部活日誌

部活動(ひとり文楽部)の記録など

二段目  「掛乞の段」 「万歳の段」

2010-04-29 | 文楽
上演の順番とは違いますが、ここでは狂言の順番通りで行きます。でないと、ただでさえ常からもやもやした頭が余計こんがらがる故。


●二段目

【掛乞の段】

ここと、次の『万歳の段』、すごくいいです。私はとても好きなところ。
この二つの段での芝六一家の温かさがあるからこそ、後の悲劇がより悲しくなるんですねー

『猿沢池』で求馬が打った小芝居によって、天皇御一行はなんと、猟師芝六のあばら屋に匿われてたんですね。
天皇は目が見えていないので御所だと信じているんですが、それをみんなでうまくごまかすわけです。
そんなばかな、なんだけど、「そんなばかな」はもうお約束、さらっと流すに限る。


芝六の家で妻のお雉と天皇のお付の女中たちが仲良く米粒を選っているところに、芝六親子が奈良の町で着物を買って帰ってくるんだけど、そこからがほんっとにいい!

相子大夫が笑わせながらもしみじみとさせてくれました。

芝六が、「こんな狭い家の中で長いものを着て引きづったら、裾踏んで転けさっしゃろ」
と、宮中のお召し物のまま芝六の家にいる大納言と女中に庶民の着物を渡して着替えさせます。
みんなにこにこ楽しげに着替えるんだけど、どてらを着た大納言に
「根っから似合わぬご装束」
「矢背のげらを見るような  (※「矢背のげらって何?)
 名も変えて、“だいな ごんべえ”さま」」

ぶーーっ、“だいな ごんべえ”さま、って・・・ か、かわいいボケだ!

大納言、この段では終始いい味出してます。
借金取りとのやりとりもほのぼの。 
そしてそんな大納言たちにお腹は空いてないか気を配り、しつこい借金取りも投げ飛ばす芝六は、本当にいい男。

相子さん・清丈'さんコンビがこのほのぼのした段にぴったり合ってました。
相子さん・清丈'さんコンビがこのほのぼのした段にぴったり合ってました。

二回言ってみました。大事なことは先生、二度言います。



【万歳の段】

いいですか。この段で私は決定的に「求馬め~!」と求馬を嫌いになりますよ。

芝六のあばら家を御殿の中と信じている天皇が、求馬に
「楽人どもを召出し、寿の管弦を始めよ」
と管弦をご所望されると、求馬、「ははぁ、今すぐに!」と調子のいいことを言うんだけど、さあ、困った。こんなところに楽人もいるわけもなし。
芝六に「どうしよー、なんかいい智恵ない?」と泣きつくんだ、これが。

芝六は、しょうがないなー、「私、べれべれ万歳を覚えています。」
と、息子三作に舞わせて自分は昔覚えた万歳を披露してやる羽目に。

求馬! おーまーえーはーー!

天皇ご一行を芝六の家に連れて押しかけてくるだけでなく、そんなことまで芝六頼みかっ。
おまえがせめて唄え!踊れ!

しかも、鹿殺しまで芝六に言いつけやがって・・・

お前はひとつでも何かを実行したのか、と問い詰めたい。
くるくるよく回る頭で
「さすがのオレ、顔だけじゃなく頭も冴えちゃって~、もうほーんとオレって名プロデューサー、って感じ?」
みたいにほくそ笑んでるんちゃうん!?
まあ、和生さんが遣ってるから勘弁してやってるけども。

それに引き換え芝六親子の清清しさよ。簑紫郎さんの三作の舞はとても綺麗で、見ていて目頭が熱くなりました。
母の気持ちとはこういうことね。 って、うちには犬しかいないけど。

とにかく、浄瑠璃にある「土に生ひても穢れなき」とは、断然、芝六親子のことでありましょう、と私は声を大にして言いたいのであります。