SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

GRANT STEWART 「Shadow of Your Smile」

2009年05月13日 | Tenor Saxophone

テナーの音がやたらと太い。
エリック・アレキサンダーも太いが、このグラント・スチュアートはもう一回り太い感じがする。
実はこのCDを聴く前に、ティナ・ブルックスを聴いていたのだが、彼と比べたら確実に10倍は太い。
太けりゃ何でもいい訳ではないが、やっぱりこれがテナーという楽器が持つ本来のポテンシャルなのではないかと思うのだ。
そのテナーの魅力を存分に発揮して成功したのがソニー・ロリンズである。
50年代の彼は直感的なアドリヴのすばらしさと、その太い音色で一世を風靡した。
私はサックスなど吹いたことがないが、シロウトの私にもこういった音は誰でも出せるものではないことくらいは知っている。
「ロリンズみたいに吹きたい」と思っても、出てくる音は実に頼りない。世の中にはそんな風に感じているジャズプレイヤーがどれだけいるだろうか。
実際、ロリンズも血のにじむような練習をした結果、あの豪快なブローが可能になったと聞く。
おそらくグラント・スチュアートもそうに違いない。
でなければ、こんな豊かな音にはならないだろう。

グラント・スチュアートは1971年生まれだから、現在30代後半である。
ロリンズの30代後半は過渡期だった。
時代は60年代も半ばを過ぎ、コルトレーンやエレクトリック楽器に押されて、自分を見失っていた時期である。
私もこれ以降のロリンズはほとんど聴かない(何枚かの例外はあるものの)。
何がそうさせるかというと、第一に若い頃の太くてたくましい音が聞けなくなってしまったからだ。
これは年齢によるものか、楽器そのものの変化によるものか、はたまたロリンズ自身の志向が変わったせいかはわからない。
ただ彼特有の魅力が半減したことだけは確かである。
そういった意味においてもグラント・スチュアートはこれからが大事である。
枯れていくならそれもいいが、ロリンズの二の舞にだけはならないよう祈っている。