雨の日にはJAZZを聴きながら

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Myriam Alter 『 Reminiscence 』

2007年11月25日 17時12分38秒 | JAZZ

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≪ Belgian Jazz Vol.3 ≫

ベルギー出身の女性作曲家兼ピアニストであるMyriam Alter (ミリアム・アルター)の94年のデビュー作『 Reminiscence 』。B.Sharp原盤のジャケットは車中で眠るミリアムのモノクロ写真でしたが、04年に澤野から復刻された際、上のようにジャケットが変更されています。Gino Lattuca (ジノ・ラトゥカ)(tp)とBen Sluijs (as&ts)をフロントに据えたクインテット編成で、哀愁味溢れるヨーロピアン・ハード・バップを展開しています。ジャズに必要な要素とは、美しい(そして哀愁ある)メロディー、リズム、そして即興の醍醐味を味わえる胸のすくような各人のソロであるわけですが、ここに登場するメンバーは全員ハッキリ言って決して腕の立つミュージシャンではありません。後述しますが、特にミリアム・アルターは生粋のジャズ・ピアニストではないため、お世辞にも巧いとは言えないピアニストです。がしかし、彼女の曲は聴き手の心を惹きつける魅力に満ち溢れています。ジャズが、インタープレイやソロがいま一つでも、メロディーやリズムが魅力的であれば、立派に成立する音楽であることを確認させられる秀作であると思います。これほどメロディーの求心力というものを体感できる作品も珍しい。

ミリアムは、8歳の時にクラシック・ピアノのレッスンを始めるも15歳で断念せざるを得ませんでした。そしてブリュッセル大学では心理学で学位を取得しました。卒業後は広告会社に7年間務めるもその後ダンス・スクールを起業しましたが、それも7年で辞めて音楽の道に進むことを決心。アメリカ人サックス奏者John Ruocco 、アメリカ人ピアニスト Denis Luxionらなどに師事。そんな中、オランダ人ベーシスト兼 Challenge オーナーでもある Hein Van De Geyn (ハイン・ファン・デ・ゲイン)に惚れられ、彼のプロデュースのもと、本作でのデビューに至ったという異色の経歴の持ち主です。

彼女の現在までのリーダー作は以下の5作品。

1. 『 Reminiscence 』 1994年 B.Sharp (本作)
2. 『 Silent Walk 』 1996年 Challenge
3. 『 Alter Ego 』 1999年 Intuition
4. 『 If 』 2002年 Enja
5. 『 Where Is There 』 2007年 Enja

僕が所有しているのは本作以外には、国内盤で出た3) 『 Alter Ego 』だけです。ハイン・ファン・デ・ゲインと共にニューヨークに渡り、ケニー・ワーナーをはじめ、ジョーイ・バロン、ビリー・ドリューズ、ロン・マイルス、マーク・ジョンソンという、強力メンバーと録音されたもので、世界進出を目論む彼女の意欲作でした。当然、デビュー作より数段クオリティーも高くて素晴らしい出来です。アヴァター・スタジオ&ジョー・ファーラで録音も最高です。アルバム全体に漂うエスニックの香り。そのあたりがセファルディー系ユダヤ人である彼女の最大の魅力なのですが、しかしあまりにもエスニック度が高く、好き嫌いの別れる内容かもしれません。そして、この第三作以降、彼女はピアニストとしての自分に見切りをつけ、コンポーザーに徹して作品を制作しています。つい先日発売になったばかりの最新作『 Where Is There 』では、アントニオ・カルロス・ジョビンのグループでの活動で有名なブラジル人チェリスト Jaques Morelenbaum (ジャキス・モレレンバウム)と、ミリアムの師匠でもあるジョン・ロッコがクラリネットで参加している民族音楽色を更に強めた作品です(こちらで試聴できます)。

ミリアムの卓越したメロディー・センスが光るBlue Note 4000番台のリー・モーガン作品を彷彿させるB級哀愁ハード・バップ。本作は時々、中古店で澤野商品としては破格の安値で見かけることがあります。ピアノ・トリオ中心のラインナップを揃える澤野商会の作品の中ではあまり人気がないのでしょうが、意外に出来がイイので見つけたら拾っておいても損はないと思いますよ。



