雨の日にはJAZZを聴きながら

FC2 に引越しました。http://jazzlab.blog67.fc2.com/

Eric Legnini 『 Big Boogaloo 』

2007年01月29日 23時29分51秒 | JAZZ
以前からの持ち味である叙情性を基軸に据えつつも,ジャズの古典からソウル,ファンクまで幅広く手がける芸風に宗旨変えして成功した前作 『 Miss Soul 』(前項あり)に続く label bleu 第二弾 『 Big Boogaloo 』 が早くもリリースされました。

今回も前作を踏襲する娯楽型ごった煮作品ですので,昔の 『 Natural Balance 』 (1991年)や 『 Antraigues 』(1993年)のような繊細な叙情性豊かなレニーニを期待しているファンには肩透かしの作品です。

でもこれがすごく楽しく,ノリが良くて,僕のような軟弱ジャズ・ファンにはたまりません。昔は昔で良かったと思いますが,叙情派ピアニストは掃いて捨てるほどいますからね,欧州には。

エヴァンス系,キース系の抒情派ピアニストの百花繚乱する欧州ジャズ界と言えば聞こえはいいですが,要は,クラシック崩れのピアノ弾きの粗製濫造品が溢れる音楽業界。それにレニーニは辟易したのかもしれませんね。

前作は完全なピアノ・トリオ作品でしたが,今回は曲によってはStephane Belmondo (ステファン・ベルモンド)(tp)や Julien Lourau (ジュリアン・ラウロー)(ts)が加わり,よりファンキー度を高めています。ステファン・ベルモンドはご存知ベルモンド兄弟の弟さんの方で,弁が立つ方ではありませんが,フリューゲルホーンのシルキーで艶やかな音色は聴けば聴くほど味わいが増します。ベルモンドの2004年のスティービー・ワンダー集,『 Wonderland 』でもレニーニと競演していましたね。これ,渋い4ビート・アレンジで密かな愛聴盤であります。

日本盤はボーナス・トラックが1曲付いて全13曲。僕は特に最初の6曲が気に入りました。1曲目は8ビートのワン・コード・リフが印象的なR&B調の軽快なオリジナル。このまま8ビートで突っ走るかと思いきや,2曲目はミディアム・バラードで意表をつかれますが,これが本作のキラー・チューン。やられた~,たまんね~。一歩間違えば70年代歌謡曲のカラオケにもなりかねない平易な文体で語らえる哀愁賛歌。ブラッド・メルドーやエスビョルン・スヴェンソンあたりが書きそうな曲です。続く3曲目も同様の美メロ満載のやや叙情的な語り口のバラード。そして4曲目がタイトル曲《 Big Boogaloo 》。2管フロントのファンキー・チューンでまるでホレス・シルバーの曲みたいです。

ところで,《 Boogaloo 》って,なんなんでしょうね? リズムの種類? それともダンスの種類? ルー・ドナルドソンの有名な《 Alligator Boogaloo 》などを聴くとゴー・ゴーやソウル・ダンスみたいに勝手に思い込んでいましたが,『 Alligator Boogaloo 』のジャケットのアイシャドウの女性が両手をくねらせて踊っているのがブーガルーなのでしょうか? 兎に角,レニーニの《 Big Boogaloo 》は,60年代Blue Note のハード・バッップと何ら変りません。

で,5曲目が前回にも登場したフィニアス・ニューボーン・Jr の《 Reflection 》。とは言っても,作曲はレイ・ブライアントだったのですね。僕はすっかりフィニアス・ニューボーンの曲だと思ってました。この曲が入っているロイ・ヘインズの『 We Three 』(New Jazz 8210)も楽しいアルバムでした。昔はかなり聴き込んだアルバムです。萩原光氏のノートにはこの曲もブーガルーだと書かれていますが,ますますブーガルーが分からなくなってきました。

6曲目はロバータ・フラックとダニー・ハザウェイの《 Where Is The Love 》。これも懐かしい歌です。ダニー・ハザウェイやカーティス・メイフィールドなんかにハマっていた頃もありましたから。ベルモンドが原曲を崩さず,優しく情感こめて歌い上げます。

