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SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

ERIK SMITH TRIO「FINGER MAGIC」

2007年08月13日 | Drums/Percussion

ジャケットだけを見て退いてはいけない。
何しろこのトリオ、メンバーがすごいのだ。ピアノは先日ご紹介したロイ・パウエル、ベースはヘルゲ・リエン・トリオのフローデ・ベルグ、リーダーはドラマーのエリック・スミス。それぞれの出身は違っていても今をときめくノルウェーの精鋭たちだ。
このメンバーなら何も躊躇することはない、東京のCDショップで速攻ゲットした。
演奏内容は「生きがいい」の一言に尽きる。ノルウェーだからといって暗く寒々しいイメージは感じられない。全員が自信を持った演奏をしている。
曲の構成はというと、全10曲中ロイ・パウエルが5曲、フローデ・ベルグが1曲、その他はアントニオ・カルロス・ジョビンやリチャード・ロジャース、マイルス・デイヴィスの曲をそれぞれ1曲ずつ取り上げている。
この中で特に印象に残るのがマイルスの「ALL BLUES」だ。エリック・スミスのドラムスがすばらしくいい。バスドラムからスネア、タムタム、ハイハット、クラッシュシンバルに至るまでそれぞれのパーツがくっきりと浮かび上がっている。スティックの太さや材質まで手に取るようだ。これはもうドラムによるオーケストラといっていい。

このアルバムはガッツ・プロダクションからの発売によるものだ。
このレーベルはシンプル・アコースティックトリオやコニー・エヴィンソンなど北欧モノに力を入れている日本のレーベルだ。音にもかなり迫力があって私の好きなレーベルのひとつである。デジパックが豪華なのもいい。
但し惜しいかなジャケットデザインが今ひとつなのだ(このアルバムは今ふたつ)。
せっかくいい内容なのにこれでは売れそうもない。下手な写真はやめて無地にした方がまだ救われる。

ALEX RIEL,LUTZ BUCHNER QUARTET 「live at jive」

2007年07月17日 | Drums/Percussion

ドラマーというのは損な役回りだ。
この作品でもアレックス・リールが主役だというのに、メロディを奏でることができない楽器の宿命で、ただひたむきにリズムを刻むしかないからだ。
しかし彼はそれでもなお絶対的な存在感を示す。
ドラマーは個性的でありすぎてもいけないと思っている。自己主張する以前に全体をいかにコントロールするかが自分に科せられた仕事なのだ。つまり各プレイヤーの名演を引き出せるかどうか、これがいいドラマーかどうかの試金石になる。

彼はヨーロッパを代表する現在最高のドラマーの一人である。その証拠に彼が参加した作品はどれもこれも高い評価を得ているし、人気盤になっているものが多い。彼と組みたいジャズプレイヤーは数え切れないのではないだろうか。
このアルバムは、ヨーロッパの人気者を集めたとびきり元気溢れる内容になっている。
ここでのもう一人の主役はドイツ人のルーツ・ブッフナー(ts)だ。
以前ジョン・ハモンドのアルバムで彼を聴いた覚えがある。
彼のテナーはコルトレーンばりの勢いを持っていて、ノリのいい骨太の音が全編に渡って鳴り響いていく。
それに釣られるように全員が一丸となって熱いソロを演じているが、ピアノのカーステン・ダール、ベースのイェスパー・ルンゴーはいつ聴いてもシャープである。特に4曲目の「SECRET LOVE」における両人のモーダルなソロは一聴に値する。
こうした演奏を引き出しているのもアレックス・リールという男が演奏の要にいるからなのだ。

この作品はタイトル通りライヴであり、スタジオ録音よりも遙かに熱気を帯びている。従って個々の演奏時間も長くなっているし、時折会場から入るかけ声や拍手を聞くだけで、いかに彼らの演奏が観客を魅了しているかがわかる。
要するにライヴにはライヴなりの音があるということだ。ここはボリュームを目一杯上げて聴くのが正解。

JOE FARNSWORTH 「DRUMSPEAK」

2007年06月27日 | Drums/Percussion

個人的な短いジャパンツアー?を終え、帰ってきた。
3日も日記を書かないとそれなりに後ろめたい気がする。そこでそうした気持ちを吹き飛ばしてくれそうなアルバムを取り上げたいとCD棚の前で腕組みをしながら考え、最近購入したばかりのジョー・ファンズワースを取り上げた。
このアルバム、とにかくメンバーが華やかなのだ。
彼の師ともいえるカーティス・フラー(tb)、ベテランのスティーヴ・ネルソン(vib)、レイ・マンティラ(per)、ワン・フォー・オールの仲間であるエリック・アレキサンダー(ts)、ジム・ロトンディ(tp)、デヴィッド・ヘイゼルタイン(p)、そして人気者ナット・リーヴス(b)といった面々が顔を揃えている。
カーティス・フラーに敬意を表するからか、出だしの曲はコルトレーンの名曲「ブルー・トレイン」だ。あの名作が発表されてから既に50年が経っているが、フラーの音色は未だに衰えない。考えてみればすごいことだ。
この曲はカーティス・フラーが参加したために名曲になった。彼の生み出す音色が深くてぶ厚い音の帯を創り出しているのだ。アンサンブルにおけるトロンボーンの重要性を知ったのはこの時が初めてである。
彼自身、あれから半世紀後に若いメンバーと一緒にこの曲を吹くことになるとは思ってもいなかったであろう。ファンズワースの彼に対する思いが痛いほど伝わってくる。フラーは幸せ者だ。