Brussels Jazz Orchestra 『 Countermove 』

2007年11月19日 21時10分35秒 | Large Jazz Ensemble

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≪ Belgian Jazz Vol.2 ≫

先日のエリック・レニーニ、一昨日のナタリー・ロリエと、せっかくベルギー人アーティストの話題が続いたので、しばらくはベルギー関連の作品で綴って行こうかと思っています。

で、今日はブリュッセル・ジャズ・オーケストラを引っ張り出して聴いております。
「な~んだ。またビッグバンドかよ~。」と言わないでくださいね。これが滅茶苦茶カッコいいですよ。ホント。絶対お薦め。ヨーロッパ圏のビッグバンド界の台風の目であることは間違いないです。歴史は浅いのですがその結束力、機動力の強さ。技術面での完成度とその技術をフルに発揮できる楽曲の良さ。どれをとっても世界レベルです。

まずはBJOの歴史について簡単に記しておきましょう。BJOは1993年、ベルギー北部、フランダース地方出身のジャズ・ミュージシャンである、フランク・ヴェガネ(as)、マーク・ゴッドフロイド(tb)、セルジュ・プルーム(tp)らによって創立された比較的新しいジャズ・オーケストラです。もともとは、ベルギー国営放送( BRT : the Belgian Radio and Television )オーケストラが経済的理由により解散した後のメンバーの受け皿としての役割を果たしていました。ですから初期のBJOはフランダース地方に伝わる楽曲を主なレパートリーとしていました。しかし、今世紀に入ると積極的にオリジナル曲を導入し、また国外のソリスト、たとえば、デイヴ・リーブマン、フィル・ウッズ、ケニー・ホイーラー、トム・ハレルらなどを迎え、指揮者としてもマリア・シュナイダー、ビル・ホルマン、ケニー・ワーナーらを起用するなどして、その演奏レベルを向上させてきました。ですから、1968年から2002年までのビッグバンド作品を紹介したジャズ批評誌112号『 ジャズ・ビッグバンド 』では、BJOは取り上げられておりません。もし今、特集が組まれれば間違いなく巻頭ページで特集記事が組まれることでしょう。

それでは全くBJOが国内で紹介されていないかというと、実はですね、早い時期から「 BJOはイイよ 」って言っている方がいらっしゃるんですよ。その方はMOONKSでお馴染みの大河内善宏氏であります。MOONKSの方々が推薦する85年以降の名盤150枚を紹介した『 MOONKS JAZZ MUST 150 』の中でBJOの『 The September Sessions 』( 1999 DE WERF ) が取り上げられているんです。流石、大河内氏ですね。さらには、この作品を含めBJOの作品を3作品も国内盤販売した ガッツプロダクションの笠井隆氏の慧眼と採算度外視(日本ではビッグバンド物は全然売れません)のジャズへの情熱にも脱帽です。

余談ですが、今こうして僕らがヨーロッパ圏のジャズを享受できるのも、昨日お話にも出た星野秋男氏や杉田宏樹氏、そして笠井隆氏や澤野由明氏らのお蔭であるわけで、彼らのご尽力なくして現在の欧州ジャズ・ブーム(?)というか、その市場はあり得なかったわけで、本当に頭が下がる思いがします。

さて、BJOは今までに下記の8作品を制作しています。

1) Live (1997)
2) The September Sessions (1999)
3) The Music Of Bert Joris (2002)
4) Kenny Werner Plays His Music With The BJO (2003)
5) Meeting Colours - with Philip Catherine (2005)
6) Countermove (2006)
7) Dangerous Liaison - with deFilharmonie (2006)
8) Changing Faces - with David Linx (Oct 2007)

最新作は8)のデヴィッド・リンクスとの共演盤ですが、これはまだ日本には入ってきていないと思います。日本で手に入る最新作となると7)のロイヤル・フレミッシュ交響楽団との壮大なる共演盤になります。ベルギー人トランペッター、バート・ジョリスがBJOとロイヤル・フレミッシュ交響楽団に委嘱されて作曲したオーケストラ作品です。ジャズとクラシックの華麗なる融合。感動の大スペクタクル巨編。と言ったところですが、これが凄い迫力なのですが、やはりクラシック寄りの作風であるため、BJOの真価を体感するにはちょっと不適切な作品かもしれません。でも何度も言うようですがその迫力たるや尋常ではありません。

