盲導犬は、公園でご主人といるとき、のどが渇いても何も飲ませてもらえない。
それは、決まった時間に飲食させないと、食べ物飲物に気を取られて、つとめがおろそかになるからかと、勝手な想像をしていた。
だがそれよりも、人の集まるところでの待機には、他の人に迷惑をかけないことがだいじなのだと盲導犬のご主人は言う。
だから、口に入れるものは、場所も考えてコントロールするのだそうである。
時のコントロールは主人と犬とのあいだのことだが、場所のコントロールは世間とのかかわりの、もっとだいじなことなのだ。
狭い歩道でベタベタこぼれそうなアイスクリームを子供に食べさせる親、電車の中で鏡を持ち出し目の縁の塗装作業を始める女、世の中には、場所のコントロールを忘れた、目はついてあいているだけの人間がずいぶん増えてしまった。