キース・ジャレットに強い影響を受けつつも,幼少期に聴き馴染んだゴスペルや黒人音楽に常に憧れを抱きながら生きてきたレニーニが,やっとここに来てキースと決別を果たし,自らの欲求,信念に従い,新境地を切り開いた傑作!,と言えるのではないでしょうか。

【 愛聴度 ★★★★★ 】

深町 純 & New York All Stars 『 Live 』

2007年01月27日 19時43分52秒 | JAZZ
《 マイケル・ブレッカー追悼盤 No.2 》

70年代後半から80年代に人生で最も多感な青春期を送った世代には,これは涙もんのアルバムです。最初に聴いた時は,脳みそに一生消すことのできない刻印を押されたような衝撃を感じました。やっぱり,リアルタイムで体験し,深く心に刻まれた音楽というのは,強いですね。今聴いても胸が高鳴ります。

本作が録音されたのは1978年で,フュージョン黎明期から全盛期にさしかかった頃でした。同時期に世に出たフュージョン作品では,スパイロ・ジャイラの 『 Morning Dance 』 ,ニール・ラーセンの 『 high Gear 』 (これら2作品にもブレッカーが参加していました),リチャード・ティーの 『 Strokin’ 』 ,パット・メセニーの 『 American Garage 』 ,そしてブレッカー・ブラザーズの 『 Heavy Metal Be-Bop 』 などもこの時期でした。1981年にジャズの洗礼を受けた僕には,もろ影響を受けた作品ばかりで,それこそ飯を食うのも忘れて貪るように聴き入ったものです。

このライブは驚くことに後楽園ホールと郵便貯金ホールでのライブなんですね。当時はまだ日本では無名に近い存在だった東海岸の豪腕ミュージシャン達を深町純さんが日本に招いて催された企画で,もともとはランディー・ブレッカーから深町純さんに提案があったようです。そのあたりの経緯は,葉加瀬太郎さんがパーソナリティーをつとめるFMラジオ番組「 ANA World air current 」に深町純さんが出演した時の記事に書いてありますので,ぜひ読んでみてください。スティーブ・ガットの早朝練習の話しなど,とっても面白いです。

豪華メンバーは,ランディー・ブレッカー,マイケル・ブレッカー,スティーブ・カーン,リチャード・ティー,アンソニー・ジャクソン,そしてスティーブ・ガット。彼らのクレジットを見るだけで胸キュンでしょ。「こんな凄いメンバー,二度と集められないよね~。」なんて当時は友達と酒を飲みながら談笑していたのがつい先日のようです。リチャード・ティーとマイケル・ブレッカー亡き今となっては,本当に集められないメンバーになってしまいました。

演奏された曲は,ブレッカー・ブラザーズの曲とマイク・マイニエリの曲,それからリチャード・ティーの曲などで,リーダーの深町純の曲は1曲のみと控えめです。彼のソロも自作曲で披露されるだけで,ほとんど裏方に徹しています。本人も言ってましたが,NYの一流どころを前に萎縮してしまったようです。

本作は1978年にはじめLP2枚組で今は無きアルファ・レコードから発売になりましたが,その後のアルファ・レコード倒産により長らく廃盤状態が続きました。しかし,1995年にバウンス・レコードが短期間ではありますがタワー・レコード経由でCD再発しています。さらに2002年にローヴィング・スピリットがら再々発され,現在では比較的容易に手に入るようになりました(なんて言っているとすぐ入手困難になっちゃいますが)。

フュージョン衰退期というか低迷期が長らく続いている現在。 「 フュージョンって,ダサくねぇ~。」 と iPod でケニー・G を聴いている若い世代に,本作を薦めるほどの自信はありませんが,技術の快感,スピードの快感がストレートに体感できたフュージョン全盛期の名盤として,声小さめに,紹介させていただきました。でも,やっぱり,その時代の音楽を一番理解し,共感できるのは,その時代をリアルタイムで生きたファンなのでしょうから,仕方ありませんね。

でも,こんなフュージョンはもう二度と聴けないんだろうな~。ほんと,いい時代に青春が送れてよかったよ,オジサンは。

P.S. それにしても,どうしてフュージョンって,《 摩天楼 》ジャケが多いんだろう?

