2017年、日本でもっとも注目を集めている動物といえば『ヒアリ』だろう。通常のアリと大きく違うのは毒針を持っていることで、その痛みは凄まじく “焼けるように痛い” ことから『ヒアリ(火蟻)』と名付けられたという。

さらには「死亡例がある」ともされていたヒアリだが、2017年7月18日、環境省はヒアリによる死亡例が確認できなかったとして、ホームページから一部の文言を削除した。つまり「ヒアリに刺されたら死ぬこともある」という噂は、完全にガセネタだったようだ。

死亡例が確認されず

ヒアリについて、これまで環境省のホームページ上には「アメリカで年間100人程度の死亡例もある」と記載されていた。だがしかし、専門家からの指摘で海外での死亡例が確認されないことが判明、ホームページ上から一部の表現を削除したという。

刺されるとメチャメチャ痛いことで有名だが、これでいくらかはヒアリに対し冷静に対処できるハズだ。特に小さなお子さんがいるご家庭では、やや安心できる新情報ではなかろうか。

・ネットの声

「痛いだけかよ」
「これで一気にヒアリ騒動は収束しそうですね」
「あんなに死亡するとか言っておいて……」
「勝手に殺人アリにされたヒアリも可哀想だな」
「でも、外来種の侵入を許しちゃダメだぞ」
「ヒアリさん、三日天下」
「今は忘れ去られたセアカゴケグモみたいだね」

「アメリカで年間100人程度の死亡例もある」と表記するに至った経緯は不明であるものの、刺されたことによる死亡例が確認されていないと判明した以上、ヒアリに対するヒステリックな対応は激減するに違いない。ヒアリが危険な生物であることに変わりはないが、死亡例が確認されていないことも しっかり覚えておこう。

参照元:環境省NEWS24
執筆:P.K.サンジュン引用ここまで

AERA 死者100人!? ヒアリは本当に“殺人アリ”なのか? 2017/7/4 07:00

https://dot.asahi.com/aera/2017070300079.html

「殺人アリ上陸」「米国では毎年100人以上死亡」──神戸港で荷揚げされたコンテナからヒアリが発見されたことで、危険が叫ばれるが、根拠は確かだろうか。

5月26日、兵庫県尼崎市でアリのコロニーが発見され、6月9日、「ヒアリ」であることが判明した。16日には神戸港から少し離れた場所でもヒアリに似たアリが見つかり、2日後にヒアリと確認された。20日にもヒアリに似たアリが見つかり、こちらは翌日、「アカカミアリ」だと確認された。また、23日に大阪府で見つかったアリが、26日にアカカミアリだと確認された。

●アリ塚が定着の目印

ヒアリもアカカミアリも、毒針を持つアリである。刺されると激しく痛み、大きく腫れ、ときには「アナフィラキシーショック」と呼ばれるアレルギー反応が生じる。ヒアリでは、死亡例も報告されている(アカカミアリの毒性はヒアリほどではないとされる)。そうした問題から、日本ではどちらも「外来生物法」で「特定外来生物」に指定されている。

ヒアリの原産地は南米の中部だが、米国やオーストラリア、中国など環太平洋諸国に定着している。大きなアリ塚をつくるのが特徴だ。日本ではまだ繁殖は確認されていない。つまり定着していないのだが、日本には大きなアリ塚をつくる在来種はいないので、定着したときにはアリ塚が一つの目印になる。

一方、アカカミアリの原産地は米国南部から中米にかけて。日本ではすでに硫黄島や沖縄本島、伊江島で定着実績がある。アリ塚はつくらない。

●「殺人アリ」はどれだけ怖いか。

ヒアリやアカカミアリが見つかった場所はすぐに燻蒸消毒され、近隣には注意を促すチラシが配られた。神戸港近くの幼稚園では砂場利用が中止され、北海道から沖縄まで各地の港は警戒を強めている。

ヒアリについては、マスメディアもネットメディアも、口を揃えて「米国では毎年100人以上がヒアリに刺されて死亡している」と警告している。もし日本に定着したら、どれだけ死亡者が出るのか。まず気になるのは米国情報の根拠だ。

●独り歩きする数字

たとえば米国疾病対策センターは「米国では毎年何千人もの人々が昆虫に刺され、少なくとも90~100人がアレルギー反応の結果、死亡している」と説明している。この数字はハチなども含めたもののようだ。

神戸市のプレス資料に「米国で毎年100人以上が死亡」という記述はない。担当者は、そうした情報を提供したことはなく、「各社が自分で調べたのではないでしょうか?」と言う。環境省の資料にもない。「いくつかの数字があって、それらが『年間』なのか『これまで』なのか、私たちも確認できていないのですよ」(環境省外来生物対策室)

東京都環境局の「気をつけて!危険な外来生物」というウェブサイトでは、北米では年間「100人以上の死者が出ている」と説明されている。その出典を問い合わせてみると、日本語の専門書2冊だという。それらには確かにそうした記述はあるが、その根拠となる論文などをたどることはできなかった。

外来生物の問題に詳しく、メディアでヒアリについて解説し続けている昆虫学者にも尋ねてみたが、急な出張で対応できないので別の専門家に問い合わせてほしい、と今回は回答を得られなかった。

米国での死亡数よりももっと重要なことは、ヒアリに刺されてしまっても、全員がアナフィラキシーショックを起こすわけではないということだ。その確率は0.6~6%と推測する研究もある。死亡率はもっと低いだろう。もし刺されても、激しい呼吸困難やめまいなどがすぐに起こらなければ、病院にはゆっくりと行けばよさそうだ。

ヒアリを含む外来生物には人間への健康被害だけでなく、生態系や農業への影響という問題もある。人々へ注意を促すために不確実な情報を使って煽るようなことは、問題の本質を見誤らせる可能性がある。(サイエンスライター・粥川準二)※AERA 2017年7月10日号(引用ここまで