他のメンバーの中ではデヴィッド・ヘイゼルタインがとてもいい。普段はあまり目立った弾き方をしない彼だが、ここでは一つ一つのプレイにキラリとしたセンスを感じる。わざとケニー・ドリューの弾き方に似せているようだと勘ぐりたくなってくるような絶妙なスイング感である。
リーダーのファンズワースも相変わらず軽快なシンバルワークを披露している。
今一番乗っているニューヨークの音を聞きたければこれがお薦めだ。

ROY HAYNES... 「WE THREE」

2007年06月16日 | Drums/Percussion

出だしの曲がいいアルバムは印象に残る。
このアルバムの出だしは「RELECTION」。情熱的なメロディがグイグイと私を惹きつける。一度聴いたら忘れない旋律だ。
ロイ・ヘインズのドラムがたっぷりフューチャーされているところが気に入っているし、フィニアス・ニューボーンのスイング感溢れるピアノも、ポール・チェンバースの存在感ある太いベースもいい。ついでに録音がルディ・ヴァン・ゲルダーだから音的にも充分満足できる。
こうなるともうアルバム制作者の勝ちといわざるを得ない。
これは目立ったプレイヤーが参加していない作品の作り方はこうあるべき、といったお手本のようなアルバムなのだ。

しかしなぜこの3人が顔を揃えて一枚のアルバムを作ろうなどと思ったのだろうか。
私がプロデューサーなら「やめておけ」というに違いない。
フィニアス・ニューボーンJrがリーダーならそれもある程度理解できる。あの目眩くピアノを聴きたいという人もいるだろうからだ。或いは彼のブルースを思いっきり聴きたいという人も多いだろう。
しかしここでのリーダーは彼一人ではない。クレジットを見るとロイ・ヘインズが先にきているから、むしろヘインズのリーダーアルバムと捉えられている作品だ。
そこで気がついた。
ドラマーをリーダーにするということは、リズムに着目してもらいたいアルバムだということなのだ。しかもニューボーンだけが主役ではないよといいたい作品なのだ。
そんなつもりになって聴いてみると、確かに頷ける部分が多い。ピアノも肩の力が抜け、その強靱なリズムの上で滑るようにメロディを歌い出す。なるほどこれならニューボーンをここに参加させたわけがわかろうというもの。彼がリーダーだと一人で浮いてしまうことが多いことに気づいていた制作者は、彼にどうやったら最高の演奏をさせるか悩んだ末、こうした配慮をしたのではないだろうか。
お陰で全編に渡ってニューボーンの魅力満載だ。彼のリーダーアルバムよりずっといい。

ART TAYLOR 「AT's DELIGHT」

2007年05月19日 | Drums/Percussion

当時のアルバムタイトルは確かにつまらない。しかし中には例外もある。これなんかは悪くない方だ。
日本たばこ産業の「JT's デライト」というコマーシャルをよく見るが、あれはきっとこのアルバム「AT's DELIGHT」のパクリだろうと勝手に考えている。
大手企業がコマーシャルに使うキャッチコピーだから、イメージ的には人にいい印象を与える言葉なのかもしれない。このアルバムの出来だって良くなければ企業イメージのプラスにはならないだろうから、当然内容は推して知るべしである。
一度見たら忘れないこのジャケットのタイポグラフィも見事だ。ブルーノートの専属デザイナーであるリード・マイルスの仕事である。彼からはずいぶん影響を受けた。特にこうしたタイポグラフィの扱いはどんな先生の指導よりも役に立った。
よくよく考えてみればJT(日本たばこ産業)のロゴもかなりこれに似通ったデザインになっている。ここまでくると影響がないとはいわせない。JTを手がけるデザイナーもきっとコテコテのジャズファンなのではないだろうか。

さて肝心のアート・テイラーだが、彼はもともと名脇役で有名な人だ。
これまでバド・パウエルの「ザ・シーン・チェンジス」、コルトレーンの「ジャイアント・ステップス」、レッド・ガーランドの「グルーヴィー」など、いわば大名盤といわれる録音に数多く参加している。中でも「ジャイアント・ステップス」のドラミングは見事だった。あのコルトレーンのスピードに対して一歩もひけをとらないスティックさばきは、彼が超一流のドラマーであることを物語っていた。
しかしいかんせん彼の存在は目立たない。やはりアーチストではなく職人なのだ。