本田竹広 『 Square Game 』

2007年01月24日 20時40分57秒 | JAZZ
Swing Journal に「日本ジャズ人物伝」(日本ジャズの真実をいまこそ語ろう)という岩波洋三氏の不定期連載企画がありますが,2月号はちょうど一年前に心不全でこの世を去った本田竹広さんの特集でした。チコ本田との出会い,奔放な酒とジャズの日々,次々と押し寄せる病苦との闘い,あらためで本田さんの波乱万丈の生涯に驚きと衝撃を受けました。人工透析を受けた帰りには荻窪の焼き鳥屋でビールを飲むのが日課だったという話からもわかるように,自ら破滅に突き進んでいくかのような生き様に,本田さん自身にはどうしようもない,運命的なものを感じました。

ところで今回,本田竹広さんの一周忌の追悼企画として,レーベルを超えて数多くの過去の作品が再発されました。実はこの中に僕が長年CD化を待ち望んでいた作品が含まれているんです。それが1984年にポリドールから発売された『 Square Game 』なんですね。
もうこれは愛聴盤というよりも生涯の友であり棺桶盤といってもよいくらい愛着があります。以前にも本作については拙ブログで書いていますのでこちらも良かったら見て下さい。

84年以降,レコード店で見つけるたびに買い集め,多い時では7~8枚所有していました。他の誰にも聴かせたくないという独占欲も潜在的に作用したのかもしれませんが,兎に角,見つけると買いたくなる。幸い話題にもならない凡盤だったこともあり1000円くらいでかえちゃうのが嬉しいやら悲しいやら。こういう買い方って最近の若いDJの方々ではごく普通のようで,“レスキュー”って呼ばれているらしいです。どうしてDJ達が“レスキュー”と呼ぶのかわかりませんが,“レスキュー”って“救済”って意味でしょ。確かに僕がこの盤を中古店で買う時って,「お前はこんな中古店で1000円の値札を付けられ,買い手が現れないまま一生放置されるような盤じゃないんだよ。俺が助けてやるからな。」という気持ちが無きにしも非ずです。

本作はLPだけでの発売だったのか,それともCDも発売されたのか,あるいはその後にCD再発があったのか,全く不明です。発売が84年でしたからまだまだLPだけでの発売だったと思うのですが,以前に知人が某オークション・サイトで本作のCDを見たような気がしたと教えてくれて以来,アラートに登録して探してきたのですが,全くヒットせず今日に至りました。 CD移行期の国内盤でしかも凡盤なので再発は今後もないだろうな~と半ば諦めていましたが,今回突然の再発ということで,まさに青天の霹靂でした。ただし,本田竹広さんの追悼盤として再発されたことが唯一残念ですが。

本作はネイティブ・サンとして活動中であった峰厚介(ts),本田竹広(p),村上寛(ds)らに,当時ニューヨークで活躍中であった鈴木良雄(b)が加わり録音された作品です。ネイティブ・サンの活動の合間に制作されたアルバムではありますが,完全なアコースティック・ジャズで,本田さんは生ピアノを弾き,峰さんは全曲ソプラノを吹いています。アコースティックではありますが,4ビート物ではありません。全5曲で,3曲がチンさんの書いた曲で,1曲が寛さんの曲,そしてもう1曲がウエイン・ショーターが『 Odyssey of Iska 』の中でも取り上げていたR.C.Thomas の《 De pois Do Amor, O Vazio 》というボサノヴァです。どの曲も極めて美しく優しい旋律を持った名曲で,各人のアドリブの奇跡的な秀逸さも相まって,非常に完成度の高いアルバムに仕上がっています。

兎に角,騙されたと思って聴いてみてください。こんな素晴らしい演奏が国内に埋もれていたのかと吃驚するはずです。長年ジャズを聴いていても,このレベルの愛聴盤に出会えるのは数年に一度くらいです。滅多に出会えるもんではありません。後悔は絶対にさせません。(なんだか,怪しい通販業者みたになっちゃいましたが)

ということで,いつもより力は入ってしまいましたが,ありきたりのどこかのジャズ本で見たことのある名盤の紹介ではなく,こういった超個人的な名盤,愛聴盤を紹介できることが,個人ブログの醍醐味なんだよな~と,今晩はちょっと熱くなってしまいました。さっ,日本酒飲みながらもう一回聴いて寝よっと。

