以下、各紙の社説を証拠として掲載しておきます。
朝日 敵基地攻撃論/無用の緊張を高めるな 2013/5/22 4:00
http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit1?
敵の弾道ミサイル基地などを攻撃できる能力を、自衛隊が持つことを検討する——。 自民党の国防部会・安全保障調査会が、こんな提言をまとめた。すみやかに結論を出し、政府が年内に策定する新防衛大綱に反映させたいという。 北朝鮮によるミサイル攻撃への対処などを念頭に置いたものだろう。 だが、これではかえって地域の不安を高め、軍拡競争を招くことにならないか。そんな危惧を抱かざるを得ない。
日本の安全保障政策は、専守防衛が原則だ。自衛隊は「盾」として日本防衛に徹し、米軍が「矛」として攻撃を担うという役割分担を前提にしている。 安倍首相は「盾は自衛隊、矛は米軍で抑止力として十分なのか」と語る。米軍に頼るだけでなく、日本も「矛」の一部を担うべきだという主張である。
北朝鮮のミサイル問題や核実験に加え、中国の海洋進出も活発化するなど日本を取り巻く情勢は厳しさを増している。そうした変化に合わせて、防衛体制を見直すのは当然のことだ。
しかし、自衛隊が敵基地をたたく能力を持つことが、本当に日本の安全を高めることにつながるのか。 政府見解では「相手がミサイルなどの攻撃に着手した後」の敵基地攻撃は、憲法上許されるとしている。一方、攻撃の恐れがあるだけで行う「先制攻撃」は違憲との立場だ。 とはいえ、日本が敵基地攻撃能力を持てば、周辺諸国から先制攻撃への疑念を招くのは避けられない。 装備や要員など態勢づくりの問題もある。 自民党内では、戦闘機への対地ミサイルの搭載や、巡航ミサイルの配備などが検討されているようだが、それで済むほど単純な話ではない。 北朝鮮のノドン・ミサイルは山岳地帯の地下に配備され、目標の把握すら難しい。情報収集や戦闘機の支援態勢などを考えれば、大掛かりな「矛」の能力を常備することになる。 その結果、各国の軍拡競争が激化し、北東アジアの安全保障環境を一層悪化させる懸念すらある。財政的にも現実的な選択とは思えない。
安倍政権は、集団的自衛権の行使容認や、憲法9条改正による国防軍の創設をめざす。敵基地攻撃論は、そうした動きと無縁ではあるまい。 いま必要なのは、ぎくしゃくした周辺国との関係を解きほぐす外交努力である。無用の緊張を高めることではない。
毎日 敵基地攻撃能力/緊張高めず慎重議論を 2013/7/27 4:00
http://mainichi.jp/opinion/news/20130727k0000m070114000c.html
防衛省は、防衛力整備の指針となる「防衛計画の大綱」(防衛大綱)の中間報告に、北朝鮮の核・ミサイル開発の進展を踏まえて、敵のミサイル発射基地などを攻撃する敵基地攻撃能力の保有検討を盛り込んだ。専守防衛を基本とする日本の防衛政策の転換につながる可能性があり、慎重な検討を求めたい。
政府見解では、敵がミサイル攻撃に着手し、他に防ぐ手段がない場合に限り、発射基地を攻撃することを自衛の範囲として認めているが、日米安保体制のもと、自衛隊は「盾」(防御力)、米軍は「矛」(打撃力)を担う役割分担をしてきた。 しかし北朝鮮の相次ぐ核実験や事実上の弾道ミサイル発射を受けて、ミサイル防衛の強化だけでは不十分ではないかとの議論が、自民党を中心に活発化している。 攻撃前に敵の基地をたたくことは「専守防衛を逸脱した先制攻撃ではないか」との疑念が残る。何をもって敵がミサイル攻撃に「着手」したと判断するかが問題だ。敵がミサイル発射を宣言し、発射台にミサイルが据えられ、燃料が注入されれば「着手」と評価できる、という考え方もあるが、はっきりしない。拡大解釈されれば「先制攻撃」につながりかねない。その結果、地域の軍拡競争を招く可能性もある。 防衛上の有効性の問題もある。北朝鮮は、ほぼ日本全域を射程に収める中距離ミサイル「ノドン」200発を移動式発射装置に搭載し、山岳地帯の地下施設に配備しているとされる。位置や発射の兆候などの情報を正確に把握するのは簡単ではない。攻撃に必要な装備や部隊をどう整備するかも課題だ。
