雨の日にはJAZZを聴きながら

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Ted Rosenthal 『 My Funny Valentine 』

2008年01月20日 11時31分04秒 | JAZZ

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2006年に『王様と私』でヴィーナスレコードから国内デビューしたテッド・ローゼンタールの同レーベルからの第二弾。前作は一般的にはあまりなじみのないミュージカルからの組曲でしたが、今回は一転して彼が伴奏をつとめているヘレン・メリルの愛唱歌集となっています。あま、愛唱歌と言っても11曲全曲が子供でも知っている超スタンダード・ナンバーですが。ヴィーナスのプロデューサー原氏からの提案で実現したこの企画のようですが、前作『王様と私』がマニアックな企画でセールスがイマイチだったのでしょうかね。2作目がコケたら後がないローゼンタール。起死回生の一打になるか?

とりあえずスタンダードを聴いてみたいというジャズ初心者。誰も聴いたことのないマイナーなミュージシャンを探し求めるジャズ・マニア。美しいジャケに目がないジャケ買い派。そして素晴らしい録音盤が三度の飯より好きなオーディオ・マニア。これらの音楽ファンの集合体がとりもなおさずヴィーナス・レコードの購入者であるわけですが、前作は未知なるマイナー・アーティスト好きなジャズ・マニアには評判は良かったものの、ジャケットも不気味だったし、題材も渋すぎて、なかなか購入を躊躇する方も多かったのではないでしょうか。

というわけで、ローゼンタールを先程から“マイナー・アーティスト”と呼んでしまっていますが、実は88年の≪セロニアス・モンク・コンペティション≫のピアノ部門で優勝という華麗なる実績を持つピアニストなのです。その割には日本ではほとんどをの名前は知られていません。個人的は、寺島靖国氏の2001年の著書『新しいJAZZを聴け!』(宝島社新書)の中で、『 Rosenthology 』(1996 concord)が紹介されていたのが彼の名前を初めて知ったきっかけで、非常に印象に残っています。というのも、著書の中で≪テッド・ローゼンタールはモンクのピアノ・コンペで入賞した人。グレッグ・コーエンやデイヴ・ダグラスといった危ない人たちとも付き合っているが~≫と書かれてあったからです。確かに一回だけグレッグ・コーエンの作品に参加したことはありますが、一回きりですからね。一回だけ不良と付き合ったからといって、一生、不良扱いされるのもかわいそうというものです。それに、グレッグ・コーエンもデイヴ・ダグラスも、決して危ない人たちではありませんし。

閑話休題。全11曲すべてがスタンダード。それも超有名な曲ばかり。こんなベタな選曲ができるのは原氏以外に誰がいるでしょう。しかし、そんなアーティスト側からすると難しい演目にもかかわず、ローゼンタールはその手垢にまみれたスタンダードを華麗にリアレンジし、希有な歌心をもって甘酸っぱい美メロ・アドリブを紡ぎだし、聴き手を魅了します。これは素晴らしい出来栄えです。特に高音部でのコロコロと単音で転がすラインは、ウイントン・ケリーを彷彿させます。古いものと新しいものともミクスチャー感覚が絶妙なんですね。

録音は近年のヴィーナスレコードの定番となりつつあるキャサリン・ミラー女史。そして原オーナーの理想とする音をマスタリング・エンジニアである北村修治氏が具現化し、いつものヴィーナスのあの音が作られています。ヴィーナスの音は賛否両論はありますが、個人的には好きです。オン・マイクでマイキングした音を分厚く音圧高くし、中低域をブーストしたような音像は、やや不自然な印象も受けますが、いかにもライブの最前列のややベーシスト寄りでがぶりつきで聴いているような臨場感があります。

ということで、非常に優れたピアニストであり、48歳とまだまだ若いですから、これからもヴィーナスレコードから作品が制作されていくと思われますが、あんまり出し過ぎるとエリック・アレクサンダーやエディー・ヒギンズのようにファンに飽きられてしまいますからね。程々にしてほしいものです。