徒然なるままに、一旅客の戯言(たわごと)
*** reminiscences ***
PAXのひとりごと
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エールフランス358便事故 その後

 エールフランス358便の事故について、カナダの運輸安全委員会( TSB: Transportation Safety Board of Canada )のこれまでの発表を基にまとめてみました。

TSB は、米国の国家運輸安全委員会( NTSB: National Transportation Safety Board )同様、独立した機関であり、航空にとどまらず鉄道、海運、パイプラインと幅広く運輸全般にわたり、事故調査を行っています。本部は Quebec 州の Gatineau にあります。

358便は目的地であるトロント・ピアソン国際空港が悪天候(激しい雷雨)のため、空港付近の上空で15分程度 Holding した後、着陸へ向けた最終進入を開始しました。
副操縦士が PF: Pilot Flying として操縦、着陸を担当しました。
当該副操縦士の飛行時間は約10000時間で、この飛行時間はカナダが定める一ヶ月あたりの上限乗務時間をずっと続けたとしても、到達するのに約10年はかかる飛行時間に相当するそうです。

事故調査に欠かせない Black Box は事故の翌日に事故機から良好な状態で回収されました。その記録状況も極めて良好だそうです。

Black Box の初期解析と目撃証言などから明らかになったこととして、358便は接地点が通常の位置よりもかなり延びていたようです。

機は 148kt (274km/h) で接地しましたが、その接地点は滑走路端から約1200mの地点で、通常の接地帯である約500mの地点よりもかなり接地点が延びています(当該滑走路長は2743m、ILS Glide Slope Usable Length は2363m)。

それに加え、当時の気象状況(激しい雷雨)により、滑走路路面は滑りやすい状態( Braking Action は Poor )にありました。

今回の調査を担当している TSB の Réal Levasseur 氏は、この時点で「滑走路内に停止することは不可能だったのではないか」と推測しています。
"With the runway conditions we had - the water on the runway and the braking action, which was poor - my preliminary estimate was that at that point, there was no way that this aircraft could stop before the end," Levasseur said after an initial analysis of data from the flight recorder and cockpit voice recordings.

Levasseur 氏は同時に、「通常の接地帯である滑走路端から約500mの地点に接地し、滑走路の路面が dry であったならば、問題なく滑走路内で停止できたであろう」とも述べています。

接地後、358便が滑走路終端を飛び出した際の速度は約 80kt (148km/h) と推定されています。

この間、機がハイドロプレーニングに陥ったとの推論もあることに対して、Levasseur 氏は「これまでのところ、それを裏付ける事実は発見されていない」としながらも、「滑走路路面の状態からして、タイヤがグリップを得ることが通常よりも困難で時間を要したであろう」ことにも言及しています。

358便は、滑走路を200mオーバーランし、木が生い茂ったくぼ地( wooded ravine )に機首を下げる格好で停止しました。


着陸の際に機体に落雷があったとの目撃情報に関しては、Levasseur 氏は「機体には被雷した痕跡は見当たらない」とそれを否定しています。


非常脱出口については、2つのドアについて脱出スライドが自動的に展開しなかったことを指摘しています。この件の原因究明には時間がかかりそうです。

当該機は8つの非常口(ドア)を備えていましたが、そのうち4つは火災や機体外部の障害物のために乗務員が使用しない判断をして閉め切り、残りのうちの2つについてはスライドの展開に問題がありました。結局、スライドに問題があったドア(一つは展開したスライドが膨らまず、もう一つはスライドそのものが展開しなかった)を含め、4つの非常口(ドア)から緊急脱出が行われたそうです。


航空機の操縦系統およびエンジンについてですが、これらには特に不具合は無かったようです。

Thrust reverser (エンジンからの排気ガスの流れを変えて制動力として用いる仕組み:俗に逆噴射と言われている)は、着陸の時点で4基のあるエンジンの全てが正常に動作していたとみられ、エンジンは衝突時まで正常だったと述べています。

Reverse Thrust は全制動力に占める割合は5~10%であり、主たる制動力はタイヤホイールに装着されたディスクブレーキと主翼面のスポイラーから得られる訳ですが、接地後、ブレーキもスポイラーは正常だったと Levasseur 氏は述べています。
"As the aircraft wheels touch down, we see the brakes being applied right away, we see the spoilers coming up and we see the thrust reversers also being activated on all four engines," Levasseur said.



機体側に重大な問題が発見されなかったことを受け、調査の焦点は事故当時の気象状況に移っています。

Levasseur 氏は「天候は疑う余地の無い要因であり、もし私が“天候が要因ではない”と言ったなら、あなた方は私を信用するとは思えない」と記者団に語っています。

加えて、「 Wind Shear (風の急変)に関しては、未だ言及できる段階に無い」としながら、今後は気象の専門家が調査に加わるとしています。
また、「 Wind Shear は一つの可能性に過ぎず、それに捕らわれることなく他のあらゆることも視野に入れる」と述べています。


気象データ(レーダ)を解析したところ、358便の着陸時に、着陸滑走路である Runway 24L の周辺は強烈な雷雨の中にあり、レーダのデータでは、滑走路に直交する方向から 33kt (16m/s) のガストの記録があるようで、358便がガストに遭遇したのは明白であろう、とカナダ気象局のスポークスマンは述べています。



最終的な事故報告書が出るのは、まだ先のことで、約1年位はかかると思われます。

が、事実を一つ一つ実証し、着実に原因究明を進める姿勢からは、流石、航空先進国であることが感じられます。

事故調査委員は、入院中の機長へも何度かインタビューを行っています。機長は調査にはとても協力的なものの、調査委員との会話の詳細を公にすることは断っているとのこと(操縦を担当していた副操縦士は外傷に加え、精神的ショックとトラウマに悩まされているとのことです)。
Levasseur said his team has talked to the captain and the discussion was "very frank and honest." He declined to reveal any information from that conversation.

乗員と事故調査委員会との強い信頼関係を垣間見ることが出来ます。


メディアも事故調査委員会からのコメントを正確に伝えることが役目と心得ているようで、世論もそうなのでしょうが、何らかの責任追及を迫る視点からの記述はおおよそ見当たりません。

ズバッと言いたいこと指摘しているなと思えた記事でも、トロント空港当局の副局長 Brain Lackey 氏のコメントを紹介した以下の程度のものです。

「当時は悪天候で局員が窓の外を見て“ひどい嵐だ、今までにこんなにひどいのは見たことがない”とコメントした程だった。358便はもう少し天候の良いモントリオールや他の空港へダイバート(目的地外着陸)するに十分な燃料を搭載していた。が“ダイバートするか否かはパイロットの判断だ”」
~ Lackey also said that the jetliner had enough fuel to divert to Montreal or another airport where the weather was better, but "that's the pilot's decision."
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