Dreams 『 Imagine My Surprise 』

2007年01月20日 23時16分29秒 | JAZZ
《 マイケル・ブレッカー追悼盤 No.1 》

マイケル・ブレッカーが亡くなって丁度1週間が経ちました。この1週間というもの,新譜を聴く気にもなれず,ひたすら過去のブレッカーの参加LPやレーザー・ディスクの映像を観たりして感涙に噎んでおりました。この30年間,ブレッカーに追従しようと多くのテナー奏者が登場しましたが,誰1人としてブレッカーを超えることが出来なかった。少なくともテクニカルな面では。そしてこれらもブレッカー以上にサックスを操れる吹き手は現れないでしょう。やや感傷的になりながら今日も古いアルバムを引っ張り出して聴いております。

本作『 Imagine My Surprise 』は幻のバンド,Dreamsの第二作目です。なんと今から遡ること35年前の作品です。

もともと60年代にブラッド・スウェット・アンド・ティアーズ(BS&T)のホーンセクションに参加していたランディー・ブレッカーが70年代初頭に脱退後,マイケルや彼らの恩師のトロンボーン奏者のバリー・ロジャーズらと結成したバンドです。ブラス・ロック色の強いジャズ・ロック・バンドで,70年に1st album 『 Dreams 』,71年に本作『 Imagine My Surprise 』をリリースしましたが,あっけなく解散。ブレッカー兄弟が参加した幻のバンドとして後世に名を残すこととなったバンドです。

本作にはウィル・リー,ドン・グロルニック,ビリー・コブハムらも参加していて,メンバーだけ見るとかなりイカしたブラス・ロックが聴けそうですが,これがそれほどでもないのがちょいとトホホなところで,正直なところ,あまり出来はよくありません。初期のシカゴやBS&Tを狙った作風であることが見え見えなのですが,ブラス・アンサンブルが甘くてキレがなく,ダサい。ヴォーカルが下手。これじゃ短命に終わったのも肯けます。本当にブラス・ロックを聴きたいファンは Tower of Power やchase に走ったでしょうし,かと言ってジャズ・ファンはこんな下手なボーカルじゃいくらマイケルがソロを吹こうが食いつかないでしょうね。

ホーン・セクションはマイケルのテナー,ランディーのトランペット,そしてバリー・ロジャーズのトロンボーンと,シカゴと全く同じ3管編成なのですが,70年当時としてはアンサンブルに関してはシカゴの方が格上ですし,なんといってもシカゴにはギターのテリー・キャスがいましたからね。Dreams が敵うはずがありあません。ということで,辛口になってしまいましたが,肝心のマイケルはやっぱり素晴らしい。まだ頭でイメージするフレーズが上手く吹ききれていない箇所も散見されますが,基本的に既にマイケルのスタイルは完成されていて,特にフラジオ域での高音に上り詰める独特のフレーズは今と変りません。ただソロ・パートは僅かで,あくまでホーン・セクションの1人として参加しているといった感じです。

Dreams 解散後,ブレッカー兄弟はマイク・マイニエリ,トニー・レヴィン,スティーブ・ガットらとWhite Elepfantを結成,セッションを断続的に行う一方,様々なスタジオ・ワークをこなして腕を磨き,74年についに Breker Brothers Band を立ち上げることとなったのでした。

マイケル・ブレッカー 死去

2007年01月16日 14時48分55秒 | JAZZ

偉大なテナー・サックス奏者,マイケル・ブレッカーが先週の土曜日,1月13日にニューヨーク市の病院で白血病により死去されました。享年57歳でした。

昨夜, naryさん suzuckさん のブログ,それに拙ブログの常連さんであるmartyさんのコメントを読み,その事実を初めて知らされました。でも正直なところ,あまり驚きはしませんでした。

2005年の夏にブレッカーが骨髄異形成症候群( MDS )に罹患したことを知った時は,知名度と財力のあるブレッカー・ファミリーのことだからきっと適合ドナーが見つかるだろうと楽観視していました。しかし,2005年の暮れに実の娘からの half matching transplantation ( HLA半合致血縁間移植 )を行ったというニュースを聞いた際は,絶望感に苛まれました。