僕が所有しているのは2)から7)までですが、やっぱり大河内氏の推す2)『 The September Sessions 』と今回紹介する6)『 Countermove 』がまさに究極とも言えるほどのクオリティーの高さで、大推薦です。ビッグバンド・ファンならずとも御一聴を。お願い。それ以外の作品については今日は面倒なので触れませんが、駄作は一枚もありませんので何処から喰いついても美味しくいただけると思いますよ。

で、ちょっとBJOのOfficial Web Site を覗いてみたら、なんと既に来年2月発売の作品が紹介されているんですね。タイトルは『 The Music of Michel Herr 』 ということで、ミッシェル・ハーの作品集みたいです。ついでに現在のメンバーを見てみますと、ピアノのナタリー・ロリエは健在のようです。でもしかし、あれ、ドラマーが Martijn Vink (マタイン・ヴィンク)から Klaas Balijon (クラウス・バリジョン)に代わっています。マタイン・ヴィンクはジェシ・ヴァン・ルーラーのバンドで活躍していた人で、結構好きでしたが脱退したうようです。それじゃ何処へ行ったの?と、調べたら隣国オランダのビッグバンド、Metropole Jazz Orchstra (メトロポール・ジャズ・オーケストラ)に加入した模様。MJOは世界でも珍しいストリングス部を持つビッグバンドですね。エルビス・コステロとの共演盤『 My Flame Burns Blue 』(前項あり)が昨年発売になっています。これ、イイですよ。

ということで、話が逸れてしまいましたが、兎に角、切れ味鋭い各セクションのソリ、そして高揚感漲る鳥肌モノのトゥッチ。怒涛の如く押し寄せるキメに次ぐキメ。間違いなく聴き手にカタルシスをもたらしてくれるはずです。各メンバーについても言及したかったのですが、今日はここまで。

まだまだビッグバンド界には、掘り尽くせぬ一大鉱脈が眠っているわけで、これからも少しづつ紹介していきたいと思います。

ジャズ批評

2007年11月18日 00時43分10秒 | JAZZ

 

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Jazzジャーナリストでもあり、現役の整形外科医でもいらっしゃる小川隆夫氏の運営するブログ、『 Keep Swingin’ 』の1115日付けのエントリー記事にこんな件がありました。勝手に引用させていただきますが、お許しください。

≪ ぼくのことが雑誌に掲載されたり、本が出たりすると一番喜んでくれるのが母親です。年老いて、普段は生きる気力もないようなことを口にする母親ですが、それでもぼくのことが紹介された雑誌や本を見ると、数日間は元気になります。
取材をするのは得意でも、受けることに違和感を覚えるぼくですが、母親の喜ぶ顔が見たくて、せっかくのチャンスは有り難く受けることにしています。単行本を節操なく出し続けている一番の理由も同じです。極私的なことにつき合わされる読者のかたは迷惑でしょうが、母親あってのぼくなので、ご勘弁ください。
12月は、お陰で彼女の嬉しそうな顔が連続して見られることでしょう。楽しみはいろいろあるんですが、こういうのもぼくの中では結構大きいんですよ。≫

拙ブログにおいでの方は既にご存知とは思いますが、僭越ながら数か月前より拙ブログ『雨の日にはJAZZを聴きながら 』を『 ジャズ批評 』誌で紹介していただいております。また、特集記事についてもわずかながらですが駄文を掲載させていただいております。

“ criss ”などと言うふざけたペンネームで、しかも無責任極まりないなブログという形態で書かれた記事を、由緒あるジャズ批評誌に掲載させていただいている訳で、この上なく有難いことだと感謝しております。しかし、感謝する気持ちがある一方で、ものすごく恥ずかしい気持ちでいっぱいですし、本当にこんなブログ記事を載せちゃっていいのだろうか、という疑問も湧いてきます。

僕の手許には古いジャズ批評誌が沢山ありますが、たとえば1969年の5号を棚から引っ張り出してその執筆者を見てみますと、そこには今では信じられないくらい錚々たる著名な評論家達が名を連ねていることに気づきます。相倉久人氏、植草甚一氏、平岡正明氏、それに最近惜しくも亡くなられた清水俊彦氏、などなど。現在、音楽業界にはびこる似非ジャズ評論家達とは違い、真のジャズ評論ができる面々が、わずか70ページ足らずの紙面に各々が熱き持論を展開しているのです。無駄な論評など一字たりともありません。そんなまさに超高密度の評論雑誌であった頃の同誌を読むにつけ、「次号はお断りしよう」と思うのですが、実は、僕の同誌への掲載を僕以上に楽しみにしている人がいるのです。

