またたび

どこかに住んでいる太っちょのオジサンが見るためのブログ

WHATEVER-19

2009-08-05 08:30:03 | またたび
 キョウコの携帯電話に一本の非通知表示の着信が鳴った。
 「もしもし…?」
 いつもと違う着信メロディに、戸惑いながらキョウコは恐る恐る電話に出た。
 ガサガサと、受話器に何かが擦っているような雑音が続いた後に、
 小さなスピーカーからは、音楽が聞こえてきた。
 どこか聴き覚えのあるメロディ、緑の草原が頭の中に広がるような、
 唯一無二のやさしい歌声、ほんの数ヶ月前まで毎日聞いていた。
 あの曲が電話口の向こうから流れてきた。
 微かな音だったが徐々に脳裏に甦ってくるようだった。
 キョウコは目をつぶり、自分の頬を流れ落ちる暖かいものを感じた。
 その時、部屋にチャイムの乾いた音が響いた。
 キョウコは電話を放り出すと、急いで玄関に向かいドアを開けた。
 
 そこにはすべてを許し、変わらないために変わり続けたケンが、
 やさしい笑顔で立っていた。

end

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