( 1988年 Stunt STUCD 18902)と 『 Lars Moller Quartet 』 ( 1989年 Stunt STUCD 19302) に参加している。特に後者でのクラウセンは緊張感のある素晴らしいプレーで秘かな愛聴盤である。90年代中ごろになると彼は新境地を開拓していった。当時共演したセルジオ・メンデスにデンマークやドイツに住むブラジル人ミュージシャンを紹介してもらったことを契機に、やがて自己のブラジリアン・カルテットを結成するに至った。このバンドでSTUNT に3作品を吹き込んでいる(1998年, 2000年, 2003年)。最終作では8人編成となっている。ただし、どの作品も匿名的な軟弱ブラジリアン・フュージョン風であり、あまり出来は良くない。そんなブラジル音楽に傾倒している最中に“ 第三期ピアノ・トリオ ”であるイェスパー・ルンゴー、ピーター・ダネモらと制作したのが2001年の『 My Favorite Things 』である。スタンダードとオリジナルをバランス良く取り上げ、叙情派ピアニスト健在ぶりを示した充実盤である。今回の新ピアノ・トリオでの録音は2006年8月にコペンハーゲンのSUN STUDIOで行われた。純粋なピアノ・トリオでの録音は『 My Favorite Things 』以来6年ぶりであり、クラウセンは長年待ち望んでいた夢の企画であったようだ。『 Back To Basics 』というタイトルからも分かるように、スタンダードやジャズメン・オリジナルが10曲、クラウセンのオリジナルが2曲という選曲。全体に繊細なハーモニーとタッチが印象的な美くしい作品ではあるが、やはりいま一つインパクトに欠ける。基本的に80年代からスタイルに大きな変化はないと思われる。ライナー・ノーツによると、同郷の若手リズム隊への信頼も厚く、今後もこのメンバーでライブ活動やレコーディングを行っていく予定であるらしい。


Thomas Clausen Trio  『 Psalm 』  1994年  Storyville  STCD 4185
決定的名盤がないクラウセンだが、本作はその中でも優秀作と言ってよい作品。程よい硬質感と繊細なエヴァンシズムが心地よい。リズム隊もさすがに巧い。こうなったら同メンバーで録音された『 She Touched Me 』 も聴いてみたくなる。何所からか再発されないものか。


Thomas Clausen & Severi Pyysalo  『 Turn Out The Stars 』  1998年 Storyville  STCD 4215
フィンランドのヴィブラフォン奏者、セヴェリ・ピーサロとのデュオ作品。チック・コリアとゲイリー・バートンの『 Crystal Silence 』 とは対極にあるピアノとヴィブラフォンの穏やかな会話。お互いのプレイの呼吸を感じながらゆっくり進行するインタープレイ。澄んだ空気感も新鮮で心地よい。おそらくクラウセンの作品中、最も数多くトレイに乗ったディスク。


Thomas Clausen Brazilian Quartet  『 Prelude to A Kiss 』  2000年 STUNT  STUCD 00142
総じて彼のブラシル関連作品は凡作ばかりだが、それでもどれか一枚と言ったら本作が良い。エリントンの≪ Satin Dall ≫と≪ Prelude to A Kiss ≫。ジョビンの2曲。あとはクラウセンのオリジナル。

  
左 : Lars Moller   『 Copenhagen Groove 』  1988年 Stunt STUCD 18902
右 : Lars Moller   『 Lars Moller Quartet 』  1989年 Stunt STUCD 19302
あくまでラーシュ・メラーを聴くための作品だが、クラウセンのアクレッシヴなサポートもなかなか聴きごたえがある。


Manuel Rocheman 『 Tropic City 』

2007年08月03日 01時02分04秒 | JAZZ



まさか! と思うレアな作品が次々と復刻されている昨今、多少のことでは驚かなくなっているが、このマニュエル・ロシュマンの『 Tropic City 』の復刻には正直、度肝を抜かれた。そして復刻されただけでも驚きなのに、内容がこれまた素晴らしい。

レア盤が数多く復刻される中、実際聴いてみると首をかしげたくなるような駄作も多い。当然と言えば当然のことで、単にプレス数が少なく“レア”になっただけのことであるわけで、レア盤=名盤ではないのである。しかし、この『 Tropic City 』はレアかつ名盤であるから凄い。

ロシュマンのトリオ作品は現在まで6作品制作されていて、既に5作品を聴いてきたが、これらは僕にとっては優劣のつけがたい愛聴盤ばかりだった。年代を追うごとに少しづく甘味度を増してきたように思われるが、作品のクオリティーとしてはどれも同列と僕は捉えていた。そこにこの96年の第3作である『 Tropic City 』を初めて聴いたわけだが、ちょうど良い塩梅に甘味が加わり、オリジナルとスタンダードのバランス、選曲の妙味も手伝い、非常に完成度が高いと感じる。

