岩木山を考える会 事務局日誌 

事務局長三浦章男の事務局日誌やイベントの案内、意見・記録の投稿

「大沢の雪渓、4人連れで登り、2人は岳へ、もう2人は私と赤倉登山道を降りる」(その6)

2009-07-11 05:23:15 | Weblog
 (今日の写真は大沢の雪渓を登るのに使用した「アイゼン」である。写真の上部にあるのが、夏山雪渓歩き用の「軽アイゼン」と称されるものだ。これは、私の「つれ合い」が使っているものだ。爪は4本だ。靴の踵の手前部分に2本のバンドで固定して使うのだ。当然、「爪」を効かした「制動力」は弱い。つまり、これを着ける者には、暗黙の「つま先を蹴り出す」という「キックステップ」行動が要求されるのだが、大概は「爪」だけを頼りに斜面を登ろうとする。同行したIさんも最初はそうであった。
 「キックステップ」を一度も体験したことのないIさんにそのことを言っても「要らぬ心配」を与えるだけだと思い、私は黙っていた。それよりも、「アイゼンを装着」したから大丈夫という安心感を持って登ることを優先させたのである。
 その「4本爪アイゼン」の下部に写っているものが「12本爪アイゼン」である。1988年にヒマラヤ7500m峰に出かけ、帰国してから購入したものだ。7500m峰に持って行った「アイゼン」は重かった。ワカンでもそれといった「不自由」を感じない「岩木山」では、軽い「アイゼン」で十分だと考えて購入したのである。
 そして、その年の厳冬期から今年の厳冬期まで、ずっと「私のザック」に入っている。これは、イタリヤのカンプ製「アルミ打ち抜き」で安価で軽量、ワンタッチで着脱が出来るのである。アイゼンバンドで時間をかけて小忠実に「着脱」しなければいけない「アイゼン」は本当に煩わしいものだ。それに比べると「ワンタッチで着脱」出来るアイゼンは「別世界の用具」にさえ思えたものである。
 ただし、いくら「12本爪アイゼン」だからといっても、6000mを越える高峰登山では、これは使えない。命の保障がないからである。固い氷雪だと、このアルミの爪は曲がってしまう。そして折れるのだ。
 軽量のアルミ製ピッケルも同じだ。一昨年の2月、岩木山で私の「軽量ピッケル」はブレードだけを残して「ピック」部分が折れてしまった。高峰の氷雪の斜面でそうなったとしたら、「生きて帰ること」は出来ない。

 私が一等最初に使った「アイゼン」は「ステンレス」製の「プレス打ち抜き」で、10本爪のものだった。国産品で確か「ホープ」というメーカーのものだった。このメーカーは今でもあるのだろうか。鍛造でないので、価格は安かったが、価格の割には「重量」があった。安いといっても大量生産品ではなかったので、安月給の身には堪える値段であったと記憶している。黄色の塗料が吹き付けられたカラフルなものであった。当然、アイゼンベルト(バンド)で、二重三重に靴に固定して使用した。
 だが、ヒマラヤの7500m峰に行くことになった時、「絶対に折れない、曲がらない、外れない」アイゼンが必要になったのだ。そこで、「カドタ」製の「12本爪アイゼン」を手に入れた。これは軟弱な「プレス打ち抜き」ではない。職人が「鋼(はがね)」を、長い時間をかけ、叩いたり、火入れをしたりして、鍛えて造る「鍛造」という方法で造られたものだ。だから、撓りながら反発力があり、瞬時曲がっても元に戻り、折れそうになってもおれないし、鋭利な爪の摩耗もないという「業物(わざもの)」であった。絶対の安全を保障する業物だから、信頼を置いて行動出来たのである。だが、何しろ重いのだ。その上、ベルトで固定する仕様だから「着脱」に時間がかかった。これには参った。
 空気の薄い、しかも極寒の中、手を悴ませてする「着脱」は気が遠くなるような作業だったのである。)「この稿は明日に続く」

◇◇大沢の雪渓を登り、山頂から2人は岳へ、2人は私と赤倉登山道を降りる」(その6)
(承前)

 焼け止り小屋の前で休憩をしていたら、大沢方向から見覚えある顔の人がやって来た。「おお、Kさん、どうしたんですか」「ああ、三浦先生、しばらくでした」声を出し合ったのは2人同時であっただろう。
 Kさんは「岩木山パトロール隊」の一員だ。時間のある限り、岩木山に登り、「登山道の修復と整備」に当たっている人だ。その日は会えなかったが、Kさんと同じように「」に当たっている者はもう1人いる。Fさんだ。
 早速訊く。「雪渓の状態はどうですか」「登山者の中でアイゼンを持っている人の比率はどうですか」などだ。
 その答えだが、「雪渓は大沢下部の滝のところまである」「アイゼン持参は6割程度。残りは持っていない。持っていない人に、下山を勧めているが、なかなか応じてくれない」などであった。
 「ところで、何してたんですか」
 「大沢から蔵助沢に代わるところの滝の上にスキーヤーのための進入禁止のテープを張ってあるのだが、貼り付けてあった樹木が雪消えによって直立して、テープの意味がなくなってしまったので、それを取り外したいのだが、高くなってしまい取れない。竹竿で引っかけて切り取ろうと思い、小屋の中にある竹竿を取りに来たのだ」と言う。
 有り難いことである。このように登山者の安全のために、それとなく気を遣って整備をしてくれているのだ。だが、登山者にはその「安全を確保する」という行為は、なかなか理解されない。
 Kさんには昨年の7月にも、その後も何回か会っている。会うたびに「登山道」の足場に石積みをしたり、岩止めや土留めの杭うちなどをしているのであった。その7月だが、山頂で出会い、シロバナで花弁の先端に、薄い紅の縁取りのある「ミチノクコザクラ」の情報も教えてもらったりしたのだ。(明日に続く)