防衛省は「費用対効果、地域の安全保障環境への影響、日米同盟との関係」を検討する必要があるとしており、議論すること自体が抑止力になることを狙った面もありそうだ。
また中間報告は、沖縄県・尖閣諸島周辺での中国の海洋活動の活発化を受けて、離島防衛強化のため、自衛隊に機動展開能力や水陸両用機能(海兵隊的機能)を持たせることを検討すべきだと求めた。 南西諸島の防衛強化は必要だ。だが仮に尖閣諸島が相手国に一時的に占拠されたとしても、補給線を断てば、米海兵隊のような強襲揚陸能力は不要との指摘もある。「海兵隊的機能」という言葉も誤解を招きやすい。真に必要な防衛力整備は何か。財政事情が厳しい中で、国民が納得できる十分な検討と説明が必要だ。 年末の大綱策定に向け、安倍政権は周辺国の緊張を高めないよう留意しながら、有識者らの意見も幅広く聞き、冷静、慎重に議論を深めてもらいたい。
読売 敵基地攻撃能力/日米連携前提に保有の検討を 2013/5/18 2:00
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20130517-OYT1T01487.htm
日米同盟の抑止力を強化する方向で、自衛隊と米軍の役割分担を見直すことが肝要である。 自民党が、年末に策定する予定の政府の新たな防衛大綱に関する提言案をまとめた。 自衛のために相手国のミサイル基地などを攻撃する「敵基地攻撃能力」の保持について、「検討を開始し、速やかに結論を得る」と明記した。北朝鮮の核・ミサイル開発を念頭に置いたものだ。
北朝鮮の弾道ミサイル能力が向上する中、ミサイル防衛による抑止に限界があることは否定できない。同時に多数のミサイル攻撃を受けた場合、すべてを完璧に迎撃するのは困難である。 日米両国は長年、自衛隊は専守防衛で「盾」、米軍は「矛」の役割をそれぞれ担い、報復攻撃の打撃力は米軍に全面的に委ねる体制をとってきた。 この米軍の攻撃力の一部を補完する形で、自衛隊が敵基地攻撃能力を保有することは、日米の防衛体制の強化につながろう。 安倍首相も前向きな姿勢を示している。今月上旬の国会答弁で、日本へのミサイル攻撃が迫っている際に「米軍に攻撃してください、と日本が頼む状況でいいのか」と問題提起した。
重要なのは、自衛隊がどんな装備を導入するのが良いのか、具体的な検討を進めることだ。 選択肢としては、攻撃目標の正確な位置を入力し、全地球測位システム(GPS)で誘導する巡航ミサイルの導入や、ステルス性を持つ最新鋭戦闘機F35などによる対地攻撃が想定される。 巡航ミサイルは、移動式発射台を使うノドン・ミサイルなどへの攻撃が難しい。F35では、相手国への領空侵入を支援する大規模な航空部隊の編成が必要となる。 どちらの場合も、日本が単独で攻撃するのは非現実的だ。攻撃目標の探知など情報面の協力を含め日米の緊密な連携と適切な役割分担を前提とせねばなるまい。
提言案は、南西方面の島嶼(とうしょ)防衛のため、陸上自衛隊に「海兵隊的機能」を付与し、水陸両用部隊を新設することも求めている。 中国軍が尖閣諸島周辺での示威活動を強める中、島嶼防衛を強化する必要性は増している。陸自は既に米海兵隊と共同訓練を重ね、海兵隊的機能の保有を進めているが、新大綱では装備面を含め、その動きを加速させるべきだ。 新型輸送機オスプレイを自衛隊が導入することも、前向きに検討していいだろう。
【主張】防衛大綱改定 敵基地攻撃能力の明記を2013.7.27 03:14 [主張] http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130727/plc13072703140005-n1.htm
安倍晋三政権は防衛力整備の長期指針となる「防衛計画の大綱」を年末に改定する。 これに向けて防衛省がまとめた中間報告には、離島の防衛や奪回にあたる海兵隊の機能を自衛隊に持たせる方針を明記するなど具体的な抑止力強化策が盛り込まれた。 日本を狙う弾道ミサイルの発射元を無力化する、敵基地攻撃能力の保有にも含みをもたせた。安全保障政策の見直しを具現化しようとするこうした取り組みを評価したい。 大綱では保有を明記するなど一層の踏み込みが必要だ。 中間報告は、防衛省が国の守りには最低限必要だと判断した内容だ。今後の政府内での検討作業でさらに具体化を図り、日本の平和と安全を守り抜くことができる大綱を実現してほしい。
