葦津泰國の、私の「視角」

 私は葦津事務所というささやかな出版社の代表です。日常起こっている様々な出来事に、受け取り方や考え方を探ってみます。

北方領土問題に思う

2011年02月16日 18時19分17秒 | 私の「時事評論」
狼がやってきた
 太平洋戦争(正式名・大東亜戦争)が終わった直後、終戦交渉では領土割譲には含まれず、日本固有の領土として残るはずだった択捉・国後など北方諸島にロシア(当時のソ連)軍が突然上陸、抵抗する同胞を追放して無断で軍事占領してしまった。そして六十五年経ったいまも、ロシアはそこを返還しない。もちろんこんな行為を正当だと証明する根拠は何一つない。ソ連の当該地区の占領は、日本が停戦したのちの暫定措置のはず。少なくとも仮にいま、まだロシアによる占領中だと解釈しても、先の戦争終了の日露講和条約さえ結ばれれば、国際法がロシアの領土と認める根拠は何一つない。
 北方領土はすぐにでも日本に返還すべき日本固有の領土なのである。その前提で話を進める。
 ロシアが領土を返還しようとしないので、日露間には大きな未解決の問題が残り、領土問題の解決なしにまともな友好的国交関係も結ぶことができないので、日本とロシアは未だ相互友好関係が築けない。占拠された我が国の領土を、返還してほしいとの交渉は、終戦いらい何十年も続けられているのだが、ソ連(のちにはロシア)は決してこれを返そうとしない。
 ロシアには、「例え間違いであっても、一旦占領した地域は返還しないのが国是である」などという説もささやかれている。だがそんな国際関係を無視した横暴な方針は、関係外国にとっては迷惑至極な話。とにかくロシアの強引な占領がなんと六十数年も長引いて、事態はいよいよ困難になってきている。
 特に最近、水産、鉱物資源などで北方領土の利用価値が、ロシアにとっても次第に高まってきた。そこでロシアの大統領が北方領土に出向き、ここを日本に返還する意思がないことを演説するなど、日本はいよいよ苦しい返還交渉を余儀なくされる雰囲気にある。日本政府は急遽前原外相をロシアに出向かせ、領土の早期返還と平和条約の締結を求めさせたが、ロシア従来より、返還にはさらに消極的になってきた。
 ロシアの占拠もここまで長引くと、その間にこの列島に大陸から住みついたロシア人も増えてきて、事態はいよいよ解決しにくい様相を見せている。

 だが、北方領土が占領されたままなのは、日本にとり、国の独立を脅かす最も大きな癌である。国にとって最も大切な基本は領土、主権、財産の三つの確保だとされる。これを確保できない国は、世界から正当な独立国と認められない。北方領土の問題は、日本の国としての存亡、国家の独立にもかかわる重要な問題である。これから何年かかっても、返還を実現せねばならない問題であるのは言うまでもない。

 国際関係というものは
 こんな領土紛争が起こった場合、国際間の常識ではどう解決すべきものなのか。いまの日本のようにまず相手国に、「不法に占領している地域なのだから返還せよ」と要求し、国際世論なども利用して交渉するのは当然だろう。これで相手が返還に応ずれば、領土問題は解決するが、そうなるケースばかりとはいえぬ。
 いくら求めても相手が聞き入れなければ、最終的には異議ある国が、様々な制裁措置や軍事力などで実力で取り戻す以外に方法がない。今回の日本の場合は、まだロシアとの間の戦争が休戦中だから、日本が休戦協定を破棄するということになるのだろう。国際法は理論ではそんな軍事行動を正当なもの、適法の国による主権の行使と認めている。
 国際紛争解決に司法裁判所のような組織もなくはない。だが強制力を持たないために、及ぼす効果はほとんどなく、相手国が返還すると言わなければそれまでのもの。国際間ではどの国も、一つ一つが主権国だ。それらの国の上に、無理に一国に義務を押し付ける権威などはなく、最後は自ら取り返す以外に方法はない。結局こんな紛争解決機関で解決できるものは、相手が言うことを聞かざるを得ない、弱い国である場合に実際問題として限られる。

 

