雨の日にはJAZZを聴きながら

FC2 に引越しました。http://jazzlab.blog67.fc2.com/

Stanley Clarke 『 Night School 』

2007年05月28日 23時06分19秒 | JAZZ
「 絵の出るディスク 」として80年代に登場し,一世風靡したレーザー・ディスクの製造が,今年の三月末をもって完全に終了したようです。正直なところ,とっくの昔に生産終了していたと思っていたので,ちょっと意外な感じがします。最後にプレスされたタイトルが川中美幸の「 金沢の雨 」だったということで,もしかするとカラオケ用のディスクだったのかもしれません。

僕の家にも大量のLDがほとんど聴かれることなく保管されています。プレーヤーもパイオニアのCLD-919という往年の名機を所有していますが,最近は滅多に電源をいれることもなくなりました。すでにLDでしか発売されていないレアな音源はDVD-Rに焼いて保存していますので,今後LDプレーヤーを使用することなどないのですがね~。

安ければ2千円ぐらいで買えてしまう最近の音楽DVDと違って,当時のLDは1万円近くする高価なディスクだったので,捨てるのもったいないし,中古業者に出してもおそらく何十円にしかならないだろうから,今だに処分することができないでいます。でも,そのうちディスク面の化学変化が進行し読み取れなくなっちゃうんだろうな~。(すでにそんな不良LDが出始めています。)

昨日買ってきたこのスタンリー・クラークのDVDも2300円程ですから,ホント,安くなったものです。僕が買ったのは輸入盤ですが,6月20日発売の国内盤でも3500円ですから,ほとんどCDと変わらぬ値段ですね。

で,本作の話になりますが,これが凄い,凄すぎのライブ映像なんですよ~。もう,ベーシスト必見! 絶対買いです。

本作は,スタンリー・クラークが,若手音楽家を支援する奨学金制度「 Stanley Clarke Scholarship Fund 」の活動の一環として2002年(なぜか古い)のロサンゼルスでのライブを収録したものです。

いくつかのフォーマットで入れ替わり立ち替わり多彩な演奏が披露されているのですが,そんな中でも白眉なのは,スタンリー・クラークを含め総勢11人のベーシストがステージに同時に立って,それぞれ順番にソロをとる《 School Days 》。そのベーシスト達が凄い。というか信じられない集合体です。中には知らないベーシストもいますが,主だったところでは,ロック界からレッチリのフリー,ビリー・シーンなど。ジャズとロックのどちらにも顔を出す馬鹿テク親父のスチュアート・ハム。マニアックなところでバーニー・ブンネルや僕の大好きなジミー・ジョンソン。そして今やベース界のトップに君臨するブライアン・ブロンバーグとマーカス・ミラーなどなど。

こんな凄腕ベースマンがなんと小さなステージに横一線に並んで次々にソロを弾いていくんですよ。想像しただけでニンマリしちゃうでしょ。ソロをとるブロンバーグの後ろでリズムを刻むマーカス・ミラーなんて映像,おそらく前代未聞のレア映像だと思いますよ。

で,当然こんなに超絶技巧のベーシストが並ぶと,誰が一番巧いか,という品定めをしたくなるのですが,やっぱり強者達の中でもブロンバーグが頭ひとつ抜きん出ているように思われます。他のベーシストが普通にベースの音でソロをとっているのに対してブロンバーグは,ブリッジに(おそらく) Roland の MIDI ピックアップ( GK-B3 かな?)を付けて,ヘビメタ風のソロをとって観衆の度肝を抜いていました。

意外だったのが,レッチリのステージでは全裸になって大暴れするフリーが,終始ステージの左端で地味な演奏をしていたのが面白かった。ジャズ界の馬鹿テクベースマンに囲まれ,やや萎縮していたのでしょうか。

それ以外では,スティービー・ワンダーの《 Giant Step 》(あまりうまくはないけど,ちゃんとアドリブしています。)や,ポリスのスチュアート・コープランドとシーラ・E のツインドラムなど,楽しい映像満載です。

信じられないくらい巧いヴァイオリニスト,カレン・ブリッジス( karen briggs )などの新発見もあり,最後まで全く飽きさせないライブでした。

それにしても6曲目にレニー・ホワイト,パトリース・ラッシェン,ベニー・モーピン,ウォレス・ルーニーらの《 Why Wait 》という曲がクレジットされているのに,実際にはそんな映像が納められていないのです。結構,これが楽しみだったのに残念。Why!


