当時のSwing Journal編集長は中山康樹氏で,冒頭で名盤,ウラ名盤を次のように定義しているんですね。
《名盤》とは,風雪に耐え,今なお歴史的音楽的視点から,文字通り決定的名盤としてゆるぎない地位に君臨している作品。それに対して《ウラ名盤》は決定的評価や認知度は低いものの,そのミュージシャンをこよなく愛する筆者が極私的立場から,独断と偏見で選んだもうひとつの名盤。
たとえばホレス・シルバーの《名盤》は『 Doin’ The Thing 』であるのに対し,《ウラ名盤》は『 In Pursuit of The 27th Man 』 。ルー・ドナルドソンの《名盤》が『 Blues Walk 』なら《ウラ名盤》は『 Fried Buzzard 』とかね。フムフムといった感じで,ありきたりの型に嵌まった名盤紹介本とは違って,各筆者の愛情やこだわりが伝わる,とっても愉しいジャズ本なんです。
で,先日,ちょいと興奮気味で紹介したフィル・ウッズの『 Live From The Showboat 』は極私的に《ウラ名盤》ということになるわけですが,それではウッズの《名盤》というと,おそらく全員一致で『 Alive And Well In Paris 』ということになるのでしょうか。
『 Alive And Well In Paris 』は今さら説明不要の大名盤で,ウッズの名盤であるどころか,50年のアルト・サックス界の頂点に君臨する名盤といっても言い過ぎではない作品だと僕も思うのですが,意外に今までターンテーブルに乗る機会は少なかった名盤なんですね。おそらく10年以上ぶりに今,聴いているのですが,1968年という当時の時代背景,ジャズ界の置かれている苦境的立場などを反映したウッズの鬼気迫る狂気に満ちたプレイは,確かに胸を打たれるものがありますが,やっぱり,今となっては時代にそぐわないというか,重たいんですよね。
昔はLPだったから,大概,《Freedom Jazz Dance》から始まるB面の3曲を聴いていたから,それほど疲れることはなかったのですが,今,CDでM-1の《And When We Are Young》から最後まで通して聴くと,何だかとっても疲れちゃうんですね。こんなこと言うと,真摯なジャズ・ファンから罵声を浴びそうすが,本当なんだからしょうがない。
話は変わりますが,僕は一度だけウッズのライブを観たことがあります。それは20年ほど前,ロサンゼルスの某レストランでのライブだったのですが,憧れのウッズが生で見られると興奮して店に入ると,お客はパラパラ。しかも談笑しながらウッズのライブを観ている方もいるではないですか。演奏の内容など上の空で,そのなんとも言えない寂しさに涙が出そうだったのをこらえながらライブを観た事だけを覚えています。
彼のディスコグラフィーを見ると,当時1980年代後半は,作品数も少なく,サイドメンとしての仕事が多かったようですね。決して幸せな音楽生活ではなかった時期なのでしょう。2000年頃からは録音も多くなり,先日も来日していましたし,同年代のミュージシャンが相次いでこの世を去っていく中,年老いて更に艶っぽい音を奏で,精力的に活動しているウッズにホント頭が下がります。
さて,明日も早いので『 Warm Woods 』でも聴きながら寝るとしましょう。
Phil Woods のOfficial HPはこちら。Discographyがなんとジャケット写真入りで掲載されています。見ているだけで楽しいDiscoです。