 終戦一週間前に突如対日開戦したソ連

 ソ連は、日本の敗戦決定の僅か一週間前に、日本が負けると知ると、突然米英に味方して参戦した。ソ連軍の北方領土進駐の時、日本は米軍主導による武装解除が進められ、軍備も武器も使えなかった。それにたとい敗戦一週間前に参戦したとしても、ソ連は開戦で戦勝連合軍の一軍になった。それが連合軍側の統一された占領か,ソ連独自の不法行為かは、日本には分からない。日本側には方法がなかった。
 より具体的にいえば、あとで知ったことだが、連合国では米英軍が日本本土は占領する手はずになっていた。ソ連は日本に進駐することになっていなかった。だがまだ日本進駐の主力・米国が軍事的支配を固めるその間に、ソ連は入り込んで占拠した。あとでこのように領土問題がこじれた背後には、だから戦勝して日本に来た連合軍側にも責任がある。すなわちどの国が日本のどこを占領するかは、戦勝国側の責任だった。米英がロシアに不法占領をやめさせるべきであったと言えばその通りだろう。だが米英は、占領する予定の日本領土の一部・北方領土をとられたままに放置した。この辺は、もう少し深く事情を調べて、徹底的に知っておきたいと思っていることだが。
 国が無防備になったその隙に、狼に奪い取られてしまったのがこの地域である。このことを日本人は忘れてはならない。あの時、ロシア軍は北海道までやってきて、北海道も占領しようと艦砲射撃を試みた。根室や釧路に住む年配の人たちは、そんな状況をよく覚えている。だが、北海道には既に米英などの戦勝国の占領支配が及んでいた。そこで狼は、北方諸島を奪い取るだけで諦めたのだ。
 当時のソ連は強国で、米英は国内に厭戦気分が高まって、藁をもつかみたくソ連と手を組んだ。米国も英国も、ロシアには日本領土の占領権は認めていないのに、ロシアが強引に居座って、腕力で日本領土を分断しようとしていることは知っていた。だが、それにまで対抗し、自分の国の兵士の犠牲を払ってまで、ようやくやっつけた日本の将来のために動こうとはしなかった。
 その間に時代は米ソ両国のにらみ合いの時代になり、千島は鉄のカーテンの彼方に押しやられ、六十年過ぎても返還されない領土になった。

 北方領土のことを論ずるとき、米英など連合国が、ソ連の違法に目をつぶった事実は、結果的にソ連の北方領土占拠行為を、長年ほう助することになった行為として忘れてはならない。

 米英など先の大戦での戦勝主要国は、それから七年後に日本に対して講和条約を結んで日本との戦争関係は失効したことを確認し逐次領土を返還した。ソ連はその講和条約には加わらずに、未だに日本と講和条約を結んでいない。ロシアによる北方領土の占拠が続いているため、未だに先の大戦が終了していない状態になっているからだ。

 ロシア、日本、大東亜(太平洋)戦争
 ロシアは日本にとって、きわめて厄介な隣国である。日露の歴史をここで逐一並べる余裕はないが、日本とロシアの両国間の歴史は、我々は生きていくための日本人の常識として知っておくべきものだと思う。
 ここで少々本筋からそれるが、ちょっと終戦までの事情を振り返ってみよう。大東亜戦争が終戦になる一週間前の昭和20年の8月まで、日本とソ連の間には、お互いに戦争をしないという不戦条約が結ばれていた。
 大東亜戦争は資源の乏しい我が国にとって、追い詰められて突入した敗色濃厚な戦いであった。もう国が戦いを続けられなくなったと昭和20年の春ごろから、日本は何とか休戦しようと、各国を通じて交渉を開始したが、その中で、日本が最も仲介国として期待していたのが何とソ連であった。日本国外交の読みの甘さははっきりしているが、とにかくそうだったのだから仕方がない。
 その交渉は駐ソ大使などが中心になって行われていたが、ソ連はこの状況を見て日本を応援するどころか、相手側連合国と参戦の交渉を進め、米国が原爆を落とし、日本が敗戦を決断したまさにその時に、対日中立条約を一方的に破棄して、日本に宣戦布告した。そして中ソから千島沿岸の国境地帯に集結していた総軍を投入して日本攻撃を開始した。ソ連の参戦は8月8日、日本が降伏を通知したのは一週間前の15日、ソ連はただ一国、日本が降伏した後の九月になっても、まだ軍事攻撃をやめなかった。
 この北方領土は1875年(明治8年)、ロシアとの間で話し合い、日本が領土の主権者になることを認め合ったロシアが認めた日本の領土である。この条約は千島樺太交換条約というが、日本はこれにより樺太の北部をロシアに提供していた。交換条約で決めたどちらもロシアが占領してしまっていることは、忘れてならぬことである。

 語り継ぎ主張続ける以外にすべはあるまい
 北方領土の問題は何百年経っても風化させてはならない。国が自らの領土を不法に奪われて何の意思表示もしないとき、その国は領土保全もできない無能力の国と見なされ、領土は衣服をはがれるように次々に剥ぎ取られ、住んでいる国民の生命財産は保証されず、その国は消滅する。
 いまの日本が返還要求を聞かないロシアに対し、軍事的に正面から衝突し、領土を奪い返す実力に欠けることはさすがの私も知っている。だがそれだからといって、この問題で妥協をしては国を危うくするきっかけになる。主張は一貫して続け、あらゆるチャンスを待たねばならぬ。
 我々は孫子の代までこの千島が、正当な日本の領土であることをしっかり語り継ぎ、常にロシアに対して主張を続け、考えられるすべての機会を利用してその返還実現に努力すべきだと考える。
 大東亜戦争がソ連以外の国々との間では解決したが、そのソ連を引き継ぐロシアとは、まだ法的な平和が回復していないのは残念なことである。しかしここで北方領土の問題を棚上げするような格好で、ロシアとの関係正常化を求めるのは日本にとってよくないことだと思う。孫子、そのまた孫子の代までかかろうと、日本固有の領土である北方領土の主権は、主張し続けるべきだと思う