Franco Ambrosetti 『 Liquid Gardens 』

2007年05月26日 22時42分41秒 | JAZZ
今日は栃木県佐野市にある先輩が経営する某病院に手伝いに行ってきました。新緑の匂いと爽やかな風を感じながら東北道を車を走らせ約1時間。普段は滅多に開けないサンルーフを全開にして,CDチェンジャーに仕込んだお気に入りのジャズを聴きながらのちょっとしたドライブ感覚の通勤でした。

帰りは急ぐ必要もなかったので,クルージングコントロールで90キロに設定し,一番左の車線をのんびり走りながら,昨日,VENTO AZUL さんから届いたフランコ・アンブロゼッティの 『 Liquid Gardens 』 を聴きながら帰ってきました。

ジャケットから受ける印象がそのまま内容に直結するような,爽やかで瑞々しく,そして美しいジャズが詰まった快作です。いまだ衰えを知らないアンブロゼッティの心地よい音色に心底,惚れ惚れしますね。

今,自分の部屋に戻ってきてビールを飲みながらもう一度聴きなおしています。窓からは心地よい風が吹き込んできて,スピーカーからはストリングス入りの《 The Nearness of You 》が流れています。ふ~,気持ちいい~。わが愚妻は腹が痛いと言って寝込んでいます。だからというわけではありませんが,とっても幸せな土曜日の夜。ちょっと仕事での悩みもあるけれど,こんな時にはすっかり忘れて,長い夜をジャズと酒で独り過ごそう。

Stefano Bollani Trio at Blue Note Tokyo

2007年05月22日 22時06分59秒 | JAZZ
昨日に続き,「 Umbria Jazz Presents Top Italian Jazz at Blue Note Tokyo 」のライブ鑑賞報告です。今日は5月18日金曜日のステファノ・ボラーニ・トリオのレポートです。

僕が観たのは7時からの1st setでした。仕事を早々切り上げ,電車に乗っていたら間に合わないので,車を飛ばしていざBlue Note!! 幸い,最近,お店の前に100円パーキングができたので便利になりました。意外に246が混んでいて,お店に着いたのが開演5分前。それでも予約なしで余裕で席をとることができました。やっぱりこの日も満席にはならず,ちょっぴり寂しいライブでした。

拍手に迎えられ,3人がステージに登場。ベースのタボラッツィの軽いチューニングの後,静かにボラーニのピアノによるイントロからイン・テンポに入り,叙情的な主旋律が会場の空気を満たしていきます。1曲目は最新作 『 I'm In The Mood For Love 』 に収めれれていた 《 Cheek To Cheek 》です。微妙にリズムを伸縮させながら徐々に昂揚していきます。それにしても三人の息はぴったりで,一糸乱れぬ超高速ラインを繰り出していきます。流石,長年の腐れ縁的トリオ。気持ちいいですね~。

1曲目が終わり,ボラーニのMC。
(日本語で)こんばんわ~。え~。ようごぞ。
(英語で)こちらがアレス・タボラッツィ(b)。そしてあちらがウォルター・パオリ(ds)です。《 Cheek To Cheek 》をお送りしましたが,次はアメリカのスタンダードを演奏します。《 Moonlight Serenade 》です。

《 Moonlight Serenade 》もVenus の最新作に入っていましたね。普通のピアニストは《 Moonlight Serenade 》など取り上げませんからね。野暮ったくてダサくなっちゃうからね。そんな言うなれば難曲を平然とやってのけるあたりからして,やっぱりボラーニは凄いな~って思っちゃいます。《 Moonlight Serenade 》をムード歌謡にせず,完全にジャズに昇華しています。お得意の静寂メロディーから最後に情熱的アドリブへと盛り上げていく手法ですが,アドリブ後半に出現した,高音域からクロマチックなトリルを連打,下降するあたりで完全に逝ってしまいました。

