またたび

どこかに住んでいる太っちょのオジサンが見るためのブログ

『またたび』の意味 そして始めた理由

2009-07-03 08:05:55 | またたび
木天蓼(またたび)の実は滋養強壮によく、旅人はそれを食べて元気になって
また旅に出た。
それが「またたび」の由来だ。

なぜ、ブログにそのタイトルをつけたかというと、
このブログを読んで元気になってもらって、
人生という名の旅にまた出てもらいたいという意味を込めて、
その名前にした。

なるべく明るく、そして前向きなことを書きつづって
読んでくれた方が少しでも元気になったらいいなと思って続けています。

最近、どうしようもないくらいに落ち込んで、またたびになれるような
ブログを書く自信がありませんでした。

みんなからのコメントを読んで、人知れず、涙を零してしまった。
そして、前に進む元気をもらいました。
本当にありがとうございます。
自分が元気になってもらおうと思っているのに、逆に私が元気になりました。
そして、また旅に出る勇気をもらいました。

私は涙の暖かみを知った。
だから、今日、終わらせたいと思う。


三振を確認するために
儚い夢を終わらせるためだけど
なぜか、前向きな自分がいます。


長淵の巡恋歌を聞きながら、約束の場所へ向かうと思う。
格好悪い生き方だけど、自分なりの答え、道を信じて、
五里霧中の中から抜け出すために進みます。


WHATEVER-13

2009-06-25 08:11:43 | またたび
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 ケンは深く息を吸い込むと、ゆっくりと亜実を体から離して、
 目を逸らすことなく、亜実に語りかけた。
 「ごめん、今オレ大切な人がいるんだ。とても大切なんだ、その人は… だから、ごめん。」
 その言葉に偽りがないとは言えなかった。
 しかし、この場ではこの言葉が自分にたいして、一番素直な言葉だった。
 二人の間に重い沈黙が過ぎると思ったが、亜実はすぐに切り出した。
 「えへへ、ふられちゃった。」
 顔は笑っていたが、目は真っ赤で涙が今にも零れ落ちそうだった。
 私んちここから近いから送らなくていいよ、と亜実は足早に去っていった。
 地面に当たる下駄の音が、公園内に響いた。
 「亜実…」
 これでよかったのかな、いや付き合ったとしてもまた同じ結末になるだけだ、
 まだ本当の自分の姿をわかってもらえていないし、
 それより、今はあいつの代わりにしか見ることができないだろう。
 そうしたら亜実を悲しませるだけになる。でも泣いていた。
 人一人を悲しい思いにさせてしまった。
 どっちにしろ傷つけるだけだったのか。
 だったら、始めから人なんて好きにならないほうが、いいのではないのか。
 もう傷つけたくないし、傷つきたくない。
 ケンの頭の中で色々なことが錯綜していた。
 見上げると月が自分の歩く方向にあった。
 やけに明るい月が少し滲んで見えた。
 亜実にメールをしようと文を作ったが途中で消した。
 一体自分に何が出来るんだろう。
 今更、今更、かける言葉など見つからず、祭りの後の静けさの中、歩きなれた道を誰に会うこともなく歩き続けた。