骨髄移植というのはHLA( Human Leukecyte Antigen:ヒト白血球抗原 )が完全に合致しなければならないのですが,ブレッカーが受けたHLA半合致血縁間移植というのは半分しか合致しない( 6座のうち3座 )HLA間で,なかば強引に移植してしまおうとする試みです。あくまで現状では“experimental ”な治療です。一方,MDSとは白血病の前癌状態みたいなものですが,軽症であれば比較的長期に安定して過すことができ,若年者を除けば骨髄移植も受けずに長期余命も期待できる疾患です。しかし,ブレッカーは発病後数ヶ月で適合ドナーを待てずにHLA半合致血縁間移植に踏み切っています。かなり切羽詰った重篤な病態にあったと推測されました。白血病化も時間の問題だったと思われます。僕もブレッカーの病状が気になり,時々,デイブ・リーブマンのサイトMichael Brecker Fan Site などを覗いて情報を得ていました。昨年春ころまではブレッカーの元気な様子が確認されていました。ブレッカーのOfficial Site によると,昨年5月頃には家族や友人達と過したりサックスも短時間なら吹けるくらい回復していたようです。一方では娘からの血縁間移植の効果が芳しくなく,再燃の可能性も十分あるとする記事も見受けられ,一喜一憂の日々が続きました。

      
2005年6月には,カーネーギーホールで催された JVC Jazz Festival で,ハービー・ハンコックのバンドに飛び入り出演し 《 One Fingeer Snap 》を披露するなどの朗報も聞かれました。

しかし,その後の経過についてはほとんど情報がありませんでした。ファン・サイトに,クリス・ミン・ドーキーやチャック・ローブの新作に参加しているといった情報も載っていましたが,そこでは1~2曲のみ,しかも EWI を吹いていたとの事。やはり最近はテナーが吹けなくなるほど体力が衰えていたのでしょうか。

ブレッカーの音楽スタイルについての考察は多くの評論家やマニアの方々が既に書かれてるところですが,その中でも僕は最も感心した村井康司氏の言葉をあげておきます。

「コルトレーンが開発した様々な技術を徹底的に研究しつつ,ブレッカーはコルトレーンが色濃く持っていた不安定さや口ごもるニュアンス,自分の吹いた音に戸惑いつつもそれらを増幅させてしまうような精神の惑乱,音を撒き散らすことによってどこか「あっちの方」へ行ってしまおうとする超越的なものへの指向などの「余剰」を完全に切り捨てた,極めて明快でスピーディーなスタイルを確立した。」

僕がジャズを聴き始めたのが1981年です。現在までの25年間,ぼぼリアル・タイムでブレッカーを聴いてきました。一番最初に彼のサックスを意識して聴いたのは渡辺香津美の『 To Chi Ka 』でした。その後,マーク・グレイの『 Boogie Hotel 』やバリー・フィナティーの作品群で彼の凄さに圧倒され,ホレス・シルバーの収集をしていて『 In Pursuit of The 27th Man 』でのブレッカー兄弟の泥臭く黒いテイストを持った演奏に歓喜し,そしてブレッカー・ブラザースにはまっていきました。その後のステップスやブレッカー名義のアルバム・リリースと,次はどんなジャズで僕らを楽しませてくれるのだろうとワクワクしながら追っかけてきました。

はじめは単なる凄腕フュージョン・サックス奏者,ぐらいに思われていたブレッカーが,気がつけばこの30年間,テナー・サックス界を牽引し,世界中に多くのブレッカー信者を生み,彼のDNAは確実に新世代の若手サックス奏者らに受け継がれました。

彼は惜しくも亡くなられましたが,彼が残した数多くの素晴らしい記録物を僕らは決して忘れることなくこれからも享受し,できれば僕らの次の世代に語り継いでいきたいと思います。

    


Alessandro Carabelli 『 Aphrodite 』

2007年01月13日 21時01分32秒 | JAZZ
輸入盤店に並ぶ千紫万紅の彩りを見せる新譜達の中にあって,ひときわ美しいジャケットで輝きを放っていた本作に一目惚れして思わずレジへ。分別のつく大人なんだから色目をつかう美女に惑わされてはいけないと常々気をつけていたのに。でもこの全くのジャケ買い,よく見ると< feat. Franco ambrosetti >の文字が。おぉ~,これは何となく愛聴盤になりそうな予感。