ボラーニのMC。
(日本語で)コンテンポラリーの作曲家の曲を演奏します。
(英語で)ステファノ・ボラーニ。コンテンポラリーの作曲家である彼の書いた曲,《 erena e il suo violino 》です。

ボラーニは受けを狙ったのに,あまり会場から笑いが起こらず,ちょっと可愛そう。仕方なくボラーニの方から拍手を求め,演奏に。この曲は 『 CONCERTONE
ORCHESTRA OF THE TUSCANY 』 に収められていました。タイタニックがお風呂で溺れているジャケのCDにも入っていた印象的な美曲です。

次はMCなしで,お約束の最新作のタイトル曲《 I'm In The Mood For Love 》。ボラーニは盛り上がってくると椅子から立ち上がったり,キース・ジャレットのポーズをとったり,更にはドン・ピューレンも真っ青の腕打ちで観客を驚かせました。そして極めつけのパフォーマンスは,Blue Noteのロゴ入りタオルを取り出すと,それを右手に掴んでピアノを叩いたり,擦ったりしてパーカッシブ奏法を披露。そこまでしなくても十分楽しいよ,と内心思ったりしていると,今度はそのタオルでピアノを拭き始めて観客大笑い。最後にはベーシストの背中から,ウッドベースのボディーまで拭きだし,サービス心旺盛なお茶目なボラ君ぶりを発揮したりして,やっぱり陽気なイタリアーノは違いますね。個人的にはふと,ハナ肇のドラムスティックで床からマイクスタンドまでを叩く姿とダブりましたが。最後には歌まで披露。以前にVenus盤でその歌声は聴いておりましたが,これが何とも味がある歌声で,うっとりしました。

5曲目はボラーニのピアノ・ソロ。曲名はわかりませんでした。もしかすると完全なImpro かもしれません。

6曲目はVenusのファースト『 Volare 』に収められていた 《 Azzuro 》。アルバムよりもスローのミディアム・テンポで演奏していました。なかなか綺麗な旋律をもった曲です。後半で見てもいない譜面をめくる仕草をしながら演奏し,譜面のページをめくり間違え。いきなり《エリーゼのために》が飛び出したり,クラシックの曲が出てきたりと,もう完全な大道芸人の乗りでした。それから,最後にボラーニのリフをバックに繰り広げられたパオリのドラムソロも凄まじかった。

これで一応,終了しましたが,アンコールの拍手も鳴り止まず,再びメンバーがステージに。曲は静かなバラード《 I Fall in Love Too Easily 》を感情を込めて演奏してくれました。

Gazie! ありがと,Thank You。と手を振りながらステージを降りていきました。

あまりにも楽しかったので,このまま2nd setも観ていこうかとも思いましたが,次の日が栃木県への出張だったため,泣く泣く諦め,家路につきました。

Enrico Rava Quintet at Blue Note Tokyo

2007年05月21日 22時01分53秒 | ライブ

先週はイタリアン・ジャズ・ファンには夢のような一週間でした。なにしろBlue Note 東京にエンリコ・ラヴァ,ステファノ・ボラーニ,ロベルト・ガットらがやってきちゃったのですから。「 Umbria Jazz Presents Top Italian Jazz 」と題して,一週間ぶっ通して彼らが演奏してくれたのです。しかし,ここに大問題が発生。なにしろ2日つづメンバー,フォーマットを変えて出演するということで,どこかで一日観れば済むというわけにはいかなかったのです。月曜日と火曜日がエンリコ・ラヴァとステファノ・ボラーニのデュオ。水曜日と木曜日がラヴァのクインテット。そして金曜日と土曜日がボラーニのトリオ。ということで,全部楽しむには最低3日間Blue Noteに通い詰めなければならなかったわけで,到底そんなことは時間的に無理。でも観たい。ということで,仕事の予定表とライブ・スケジュールを睨めっこしながら,何とか木曜日のラヴァのクインテットと金曜日のボラーニのトリオを観て来ました。