WHATEVER-12

2009-06-17 12:55:27 | またたび
「どうだい?ここから見る風景は絶景だろ。
 あの山に比べたらオレら人間なんかちっちゃい存在だろ、
 でも小さいなりにもちゃんと生きてるんだ。
 こうやって自然を見て感じたり、感銘は受けたりすることは素晴らしいことじゃないか。
 さっきまでお前さんの目は死んでたけど、今は違ったように感じるぜ。」
 ケンはちいさくうなずいた。何かが満たされた。
 現状は何も変わってはいなかったが、ケンはすべてが満たされたような感覚になった。
 自分探しの旅なんて、結局自分は見つからない。
 なぜなら自分はここにいるからだ。
 無から有は作り出されないように、自分にないものを探すのではなく自分の中にあるものを探すのだ。
 ケンは掌を広げ、ゆっくり握り、軽く胸を叩いた。
 「お、いいツラになってきたんじゃないか?」
 「山に教えられた気がします。言葉じゃうまく表現できないけど、
 自分の中できっと変われた、都会にないものもわかってきました。
 見返りを求めて生きるのではなく、なんのために生きているのかという問いに自分なりの答えを導き出すことが大切なんだなって。
 いつも逃げることばかり考えて、問題から目を背けるようにしてしまっていました。
 それでも後ろに下がったからこそ前に進む大事さが見えてきたような気がします。」
 言い終えると黙って聞いていた白髪混じりの中年が歳に似合わずVサインを送った。
 ケンも恥ずかしそうに親指を立てそれに応えた。
 都会の鳴り止まない車のクラクションの代わりに、セミの鳴き声がその空間に響きわたった。
 大空を優雅に舞う一羽の鳥を見つけ、ケンは自分に重ね合わせた。
 まだ低い、まだ低い、お前はこんなもんじゃない。
 大きく翼を広げ、大自然を糧にして、もっともっと高く飛べ、誰よりも高く飛べ、ケンは心の中で叫んだ。
 鳥は大きく羽ばたき、遥か上空の太陽を目指し飛び続けた。

WHATEVER-11

2009-06-10 07:55:08 | またたび
 「オレは深い男女関係のことはよくわからねぇ、
 でも言えることは変わらないためには
 変わり続けなければならないってことだ。
 まだ出会って数分しか経っていなく名前すら知らないが、
 話聞いて目を見てわかった。
 お前さんはやさしくて素直だってことさ。
 それが原因で今の状態に至っているのかもしれないが、
 決して悪いことじゃなくて誇りに思ってもいい、
 でもそれを変わらずに兄ちゃんが兄ちゃんでいるためには、
 変わり続けなければならないってことなんだと思うぞ。」
  男の目を見ることは出来ず、口元の無精ひげを横目で見上げた。
 「何で笑顔でないのかい?」
  ケンはようやく男の問いに答えた。 
 「なんていうか、人生がうまくいっていないからかな…
 やっぱり彼女が出来ないから笑顔になれないのかもしれません。」
 言い訳にも似た弱々しく話すケンを、見据え相変わらずの口調で話した。
 「そこが違うんじゃないの、彼女が出来ないから笑顔になれないんじゃなくて、
 つまりさ、兄ちゃんが笑顔じゃないから、彼女が出来ないんだよ。
 笑っていないから、人生どこかでつまづいちまうんだ。
 昔からよく言うだろ笑う門に福来るって」
 屈託のないその言葉に思わず、笑みが漏れた。
 「そんなもんすかね。」
 「そんなもんだよ。」
 男もつられ笑顔で答えた
 「よし、いいもの見せてやるから、ちょっと来な。」
 そういうとケンにくるりと背を向け、黙々と歩き出した。
 大木の間を抜け、集落が一望できるところまでやってきた。
 「もう少しかな…。」
 ケンは男の言うまま、指差す方向を眺めていた。
 映画のスローモーションにように、雲で見えなかった遠くの山が徐々に晴れだし、
 次の瞬間、雲に隠れていた雄大なる山が姿を現した。
 まさに何年も変わることのない、堆く聳え立つ構えに、
 ただただ圧倒されるだけで、しばらく言葉を見失った。

