徒然なるままに、一旅客の戯言(たわごと)
*** reminiscences ***
PAXのひとりごと
since 17 JAN 2005


(since 17 AUG 2005)

手荷物は持たないで下さい

 “安全のしおり”にも、離陸前の Safety Demonstration でも、『緊急脱出時には手荷物を持たないで』と指示されている筈なのですが....。

そもそも、Evacuation (緊急脱出)とは、命を助ける正に“緊急”の手段であり、身の回りの物を持って急いで怪我せず逃げること、ではありません

今年の夏、沖縄那覇空港で中華航空機が Spot In 直後に Evacuation となり、お客様が全員脱出して間もなく、機体が炎に包まれた事故は記憶に新しいことでしょう。

あれが正しく Evacuation なのですが、あのとき、Slide を滑り降りるお客様は身体一つで脱出されていたか、は残念ながら記憶が曖昧です。

もしかして、年末恒例の「今年を振り返るニュース」で取り上げられることがあれば、もう一度、じっくり映像を観てみようと思っています。

己の身がそのような立場になったなら、本当にそのように行動できるのか、イメージ・トレーニングは怠らずに続けるつもりです。

 手荷物は持たないで下さい

 手荷物を持ってはいけません

これ、緊急脱出時の鉄則です。

昨日の投稿でも少し触れましたが、2005年8月にカナダはトロントのピアソン国際空港で発生した、Air France 358 便( Airbus A340-313 )の着陸後のオーバラン~炎上事故の事故調査報告書が先日公表されました。

報告書は、約140頁。異国語との格闘でありましたが、ざっと斜め読み?しました。(小生の「斜め読み」とは知っている単語を拾ってつなげる程度なので、内容把握に程遠いことは推して知るべし)

運航(操縦)、空港設備、気象、など、あの事故当時の状況が明らかになり、なるほど、と思うことが幾つもあるのですが、報告書本文の最後に書かれていた Safety Action - 本邦の報告書で言うところの“建議”に相当するのでしょうか - の中のひとつの項目も重要と思い、ここで取り上げた次第です。

 4.2.5 Carry-on Baggage

として、事故機から脱出した乗客の多くが手荷物を持って脱出したことを取り上げ、手荷物を持っての脱出が“安全”に対する著しいリスクであることを指摘しています。

「手荷物を持っての脱出は、迅速かつ整然とした脱出の妨げとなり、脱出スライドの破損を引き起こしたり、怪我の可能性増大につながる」

として、乗客への(緊急脱出時には手荷物を持たないことを明確に指示する)Safety Briefing を求めています。

下手な誤訳は誤解につながり、報告書の趣旨を損ねますので、当該部分の原文を以下に引用します。良いこと書いてありますよ。

4.2.5 Carry-on Baggage

During the emergency evacuation of AFR358, many passengers took their carry-on baggage with them. In view of the requirement to egress rapidly, this action presented a significant risk to safety. The consequences could include impeding an orderly and timely evacuation, damaging an evacuation slide, and increasing the potential for injury.

Although not required by regulation, Air France safety information cards used on AFR358 included a pictorial that informed the reader that taking carry-on baggage during an evacuation was prohibited. Additionally, in accordance with Air France emergency procedures, during the evacuation, the cabin crew directed passengers to leave their carry-on baggage on board the aircraft.

The effectiveness of these measures is limited, in that existing data suggest that less than half of passengers read safety information cards. Similarly, in the case of AFR358, directing passengers during the evacuation to leave their carry-on baggage behind was less than effective because about half the passengers surveyed indicated that they had attempted to bring their carry-on baggage with them.

Any measure that would assist in raising the passengers' awareness about the hazards of attempting to bring carry-on baggage with them during an emergency evacuation would serve to mitigate the risks. Research has shown that informing passengers during emergency (safety) briefings of the prohibition of evacuating with carry-on items during an emergency would complement existing measures designed to increase the efficiency and effectiveness of an emergency evacuation.

Therefore, the Board recommends that:
The Department of Transport require that passenger safety briefings include clear direction to leave all carry-on baggage behind during an evacuation.
A07-07

© Minister of Public Works and Government Services Canada 2007
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コメント
 
 
 
ブログ復帰お待ちしてました! (speeedbir)
2007-12-19 23:25:36
 今晩はPAX様。ブログ復帰お待ちしてました!PAX様の体に何かあったかと心配しておりました。これからもマイペースでやりましょう。
 緊急脱出時おける手荷物保持の禁止、これは絶対に守らなければいけない事項だと思います。今回の事故、クルーがコックピットの窓から降りる(落ちる)シーンが強調されていて一般客の脱出シーンは見た記憶がありません。手荷物を持たれてシューターを使った肩は少なかったのではと思ってますが。
 昔は革靴の靴底に蹄鉄みたいなものを打ち込んで靴底が減るのを防止していましたが、これが脱出シューターを傷付けてしまう事例があったとか(多分B707、727の頃まででしょう)。
「基本に忠実、地道に」来年のテーマとなりそうです(爆)
 
 
 