まずは5月17日,木曜日のエンリコ・ラヴァ・クンテットのライブについて。

観たのは9時30分からの2nd set。いつもの如く,全く予約なし(というか緊急の仕事が入ると行けなくなるので,予約というものをしてライブを観ることがいつもできないのですが)で9時過ぎに入店。カウンター席に陣取り,アサヒ黒生とジャック・ダニエル,それにコンビーフみたいなつまみを頼んで,あたりを見回すと所々空席が見られました。ラヴァと言えど満席には出来ないんだな~とちょっと寂しくなりました。

ライブは始まるまでの約30分間,ビールを飲みながら客席をウォッチングして時間を潰していると,そこに拍手に迎えられてメンバーがステージに上がってきました。ラヴァによる簡単なメンバー紹介の後,1曲目が静かに始まりました。

1曲目は最新作『 The Words And The Days 』に収められていた 《 Todamor 》。兎に角,熱い演奏でした。CDで聴くのと大違い。特にトロンボーンのジャンルーカ・ペトレッラが思いの他凄かったです。現在のラヴァ・クンテットのレギュラーですが,僕の所有するCDの中では上の写真の98年の『 Certi Angoli Segreti 』 (Label Blue LBLC6594 )には参加していましたから,ラヴァとの付き合いは少なくとも8年以上になるのですね。

実は,ジャンルーカ・ペトレッラの姿を見るのは初めてではありません。昨年発売されたラヴァのDVD 『 The Enrico Rava Quartet Live In Montreal 』で,その雄々しい姿を見ているのですが,その時,こいつは凄いと感じていました。JJジョンソンのように一音一音のきれがよくて,バルブ楽器のように吹けるわけではないのですが,何と言うか,トロンボーンの見せ方,聴かせ方を知り尽くしている感じなんです。体を捻り,大股でラッパを天井に向けて吹き鳴らすその姿は,まるで象の雄たけびのようでうです。ヴィジュアル的にとっても楽しいんですね,この人。ECMでの録音だけ聴いていると全く彼の凄さが分かりませんが,イイですよ,ペトレッラ。彼のバイオを見ますと,エレクトロニカやアシッド・ジャズにもその活動範囲を広げており,今最も注目されているトロンボーン奏者のようです。1975年生まれの32歳ですからこれから大いに期待したいものです。

2曲目は『 Easy Living 』( 2004 ECM 1760 )に収められていた 《 Algir Dalbughi 》。印象的なブギウギ・ピアノのリフで始まるラヴァのオリジナル。アルバムよりも速いテンポで演奏されていて,否応なしに気分が昂揚してきてビールを一気飲み。あ~~,最高。この曲,前述のDVDでも演奏していました。ライブの盛り上げ役といったところでしょうか。

3曲目はラヴァのお得意の 《 Nature Boy 》。好きなんですね。この曲。ラヴァの雰囲気にぴったりで,まるでラヴァのオリジナル曲かのように吹きます。

4曲目は幾度となく演奏し,記録されてきた翳りある哀愁美曲 《 Certi Angoli Segreti 》。そう,上の写真のCDのタイトル曲でもありました。いろいろなヴァージョンがありますが,僕はマウロ・ネグリのクラリネットが美しいこの『 Certi Angoli Segreti 』 が好きなんですよね~。このCDは愛聴盤ですわ。全員のソロ回しで長い演奏ですが,ポッツァのリリカルなソロも,怒涛のガットのソロも楽しく,全く飽きさせない構成。でも,いつも思うけど,ライブでのピアノの音ってどうしてあんなに汚いんでしょう。ポッツァの音って凄く綺麗なはずなのに。ライブ会場でのPAの限界なのででしょうか。

と,ここでライブ終了。え,もう。ホントBlue Noteの演奏時間は短いです。時計を見たら丁度1時間です。で,当然アンコールの拍手が鳴り止まず,メンバーが再度ステージに。

アンコールはアーマード・ジャマルの 《 Poinciana 》。最後はメンバーが演奏をやめ,観客だけに「あ~,あ,あ,あ~」と合唱させておいて,そこにラヴァが美メロを乗せてくるといった仕掛けで,思わず鳥肌がたつようなエンディングでした。