それは
小川隆夫氏と同じく、僕の両親なのです。毎回、ジャズ批評を栃木の実家に郵送してあげるのですが、それを本当に楽しみにして待っていてくれるのです。音楽に全く興味のない両親ですが、僕の書いたマニアックな難文を、母が父に読んで聞かせてあげているそうです。母66歳。父69歳。父は2年前に直腸癌にかかり手術を受けました。今のところ再発はありませんが、いつ再発してもおかしくない状態です。

僕も
40歳を過ぎ、子供ができ、やっと親のありがたみが分かる歳になりました。こんな些細なことですが、僕の記事を読みながら二人でニコニコ笑い、お茶をすすっている両親を思い浮かべながら、「依頼があれば、もう少し書かせてもらおうかな」って、思っている今日この頃であります。

P.S. ジャズ批評5号の中で、清水俊彦氏が執筆しているそのタイトルが凄いですね。「ニュー・ジャズとニュー・ロックの相互浸透とラリー・コーイエルの反バートン的局面について」ですよ。ラリー・コーイエルって、何だと思ったら、ラリー・コリエルのことでした。反バートン的って、何かの物理の法則かと思ったら、ゲイリー・バートンのことなんですね。それにしても清水俊彦氏の評論は難解です。彼の著書は我が書棚に今でも鎮座していますが、一生かけても理解できないだろうな。


Nathalie Loriers 『 Nympheas 』

2007年11月17日 21時58分37秒 | JAZZ
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≪ Belgian Jazz Vol.1 ≫

先々週の土曜日、ギンザ・インターナショナル・ジャズ・フェスティバルでベルギーのピアニスト、エリック・レニーニのライブを観ていた際、隣に座っていた大学生らしいカップルが,
「へ~、このピアノの人、ベルギー人なんだって。」
「ベルギーにもジャズあるんだね。」
などと会話をしておりました。
「あたりめだろーが。エリック・レニーニ以外にも、ナタリー・ロリエやイヴァン・パドゥア、ディーデリク・ウイセルスだっているし、中堅どころではミッシェル・ハーやチャールズ・ルースだってかなり巧いぜ。それにブリュッセル・ジャズ・オーケストラっていう、超絶技巧のすげービッグ・バンドだってあるんだぜ~。」などと僕は心の中で呟きながら、レニーニの美しい旋律に酔いしれていたのですが、その時、ふと思ったことがありました。

「現在進行形のベルギー・ジャズは確かに聴いてはいるけど、昔のベルギー、50年代~60年代のベルギーにははたしてジャズはあったのだろうか?」

以来、頭の隅にそのことが引っ掛かっていてました。

こんな時に頼りになるのが季刊ジャズ批評別冊『 ヨーロッパのジャズ・ディスク 1800 』、ということで、やっと超多忙な一週間が終わった今日、ビール片手に久し振りにナタリー・ロリエの『 Nympheas 』を聴きながら、その中の星野秋男氏の書かれた「特別記事:ヨーロッパ・ジャズの歴史」を先ほどから読み直しておりました。

が、しかし、なんとベルギーのジャズ史についての記述がすっぽり抜け落ちているのです。この記事は、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、北欧諸国、旧ソ連・東欧諸国と、国別にそのジャズの歴史が簡潔にまとめられたものなのですが、ベルギーだけがないのです。やっぱり昔のベルギーはジャズ後進国だったのね、と思いつつ、今度はたびたび拙ブログでも引用させていただきている杉田宏樹氏の著書『 ヨーロッパのJAZZレーベル 』の「ベルギー」の項をめくってみると、ベルギーのドメスティック・レーベル、Igloo の解説の冒頭にこんな件があります。

≪ ベルギー出身のジャズメンは誰? と聞かれて、どのような顔ぶれが浮かぶだろうか。ルネ・トーマ、ファッツ・サディ、フランシー・ボーラン、ボビー・ジャスパー・・・・・。≫

そっかー、ルネ・トーマってベルギー人だったのか!てっきりフランス人かと思っていました。昔、Jazzland の『 Guitar Groove 』をよく聴いたものでした。ボビー・ジャズパーもベルギー人なの?知らんかったわ。ウイントン・ケリーの『 Kelly Blue 』(Riverside)でフルート吹いている印象が強いから、てっきり米人かと思っていたし。

