美術館にアートを贈る会

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大阪市立東洋陶磁美術館訪問(2024.6.30) 記録(要旨)

2024-07-27 11:30:29 | Weblog

日時:2024年6月30日(日)13:00〜14:15
会場:大阪市立東洋陶磁美術館 地下講堂
講師:大阪市立東洋陶磁美術館 学芸課長代理 小林 仁氏
参加者: 13名

 

 “美術館にアートを贈る会”では、美術館をより身近に引き寄せる活動の一環として、定期的に美術館を訪問し関係者にお話を伺っています。

 今回は、2年間の改修工事を経て、2024年4月13日にリニューアルオープンした大阪市立東洋陶磁美術館を訪問し、リニューアルのポイントを中心に、中国陶磁史の研究をされている同館の学芸課長代理の小林仁さんにお話を伺いました。
 1924年(大正12)の古地図から話は始まり、同美術館の成り立ちやリニューアルのポイント、そして館として何を大事にされているのかをエピソードも交えながらわかりやすくお話いただきました。
(ポイントのみ記録させていただきます)

<東洋陶磁美術館について>

コレクション

 大阪市立東洋陶磁美術館は、1982年(昭和57)11月に開館した美術館で、現在、所蔵品は約6000 件弱で国宝2件と重要文化財13件を含んでいる。
 安宅産業が収集したコレクション、中国陶磁144件と韓国陶磁793件、計約1000件のコレクションが中心になっている。その収集を推し進めたのが、会長であった安宅英一(1901〜1994)氏であり、安宅英一氏の美意識と徹底した眼により形成されたコレクションである。

 1977年(昭和52)に安宅産業の経営破綻によってコレクションが散逸しないように、安宅コレクションのメインバンクであった住友銀行をはじめ、当時21社あった住友グループが安宅コレクションを大阪市に寄贈して、そのための施設として建てられたのがこの東洋陶磁美術館である。

 その後、李秉昌(イ・ビョンチャン)博士から韓国陶磁301件と中国陶磁50件、計約351件のコレクションを寄贈いただいた。李秉昌博士は外交官として来日し、その後経済学博士号を取得し、さらに事業を起こされたりしているなかで、母国の陶磁器に出会い収集を始めた。作品だけでなく、韓国陶磁研究の振興のための原資として、東京の元麻布の土地・家屋も寄付された。


<リニューアルについて>

  • リニューアル期間

 2022年(令和4)2月から改修工事のために2年間の休館に入った。この年は当館40周年の年でもあり、休館中を利用して、泉屋博古館東京での特別展「大阪市立東洋陶磁美術館・安宅コレクション名品選101 」、九州国立博物館での特別展「憧れの東洋陶磁—大阪市立東洋陶磁美術館の至宝」で、館外でのコレクション展を開催した。さらに姉妹館である台北の國立故宮博物院では「閑情四事―挿花・焚香・掛画・喫茶」展で国宝・重要文化財など21件を展示した。

  • 自然採光展示室

 当館の展示の特色は、陶磁器(以下修正してます)を歴史資料として見せるのではなく、あくまで陶磁器を美術品として理想的な状態で鑑賞していただく美術館としてのスタンスを取っている。

 展示の仕方についてはさかのぼれば安宅英一氏に行き着く。作品の選定から、置き方、間隔、向き、非常に細かく1ミリ単位でのディスプレイ、並べ方に心を配っている。それはすべて作品ひとつひとつをいかにより良く緊張感をもった状態で見せることができるか、ということにある。

 開館時、見所になったのが自然採光展示室。陶磁器全般がそうだが、とりわけ青磁は光の影響を受けやすい。

理想とされるのは、「秋の晴れた日の午前10時ごろ、北向きの部屋で、障子一枚隔てたほどの柔らかい陽の光」、これを実現したのが、自然採光展示室だった。

  • 免震装置

 陶磁器の展示で一番怖いのは、地震。阪神淡路大震災のあとに導入したのが、当館オリジナル仕様の免震装置だ。制振性能や耐震性能だけではなく、鑑賞面での配慮も兼ね備え、作品を展示する天板の厚さをできるだけ薄く、そして板とベースの板の隙間をできれるだけ狭くしてほしいというオーダーを出して、技術者がつくりあげた。