でも,あれ,これ,知ってる。そう,上記の2005年のMontreal Jazz Festival でも同じことやってたぞ。それに演奏した曲,《 Algir Dalbughi 》, 《 Certi Angoli Segreti 》,《 Nature Boy 》,それにアンコールの《 Poinciana 》と,全部 Montreal でも演奏していたしね。ということで,今回,ライブに行けなかった方はこのDVDを観て下さい。ほとんと今回のライブと同じですわ。

ついでに言うと,このDVDには,ジャケットだけ見ていると分かりませんが,あのフランチェスコ・カフィーゾが参加しているんですよ。知ってました? 現在,カフィーゾの動く姿が見れるのはこのDVDしかないのでは。

          
Enrico Rava   『 The Enrico Rava Quartet Live In Montreal 』 2005
Enrico Rava  (tp)
GIanluca Petrella  (tb)
Francesco Cafiso  (as)
Andrea Pozza  (p)
Enzo Pietropaolo  (b)
Fabrizio Sferra  (ds)
ピエトロパオロ=スフェラ のリズム隊が観られるのも嬉しいですね。
個人的には昨年のベストDVDです。

          
Tommaso=Rava Quintet  『 La Dolce Vita 』 2000 Cam Jazz CAM 497541-2
Enrico Rava  (tp)
Stefano Bollani  (p)
Giovanni Tommaso  (b)
Roberto Gatto  (ds)
あまり大きな声では言えないけど,本当は,このカルテットでの演奏が一番聴きたい。トマソ大好きなもので。



ジャケ買いコレクション

2007年05月09日 21時03分46秒 | JAZZ


昨年から 『 ジャズ批評 』 誌に僭越ながら私の駄文を掲載させていただいているのですが,最新号 No.137 『 特集 ジャケ買いコレクション 』 でも拙ブログの記事( p174 )ならびにジャケ買いしたアルバムの紹介記事( p36 )を掲載させていただきました。

気ままなブログ記事とは違い,字数制限もあり,ひとたび出版されてしまえば修正不能な紙媒体への掲載は,私にとっては非常にストレスな作業ではありましたが,反面,憧れの-当然自分の記事が掲載されるなんて夢にも思わなかった-同誌への掲載は,僕にとって貴重な経験でしたので,毎回楽しく書かせていただきました。

今回は 『 ジャケ買い 』  というお題で,僕も 『 脱・美女ジャケ宣言 』 などという少々ジャズ批評社の方々を当惑させたであろう記事を書いております。その冒頭で,

《 音楽の記録媒体がレコードからCDに移り変る中,ジャケットデザインへの興味は激減していったように思う。更には長年ジャズに接していると,当然のことだが,肝心なのは収録されている音であり,外装は内容の優劣とは何ら関係ないと思い至る。だから最近は滅多にジャケ買いをしなくなった。》

などと,もっともらしい醒めたことを述べ,更には最近の国内盤に氾濫する「 美女ジャケ」(本来ならエロジャケと書きたかったのですが,エロという下劣な表現が同誌の品位を損ねることを危惧し,あえて美女ジャケという表現を使用しました。)への嫌悪感をも露に,偉そうなことを書いてしまいました。

でもね,本当は,LPがまだ主流だった80年代にはジャケ買いをよくしましたし,むしろ周囲のジャズ仲間達よりも 「美女ジャケ」 というものへの執着は強かったように思います。

というわけで, 『 ジャケ買い -番外編- 』とも言える,雑誌への掲載は憚れるけど,ブログだから書けちゃう昔のジャケ買い作品を,2, 3枚,引っ張り出してきましたので紹介します。

1) Jess Stacy & The Famous Sidemen  『 Tribute to Benny Goodman 』 ( Atrantic 1225 )
上のジャケットは,ベニー・グットマン楽団の全盛期のピアニストであり,一時期,リー・ワイリーの旦那でもあったジェス・ステイシーのBGトリビュート作品です。清楚で可憐な女性の華奢な二の腕がたまりません。オリジナルの分厚い紙質とコーティング。視覚と触覚に影響されて内容も秀逸に聴こえてしまいそうですが,残念なことに内容は凡作です。長い間所有していますが,今だ2,3度しか針を落としたことがありません。