てな具合に、これだけジャズを長年聴いてきているのに、そのミュージシャンの国籍に全く無頓着だった自分に情けなくなってきました。

さらに調べてみると、トゥーツ・シールマンスもベルギー人。フィリップ・キャスリーンも生まれはイギリスですが育ちはベルギー。それからベルギー・ジャズ界の重鎮、ジャック・ペルツァーもいらっしゃいました。

それにしても、昔はルネ・トーマにしてもボビー・ジャスパーにしても、ジャズを究めるためにベルギーを離れ、渡米したのに対して、今のベルギー・ミュージシャンは、せいぜい近郊欧州諸国(フランスやオランダなど)のミュージシャンとの共演をするぐらいで、結構地元に残って活躍しているもんですね。

ということで、今日はナタリー・ロリエのデビュー盤『 Nympheas 』(1991 Igloo 088 )から第5作目の『 Tombouctou 』( 2002 DEWERF )までを通して聴きながら本稿を書いていますが、どれも秀作ぞろいで驚きます。

特に好きなのは、このデビュー盤『 Nympheas 』で、録音当時若干24歳の彼女の瑞々しい感性が光る、すばらしい作品です。Kurt Van Herck (カート・ヴァン・ヘルク)のテナー・サックスを加えたカルテット編成で、オリジナル曲を中心に、ホレス・シルバーの≪ Peace ≫、マイルスの≪ Nardis ≫を挟み込んだ選曲。≪ Peace ≫でのナタリーのソロは、繊細かつ静的な音世界が陶酔感を誘う名演です。カート・ヴァン・ヘルクは前述したブリュッセル・ジャズ・オーケストラ( BJO )のメンバーで、かなりの腕前です。現在の欧州ビッグバンド界は、群雄割拠の戦国時代で、超絶技巧は当たり前の世界ですが、その中でもBJOは頭一つ抜きんでた他の追従を許さない存在です。個人的には欧州で今一番好きなオーケストラです。近いうちにBJOについてはあらためて書きたいと思っています。

Nathalie Loriers 『 Nympheas 』1991 Igloo IGL088
Nathalie Loriers (p)
Philippe Aerts (b)
Mimi Verderame (ds)
Kurt Van Herck (ts&ss)

ギンザ・インターナショナル・ジャズ・フェスティバル2007 (2)

2007年11月08日 18時57分13秒 | ライブ
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山野楽器本店のでエリック・レニーニのライブまで2時間程あったので,まずは久しぶりに松坂屋屋上ライブ会場すぐ隣の「銀座松坂屋屋上熱帯魚売場」を覗いてみました。興味の無い方には全然お分かりにならないと思いますが,熱帯魚や水草ファンにはまさにこのお店は聖地であります。南米から直接採取してきたワイルドのアピストグラマや超レア水草の品揃えは日本一です。でも値段も日本最高ですけどね。

さて,松坂屋を後にして向かったのは山野楽器本店。年に2,3回しか銀座に出向かない僕にとって,山野楽器での珍しいビッグバンド物を物色するのは至福の喜びです。今回は,Vienna Art Orchestra の『 All That Strauss 』 Big Phat Band の『 The Phat Pack 』を購入。ライブ会場への入場は整理番号順なので,早くから並ぶ必要も無く,銀座の街をブラブラして時間をつぶし,6時きっかりに山野に戻り入場。整理番号9番の僕はなんと最前列に案内されました。しかも中央。ベルモンドの唾がかかるほどの近距離での鑑賞が可能なポジションでした。この山野楽器本店7階のイベントスペースは思ったより小さく、客席は100席ほどしかなく、大勢の方が立ち見状態でした。薄暗いステージにライトがあたり,まずはエリック・レニーニ,マティアス・アラマンヌ,フランク・アギュロンが静かに登場。そして銀座松坂屋屋上でのライブと同様,レニーニの新曲《 New Boogaloo 》で幕を開けました。結局,演奏曲は前ステージから≪ Mojito Forever ≫を除いただけで、それ以外は曲順も構成も全く同じでした。しかし、小さなホールでしかも最前列で聴く演奏はまさにライブ。興奮度も全然違う別モノです。また、レニーニやベルモンドと何度も目が合って、凄く嬉しかったし。最初の2曲は,トリオでの演奏だったため、ベルモンドはステージの袖のイスに座って出番を待っていたのですが、旅の疲れからか眠ってしまい、3曲目でレニーニがベルモンドを呼んでもなかなか目を覚まさない。会場爆笑。というハプニングもあったりして、なかなか楽しいライブでした。

