SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

GENE KRUPA 「THE GENE KRUPA SEXTET」

2007年11月13日 | Drums/Percussion

背中を丸め、首を突き出し、観客の目を精一杯意識しながら叩く。
これがジーン・クルーパのドラミングスタイルだ。ドラムという楽器が自己主張を始めるきっかけを作ったのが彼なのだ。
彼はドラムソロになるとフレーズとフレーズの短い間に左手を高く上げ決めポーズをとる。「おいおい、そんなことをしたら肝心のリズムが崩れるじゃないか」と一瞬思うのだが、彼が叩くリズムは驚くほど正確だ。
但し私はこういう彼の姿を見て、スイング・ジャズ或いはベニー・グットマン・オーケストラに違和感を覚えてしまった。何か古い三流コメディ映画を観ているような感覚になるからだった。つまり彼のポーズそのものがとてもギミックに感じてしまったのである。
しかしこのアルバムを聴いて、彼はもちろんのこと、スイング・ジャズへの思いを新たにすることができた。それくらいこの作品は私にとっての重要盤なのである。

まず最初の2曲であるが、この2曲だけは他の曲よりも半年ほど新しい録音だ。
ここでの主役は何といってもベン・ウェブスターである。バラードを吹かせたら彼は当代随一だ。あのすすり泣くようなビブラートはどんなテナーマンよりも個性的である。柔らかなテディ・ウィルソンのピアノや芥子色のミュート・トランペットを吹くチャーリー・シェイヴァースとの対比がすばらしい。あまり目立たないがそれをうまくつなげているのがクルーパのブラシのように思えてならない。私はこの控え目で驚くほど生真面目なドラミングにジーン・クルーパという人の本当の姿を知ったのだ。
3曲目以降はベン・ウェブスターでなく、ウィリー・スミスのアルトがシェイヴァースと共に大活躍。全体が軽やかになって当時の匂いがプンプンし始める。
ジーン・クルーパは肝心なところでスティックを硬めのスネアにカツーンカツーンと叩き込む。この音が実に鮮烈なのだ。
ジャケットのイラストを描いたデヴィッド・ストーン・マーチンは、このスネアに入った鮮烈な音の集まりをモチーフにしたのだと思う。これまた見事な表現である。地色がオレンジなのもいい。
一度スネアを叩き出したらもうスティックの雨あられだ。



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