リーダーのピアニスト,アッレサンドロ・カラベリはイタリア,ヴァレーゼ生まれの42歳。初めて耳にする名前ですが,biography によると既に15年にわたり音楽活動をしてきたベテラン。ただ今までの共演者リストを見る限りほとんどがイタリア国内のミュージシャンで,しかもリーダー作は本作を含めて2作品しかなく,日本ではよほどイタリアン・ジャズをウォッチしているファン以外は今まで馴染みがなかったと思われます。

全編彼のオリジナルで,基本的には Jarrett-style を踏襲する抒情派ピアニストですが,あくまでイタリアン・スパイスをふりかけた陰影豊かな哀愁感漂う作風です。地中海色の光と影のコントラスト。光は眼が眩むばかりに輝きを放ち,影は闇の世界に深く沈みこむ。そんな繊細な色彩情景を想起させる楽曲が並んでいます。タイトルの『 Aphrodite 』(アフロディーテ)とはギリシャ神話におけるオリンポス十二神の一柱で,「愛と美の女神」(英語名はVenus)のこと。まさに1曲1曲がイタリアン・ルネッサンスの絵画を鑑賞しているかのようです。

フランコ・アンブロゼッティが抑制を効かせた甘美で優雅なミュートを披露し,ルシアーノ・ザドロの優しいナイロン弦ギターの音色も素敵で,それにも増してカラベリの涙腺直撃の美メロにうっとりと,なんてイタリアーノなジャズなの~,とイタリアに行ったこともないのに叫んでしまいます。そうそう,“ EGEA サウンド + ドラム ”のような趣もあります。

最近BGMとして頻繁に聴いていますが,不思議と飽きません。全体に大人しいサウンドで緩急起伏に乏しく一般受けはしないかもしれませんが,イタリアン・ジャズ・ウォッチャーには自信を持ってお薦めできる作品です。






Austin Peralta 『 Mantra 』

2007年01月07日 14時35分35秒 | JAZZ
オースティン・ペラルタの『 マントラ 』が凄かった。ペラルタ君は1990年生まれの僅か16歳。まだ高校生ですよ。ついこの間生まれたばかりの少年が,マッコイやハンコックの新主流派の流儀を咀嚼,消化,吸収し,完全に自身の血肉とし,更にはそこに21世紀新世代のサムシングを吹き込み,単なる復古趣味に終わらせないところが凄い。

デビュー盤である前作では,運指にややぎこちなさが見られ,音圧もそれほど強くなく,悪くは無いけどデビューには時期尚早というか,熟れてない果実を待ちきれず出荷してしまった感がありましたが,今回は大丈夫。やっとペラルタ君の食べごろ到来,と言ってよいでしょう。

しかし,本作が凄いのは単にペラルタ君だけではありません。むしろペラルタ君の出来栄えも霞むくらいの吃驚仰天の馬鹿テクを披露してくれたのが太鼓のロナルド・ブルーナー・Jr なんです(詳しくはnaryさんのブログでどうぞ。)。まだ20代半ばの新進気鋭の凄腕で,ジャズ以外のフィールドでの活動もあるようですが,昨年暮れにはスタンリー・クラークのバンドで来日も果たしているようです。兎に角,圧倒的な音数でフロントを煽り,音場の立体構築に寄与しています。こんなに音数の多いドラマーは聴いたことがありません。基本的にはビリー・コブハム~デニス・チェンバースの流れを汲む叩き手だと思います。リズムを刻むというより終始ドラム・ソロを演っているかのようです。よくもまあフロント陣はこんな太鼓をバックにソロがとれるものだと変な感心をしちゃいます。CDで聴いてもこれだけ五月蝿いのですから,ライブだと聴き手もPAも大変でしょうね。でも僕は大好きですよ,こういう狂騒的で破壊的な太鼓は。
“ Drum sounds can not be too loud !! ”
ロナルド・ブルーナー・Jr を起用したプロデューサー,伊藤 八十八氏の慧眼には脱帽です。

