有田芳生の『酔醒漫録』

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孤酒にひたった一夜

2006-11-10 08:01:56 | 単行本『X』

 11月9日(木)銀座「てつ」で日本酒を飲み、「ル・ヴェール」。「アイルオブジュラ」をストレートで口に含み、しばらく泳がせた。シングルモルトは美味い。孤酒を味わっていると周囲の雰囲気になじめないことがある。「やるべき仕事をもっと」という気持ちが強いからだろう。タクシーに乗り、i-podを出してまずは松浦亜弥の「渡良瀬橋」、さらに加藤登紀子の「時には昔の話を」を聴く。そして小田和正の「the flag」だ。ホッとした。今朝のことを思い出す。「BC級戦犯」の隠された事実を描くことを目的とした単行本『X』。現場はインド洋のカーニコバル島。そのいちばんの問題である終戦直前の住民虐殺事件については英文裁判記録がある。ところが生存する証言者が見つからなかった。それがいたのだ。先日NTTの番号案内で探したところ一件の電話を知らされた。それから毎朝電話をかけるのだが、呼び出し音が鳴るだけで誰も出ない。念のためと今朝再び番号案内に問い合わせた。すると「二件あります」と言い、住所とともに職業まで教えてくれた。その一件はこれまで繰り返し電話をしていた番号だ。この間問い合わせた若い番号案内嬢がちゃんとした仕事をしていれば、無駄なく本人につながっていたのにと思えば腹も立つ。あのままかけ続けていればいつか諦めていたかもしれない。すぐにもうひとつの電話番号をダイヤルした。女性が出る。目的の85歳の男性に話を伺いたいと伝えると、まだ眠っているという。それが住民取り調べ現場で監視をしていた男性だった。こちらの用件を伝えて電話を切る。

 「ザ・ワイド」の準備をしていたところ、その男性から電話があった。虐殺現場の「におい」などを伝えてくれた。来週には会える。この男性に会いに行くとき、住民虐殺を直接命じられた男性を訪問する。前々から知っていたのだが、どうにも気持ちが動かなかった。若き兵士として上官から命じられ、何の罪もない住民を虐殺せざるをえなかった兵士たちがいる。みんな20歳代前半だったはずだ。戦後もずっと封印してきた忌まわしい経験を、あるとき見知らぬ男がやってきて話を聞きたいといったところで、果してそれは受け入れられるのだろうか。手紙を書こうとも思った。しかしそれでは最初から警戒されるだろう。断られればそれで終わりだ。いきなり訪問して誠意を尽すしかない。単行本『X』の主人公である木村久夫さんの人生を描くうえでは欠くことのできない取材なのだ。「きけわだつみのこえ」が編集される過程で、まず応募原稿が原稿用紙に書き写され、それが謄写版で印刷された。「わだつみ会」の理事長だった岡田裕之さんから入手したコピーを検討する。応募された原稿から削除された部分があった。家族についてのプライバシーなのだが、いまから判断すれば削除するほどの内容でもない。これまでの調査で得た事実の集積からいえば、木村久夫さんの精神はまだまだ隠されたままである。急がなくてはならない。