          
2) Priscilla Paris  『 Priscilla Loves Billy 』 happy Tiger 1002
60年代に活躍したポップ・ボーカル・グループ Paris Sisters のリード・ボーカルを務めていたプリシラによるビリー・ホリデイのカバー集。耳元を舐めるような吐息で聴かせる悩殺ボーカルです。これも完全なジャケ買いでしたが,意外に声質が僕のタイプで,しかも後で知ったのですが,ピアノがジミー・ロウルズだったので,今でも愛聴盤です。何とも言えないざらついた感触のジャケ紙で,写真じゃわかりませんが,(多分)実写ではなく,油絵なんですよ。これ。

          
ジャズ批評誌は,前号の 『 ジャズジャケット・ディスク大賞 』といい,今月号の 『 ジャケ買いコレクション 』といい,作品の内容よりもジャケットのエロティックさが話題になり, 肝心の内容の色気,エロさ,などには触れていませんでしたが,1982年の41号では『 ジャズとエロティシズム 』という題目で,著名な寄稿者らが鋭い筆をふるった特集を組んでいました。松坂編集長の提示した『 ジャズとエロス 』という,非常に難解なテーマに,どうみても “ こじ付け記事 ” としかとれないような投稿もありますが,しかし,どれも読み応えのある内容でした。中にはキワドイ内容の記事,たとえは志田佐和夫氏の 『 フリー・ジャズの勃起度 完全なる結婚のためのフリー・ジャズ 』のように,よくぞボツにならなかったものだと感心するような仰天記事もあります。それにしても昔の同誌は腰が据わっていたんですね。


Valery Ponomarev 『 Means of Identification 』

2007年05月07日 22時11分56秒 | JAZZ
今日は旧作ではありますがとっておきの一枚, Valery Ponomarev (ヴァレりー・ポノマレフ)の1985年の初リーダー作『 Means of Identification 』(reservoir RSR CD101)を紹介したいと思います。Blue Note 4000番台のリー・モーガンやドナルド・バード,それにジャズ・メッセンジャーズあたりのファンキー路線が好きな方には絶対のお薦め盤です。

「なんだ~,ポノマレフか~。ジャズ・メッセンジャーズの低迷期に吹いてたパッとしないロシア人だろ。知ってるよ。別に取り立てて騒ぐほどのラッパじゃないでしょ~。」とおっしゃる方。JMでのポノマレフは確かに今ひとつだったかもしれませんが,彼の真価はJM脱退後の自己のリーダー作にあるんですよ。騙されたと思って彼のリーダー作を聴いてみてください。特にラルフ・ムーア(ts)が在籍していたときに録音された本作『 Means of Identification 』と第二作の『 Trip to Moscow 』( reservoir RSR CD107 )は素晴らしい出来ですよ。

ご存知のようにポノマレフはソビエト連邦(現ロシア)のモスクワに生まれ,始めはクラシック・トランペットのトレーニングを受けていたのですが,クリフォード・ブラウンに憧れ,1973年にアメリカに亡命。ライブ活動中にアート・ブレイキーに見初められ,1976年にジャズ・メッセンジャーズに参加。ウイントン・マルサリスが加入する1980年までの約4年間をJMの一員として過しました。

世間では「マルサリス加入までの中継ぎ的人事」として冷ややかな目で見られていますが,おそらく本人はそんな世評などは気にしちゃいなかったのでしょう。憧れのアメリカで自由にジャズを演奏できる,しかも偉大なるJMで吹ける,というだけで満足だったと思われます。この初リーダー作のジャケットのポノマレフ。いいでしょ~。野暮ったくて,垢抜けてなくて。わざわざ国連ビルの前まで行って撮影されたポートレイト。腰には何と4バルブのフリューゲルホーンをぶら下げているし。田舎のおっちゃん丸出しのその姿。でも屈託のない可愛らしい笑顔で憎めないポノマレフ。それがひとたびラッパを吹かせたらまさにブラウン=モーガン直系の凄腕ハード・バッパーなんですよ。誰もが容姿と音のギャップにびっくりするはずです。彼の頭の中には気難ししモードだの,新しい理論など全くないんです。ひたすら感情をラッパに込めて華麗に吹き鳴らす。ファンキー・チューンではひたすらカッコよく高らかに吹き鳴らす。それしか眼中にないのですね。