ただ,ひとつ苦言を呈しておくと,前作同様,ベーシストの人選にはどうも納得がいきません。今更なんでバスター・ウイリアムスなの? 還暦をとうに過ぎた老境のウイリアムスを起用する必然性が見当たりません。前作でもロン・カーターだったし,どうもベーシストの人選に失敗しているとしか思えませんね。まあ,ロン・カーターの名前がクレジットされていることで購買欲をそそられる輩もいらっしゃるかもしれませんが,バスター・ウイリアムスがどう考えても売り上げに寄与してるとは考えられません。堅実だけど中途半端過ぎます。しかもアンプ頼りの腰の無い音色もいただけません。

で,本作にはフロントにマーカス・ストリックランド(ts & ss)とスティーブ・ネルソン(vib)が参加していますが,個人的にはストリックランドに惹かれました。既にFSNTの2枚と昨年に自己のレーベル,Strick Muzik を立ち上げ,『 Twi-Life 』を発表しているストリックランドですが,変拍子を交えつつの脱4ビート路線を得意とするダークに浮遊するウネウネ系,新ブルックリン系の吹き手という印象を持ってました。しかし,本作では完全にスタイルが変化しています。これには驚きました。別人かと思いましたよ。音色からフレージングまで全然違う。雄々しく腰の据わった太い音色でモーダルなフレーズをガンガン吹きまくっています。これはこれで清々しく耳当たりが良いです。まあ,このあたりのNYのトップ・ミュージシャンになると,その場その場でどんな型にも対応できるのでしょうね。そうでなければカーネギー・ホール・ビック・バンド,ミンガス・ビック・バンド,リンカーン・センター・ジャズ・オーケストラなどの多方面からのオファーなど得られませんからね。流石,ストリックランド!

ということで,前作を上回る秀抜な作品に仕上がっていたわけですが,すでに次作が待ち遠しい。今度はどんなフロント陣や太鼓を引き連れてやってくるのでしょう。2年後にはロサンゼルスのハイスクールを卒業し,念願のニューヨークにいよいよ進出です。そこで更なる進化があると思われます。今後の活躍を大いに期待したいものです。



2006年極私的愛聴盤 トランペット篇

2007年01月02日 23時04分51秒 | JAZZ
トランペットに関しての昨年最大の収穫は,ドナルド・バードとジジ・グライスの JAZZ LAB 名義の録音が3枚組みで再発されたことでした。その中には長年CD化を一日千秋の思いで待ち焦がれていた『 New Formulaz From The Jazz Lab 』が含まれていて,僕としては涙もんです。このcomplete3枚組みを発売したのはバルセロナの再発レーベル,Lone Hill Jazz というところなんですよ。このレーベル,結構面白いので最近ウォッチしています。

1)Orbert Davis 『 Priority 』 3Sixteen Records
昨年,VENT AZUL Records の早川さんに「何かハード・バップで面白いのないですか?」とお聞きしたところ,このアルバムを紹介されました。兎に角,ぶりぶり吹きまくる熱情的プレーに心底痺れました。ジャズ・メッセンジャーズの『 Freedom Rider 』を初めて聴いた時の興奮に近い感じ。テナーのアリ・ブラウンも聞き慣れない名前ですが,こいつも凄く巧い。至福の72分を約束する名盤。彼の Official HP で試聴できます。

2)Roy Hargrove 『 Nothing Serious 』 verve
1991年のデビュー盤 『 Public Eye 』以来,ずっとファンなので,多少の出来の良し悪しは関係なく今でも愛聴しています。Hip Hop系のユニット,The RH Factor 名義のアルバムはあまり好きではありませんけどね。この最新作で競演しているアルト,ジャスティン・ロビンソンも凄腕で,ハーグロープとの息もぴったりです。往年のハーグロープ=ハートのコンビを彷彿させます。やっぱりあの朴訥としたハーグロープ節ってイイんですよね。

3)Jim Rotondi 『 Iron Man 』 criss cross
ジミー・グリーンとの双頭フロント+スティーブ・ネルソン(vib)。criss cross らしい三ッ星アルバムです。まあ,ロトンディー=グリーンのアンサンブルが聴ければそれだけで幸せって思えるファン(僕)向きの好盤。

