雨の日にはJAZZを聴きながら

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杏林大学附属病院 割りばし死亡事故 (2)

2006年03月29日 07時49分57秒 | 仕事
「ちゃんとレントゲンやCT・MRIを実施していたら
割り箸の存在くらいは判っただろう。死なずに済んだのに。この医師が無罪なんで~」

今日も朝の番組でこの医師は袋叩きです。

このお母さんは担当医師に「のどに割りばしを刺した」としか告げてなかったのです。刺さった割りばしは子供が既に抜いていて,その傷跡は既に凝血塊で塞がっていて,7cm以上も割りばしが刺さったことなど分からなかったのです。お母さんが「先生,割りばしの破片が残っているかもしれないです」と告げれば画像診断が可能であったとおもうのですが。お母さんは受診時「子供はぐったりしていた」と言っていますが,事実は医師が「口をあけて~」というとちゃんと口を開けるほど意識はほぼ清明(専門用語ではI-2と言います)であったのです。そんな状況でCT,MRIを撮ろうと思うでしょうか。しかも子供です。検査中暴れてしまい綺麗な画像など望めません。MRIなど高額な検査費用がかかるし,その上,読影できないひどい画像しか得られず,明らかにやりすぎです。まず,大体「CTを撮っていれば割りばしは写っていたので」という事はありません。割りばしは抜き取られていたのですから。

医師に過失はある。しかしその過失が原因で子供は死亡したのではない。子供は誤って割りばしを喉に突き刺し,それが小脳まで達し死亡した。よって,過失と死の間には合理的な関連性が見出せない。だから「業務上過失致死」としては無罪。刑事事件としての話です。民事はまた別です。そのあたりを混同してはいけません。

杏林大学附属病院 割りばし死亡事故

2006年03月28日 22時38分16秒 | 仕事
1999年の杏林大学附属病院での割りばし死亡事故の東京地裁での判決が出ました。

<無罪>でした。

僕はこの医師の<無罪>は当然だと考えています。この医師に過失はあってでしょう。でもその過失のせいで子供は死亡したのではありません。小脳まで達する割りばしによる刺傷により死亡したのです。過失と死亡との因果関係には合理的な疑いが残るわけで,当然,業務上過失致死事件については<無罪>であるのです。
このお母さんは子供が割りばしを持って走り回っている時点で起こりうる事故を回避するべきであったし,それが出来ないとしても,折れた割りばしを見て不思議だと感じ,担当した医師にその事を告げるべきであったと思います。お母さんは,自分の不注意を棚に上げて,医師ばかりを攻めますが,救急医療とはそもそも一番事故が起こりやすい部署であり,スタッフはみんな夜も寝ずに,へとへとになりながら頑張っているんです。このようなことで有罪になるのであれば,救急医療に携わる人材がますます減ってしまいます。

もう少し,お母さんに注意力があればそもそも事故そのものが起こらなかったと思うのです。僕にはこのお母さんの身勝手な発言に憤りを感じます。病院に行けば,どんな病気でも治って,元気になれるという幻想は捨てるべきです。まず,どうしてそのような事故が起きたのかをよく考えて欲しいです。

不当起訴された耳鼻科医を支援する会
テレビや新聞などの<無罪という結論と簡単な判決理由>だけでは,非常に誤解されやすい事件です。ぜひ,このサイトの特に「経緯と検証」「事件についてのQ&A」をご覧になってください。

縫合不全は医療ミスか。

2005年08月02日 21時19分18秒 | 仕事
医療過誤の記事は毎日のように見かけますが,最近見かけた下記の記事には非常に驚きました。


がん手術の縫合ミスで死亡 遺族が6200万求め提訴


 宇都宮市の栃木県立がんセンターで、胃がんの手術を受けた市内の男性=当時(57)=が死亡したのは術後の処置を誤ったのが原因として、妻と娘2人が20日までに、県に約6200万円の損害賠償を求める訴訟を宇都宮地裁に起こした。

 訴状によると、男性は1999年8月3日、胃と脾臓(ひぞう)を摘出し、腸と食道をつなぐ手術を受けた。手術後の縫合不全で出血し、同19日に再手術したが止まらず、輸血を続けた結果、10月26日に肝不全で死亡したという。

 遺族側は「細心の注意を払い縫合部分の処置を行う義務を怠り、再手術後の処置も誤って肝臓が悪化した」と主張。県医事厚生課は「訴えを真摯(しんし)に受けとめ、県の立場は法廷で主張していきたい」としている。


縫合不全は手術を数多くこなしていれば,必ず起きうる合併症であり,決して医療ミスではないのです。最近,なんでもかんでも「ミス」と見出しが付いてしまう事に憤りを感じています。

縫合不全でいちいち訴えられていたら,私たちは手術などできないのです。
現在,外科医が減少してきています。安い給料でこんなリスキーな仕事など誰もやりませんよ。

裁判の行方に注目していきたいと思います。