葦津泰國の、私の「視角」

 私は葦津事務所というささやかな出版社の代表です。日常起こっている様々な出来事に、受け取り方や考え方を探ってみます。

クリントンはさすがだ

2009年08月07日 13時36分58秒 | 私の「時事評論」
 クリントン元米国大統領が6日、北朝鮮を訪問し、金正日主席と会談ののち、主席の特別釈放命令により解放された米人女性記者、カレントTVのユナ・リー記者、ローラ・りン記者(二人とも不法入国・敵対行為で拘留されていた)を伴って帰国したことは世界から注目された。
 ニュースによると、拘束中の記者がクリントン氏が来朝すれば釈放の可能性が北朝鮮にあるとの情報を伝え知ったクリントン氏は、彼の支援者から往復20万ドルもかかるボーイング737型機を専用機として無償提供されて、ルートが禁止されている航路を米国軍から特別に許可されて平壌に飛び、金正日と会談、二人の女性記者の開放に成功、彼女らを乗せて帰国したのだという。
 この一部始終を記者に尋ねられたクリントン氏は
「二人の解放ができたのは良かった。金主席との会談で何を語りあったかは、私はもはや政策決定者ではない。それはオバマ大統領にすでに伝えた。私から言うことはない」
と言って一切語らなかったという。
 私はこのニュースに感心をした。クリントン氏は大統領時代に、失礼ながらあまり有能ぶりを発揮することはできなかった。だが、引退の後は、米国のために、政治決断はすべて彼に任せて、何を話したのかさえも、自分の発言が大統領の政策に影響を与えることを遠慮して口をつぐんでいる。日本では我も我もと外国に出かけていく国会議員などが、自分の話しあったことを手柄話のように話しまくり、この話が影響して日本の外交姿勢が揺さぶられ混乱し、日本の進路が迷走する例が限りない。そんな点ではさすがクリントン、常識人だと言わざるを得ない。
 さらに、ここは大切な所。米国にとっては必要なのだと判断すれば、邦貨にして2000万円近くの個人資金を自分の利益に関係ないことにポンと提供し、クリントン氏が米国のために働くチャンスを与えるような金持ちがいた。果たして日本にこんな連中がいるのだろうか。
 日本と米国では、その成り立ちが全く違うし、国民や社会の育つ土壌も違う。だが、私は国内を眺めて、もはや頭打ちで全盛期を過ぎたと評される米国には、まだまだ国民の中に西欧思想の中から育った騎士のような連中が残っているのだと感心をした。翻って武士道の国だった日本に、いまその人間性が世界に注目された「武士」と称する政治家が残っているのだろうか。