2007年11月3日(土)Eric Legnini Quartet @山野楽器本店 Jam Spot
18:30 ~ 19:40

1. New Boogaloo
2. Trastevere
3. Soul Brother
4. Darn That Dream
5. Unknown ( Fm7 one mode )
6. Big Boogaloo


ギンザ・インターナショナル・ジャズ・フェスティバル2007 (1)

2007年11月07日 21時16分30秒 | ライブ
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11月3日,4日の2日間にわたり,ギンザ・インターナショナル・ジャズ・フェスティバルが行われました。本フェスティバルは,全銀座会,銀座通連合会,GILC(国際ブランド委員会)がオーガナイザーとなり,毎年一回開かれている完全無料制のジャズ・フェスティバルで,今年で3回目になります。毎年,国内外の数多くのアーティストが銀座の各会場で熱いライブを繰り広げてくれるのですが,特に,毎回,欧州のちょっとマイナーでマニアックなアーティストが出演するので,個人的にはお金を払ってでも観たい程のお気に入りのフェスティバルです。今年はなんと言ってもフラビオ・ボルトロとエリック・レニーニがお目当てです。本フェスは,事前にインターネットか葉書での応募(抽選あり)が必要なホールライブと,事前応募の必要ない全席自由のショップライブ(デパート屋上)の2本立てで行われます。僕はインターネットで応募したのですが,10ほどのライブに応募したにもかかわらず,当選は3日のエリック・レニーニのライブ1つだけでした。妻の名前でも応募しましたが,そちらは全く当選なし。ちょっと悔しい気持ちはありましたが,まあ,一番観たかったエリック・レニーニが当選したので,まずはほっとしました。

山野楽器本店でのエリック・レニーニのライブは18時30分からだったのですが,すこし暇があったので,その前の15時からの銀座松坂屋屋上で行われたエリック・レニーニ・カルテット with フラビオ・ボルトロの屋外ライブも観てみようかと思い,14時30分頃に会場に到着。しかし,すでに長蛇の列。慌てて最後尾に向かって小走りに急いで行くその間にもどんどんと人が並んでいくのが見えます。400席ほどある座席はあっという間に満席となり,その他のお客さんは立ち見状態。僕は何とかぎりぎりセーフで最後列に着席できました。こんなにエリック・レニーニって,人気あったのか~と,驚きながら周囲の客を眺めてみると,どうみてもジャズ・ファンには見えない買い物袋を下げたおばちゃんや,高校生風のカップルなども大勢いるではありませんか。おそらく何の行列かもわからず並んだ人々も大勢混じっているのでしょうね。

