夢のあと

釣りには夢があります。夢を釣っていると言っても過言ではありません。よって、ここに掲載する総ては僕の夢のあとです。

わが子のように

2013年03月06日 00時36分06秒 | 渓流釣り
その昔、職漁師たちはその釣果を確保するために隠し沢を持っていました。ちなみに僕も数本の隠し沢を持っていました(現在確認していないのでここは過去形にしておきます。)。それは釣果を確保するというより、原種(在来種とも言う)を温存しておくために作った沢です。
 魚が居ないと聞けばすぐに行って調べ上げ、魚が居ない事が確認出来て尚且つ川虫が居る場所を見つけるのです。そして、そういう場所があったら地元の古老を訪ね、訳を話してその地区の原種の特徴を事細かに聞いて原種が同定できるようになるまで通い詰めます。ここで注意しなくてはいけないのは古老たちは各人の思い入れみたいなのがあって、話される原種の特徴が違ってくることがあります。そこで、複数人の古老に何度も足を運んでその共通項を見つけ出します。そしてそれらの共通項を満たして入る魚を見つけ出し、こは原種として上記のような沢に放すのです。出来たら下流帯が伏流水になっていたり、本流に鉱毒が流れていて魚が棲めない環境(要は、自然には他の魚が入ってこない場所)がベストです。

 苦労して作った隠し沢ですからとても自分で釣る気にはならず、放流の数年後に魚が居るかどうか?だけの確認をし、その後は放置です。
 放置とはいえ、昨年や今年のように雪が多い年や、大型の台風が通過したなんて時は、つい『あの魚たちは大丈夫だろうか?』と想いを馳せてしまいます。当然ながら、隠し沢は人が簡単に入れないような場所に作りますから、現在の体力ではとても確認する事はできません。ですから、尚更想いはつのる一方なのです。

当方は今、ある小溪に橋を架けています。知り合いがやっている管理釣り場内です。この知り合いは、現在体調を崩して入院中でこの橋に事の他気持ちを寄せていました。と言いますのも、この橋は今まで何度か架けられたのですが、大雨や台風が来る度に流されてしまっていました。要は岩の川なので水位の変化が大きいのです。そして昨年の大雨の時にも流されてしまいました。これはこの知り合いを慕うグループが掛けた橋でした。とても良く出来た橋だったので、僕も今度は大丈夫だろうと思っていました。しかし、やはり自然の猛威にあっけなく壊されてしまったのです。彼を慕うグループが彼のために架けた橋だったので心痛は計り知れないものがありました。橋を作る業者に委託すれば頑丈な橋が架かるのでしょうが、その費用は莫大です。で、少しでもその心痛を和らげたいと思い橋を架けることを買って出ました。知り合いに橋架けのプロがいるので何とかなるだろうと安易に考えての事です。しかし、思っているような単純な物ではありませんでした。まず、架ける場所が平坦ではなく、岩と岩に架けることから難しさがありました。これから先も水嵩が増すことも間違いなくありますからその対策・・・etc.。そして何よりお金を頂いて釣ってもらうのですから、近代的な橋ではなく風景にマッチした物であること、そして安全であることが最低必要条件です。
 難し過ぎてとうとうプロの人に聞いたら『そういう条件だと橋脚を3本くらい立てて、中に鉄筋を大量に・・・』ですって。・・・お話になりません。ボランティアですから。彼の言うことを聞いていたら○千万円も掛かってしまいそうです。でもそういう仕事しかしてこなかった彼ですから、そういう人に聞いた僕が馬鹿でした。
 それからと言うもの、思案に暮れる日が続きました。でもその一つ一つを解決しながら作っていくのは釣りとまったく変わらない行為でした。
 そして、やっと渡れるようにまでになりました。

 完成は間近です。そこで、この橋に名前を付ける事になりました。勿論僕が付ける訳には行きません。僕が誰のために作ったかと言えば入院中の知り合いのためです。是非彼に名前を付けていただきたく願い出たら『萬鱗小橋』という名前を頂きました。川に沢山の魚が泳ぐ事から萬鱗。橋が架かる場所は瀬なので陽の光が鱗のように反射してみえるので萬鱗ということです。当初は萬鱗橋と言われたのですが、その後そんな大それた橋ではないので『小』の字を入れましょうということで決定しました。

 そこで橋名板を作りました。勿論僕は作れないので業者に頼みました。色々と注文を付けると工賃が跳ね上がりそうで怖かったのですが、結論から言わせて貰うとその業者様は僕がボランティアでやっていることを知って『特殊工賃はこちろもボランティアにさせていただきます。』って。泣かせてくれますね!またひとつ釣りをしていて良い出会いがありました。

 そして出来てきたのが画像の橋名板です。僕の伝え方が悪かった所為か、設計と少々違ってしまったのですが、綺麗に出来ています。後は僕が綺麗に付けるだけ。・・・もうちょっとです。

 知り合いの夢、そして僕の夢の架け橋として、できるだけ長くここにあってほしいと願っています。

 きっと、大雨が来たりすると彼の隠し沢の魚よろしく、この橋に思いを馳せてしまうでしょう。我が子のように。。。

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