4)jens Winther 『 Concord 』 stunt
リーダーのジェンス・ウインザーって知らなかったけど,アントニオ・ファラオとデジャン・テルジクが参加しているので買ってみたらなかなかの出来でした。でもやっぱり鋭い切れ味いの超絶技巧のファラオが一番光ってたな。

5)Braian Lynch 『 Spheres of Influence Suite 』 ewe records (2006年4月4日UP
以前に比べてラテン色を強めてきた感のあるリンチ。2004年の『 Conclave 』も良かったですが,本作負けず劣らずの秀作です。ミゲル・ゼノン(as),コンラッド・ハーヴィン(tb),グレイグ・ハンディ(ts)らが参加してのカリビアン・ジャズの祭典です。

上記以外では,Ron Horton 『 Everything In A Dream 』,Valery Ponomarev 『 Beyond The Obvious 』,Joe Magnarelli 『 Hoop Dreams 』,それにPaolo Fresu 『 Things 』などもよく聴いた。

2006年極私的愛聴盤 アルト篇

2007年01月01日 20時08分07秒 | JAZZ
昨年一年間を振り返ってみると,意外にアルトサックスの作品を買ってなかったことに気付きます。大好きなステファノ・ディ・バティスタやロザリオ・ジュリアーニらも2004年の作品以降,新作がないし,最近老いて更に活動盛んなフィル・ウッズも昨年は新作がなかったので,ちょっとアルト・サックス界は寂しい一年でした。そんな中,個人的に一番嬉しかったのは,長年CD化を待ち望んでいたフィル・ウッズの傑作『 Live From The Showboat 』がやっと発売されたことです。リイシューなのでここでは取り上げませんでしたが,2006年最大の収穫でした。

1) Fredrik kronkvist 『 Maintain 』 Connective Records (2006年2月27日UP
つい前日,クロンクヴィストの最新作『 In The Raw 』が同レーベルから発売になりましたが,これがサックス・トリオ編成で,個人的にはちょっと退屈な作品だったので,仕方なく2005年の『 Maintain 』を取り上げます。彼の古い作品やRene Sandovalの作品,Miriam Aida とのライブ盤なども聴いてきましたが,やっぱりこの『 Maintain 』が一番熱いです。極寒のスウェーデンにこんなにも熱く語れるアルティストがいたとは。これからも追っかけます。

2)Kenny Garrett 『 Beyond The Wall 』 Nonesuch (2006年9月15日UP
結局,昨年一番聴いたアルトの作品はこれだった。何度聴いても格好いい。飽きない。個人的にはケニー・ギャレットの作品の中,ベストと思っている。

3) Phil Woods 『 American Songbook 』 Kind of Blue
昨年発売になったウッズのアルバムは本作だけ。でもこれ,2002年の録音で新譜というにはちょっと古すぎます。どういうわけか4年間お蔵になっていたのですが,刺激的なアレンジはないものの,内容はなかなか充実しています。ブライアン・リンチとの2管フロントでスタンダードを演奏しています。2005年のベンジャミン・コッペル,アレックス・リールとの作品『 Pass The Bebop 』 も出来が良く,よく聴いた。

4) Francesco Cafiso 『 happy Time 』 Cam Jazz (2006年4月2日UP
あまりにも上手すぎて,流暢すぎて,面白みにやや欠ける。というのが最近の個人的な感想です。と言うわけで『天国への七つの階段』(venus)は買いそびれてしまいました。この『 happy Time 』は2005年の銀座プロムナードで観たライブの時期に録音されたもので,カフィーゾの彼女のために書いた《 She Loves Me 》がお気に入りです。でもライブの方がずっとエキサイティングな展開でしたけどね。

5) Miguel Zenon 『 Jibaro 』 marsalis music
凄く愛聴しているというわけではないけど,あまりにも日本で人気がないのであえて取り上げました。この人,歌心のあるラテン調の曲や変拍子の曲,さらにM-ベースやコンテンポラリー感覚なども上手く消化した,かなりの凄腕だと思うのですが。SF JAZZにも参加してますし,チャーリ・ヘイデンのバンドにも参加しています。