WHATEVER-10

2009-05-22 08:16:59 | またたび
 ケンは近づき、川底が見えるくらいに透き通る川の水面を見つめ、少し熱くなった手をそっと静かに入れた。
 澄み切った水が、何ともいえぬ心地よさを呼び、疲れきった心を癒してくれた。
 都会にはない自然の川の流れる音と、太陽との乱反射で眩しいくらいに感じた。
 輝き続ける小川を眺め続けていたが、一向に気持ちは落ち着かず、出るのはタメ息ばかりだった。
 タバコに火をつけようとした時、気づくとケンの隣に四、五十代くらいの中年の男性が座っていた。
 「よぉ兄ちゃん、ずいぶん暗い顔をしてるな」
 いきなり話しかけられたケンは驚いて何も言えず、軽く会釈をした程度でいた。
 白髪混じりの中年はやさしく問いかけ続けた。
「兄ちゃんみたいに若いのが観光地でもない、こんな田舎の川を眺めてるなんて、めずらしいな。
 ここは都会に比べ何もないだろ、あるといっちゃ変わらないで残る自然だけかな。
 でも都会にはなくて、ここにしかないものだってたくさんあるんだぞ。」
 まさに田舎の風景にぴったりの服装で、ここだけは昭和で時間が止まっているようだった。
 時たま笑うと奥歯の金歯が光って見えた。
 初対面とは思えないほど、気さくに話しかける男に、ケンは少しずつ心を許し始めていた。
 「オレも若いときは、こうして川を眺めにきたもんだ。自然ってのを肌で感じるとよぉ、
 人の存在は小さく、一人では生きてられないって思うわけよ。
 兄ちゃんも何らかの理由があって、ここに来たんじゃないのかい?」
 おれもまだまだ若いけどなと男は付け加え笑った。心中見抜かれているような気がした。
 ケンは向こう岸を見つめ、隠さずにあることすべて話してしまったほうがいいと思い、ゆっくりと話しだした。
 小さく頷きながら、最後までを聞き終えると男は立ち上がりおもむろに口を開いた。
 「兄ちゃんは自分を変えたいと思うかい?」
 トンボが目の前を横切り、ケンはうつむいたまま、何も答えなかった。

WHATEVER-9

2009-05-21 09:38:28 | またたび
 公園に響いていたブランコのギーコギーコと錆びた音が止んだかと思うと、
 ケンの目の前に亜実が立っていて、ケンを抱きしめた。
 亜実の甘い香水の匂いが、鼻腔を通し全身に伝わり、思わず体が硬直した。
 「前から気にはなっていたんだ。いつも遠くから見ていていいと思っていたし、
今日、一番近くで見れて、わかったことがあるの。
 一緒にいて、すごく楽しかった。私、ケン君と付き合いたい」
 目の前には、赤い浴衣を着た可憐な女性が自分を求めている。
 手を伸ばせば、すぐにでも、自分のものになることが出来る。
 時間にして数秒だったが、思いが複雑に交錯し、やけに長く感じた。


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 連日の猛暑で真夏日が更新し続けていた朝、ケンは携帯電話をアパートに置き、
どこへ行くとも考えず、晴天のもと外に出た。
 人がいない、山や川の自然があるところへ行きたかった。
 ただの現実逃避なのかもしれないが、ケンは自分探しの旅と自分に言い聞かせていた。
 通い慣れたキョウコのアパートをバスが通るため、駅まで歩くことにした。
 30分以上かかるが敢えてそちらを選択した。
 首筋に汗が滴り落ちる頃にようやく駅に着いた。
 行く宛もないため適当なバスに乗ることにした。
 後ろの窓側の席に座ると、ウォークマンのヴォリュームを上げ、
 外の高層ビルが立ち並ぶ街並みを眺め、深く息をついた。
 考えに耽ると繰り返されたのはなぜこうなったのだろう、
 どうして悪いことばかり続くのだろうという答えの出ない自問自答だった。
 三時間ほど過ぎると、田園風景が目の前に広がり、バスが止まった。
 バスを降り、夏風が運ぶ乾いた草の匂いと、照りつける太陽。
 雄々しく聳え立つ入道雲、そして耳よりも心に響くセミの鳴き声がケンを迎えた。
 丘を登ると、小さな小川のせせらぎが聴こえてきた。

