徒然なるままに、一旅客の戯言(たわごと)
*** reminiscences ***
PAXのひとりごと
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Boeing777のエンジンについて

昨日の投稿を補足する意味で、ボーイング777のエンジンについて簡単に説明します。

まず、最近のジェットエンジンは、「ターボ・ファン・エンジン」と分類されるエンジンを搭載しており、ボーイング777も例外ではありません。

Turbo_Fan_concept

エンジンへの流入空気を2方向に分けているところが構造上のポイントです。

分けられた空気の一方は、低圧力のファンで圧縮された後にファンノズルを通して大気へ噴出されます。
※この噴出空気はエンジン・ケーシングの外側の長い環状ダクトを通して“ターボ・ジェット・エンジン”部タービンの排気ガスに合流します。

もう一方の空気は、ディフーザー・コンプレッサー・燃焼室・タービン・ジェットノズルから構成される“ターボ・ジェット・エンジン”部へと導かれます。
“ターボ・ジェット・エンジン”部では、ディフーザーから取り込まれた空気が、何段にも並んだコンプレッサ・ブレードを通り圧縮されます。大気圧の10倍程度に加圧された圧縮空気は、燃焼室に送り込まれ、そこにジェット燃料(ケロシン:灯油の仲間です)が注入されて連続的に燃焼します。燃焼後膨張した排出ガスは後方へと噴出しますが、その際に排出ガスがタービンを回転させます。
燃焼直後の高温排出ガスが直接あたる部分が、今回破損が報じられている「高圧タービン・ブレード」です。
排出ガスが回転させるタービンは、同一軸上にエンジン空気流入口のファンを回転させるようになっており、一度燃焼が始まると、自発的に空気を取り込み、圧縮・燃焼・排出のループを繰り返すようになっています。

「ターボ・ファン・エンジン」の特徴として、ファンが(空気を掻き入れる)プロペラの役目をするので、飛行機の速度が、低速~中速時に大きな推力が得られる上に、燃費向上のメリットもあります。
前述したようにエンジンに取り込まれた空気の一方は、エンジン外周部を通り後ろに流れるだけ(それだけでも相当の推力になります)なので、その気流が“ターボ・ジェット・エンジン”部からの排出ガスを包み込むので、騒音軽減(=静かなエンジン)という、現代の民間航空機運航では避けて通れない問題にもプラスの効果をもたらしてくれます。

PW4000_112inch_Fan

米国 Pratt & Whitney 社 PW4000 シリーズのエンジンでボーイング777に搭載されているそれは、エンジンの空気取り込み口のファン口径が、112インチ(約2.8メートル)もあり、それをマウントするエンジン・ナセルの大きさは、ボーイング737の胴体とほぼ同じ大きさにもなります。

タイトルに使った画像をよく見ると、ファンが回転していないので、ファンの向こう(エンジンの後ろ)が透けて見えているのが分かるかと思います。

先に「エンジンへの流入空気を2方向に分け~」と説明しましたが、この二つの比(=燃料に使う空気の重量とファンから吹き出す空気重量との比)を“バイパス比”といいます。PW4084 エンジンでは、このバイパス比が、6.4:1にもなり、大推力に貢献しています。

離陸時~上昇時に、鳥の群れをエンジンに吸い込んでしまう、所謂バード・ストライクは、エンジン最前部で高速回転する112インチ・ファンにぶつかります。このバード・ストライクへの遭遇は決して珍しくないのですが、チタニウム合金の38枚のファン・ブレードで粉々にされて、エンジンの内部にまで損傷を与えることは殆どありません。
また、そのようにエンジンが“異物を吸い込む”状況になっても、ファン・ブレードとその後段の低圧圧縮機(5段からなる拡散チタニウム製ブレード)とその先の高圧圧縮機(12段:8段目までは拡散チタニウム製ブレード、9段目以降はニッケル合金製ブレード)を突き抜けることはまずあり得ず、通常は、ファン・ブレードと低圧コンプレッサの何段目かまでを検査すれば十分です。それらの検査・整備性向上のため、エンジン・ケーシングは鳥が翼を広げるように、両側が上に開くようになっています。

PW4000_nacelle_opened

このように、通常の整備はエンジンを主翼から外すことなく検査・整備が行なえるようになっています。
エンジン・ファン・ブレードの目視検査は、飛行の都度行なわれますし、機長の Exteria Inspection (飛行前の外部点検)でも、エンジン周りは入念に点検しています。夜間は、強力なビームライトを使い点検を行ないます。

それとは別に、一定飛行時間ごと、あるいは、自己診断機能が何らかのメッセージを出力したときには、エンジンを装着したままの状態で、外部からボアスコープ( borescope )や、ラジオ・アイソトープ(放射性同位元素)などを用いてエンジン内部を検査します。
他にも、エンジン・オイルを分析することで内部の状況を判定することも可能です。

昨日の記事には、
『日航のエンジン整備専門チームと国交省大阪航空局の航空機検査官が22日、関西空港で実施した内視鏡によるエンジン内部の検査で明らかになった』
とありますが、これは、このボアスコープによる検査をしたことを意味しています。

PW4000 シリーズは勿論ですが、最近のエンジンは「モジュール構造」となっていて、検査の結果、不具合が発見されたモジュールのみを交換する“ modular maintenance (モジュール整備)”方式が主流です。

unmounted_PW4098

この写真のように、エンジンを取り外し、検査・整備することは珍しいこととなりつつあります。

『成田空港に運び解体した上で、さらに詳しく調べるという』ということからも、徹底的に追及する姿勢がうかがえます。



777にとって、外的要因(バード・ストライク等)を除きエンジンを停止するというのは、確率論の領域に入らんとしている位、エンジンの信頼性が向上しています。
しかし、ハイテクを駆使して設計し、各種テストを実施、それらをパスした信頼性が高いエンジンであっても、機械であることには変わりありません。機械である以上、“絶対”はあり得ません。
それに加え、双発機である777にとって一発のエンジンが持つ重みは極めて重要です。

ボーイング社では、「777において、2つのエンジンが停止する確率は極めて0に近い」と言っています。確かに、777のプログラムがローンチされてから今日まで、旅客輸送に供した飛行において、2つのエンジンが上空で停止するという事態は発生していません。
が、「停止することは無い」ではないのです。

PW4084 エンジンを搭載した777の初号機が初飛行したのは、1994年6月12日です。初飛行後12年目に突入した777。これからも世界の空で主力機として活躍することは間違いありません。

ボーイング社、エンジンを供給している三社の研究・開発陣に“慢心や過信”は無いことと思いますが....。ある意味で、安全や危機管理への真価が問われる時期なのかもしれません。
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