どうもJM在籍中はボビー・ワトソンやジェームス・ウイリアムスの影に隠れて目立たなかったというか,彼ら2人の現代風のモード系のオリジナルがJMの売りになっていたため,ポノマレフには分が悪いバンドだったように思うのですね。ちょうど60年代のショーター=モーガン在籍時のJMが,ショーターの急進的なモード楽曲にモーガンがついて行けず,首になったように。

そんな不遇の時代を脱し,満を持して制作された本作は,《 I Remember Clifford 》以外の楽曲をポノマレフのオリジナルで固めた力作です。しかもそのオリジナル曲が全てカッコよくてファンキーで,ちょっぴり哀愁感が漂い,胸キュンものです。それにしてもJM時代はほとんどオリジナル曲をブレイキーに提供していなかったのに,てっきり作曲能力のないミュージシャンかと誤解していました。

ポノマレフは現在まで一環してreservoir に吹き込みを行っており,昨年のピアノレス・クインテットの『 Beyond The Obvious 』まで,計7作品のカタログを同レーベルに有しています。今まで全作品を聴いてきましたが,悲しいことに新しい作品になればなるほど,本来のポノマレフのファンキーさが希薄になってきているように感じられます。最新作『 Beyond The Obvious 』に至っては正直なところ,情熱的なポノマレフのソロはほとんど聴かれません。やっぱり最初の2作品,『 Means of Identification 』と『 Trip to Moscow 』がベスト,と言い切ってよいかと思われます。ぜひこの2作品を,御一聴あれ。

Valery Ponomarev 『 Means of Identification 』1985 reservoir RSR CD101
Valery Ponomarev (tp)
Palph Moore (ts)
Hideki Takao (p)
Dennis Irwin (b)
Kenny Washington (ds)

P.S. ここでピアノを弾いていた日本人,Takao Hideki さんという方は,Reservoir のプロデューサーであるマーク・フェルドマン氏によると,この録音のすぐ後に音楽活動を止めてしまったとのことです。一体何があったのでしょうか。今回,検索をかけても全くヒットしなかった Takao Hideki さん。今,あなたは何処に。

Joshua Redman 『 Back East 』

2007年05月02日 21時22分46秒 | JAZZ
ジョシュア・レッドマンの新作は意外にもサックス=ベース=ドラムのトリオ編成の作品でした。あまり個人的には食指が伸びないフォーマットではありますが,なにしろ大好きなジョシュアの作るサックス・トリオですから,聴かないわけにもいきませんので,早速購入してみました。サポート・ミュージシャンは固定ではなく,ラリー・グレナディア=アリ・ジャクソン,クリスチャン・マクブライド=ブライアン・ブレイド,そしてリューベン・ロジャーズ=エリック・ハーランドの3チームが用意され,更にはジョー・ロバーノ,クリス・チーク,そしてデューイ・レッドマンらがゲスト参加するといった趣向で制作されています。サックス・トリオと言えばソニー・ロリンズということで,『 Back East 』というタイトルからも察しがつくように,ロリンズの57年の名作『 Way Out West 』に刺激を受けて作られた作品で, 『 Way Out West 』でもロリンズが演奏していた西部劇映画の音楽,《 I'm An Old Cowhand 》,《 Wagon Wheel 》などを再演しています。

ニューヨークでマックス・ローチのバンド・メンバーとして活躍していたロリンズが,バンドの西海岸遠征ツアー中に,現地のトップ・ミュージシャンであったシェリー・マンとレイ・ブラウンらと一期一会のセッションを行ったのが『 Way Out West 』であり,一方,カリフォルニアで生まれ,ボストン,ニューヨークで大学生活や音楽活動を行い,今は西海岸にもどりSF Jazz Collective なので活躍中のジョシュアが,久しぶりにニューヨークに戻り,気の合う仲間達を集めて作ったのが『 Back East 』というわけです。