PETER ERSKINE 「Badlands」

2007年05月16日 | Drums/Percussion

ピーター・アースキンにアラン・パスクァとくればもう何が何でも買いだ。
この二人と私の相性がいいのだ。
ただこの取り合わせによるアルバムを友人に聴かせると、たいてい「どこがいいの?」とくる。
がっかりする気持ちと共に、そんな簡単にわかるはずがない、わかってもらっては困る、という気持ちもある。
で、なぜわからないのかを自分なりに考えてみた。
まず二人の知名度の低いことが挙げられる。ピーター・アースキンを紹介する時は、「ウェザーリポートのドラマーだった人だよ」というのが日課になってしまった。「ウェザーリポートって何?」っていう人には処置の施しようがない。「とにかくベテランのドラマーだよ」と言い放つのみ。
アラン・パスクァはピーター・アースキンより説明が難しい。アラン・ホールズワースと組んでいた人だといっても誰も反応しない。「そういえば寺井尚子のバックでもピアノを弾いていたなぁ」なんていうと、10人に1人くらいは反応してくれる。こちらも最後には「とにかくベテランのピアニストなんです」というしかない。
ほとんどの人はこの段階で真剣に「聴きたい」「聴いてみよう」というモチベーションがダウンする。
次に選曲である。この「Badlands」もほとんどが彼らのオリジナルで占められている。曲はもちろん悪くない。但しこのように聴いたことがない曲ばかり並べられては、初めての人にとって判断材料が乏しくなる一方である。要するに他の人と比べていいとか悪いとかの判定が下せないのだ。
だから結果的に「どこがいいの?」となる。
しかしこのアルバムにはラストの1曲に誰でも知っているスタンダードがあった。「You And The Night And The Music(邦題:あなたと夜と音楽と)」である。ここにきて初めて聴く人の反応が現れた。
「ちょっといいかもね、この人たち」

CHICO HAMILTON QUINTET「Featuring Buddy Collette」

2007年04月07日 | Drums/Percussion

ユニークな楽器編成によるウエストコーストジャズの傑作である。
何せ中心にいるのがチェロなのだからなかなか手強い。

このアルバムの邦題は「ブルー・サンズ」。映画「真夏の夜のジャズ」で有名な主題歌が納められているからだ。
しかしこの名曲といわれるブルー・サンズ、確かにいい曲だとは思うが今以て好きになれない。バディ・コレットの吹くフルートは実に美しく正に名演ではあるが、チコ・ハミルトンのドンドコ・ドンドコいうドラムと、ジム・ホールのギターの音色が何だかとても古くさ~い感じがするのだ。
このアルバムで重要なのは、むしろB面(CDなら後半)である。
特に7曲目の「スペクタキュラー」からラストの「バディ・ブー」までは気を抜けない。ここでのチコ・ハミルトンは、圧倒的なリーダーシップをとってこの変則クインテットをまとめている。
8曲目の「フリー・フォーム」でのドラミングなんかは、ボリュームを少々絞らないとスピーカーのコーンが破けてしまいそうだし、9曲目の「ウォーキング・カーソン・ブルース」では一転、ベースの影に隠れて何をしているのかすらわからないくらいに控え目だ。
そしてラストの「バディ・ブー」が彼のベスト。ブラシでこんなに力強いリズムを叩き出せる人は他にいない。
このアルバムは、ドラムの存在感をいやというほど感じさせてくれる作品なのだ。

SHELLY MANNE 「MY FAIR LADY」

2007年03月20日 | Drums/Percussion

オードリー・ヘップバーン主演の同名映画ができる8年も前のアルバムである。
但し、その映画の音楽監督もここでピアノを弾いているアンドレ・プレピンだ。彼はグラミー賞を何度も取っているとおり、ジャズ界のみならずミュージカルやクラシック(ロンドン交響楽団の正指揮者だった)の世界でも有名で、正に才能に満ちた人だった。
こういう人がいると、それまで興味のなかったクラシックも聴いてみようという気になる。だからこういう人をもっともっと評価すべきなのだと思う。

さてさてこのアルバムのご主人はシェリー・マン。ウェストコーストジャズの中心的役割を果たしたドラマーである。
とにかくこのアルバムはジャズ史上空前の大ヒットを記録した人気盤だ。人気の舞台作品をテーマに取り上げるというブームはここから始まったともいえる。それくらい画期的な作品だったのだ。
ここでのシェリー・マンはブラシ一筋だ。ブラシとは、あの泡立て器のような形をしたジャズドラムには欠かせないスティックのことで、これを軽く撫でるようにして微妙なリズムをつくり出す。するとまるで打ち寄せる波のような何とも優しい音色が広がり、私たちを夢の世界に連れて行ってくれるのだ。
このブラシを最初に使った人は本当にエライ。これだけでグラミー賞はもちろん、ノーベル平和賞もあげたいくらいだ。
もしこのブラシがなかったなら、ピアノトリオの魅力は間違いなく半減しただろう。考えるだけでもぞっとする。