雨の日にはJAZZを聴きながら

FC2 に引越しました。http://jazzlab.blog67.fc2.com/

Moutin Reunion Quartet 『 Sharp Turns 』

2008年01月05日 22時07分04秒 | JAZZ
新ブログhttp://jazzlab.blog67.fc2.com/もご覧ください。

2005年の 『Something Like Now 』 (前項あり)が滅茶苦茶カッコよく、日本での人気を決定付けたのも記憶に新しいフランス人双子の兄弟ユニット、Moutin Reunion Quartet の通算4作目となる新作。今回も前作同様、リック・マーギッツァ(its)、ピエール・ド・ベトマン(p)が参加しています。

さて、本作はその発売前から話題になっていた Dual Disc 形式をとった作品なのです。このDual Disc とは、片面が音楽CDで、もう一面がDVDになっている両面型ディスクのことで、米国は既に3年ほど前から発売されており、徐々にカタログ数を増やしている規格なのです。一見、非常に便利で合理的な規格に思えますが、ちょとばかり厄介な点があるのですね。というのもDVD面に関しては問題ないのですが、CD面が再生できないことがあるようなのです。

CD面はCD規格である Compact Disc Digital Audio に準拠していないため、一部のプレイヤーでの再生を保証していなのです。確かに本作の裏ジャケに虫眼鏡でしか読み取れないような字で、“ May not play on a limited number of models ” と明記されていますし、Dual Disc のOfficial Web Site にも “ The CD side plays on all but a limited number of CD and DVD models.”と注意書きがありました。

そんなことも知らずに自宅のiBook のスロットローディング方式のコンボドライブに挿入したら、全くマウントされず、かと言って強制排出もされず、再起動して何とか取り出すとこができたという冷や汗をかいてしまいました。 また、我が家のメイン・システムのCDプレーヤー: Victor XL-Z900 ではCD再生できるのですが、プライベート・ルームのCD プレーヤー:sonny 555ESJ (かなり古い機種です)では認識されませんでした。このDisc を横から見ると2枚のDiscを張り合わせていることがよくわかり、よって通常のCDよりも厚みがあるわけですね。そんなわけで、うまくCD再生できないのもあり得る厄介な規格ということで、購入にあたっては十分注意してください。

閑話休題。2002年の第一作『 Power tree 』や2003年の第二作『 Red moon 』を初めて聴いた時は、ウェザーリポートの楽曲をアコースティック楽器で現代風にシュミレートしたようなカッコよさが印象的だったのですが、作品を重ねるごとにバンドとしての成熟度がアップし、特にムタン兄弟の作曲、編曲力のクオリティーはどんどん高まってきているように感じます。今回の最新作を聴いても、≪ ウェザーリポートから派生する一亜系 ≫ として簡単にカテゴライズできない凄味を感じます。

基本的にはノン・フォー・ビート、変拍子系でグルーブする楽曲が中心ではあるのですが、絶妙にフォー・ビートを挟み込み、そして、ビート、リズムを極限まで細分化して変幻自在に操るこの双生児リズム隊の個性は他に類を見ません。やはり同一の塩基配列を持つもの同士のコミュニケーション力って不思議ですよね。この2人だけのデュオなどは、“ Interpaly ”というよりはむしろ“ Innerplay ”と呼ぶに相応しい一体感がありますから。

DVDの方は、全て前作『Something Like Now 』を演奏しているライブ録音です。約90分の映像ですが、一曲ごとにインタビューが入るのがちょっと煩わしい感じがします。インタビューはほとんど飛ばして見ちゃいましたが、冒頭のインタビューで二人とも正式な音楽大学での教育を受けていないと言っていました。しかもフランソワは大学で物理学を学び、ルイはエンジニアや数学の勉強をしていたと言うから二人とも秀才なのですね。吃驚しました。

映像はアスペクト比16:9 で、映像はとりわけ奇麗というわけではありませんが、固定カメラ3~4台、ハンディー・カメラ1台で撮影され、カット割も少なく、非常に見やすい映像です。個人的には前作の楽曲の方がカッコいいと思っているので、このDVD面はとっても嬉しい特典であります。

ところで、フランソワ・ムタンのアップライト・ベースのテクニックは凄いです。特にハイ・ポジション、いわゆるサム・ポジションでの人間ワザとも思えない超絶技巧の指使いには開いた口がふさがりません。通常、サム・ポジションでは左手親指は指盤の上にアンカーとして置いておくだけで、あまり押弦しないのですが、彼はごく普通に親指で押弦しフレーズを作っていくのです。しかも時には親指でグリッサンドもしちゃうし。親指押弦だけでもかなり痛いのに、グリッサンドなどしたら普通は血が滲みますよ。

そう、アップライト・ベースというのは、痛い楽器なのです。ドラム、サックス、ピアノなどのほかの楽器に比べて、音を出す行為に痛みを伴うのです。そのあたりのことは、楽器を実際にやってみた人にしかわかりませんが。しかもサム・ポジションでの早弾きでもピッチが狂わないし。ベースをソロ楽器として扱うにはこのくらい指盤上を縦横無尽に動き回れないとダメだということですね。とんでもなく凄いテクニシャンです。

ということで、総じて彼らは演奏レベルが超高度であるため、聴き飽きることもなく、長く愛聴できる作品ばかりですが、本作も期待どおりの傑作であり、欧州ジャズ・ファンのマスト・アイテムになること必至だと思われます。