今回も前作を踏襲する娯楽型ごった煮作品ですので,昔の 『 Natural Balance 』 (1991年)や 『 Antraigues 』(1993年)のような繊細な叙情性豊かなレニーニを期待しているファンには肩透かしの作品です。
でもこれがすごく楽しく,ノリが良くて,僕のような軟弱ジャズ・ファンにはたまりません。昔は昔で良かったと思いますが,叙情派ピアニストは掃いて捨てるほどいますからね,欧州には。
エヴァンス系,キース系の抒情派ピアニストの百花繚乱する欧州ジャズ界と言えば聞こえはいいですが,要は,クラシック崩れのピアノ弾きの粗製濫造品が溢れる音楽業界。それにレニーニは辟易したのかもしれませんね。
前作は完全なピアノ・トリオ作品でしたが,今回は曲によってはStephane Belmondo (ステファン・ベルモンド)(tp)や Julien Lourau (ジュリアン・ラウロー)(ts)が加わり,よりファンキー度を高めています。ステファン・ベルモンドはご存知ベルモンド兄弟の弟さんの方で,弁が立つ方ではありませんが,フリューゲルホーンのシルキーで艶やかな音色は聴けば聴くほど味わいが増します。ベルモンドの2004年のスティービー・ワンダー集,『 Wonderland 』でもレニーニと競演していましたね。これ,渋い4ビート・アレンジで密かな愛聴盤であります。
日本盤はボーナス・トラックが1曲付いて全13曲。僕は特に最初の6曲が気に入りました。1曲目は8ビートのワン・コード・リフが印象的なR&B調の軽快なオリジナル。このまま8ビートで突っ走るかと思いきや,2曲目はミディアム・バラードで意表をつかれますが,これが本作のキラー・チューン。やられた~,たまんね~。一歩間違えば70年代歌謡曲のカラオケにもなりかねない平易な文体で語らえる哀愁賛歌。ブラッド・メルドーやエスビョルン・スヴェンソンあたりが書きそうな曲です。続く3曲目も同様の美メロ満載のやや叙情的な語り口のバラード。そして4曲目がタイトル曲《 Big Boogaloo 》。2管フロントのファンキー・チューンでまるでホレス・シルバーの曲みたいです。
ところで,《 Boogaloo 》って,なんなんでしょうね? リズムの種類? それともダンスの種類? ルー・ドナルドソンの有名な《 Alligator Boogaloo 》などを聴くとゴー・ゴーやソウル・ダンスみたいに勝手に思い込んでいましたが,『 Alligator Boogaloo 』のジャケットのアイシャドウの女性が両手をくねらせて踊っているのがブーガルーなのでしょうか? 兎に角,レニーニの《 Big Boogaloo 》は,60年代Blue Note のハード・バッップと何ら変りません。
で,5曲目が前回にも登場したフィニアス・ニューボーン・Jr の《 Reflection 》。とは言っても,作曲はレイ・ブライアントだったのですね。僕はすっかりフィニアス・ニューボーンの曲だと思ってました。この曲が入っているロイ・ヘインズの『 We Three 』(New Jazz 8210)も楽しいアルバムでした。昔はかなり聴き込んだアルバムです。萩原光氏のノートにはこの曲もブーガルーだと書かれていますが,ますますブーガルーが分からなくなってきました。
6曲目はロバータ・フラックとダニー・ハザウェイの《 Where Is The Love 》。これも懐かしい歌です。ダニー・ハザウェイやカーティス・メイフィールドなんかにハマっていた頃もありましたから。ベルモンドが原曲を崩さず,優しく情感こめて歌い上げます。
キース・ジャレットに強い影響を受けつつも,幼少期に聴き馴染んだゴスペルや黒人音楽に常に憧れを抱きながら生きてきたレニーニが,やっとここに来てキースと決別を果たし,自らの欲求,信念に従い,新境地を切り開いた傑作!,と言えるのではないでしょうか。
【 愛聴度 ★★★★★ 】