井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

サン=サーンス:ハバネラ (2)

2010-07-01 23:47:20 | ヴァイオリン

のっけからテンポの問題が生じる。サンサーンスの指定した速度表示、4分音符104MMでは、到底ハバネラには聞こえない。ハバネラの一般的テンポは72くらいだろう。あまりにも差があるので誰もが躊躇するだろうが、ここは妙に作曲者に近寄らず、72くらいで演奏すべきだと思う。

冒頭、2オクターヴの音階を駆け上がるが、ここは本来テンポを動かすべきではない。サンサーンスに限らず、フランス人は直進する音楽に快感を感じる民族だ。主部の入りをはっきりさせるために、テンポを緩めるのはドイツ人のすること、と彼らは思っている。

そしてテーマ。2拍めの裏にアクセントが書いてある。他のハパネラには無い特徴である。なので、他のハパネラを知っていても参考になりにくい。一体何をねらっているのだろうか?

フランチェスカッティ校訂のインターナショナル版は、このアクセントから次の音符までスラーがついている。スラーがつくことによって、しなやかな表情が生まれる、というところだろう。

この順番で楽譜を見ることが肝要だ。筆者は先にインターナショナル版を見てしまったので、どのようなイメージで演奏すべきなのか、最初はまるでわからなかった。インターナショナル版のような解釈版でも、ピアノ伴奏譜は大抵オリジナルが記載されているので、必ず参照すべきである。

次のアレグロにも、また無理な160MMというテンポが書いてある。なるべく速く弾きたいところだが、響きが痩せては意味がない。スピッカートにするしないは自由だが、作曲者は全てデタッシェを想定していただろう。ソーティエも考えられるが、上向形にはクレッシェンドをかける等のニュアンスの方がより大事。速いテンポでニュアンスを出すのはかなり難しい。自ずとテンポも決まってくるはずだ。

そこからアレグレットに戻る部分。Gisの2音だけで次の雰囲気につなげるのがまた難しい。フランチェスカッティのダウンダウンも、そううまく表現はできないように思う。最初のGisはオーケストラを受けた激しさ、次のGisはルジンギエーロ(気分良く)、というところだろうか。

その後の4拍子になったところも曲者だ。モルト・エスプレッシーヴォと書いてあるから、ゆったりと歌いたい。しかし、その後の16分音符は、そのゆったりテンポでは聞けたものではない。なので、そこからテンポを上げる、あるいはその4小節前から上げる、またはアッチェレランド等の方法が考えられる。そうすると一応の体裁は整う。しかし、サンサーンス自身はテンポを動かすことを望んでいないはずだ。そうすると、モルト・エスプレッシーヴォでも、ゆっくりしないでゆったり歌うことを考えるのが、一番理に適っていることになるだろう。

次のアレグレットで面食らうのは、前回と違うボウイング、アーティキュレーションがついていること。同様のことが「序奏とロンド・カプリチオーソ」にも出てくるから、サンサーンス独自の変化のつけ方と言うことができるだろう。しかし、このアーティキュレーションは何とも弾きにくい。

そして続くピウ・モッソも悩ましいところ。ア・テンポでハバネラのリズムが出てくるから、幾分ゆったりしたいのだが、次のトリルをそのテンポで弾くと、かなり間延びしてしまう。ここはさっさと行きたい。しかしテーマが再現されるところは再びゆったりしたい、と、何も書いていないのにテンポをやたら動かしたくなる個所である。ではどうするか・・・。

大別して、全くのイン・テンポでいくか、開き直って動かしまくるかの二つの方向がある。折衷案として、気づかれないように緩急をつける、というのが現実的か・・・。

そこを過ぎると、テンポ上で悩む場所はあまりない。アレグレット直前の3連続リタルダンドをどの程度するか、くらいだろう。(もう充分悩んできたし。)

これほど作曲家の意図と違うことをやるかどうか検討しなければならない曲も少ないと思う。が、そういう曲だと思って考えれば、それはそれで面白い。