マイペースで.... (PAX)
2007-12-20 20:45:22
「speedbird」さん、こんばんは。
早速のコメントをありがとうございます。
お待ちされるほどの物でもありませんが、まぁ、マイペースで気が向くままに。相も変らぬ、いや、以前にも増して酷い駄文を書いてみるかな、と懲りずにairborneしてしまいました。
さて、シューターを傷付けるという点では、今もハイヒールは脱いでジャンプしなければなりません。
誓約書に一筆署名すれば、Evacuation や Ditching を体験できるマイレージ特典なんてどこかにありませんかね。
 
 
 
手荷物 (ATC代表)
2007-12-22 12:34:01
お初にコメント致します。普段はATCやってます。いつも拝見する鋭い文章にいつも更新を楽しみにしている一ファンです。

私の住んでる身近で起きた中華航空の事故。乗客はかなりの方が荷物を持って脱出していたと記憶しています。確かかなり大きなキャリーバックをひきながら飛行機から離れていた人も居ました。

ただ、あの事故の場合は着陸して駐機場に停止して、お客さんが手荷物を持って降機のために通路に並んでから起きた事故。ですからそれを手放して逃げろという指示の徹底は難しかったのではないか、という気がして客室乗務員に同情してしまいます。それでも徹底しなければならないのが、彼女らの役目なのでしょうが…。

個人的には脱出時にいつも諦めがつくように、余程急いでる時以外は身に付けられる最小限の荷物しかキャビンに持ち込まないようにしています。大きな荷物を機内に持ち込んでいる人をかなり見かけますが、そういう人が脱出時に荷物に固執したら、と考えるとぞっとします。
 
 
 
Re: 手荷物 (PAX)
2007-12-23 10:04:51
「ATC代表」さん、はじめまして、こんにちは。
コメントをありがとうございます。

> 確かかなり大きなキャリーバックをひきながら
そうでしたか。危なかったですね。手荷物の突起部分でシューターを傷付ける可能性もあったのですね。
> 駐機場に停止して、お客さんが手荷物を持って降機のために通
> 路に並んでから起きた事故
「いきなりビックリ」by 小梅、そうだったのですか。
Ground さんが Spot 41 に入ってくる B18616 の Fuel Leak に気付き、Cockpit に伝えた、との漠然とした情報しか持ち合わせていませんでしたが、考えてみれば、Ground さんがどのようにして Cockpit Crew に伝えたか、Interphone を接続してからそれを介して、だったかもしれない訳で、だとすると、Cockpit が Passenger Sign OFF にしていたこともあり得ますね。
Evacuation command SW を適切に操作したのか、Cabin Crew との Crew coordination はどうだったか、Evacuation 時のお客様の脱出状況はどうだったのか(手荷物所持や脱出後の避難経路;Fire の場合、機から離れることが先決だが、風下への避難はリスクが大きい)など等、本邦の事故調殿には是非“流石”と唸るような調査・報告・建議をしていただきたいものです。

> 普段はATCやってます
管制についても勉強したい・しなければならないことがまだまだ沢山あります。ここ最近の体たらくで、勉強不足は明らかで、また老朽化したオツムで、今日の日々進歩する管制システムを理解できるかは甚だ疑問ではありますが....。
今年はあのTENERIFEから30年、IFATCAの“THE CONTROLLER”December 2007でも、Cover Storyは“TENERIFE 30 YEARS LATER”でしたね。当該号には“Can we Define “Human Error”?”なる記事もあり、「We should refrain from using the label “human error” at all」なる言葉がグサリときました。毎回が case study で酷似しているけれど二度と同じ状況が無い中で、待ったなしのプロのお仕事、ご苦労様です。
これからも『心通い合う管制』で日本の空の安全をよろしくお願いいたします。

冒頭、多分に買い被りとおもいますが、過分なお言葉を頂戴し、[恐縮][EXEC]であります。今後とも、お目付け役としてピシバシとご教示をお願いいたします。
 
 
 
いきなりびっくり! (ATC代表)
2007-12-27 16:28:16
私ごときのコメントに丁寧に答えていただいて、ありがとうございます。
しかも、せっかくのコメントに今頃気づいている不届きものです。
申し訳ございません。

なによりも嬉しかったのはタイトルの言葉。PAXさんが「ガッ○ー」のファンだったということで、ますます親近感が湧きました。

この事故については、近くで起きたこと、たまたまその日に仕事で飛行機に乗って残骸を見ながら出発したこと、などにより非常に身近な問題としてとらえております。もちろんこういうことがあればATCも無関係ではいられないのですが…。

間の悪いタイミングになってしまうかもしれませんが、これからも気が付いたことがありましたらコメント書かせていただきます。よろしくお願い致します。
 
 
 
Re: いきなりびっくり! (PAX)
2007-12-27 19:02:33
「ATC代表」さん、こんばんは。
ご丁寧に返信をありがとうございます。

> これからも気が付いたことがありましたらコメント書かせていただきます

どうぞよろしくお願いいたします。

> 「ガッ○ー」のファン
“なにとぞ寛大なご裁きを!”(爆)

あんなムスメが居たらならば、いくら『ウザイ』と言われても...と思う小生でした。
鬼嫁はそんな小生の態度が気に入らないようですが....。
 
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