北朝鮮の弾道ミサイル開発は、長射程化の技術を向上させるなど新たな段階に入った。北の核・ミサイルは、日本の安全に対する重大な脅威だ。現在は報復能力を全面的に米軍に頼っており、日本はまったく保有していない。自分の国を自分で守る抑止力を持っていないことが問題なのだ。 首相は5月の国会答弁で、「相手に思いとどまらせる抑止力の議論はしっかりしていく必要がある」と語った。公明党は敵基地攻撃能力の保有に慎重だ。
相手の一撃を甘受する「専守防衛」に象徴されるように、防衛政策の基本的な方針により、十分な抑止力が働かない状況が作り出されてきた。日米同盟強化のため、集団的自衛権の行使容認も喫緊の課題となっている。
尖閣諸島の奪取をねらう中国は、東シナ海から西太平洋への進出を図っている。中国軍の早期警戒機が24日、沖縄本島と宮古島の間の公海上を通過する「特異な行動」(安倍首相)をとった。中国海軍の艦艇が日本列島を1周する示威行動もした。 中間報告は離島防衛のため、機動展開能力と水陸両用機能(海兵隊機能)の確保を打ち出した。 日本が抑止力の強化に努めることにより、中国の高圧的な行動や、偶発的な軍事衝突など不測の事態を防ぐことができるとの考えは妥当なものだ。
日本を守れる実効性の高い防衛政策を確立し、それに基づいた防衛力整備を図ることが何よりも重要である。
中日/東京 敵基地攻撃能力/軍拡の口実与えるだけ 2013/5/25 8:00
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013052502000123.html
自衛隊も敵の領土にある基地を攻撃できる能力を持つべし、との議論が自民党内で進んでいる。ミサイル開発を進める北朝鮮を念頭に置いたのだろうが、軍備増強の口実を与え、逆効果ではないか。 自衛隊は日本に武力攻撃があった場合、自衛のために必要最小限の武力を行使することができる。 ミサイル攻撃を防ぐ手段がない場合、発射基地を攻撃することは自衛の範囲だが、他国を攻撃する兵器を平素から持つことは、憲法の趣旨に反する。 これが自衛隊をめぐる日本政府の立場であり、国民にも広く受け入れられてきた考え方だろう。
こうした原則を根本から変える動きが自民党内で出てきた。 安全保障調査会と国防部会の提言案に敵のミサイル発射基地などを攻撃する「策源地攻撃能力の保有」の検討開始が盛り込まれたのだ。速やかに結論を出し、政府が年内に定める新しい「防衛計画の大綱」に反映させるという。 背景には、北朝鮮によるミサイルの脅威が現実のものとなってきた、との危機感があるようだ。
日本ではミサイル防衛システムの配備が進んでいるが、多数のミサイルが同時に飛来した場合、すべてを迎撃するのは困難で、日本を守るには敵の基地を攻撃するしかない、という理屈だろう。 敵の基地攻撃能力を持つには戦闘機の航続距離を延ばして空対地ミサイルを装備する、巡航ミサイルを配備することが想定される。 国民の生命と財産を守るのは政府の責務だが、敵の基地を攻撃するための武器を平素から持つことが憲法の趣旨を逸脱するのは明白だ。厳しい財政状況を考えても、多額の経費を要する攻撃的兵器の導入は非現実的である。
自国民を守るために攻撃能力を持つのだと主張しても、それが地域の不安定要因となり、軍拡競争を促す「安全保障のジレンマ」に陥らせては、本末転倒だ。
北朝鮮に核・ミサイル開発を断念させ、拉致事件を解決するには「対話と圧力」路線を粘り強く進めるしかあるまい。関係国と協調して外交努力を尽くすことが重要なのは、軍備増強、海洋支配拡大の動きを強める中国に対しても同様だ。 安倍晋三首相は「集団的自衛権の行使」容認や憲法九条改正による国防軍創設を目指す。敵基地攻撃能力の保有検討もその一環なのだろうが、前のめりになることが問題解決を促すとは限らないと、肝に銘じておくべきである。(引用ここまで)
地方紙の検証は別項でおこなう予定です。