さて,まぶしい西日に曝されながらも待つこと30分。エリック・レニーニ,フランク・アギュロン(ds),マティアス・アラマンヌ(b)の3人がステージに登場です。レニーニは終始笑顔で,日本語で「こんにちは」と軽く挨拶。巨漢にアマガエルのような愛嬌のある小さな顔がとってもチャーミングな方です。1曲目は《 New Boogaloo 》という彼の新曲でスタート。ハンコックの《 Watermelon Man 》を連想させる軽快な曲です。2曲目は最新作『 Big Boogaloo 』(前項あり)からいかにも“ Keithy ”らしい抒情的美曲 ≪ Trastevere ≫を披露。しかし,そんな素敵な雰囲気を乱すかのように上空をジェット機が爆音をたてて通り過ぎ,デパートの商品案内の放送が飛び交います。2曲目が終わったところで,ステファン・ベルモンド(tp)がステージに登場。レニーニが彼のために作ったという『 Big Boogaloo 』に収録されていた《 Soul Brother 》を演奏しました。ステファン・ベルモンドのリーダー作は2004年にB-flat から発売されたスティービー・ワンダー集『 Wonderland』(前項あり)しか聴いておらず,僕の中では今ひとつイメージが固定されていないトランぺッターでしたが,この吹き手が実に魅力的な人でした。質朴な中にも力強さを感じ,情緒の機微をきめ細やかに歌い上げる様は,まさにフランスのアート・ファーマーと比喩してもおかしくない逸材かと。日本ではほとんど話題にならない人ですが,本国ではかなり人気があるようです。まあ、そんなオブスキュアな現在の立ち位置に、逆に僕なんかは魅力を感じてしまうわけですが。4曲目は一転してスタンダード・バラード ≪ Darn That Dream ≫ です。ベルモンドはフリューゲルホーンに持ち替えて朗々と歌い上げます。それほど饒舌でないところがむしろ味があって良いのですね。量よりも質をひたすら追い求めているその姿勢に共感します。5曲目はタイトルのアナウンスなしで始められたモードの楽曲。Fドリアン,16小節,一発もの。マッコイ風に鍵盤を縦横無尽に駆け巡るレニーニ。多面体的才能を垣間見せる瞬間でした。ここでゲストのフラビオ・ボルトロが登場。僕は力いっぱい拍手したのですが、会場の反応はイマイチ。「だれこの人?もう一人トランペット?」みたいな反応でした。会場の一部では歓声が上がり、局地的に盛り上がっていましたが。7曲目はやはり『 Big Boogaloo 』に収められていた ≪ Mojito Forever ≫。ラテンタッチの陽気な曲。アルバムではジュリアン・ラウロー(its)とベルモンドの2管でしたが、ここではボルトロ=ベルモンドの2管で演奏されました。そして最後は『 Big Boogaloo 』のタイトル曲 《 Big Boogaloo 》をベルモンドとボルトロで熱唱し,楽しい70分間のライブは終了しました。

ライブ終了後に恒例のサイン会が行われました。レニーニの『 Antraigues 』と『 Big Boogaloo 』が販売されており、購入者にサインをしていましたが、ほとんどサインの列に並んでいるお客はいませんでした。ちょっとレニーニ、可哀そうだったかも。一枚ぐらい彼の写真を撮りたいな~と思い、スタッフに許可を求めましたが、基本的にダメ、との事。欧米ではコンサートの写真撮影や録音など、ほとんど規制がなく、録り放題なのに、まったく日本人は真面目と言うか何と言うか、も~。すでに持っている『 Antraigues 』でも買ってサイン貰おうと思ったけど、止めて会場を後にしました。

2007年11月3日(土)Eric Legnini Quartet with Flavio Boltro @銀座松坂屋屋上
15:00 ~ 16:20

1. New Boogaloo
2. Trastevere
3. Soul Brother
4. Darn That Dream
5. Unknown ( Fm7 one mode )
6. Mojito Forever
7. Big Boogaloo

つづく

Eliane Elias 『 Something For You 』

2007年11月02日 23時37分05秒 | JAZZ

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古巣サムシンエルス移籍第一弾となるイリアーヌの新作は、ビル・エバンスに縁のあるスタンダードを集めた企画作品です。

最近、特にBMGに移ってからのイリアーヌは、以前にも増してヴォーカルに比重を置いた作品作りをしてきました。04年のヴォーカル作品『 Dreamer 』が好セールスを記録したのに味を占めたイリアーヌは、06年にはロック系のプロデューサーを招いて、POPS/ AOR 路線に趣向を変えた作品『 Around The City 』をリリースしました。しかし正直なところ、ジャズ・ファンからはあまり評判は良くなかったと記憶しています。個人的にも、ヴォーカリスト・イリアーヌよりも、ピアニスト・イリアーヌの方が好きなので、最近の彼女のヴォーカル路線には寂しさを感じずにはいられません。ダイアナ・クラールがピアノを捨て( 彼女もかなりピアノが上手い),ヴォーカルに徹することで名声を手に入れたことに、少なからずイリアーヌ(およびレコード会社)も影響されているのかもしれませんね。

そんなわけで、彼女のクールでスインギーなピアノを聴きたいと思うと、近年の作品では2000年の『 Everything I Love 』( Blue Note ) まで遡らなければなりません。これは、彼女の真価である力強さと繊細さ、あるいはスイング感と叙情感が絶妙なバランスで表現された素晴らしいスタンダード集で、目下、僕の一番の愛聴盤です。もう少し前の作品では、 Danish Radio Jazz Orchestra との共演盤『 Impulsive ! 』( 1997 Stunt ) (前項あり)も隠れた名盤です。さらには彼女のデビュー作『 Illusions 』( 1987 DENON ) もやや軽めですがなかなか美しいピアノ作品でした。