  • リニューアルの主なポイント

1)正面玄関〜エントランス空間

 もともとはタイル張りの堅固な印象の建物で、階段によるアプローチから入口に吸い込まれるような作りになっていたが、今回整備された中之島公園との一体感や開放感を考えてガラス張りのエントランスホールとなった。青銅製の館名板のある外壁の一部がホール内に取り込む形で、また所蔵品の文様モチーフをあしらったオリジナルの外灯も残し、新旧が良い形で融合している。

柱を使わず、その代わりに中央にある曲面の壁が構造体になっている。

エントランス北側にある椅子は陶芸作家・橋本知成の作品。陶磁器の美術館ということで、展示空間ではないエントランスに何か陶磁器を体感できるものをということで考え、座っても大丈夫という許可を得て、「椅子」として購入した。まずは陶磁器を体感してもらう、この体感ということが今回のひとつのキーワードである。実際には展示室では作品には触れないが、触った感じを想像しながら鑑賞をして欲しいという願いでもある。

2)照明を一新

 陶磁器の鑑賞において光の質はきわめて重要で、本来の色や質感がどれだけきちんと見えるかが大事である。そこで、美術品の鑑賞に一番ふさわしい最新の高演色紫色励起LEDを取り入れることにした。自然光(太陽光)の特性に最も近く、青磁や白磁など陶磁器の色合いや肌の質感をクリアかつリアルに味わえるようになった。

 国宝の油滴天目茶碗では、ケースの天井の中央に茶碗の内面だけを当てるライトのある専用の独立ケースを導入した。こちらにも紫色励起LEDを採用し、油滴天目茶碗が本来持つ、豊富な色のバリエーションや質感を理想的な環境で味わえるようになった。

 

3)13の展示室の意味

 陶磁器の釉薬の色にちなんだ13色の色分けをし、それぞれの部屋のカラーが決まった。また13の部屋には4文字熟語風にタイトルをつけ、それぞれの部屋がどういう意味合いをもつ部屋なのかをこの言葉に込めた。

 

4)国宝を触る模擬体験

 国宝の油滴天目茶碗を体感できる新たな仕掛けをつくった。アルミニウムでできた3D プリントの茶碗を実際に触ると、これがコントローラーになって目の前のモニターに写った油滴天目茶碗の高精細映像が連動して動き、国宝を実際に手で触っているかのような模擬体験ができるようになっている。

 

5)写真OK高精彩なデータをオープンデータ化

 当館ではコレクションにより親しんでもらうため、早くから館内の作品撮影をOKにしており、また高精細オープンデータ化にも取り組んでいる。

 

<これから>

 現代の作家と共働、共創した展覧会もこれまで開催している。すぐれた古美術(古陶磁)は今見てもどれも斬新で新鮮である。現代の作家との関わりによって、古いものの新たな魅力や面白さを発見し、その価値を高めていくことが、次世代に作品を継承していくことになるのではないかと考えている。

 今回の特別展は、「シン・東洋陶磁」という名前にしたが、「シン」には三つの意味を込めた。新しいという意味の「新」。真なる美の「真」、心を動かすの「心」。
 今回のリニューアルは単に外見を新しくするだけなく、原点というものを再認識して、伝統を引き継ぎながら、さらに時代に応じた変革もしていく、それが素晴らしい作品を守り、伝えていく我々の使命ではないかと思う。
 展示している作品は変わらないが、それらの見え方が少しでも新しくなり、また開館当初の展示の工夫に対して再発見していただき、少しでも心にささるものがあれば、それもリニューアル効果だと思う。
 一人でも多くの人が陶磁器の魅力を感じ、ファンになっていただければと願っている。

<事務局から>

 作品を鑑賞する理想的な空間への徹底したこだわりにびっくりしました。美術館での鑑賞に照明は欠かせないとは知っていましたが、ここまで追求されておられるのかと感心し、作品への深い愛情も感じました。美への追求執念は受け継がれているのですね。お話を伺ったあとで、展覧会を拝見すると、これまで何度も見てきた作品がぐっと近くなって違うように見えました。
 新しくできたカフェは、明るいガラス窓から公会堂や公園が見渡せて鑑賞前後の楽しみが増えました。
 貴重なお話をありがとうございました。  
                            (文責:美術館にアートを贈る会事務局)


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