内省的な側面は影を潜め、クリスタルのような透徹な硬質感はそのままで、よりメロディーへの配慮が窺われるあたりに好感が持てる。そしてなにより欧州ピアニストの最高位に位置する馬鹿テクぶりにはいつもながら驚かされる。強力な左手の打鍵から繰り出される“キメ”に次ぐ“キメ”。盟友シモン・グーベル(ds)とプリズムのクリストファー・ウォーレム(b)との一体感が爽快である。

今回は自主製作盤で200枚の限定プレスとのこと。はたして完売後は再びレア盤と化すのか。

Manuel rocheman  『 Tropic City 』  1995年 A Records
Manuel rocheman  (p)
Christophe Wallemme  (b)
Simon Goubert  (ds)

ロシュマン最新作 『 Dance Cactus 』 の拙ブログ内記事はこちら


Perico Sambeat 『 Ziribuye 』

2007年08月02日 20時50分54秒 | JAZZ


ペリコ・サンビートの話が出た序でに、彼の作品を少しばかり紹介しよう。サンビートの最新作はジャヴィエル・コリナ(b)、マーク・ミラルタ(ds)、そしてサンビートの3人共同名義での『 Trio 』(2007年 Karonte KAR7798)だが、サックス・トリオが苦手な僕は購入していない。サンビートを語る際、引き合いによくケニー・ギャレットの名前が出されるが、ギャレットぐらいの技量があればサックス・トリオというフォーマットでも素晴らしい作品に仕上げられるが(『 Triology 』など)、サンビートにはそこまでの力量が正直ない。やはり彼にはカルテット以上のフォーマットでの作品が似合う。という訳でまずは昨年 Karonte から発売された『 Ziribuye』。目下、僕の一番の愛聴盤である。ペリコ・サンビート(as)、レイナルド・コロム(tp)、トニ・ベレンゲール(tb)の3管編成で、全体に斬新な展開を持つ脱4ビート路線で、ラテンあり、エレクトロニカあり、ヴォーカル物ありと色彩感豊かな彼のオリジナル曲で構成されている。1曲だけ参加している透明感のある無垢な歌声のヴォーカル、エルマ・サンビートは奥様かもしれない。現代の若手アルティストを評価する際、ケニー・ギャレットとの距離感が物差しに用いられることが多いが、その点ではサンビートはギャレットの相似形と言ってもよいかもしれない。しかし、ケニー・ギャレットに非常に近似していると感じる曲もあれば、全く類似点を見ないスタイルでブローする曲もある。単なるギャレットの縮小コピー版ではないサンビートの持ち味というものが確実にあり、そこに魅了される。ところで、トランペットのレイナルド・コラムは初耳だが、これがなかなか上手い。検索してみたところFSNTから一枚だけだがリーダー作を出している。そういえばこのジャケットは見たことがある。中古で捨てられていたら拾っても損はないかもしれない。


ペリコ・サンビートは
1993年にブラッド・メルドー・トリオをバックにバルセロナのライブハウス“ JAMBOREE ”で録音を行っている。その記録は『 New York – Barcelona Crossing 』全2集(前項あり)としてFSNTに残されているが、その録音から10年後の2003年に、今度はサンビートがニューヨークに赴き、メルドー、カート・ローゼンウィンケル、ベン・ストリート、ジェフ・バラードらと制作したのが『 Friendship 』(ACT)である。これも非常に出来が良い。『 New York – Barcelona Crossing 』ではどうしても閃き立ったメルドーのピアノに耳が奪われ、垢抜けないサンビートのアルトがどうもチグハクに感じられたが、10年の月日を経て、その土臭さは払拭され、メルドーやローゼンウィンケルにも比肩するコンテンポラリーな都会的な感性を身に着けた。ちょうどマーク・ターナーのテナーのフレーズをアルトに置き換えたようなウネウネした捩れ具合が心地よく響く。


リーダー作ではないが、サンビート客演の極めつけの作品に、ポルトガルのピアニスト、ロドリーゴ・ゴンザルベスの『
Tribology 』がある。マーク・ターナーも参加したこの作品は哀愁とスリルが漲る美旋律に出会える佳作である。

上記以外では、2000年にLora Records から発売された『 Perico 』や、1995年にFSNTから発売された『 Ademuz 』などの出来が良い。まだ未所有の作品も数枚あり、収集欲を掻き立てられるが、特に、例の『レア盤・廃盤~』に掲載されてしまった『 Dual Force, live at Ronnie Scotts 』はマニア垂涎の一枚だ。