こうして見ると、意外に彼女のピアノ作品って少ないのですが、今回は約半数の曲にヴォーカルが入っているものの、久し振りにたっぷり彼女のピアノが楽しめる素敵なエバンス・トリビュート作品に仕上がっています。

ところでイリアーヌのエバンス愛奏集って、ちょっと意外な感じもしましたが、そう言えば、02年にハービー・ハンコック、ボブ・ジェームス、ブラッド・メルドー、イリアーヌの5人がエバンス愛奏曲をカヴァーした作品『 Portrait of Bill Evans 』( JVC )で、彼女は ≪ Come Rain or Come Shine ≫ と ≪ If You Could See Me Now ≫ を演奏していました。5人の中でも特にイリアーヌは元曲をリモデリングぜす、エバンスの奏法を極めて忠実に再現した曲作りをしていました。

ふと思ったのですが、イリアーヌというピアニストはかなり器用な人です。ステップス・アヘッドでのフュージョン物もできれば、もちろんボッサも得意。モーダルなフレーズもカッコいいし、かと思えばエバンス・ライクな叙情的フレーズもいける。そして、意外に力強いスイング感溢れるソロも驚くほど巧い。

何所かに書いてありましたが、彼女は10代前半には全てのスタンダードを演奏でき、更には、レッド・ガーランド、オスカー・ピーターソン、ビル・エバンス、ハービー・ハンコック、キース・ジャレットらのソロを譜面におこし、分析、研究し、あらゆるジャズに対応できるバーサタイルなスキルを身につけていったと言われています。

閑話休題。さて、本作はボーナス・トラックを含め全18曲という大盛り作品ですが、どれも3分から4分の短尺な曲が並んでいます。この中には、本作制作の契機となったマーク・ジョンソン所有のエバンス未発表曲2曲が含まれています。その2曲のうちの1曲 ≪ Here Is Something For You ≫ では実際のエバンスの演奏テープが使用され、その演奏を受け継ぐ形でイリアーヌのソロに移行していく、といった凝ったギミックも用意されていています。更には、2曲のみですが、マーク・ジョンソンがスコット・ラファロの愛器を弾いている、というおまけ付き。まあ、実際に音の違いは僕には全然わかりませんけどね。

確かに出来の良い作品だと思います。選曲も意外性があり楽しい。聴けば聴くほど味が出る。数あるエバンス・トリビュート作品の中でも最上位に位置付けされる秀盤ではないでしょうか。惜しむらくは、もう少しヴォーカル曲のウエイトを減らしてくれればもっと良かったかと。そして歌うなら英語ではなくポルトガル語で歌ってもらえればよかったな~って。ボサノバを歌うイリアーヌに馴染んでいる耳には、英語で歌うイリアーヌに違和感を感じてしまうのですね。でも、なんだか、昔より歌、巧くなったな~、彼女。


Eliane Elias  『 everythig I Love 』  2000 Blue Note
オープニングは彼女のオリジナル ≪ Bowing To Bud ≫ (バド・パウエルに会釈して)で始まりますが、それ以外はスタンダードばかり。兎に角、「イリアーヌって、こんなにご機嫌にスイングするのか~」と、驚くばかりです。ボッサ・イリアーヌの対極に位置する好盤です。なお、≪ Bowing To Bud ≫ は、99年のステップス・アヘッドの同窓会的ヨーロピアン・ツアーをおさめた2枚組ライブ盤 『 Holding Together 』でも演奏されています。


Eliane Elias & The Danish Radio Jazz Orchestra  『 Impulsive ! 』  1997 Stunt
最近、やや元気のない Danish Radio Jazz Orchestra  ですが、本作はイリアーヌの客演によって素晴らし作品に仕上がっています。彼女のソロは絶品です。


Eliane Elias  『 Illusions 』  1987 DENON
20年前のイリアーヌのデビュー盤。透明感、爽快感の漂う、何処となくデヴィッド・フォスターを彷彿させる作風です。


Eliane Elias, Dave Grusin, Herbi Hancock, Bob James, Brad Mehldau
『 Portrait of Bill Evans 』 2002 VJC
ハンコックだけ、ふざけたようなオリジナル曲を演奏していますが、他の4人はエバンスの遺伝子を受け継ぐ叙情性豊かな名演を披露しています。