しかし,収録曲を見てみると,ジョシュアのオリジナル曲《 Mantra #5 》,《 Indonesia 》や,コルトレーンの《 India 》といった東洋に因んだ楽曲が取り上げられているんですね。で,これは僕の推測ですが,『 Back East 』の“ east ”とは,“ East Coast ”と“ East Asian ”という二重の意味を持ったいわば掛詞なのかもしれません。《 Mantra #5 》も《 Indonesia 》も,東洋のリズム,ハーモニーをうまく取り入れた楽しい楽曲です。

そう言えば,ジョシュアは母親の薦めでCenter for World Music という,サンフランシスコ(現在はサンディエゴ)に所在する音楽学校に入学し,初めて正式な音楽教育を受けたのですが,そこで専攻したのが何とインドネシア音楽とインド音楽でしたからね。やっぱりジョシュアの音楽ルーツは東洋音楽にあるのかもしれません。

で,内容ですが,ラリー・グレナディア=アリ・ジャクソンのコンビで6曲。クリスチャン・マクブライド=ブライアン・ブレイドのコンビで2曲。そしてリューベン・ロジャーズ=エリック・ハーランドのコンビで3曲,演奏しています。クリスチャン・マクブライド=ブライアン・ブレイドのコンビは,ジョシュアの1994年の第三作『 Mood Swing 』で聴かれた組み合わせですね。ラリー・グレナディア=アリ・ジャクソンのコンビとは,ジョシュアがカート・ローゼンウィンケルの作品に参加した際に競演していたと思います。リューベン・ロジャーズ=エリック・ハーランドのコンビは頻繁に見られますが,ジョシュアとこの2人の競演は初めてかな? 

個人的にはアリ・ジャクソンとエリック・ハーランドの爆走ドラムに興奮しちゃいます。意外にブライアン・ブレイドが大人しく感じちゃうのですが,気のせいかな。以前にマーク・ターナー=ジェフ・バラード=ラリー・グレナディアのトリオ編成の作品 『 Fly 』を聴いた時にも思ったのですが,こういったサックス・トリオ物は,ドラムを中心に据えて聴くのが正しい聴き方,ではないでしょうか。ドラムの音に聴き耳を立てる。そうすると俄然,サックス・トリオが面白くなってくるんですよね。

ところで,コルトレーンの 《 India 》はジョシュアとデューイの競演ですが,ピアノ・レスでの二人の競演って他にもあるのご存知ですか? 僕の手元に1992年録音のデューイ・レッドマンの『 Choices 』( enja CD 7073-2 )というサックス・トリオの作品があるのですが,その中で二人は競演しているんです。

1991年にジョシュアはブルックリンに引っ越して,連日ニューヨークのクラブでギグっていたのですが,その頃,定期的に父デューイとも競演していたようです。その頃に録音されたのがこの『 Choices 』で,駆け出しの若き息子を見守る父親の姿を思い浮かべるとなんとも心温まる作品です。デューイは自分のリーダー作品なのに,一曲だけですがスタンダードの《 Imagination 》をジョシュアだけで演奏させているんですね。親ばかというか,なんというか,思わず微笑んでしまいます。それにしてもこの頃のジョシュアはロリンズやデクスター・ゴードンらを彷彿させる豪快なスタイルで吃驚します。そしてまだ,すこしばかり自己のスタイルが確立されていないところが可愛らしく興味深いです。この録音の直後にセロニアス・モンクのコンペティションで優勝し,1992年には壮絶な獲得戦の結果,ワーナーが契約。以後の活躍は周知のことと思います。

本作の録音の数週間後に,ご存知のように父デューイは亡くなっているのですが,その父に敬意を表すかのように,また,『 Choices 』の恩返しをするかのように,最後の曲 《 GJ 》は,デューイ・レッドマンのトリオで演奏され,幕が下ろされます。