SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

KETIL BJORNSTAD 「Floating」

2009年05月24日 | Piano/keyboard

澄んだ空気の中で響き渡るピアノ。
やっぱりノルウェーの音だ。
大きく切れ込んだフィヨルドの海岸線を、船に乗って湾内から見上げるとこんな音が聞こえてきそうだ。
Floatingというタイトルが示すように、水の上をプカプカ浮いているような感覚が心地いい。
加えて、小さかった頃に聴いた童謡にも似た懐かしさがこみ上げてくる。
きっとメロディにトラディショナルな部分があるからだろう。
これは日本人でも充分共感できる音だ。
これほど音楽に国境はないということを実感させられるアルバムもない。

ケティル・ビョルンスタは根っからの詩人である。
彼は短い言葉、例えば「夏の終わり」「夕暮れの空」といった類の言葉から連想されるイメージを、彼なりの方法で音に変換しているように思う。
そうでなければ、これほどまでに情景が浮かぶ音を作ることはできないのではないだろうか。
コテコテのジャズからはこうした感情はなかなか得られない。
要するにECM的なサウンドかと聞かれればそうともいえるが、そんな風ないい方で片付けたくはない作品だ。

このアルバムの魅力は強力なパレ・ダニエルソンのベースと、爽やかなマリリン・マズールのシンバルワークにもある。
先日マリリン・マズールの「エリクシール」も聴いてみたが、やっぱり実力者が奏でる音は深みが違うと思い知った。
ここではベテラン3人の余裕たっぷりな掛け合いをじっくり楽しもう。
ただほどほどにしておかないと、感極まって涙まで溢れてきそうだ。