WHATEVER-8

2009-05-20 07:53:48 | またたび
 別にそんなつもりじゃないよ、すぐ違う話題に切り替えた。
 境内の中は太鼓を叩く、威勢のいい掛け声と子供の笑い声が入り乱れていた。
 賑やかな出店が立ち並ぶ通りを歩きながら、亜実は子供のようにはしゃぎ、
 出店の前を通るたびにあれ欲しい、あれ着けてみたいとおねだりをした。
 「買ってもいいけど、今日しか着けないっしょ?もったいないって。」
 そういうと、亜実はわざとムスッとした様子で頬を膨らませた。
 「ふーんだ、いいよーだ。じゃ、あっちのわたアメ買ってね。」
 まぁそのくらいならいいかな、とケンも亜実につられて笑った。
 わたアメをおいしそうに頬張りながら、境内を歩き続けた。
 夏がもう終わっちゃうねと、ひとつの季節が過ぎていくのを名残惜しそうに亜実は言った。
 食べ終わった割り箸で、ケンの横腹を突っつき、不意をつかれ、その場によろけた。
 脇は駄目だよ、と彼女と共にケンはまた笑った。
 後ろに結んだ髪が左右に振られる度に亜実のうなじが現れた。
 始めは何となく見ていたが、時が経つに連れ、そのやさしさに似たうすピンクの肌に惹きこまれていった。
 屋台でビールを二人分買った。
 祭りのビールは高くて嫌だが久々に飲んだビールは格別だった。
 白いひげをつけ、うまそうに飲んでいたら、模範解答のように亜実がおっさんみたいと笑ってみせた。
 心はまだまだキッズだぜ、ケンはそういうと残りを一気に飲み干した。
 歩き疲れ、ベンチに座っていると、ドーンという腹の底に響きわたる音が鳴った。
 その瞬間、暗闇だった夜空が煌びやかに光輝きだし、夜空が目まぐるしく様子を変えていった。
 この日は、人工的な光を見せつけている高層ビルの灯りも消灯され、そのため花火の美しさがより際立っていた。
 きれいだね、団扇で顔を扇ぐ亜実の横顔が、いつもと違って見えた。
 夏の終わりに相応しい特大の花火が、夜空に放たれ、祭りは終了した。
 それは短い夏の終わりを告げたようだった。
 帰る途中に公園の前を通りかかると、亜実がどこかに寄らないと、公園を指差した。
 中に入ると、数分前まで誰かが花火をしていたらしく、辺りには火薬の匂いがまだ残っていた。
 「今日は楽しかったぁ。ケン君って意外とやさしいんだね。」
 亜実は声を弾ませ、ブランコを漕いだ。ケンは夜空の見上げ、一際輝く星を見つめていた。
 いつか流れ星を一緒に見に行こう、そんなロマンチックなことを真に受けてくれたあの笑顔。
 「約束した日は過ぎちゃったね…」
 「えっ?なんか言った?」
 なんでもない、ただの独り言だよとケンは持っていた缶ビールを地面に置いた。

WHATEVER-7

2009-05-19 08:02:29 | またたび
           3
 過って改めざる、これを過ちという。
 人は同じことを繰り返してはならない。
 それは経験していくことで、人は成長していく。
 精神的に、そして一人の人間として成長していく。

 祭囃子が徐々に大きくなるにつれ、ケンの心音も高鳴ってきた。
 ケンは待ち合わせの時間より前に到着した。
 ケンの中で遅刻は一番やってはいけない行為と決め、
 最低でも10分前、一時間前から待っていたこともあるくらい時間には厳しかった。
 だが、相手側が遅刻しても、何で遅れたとか問いただすことは一度もなかった。
 「ケン君、待った?」
 振り向くと、赤い浴衣姿で照れくさそうに微笑む亜実がいた。
 亜実とは同じ学年で、普段はあまり話す機会がないが、
 よくみんなで遊ぶときには悩みを話したり、バカ話で盛り上がったりする間柄だった。
 先日、彼女も含めたいつものメンバーで海に遊び、
 自分の部屋に戻ると祭りに一緒に行く相手がいないから、行こうと電話で誘われた。
 時間を持て余していたケンは快く了承した。
 祭りに行くことにしたものの、時間が経つに連れ、
 みんながいる前では誘わなかったことの意味に気づいた。
 友達として誘っただけかもしれないが、何かを期待する卑しい気持ちがあった。
 手にしている携帯電話に映し出されている名前を見ると胸中が複雑になっていた。
 「全然、今来たところだから」
 そういうと立ち上がり、尻を二、三度払い埃を落とした。行こうか?と言うと亜実は小さく頷き、
 ケンの横にぴったり並んだ。
 立ち位置として自分の右側に人がいると落ち着かなかった。
 歩くときや座席でも、相手を極力左側に位置にするようにしていた。
 初めての人にそれを説明すると、不思議がられるか、どうでもいいじゃんと突き放された。
 しかし亜実はそれを知っていたかのように常にケンの左側にいた。
 こんなに背が小さかったんだ。
 改めて近くで亜実を見て、思わず口にしてしまった。
 「誰と比べているの?」
 別にそんなつもりじゃないよ、すぐ違う話題に切り替えた。

WHATEVER-6

2009-05-11 07:53:02 | またたび
「でも俺はキョウコのことが好きだよ。
 考えていることはわかったけど、俺の気持ちは変わらない……
 やっぱ俺に何か足りないんだよな、いつもこうなってしまうし……」
 愚痴になりかけていたのに気づき、これ以上喋ったらキョウコが苦しむだけだと思いケンは言いかけていたことを止めた。
 伝えたいことも言えず、思わず力が入り、拳が震えた。
 しかし、これからの二人の可能性を話し納得させてまで付き合おうとは思わなかった。
 ケンのプライドがそれを許さなかった。
 キョウコは背を向け、去り際に何かをつぶやくと、足早にその場を後にした。
 ケンはただ風に揺れる水色のスカートのキョウコの後姿を目で追いかけ、見えなくなるまでその場を離れずただ立ち尽くした。
 開放感漂うキャンパスの中で独り何かに閉じ篭ろうとしていた。
 急に夏の強い日差しが陰りだし、遠くの山で雷が鳴り響き、雨の気配を感じた。
 灰色の空の下、大泣きした後のように疲れ歩き続けるケンは数分前までに、夢見ていた二人で歩む日々が叶わないことになってしまい、自分の感情に負け、泣きだしそうになった。
 大学の校門を出る頃には驟雨が降り始め、すべてを洗い流してくれる雨であればと願い、生ぬるい水滴を受けながらその場に立ち止まり、灰色の空を見上げて天を仰いだ。
 後ろから誰かの足音に気づき、手を下ろすと何事もなかったように雨に打たれながら、家路へまた歩き出した。
 神社に続く長い石畳の階段が今日はやけに長く思えた。
 一時的な雨が止み、雲の隙間から鮮やかな虹が現れた。
 濡れたアスファルトの匂いが妙に懐かしく感じた。
 アパートの玄関の前で携帯電話を取り出した。濡れた手で操作し、画面に映し出されたのはキョウコの名前だった。
 ゆっくりと消去のボタンを押した。「本当に削除しますか?」
 この言葉を見たのは何度目だろう。


WHATEVER-5

2009-05-09 07:54:06 | またたび
 大学の前期の長いテスト期間がようやく終わり、皆が皆、待ちわびた開放感に浸っていた。
 構内でボールを蹴っている学生や食堂で今夜の打ち上げはどこにするかなど、話し合っている姿を多く目にした。
 今夏初めて30℃を越えた午後に呼び出された。
 大学のキャンパスの象徴ともいえる大きな杉の木の日陰になる場所にキョウコが待っていた。 
「私、色々考えたのね。もうケンと会わないほうがいいのなぁって、
 ごめんなさい。わがままで、私寂しかっただけだったの。
 ついこの間まで一年近く付き合っていたことはわかっているでしょ?
 捨てられるような形で別れて、そこでケンと出会って悩みを聞いてもらっているうちに
 私のほうから誘って二人で会う間柄になった。
 寂しくて誰かが傍にいて慰めてほしかったから近づいただけだったのかもしれない。
 自分でもどうしていいかわからなくなって、このままの状態が続いたらケンだけが傷ついてしまう。
 今は誰とも付き合いたくないの。だからお願い独りで考える時間が欲しい。ほんとにごめんなさい。」
 ケンはキョウコの右目の下にある泣き黒子を見つめていた。
 事を告げ、うつむく哀しげな表情には、いつものひまわりの花のような目に鮮やかに映える笑顔とはかけ離れた切なく、いまにも泣き出しそうなキョウコがそこにいた。
 ケンは力なく視線を落とし、今まで何度あったであろう消失にも似た気持ちで、ゆっくりと口を開いた。