1995年ミュージカル『回転木馬』-ミュージカル・ナンバー
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/5bfea2986a470c9d72178b509e282324
(1995年帝国劇場公演プログラムより)
「写真と文;マシュウ・ホワイト(演出補)
1620年9月、敬虔なキリスト教徒の男女からなる一団が「メイ・フラワー」号という船に乗り込み、危険渦巻く大西洋を横断する旅に出た。最終目的地はアメリカ。祖国で苦渋をなめてきたこられピルグリム・ファーザーたちが、ようやく宗教的不寛容から解放されると胸躍らせた「勇猛果敢な、新世界」であった。
「回転木馬」はいろいろな意味で、原作であるハンガリーの戯曲「リリオム」に驚くほど忠実に作られている。ただし、物語の舞台となる土地はそれぞれの特徴を物語るように異なっている。「リリオム」はブタペストのうらぶれた郊外が舞台だが、「回転木馬」はニューイングランドの美しい海岸地帯が舞台となっている。「回転木馬」の公演に1年余り従事して、私はようやく、アメリカ北部のこれらの州が、なぜこれほどユニークなのか、その秘密を自分の目で探ってみようと腰を上げたのだ。
私がメイン州に到着したのは10月で、1年のうちでもとりわけ、目の覚めるほどに美しい季節dった。海と空の青をバックに燃えるような赤や黄金色の紅葉が鮮やかに映えていた。海岸線はでこぼこの小さな島々が点在していた。どの町や村でも教会や礼拝堂があり、その特徴的な白い尖塔が簡素な美しさと気品を湛えて空に向かって延びている。ロジャーズとハマースタインがまれに見るような、このメイン州の海岸地域を「回転木馬」の舞台と定めたのも、またこの土地にインスピレーションを受けたのもうなづける。
この百年間にメイン州が大きく変化したことは明らかだ。(回転木馬は19世紀末に時代設定されている)。19世紀の綿工場や織物工場ん」はとうの昔に上流指向のレストランや土産物店、ホテルなどにとって代わられた。しかし一つだけ常に代わらぬものがある。それは海が与える影響である。港は今も、形や大きさも様々の多数の船で賑わい、ロブスター漁の漁師たちは昔ながらに、早朝わなを仕掛けて色鮮やかなブイを目印に置いておき、わないっぱいにロブスターがかかったころ戻って来る。世界中からシーフードに目のない人々がこの海岸を訪れ、よりどりみどりの海の幸に舌鼓を打っている。一方、ありがたいことに捕鯨業は打ち切られたが、この巨大な海の生き物は今も住民たちの収入源となっている。メイン州沖合での鯨ウォッチングが今では観光客に人気の目玉商品となっているのだ。
リチャード・ロジャーズは彼の自伝の中で、フェレンツ・モルナール作の「リリオム」に最初に出会ったときの印象を次のように語っている。「リリオムのミュージカル化はまったくの無理難題と思われた。物語の舞台はブタペストであり、オスカーも私もまったくその土地に感じるものがなかった。」幸い、この二人の感受性がメイン州の風景とそこに住む人々に対して働いた結果、この波乱に富むハンガリーの物語にはあたらしい、そしてより楽観的な背景が与えられることとなった。物語をニューイングランドの漁村という共同体の心臓部に据えかえたことにより、ロジャーズとハマースタインはどちらかというと悲観的な「リリオム」という原作には大きくかけていた温もりと活気を加えたのだ。「回転木馬」は希望の祝歌によって幕を閉じる。そして未来に向けての熱烈な参加を唱和するとき、コミュニティは一つになるのである。この楽天観が存在するのにこれほど無理のない自然なセッティングが他にあろうか。1620年にピルグリム・ファーザーたちは希望を胸に大西洋を渡る旅に出た。「回転木馬」で私たちは、この「希望」が国民的遺産となったことを感じるのである。」
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/5bfea2986a470c9d72178b509e282324
(1995年帝国劇場公演プログラムより)
「写真と文;マシュウ・ホワイト(演出補)
1620年9月、敬虔なキリスト教徒の男女からなる一団が「メイ・フラワー」号という船に乗り込み、危険渦巻く大西洋を横断する旅に出た。最終目的地はアメリカ。祖国で苦渋をなめてきたこられピルグリム・ファーザーたちが、ようやく宗教的不寛容から解放されると胸躍らせた「勇猛果敢な、新世界」であった。
「回転木馬」はいろいろな意味で、原作であるハンガリーの戯曲「リリオム」に驚くほど忠実に作られている。ただし、物語の舞台となる土地はそれぞれの特徴を物語るように異なっている。「リリオム」はブタペストのうらぶれた郊外が舞台だが、「回転木馬」はニューイングランドの美しい海岸地帯が舞台となっている。「回転木馬」の公演に1年余り従事して、私はようやく、アメリカ北部のこれらの州が、なぜこれほどユニークなのか、その秘密を自分の目で探ってみようと腰を上げたのだ。
私がメイン州に到着したのは10月で、1年のうちでもとりわけ、目の覚めるほどに美しい季節dった。海と空の青をバックに燃えるような赤や黄金色の紅葉が鮮やかに映えていた。海岸線はでこぼこの小さな島々が点在していた。どの町や村でも教会や礼拝堂があり、その特徴的な白い尖塔が簡素な美しさと気品を湛えて空に向かって延びている。ロジャーズとハマースタインがまれに見るような、このメイン州の海岸地域を「回転木馬」の舞台と定めたのも、またこの土地にインスピレーションを受けたのもうなづける。
この百年間にメイン州が大きく変化したことは明らかだ。(回転木馬は19世紀末に時代設定されている)。19世紀の綿工場や織物工場ん」はとうの昔に上流指向のレストランや土産物店、ホテルなどにとって代わられた。しかし一つだけ常に代わらぬものがある。それは海が与える影響である。港は今も、形や大きさも様々の多数の船で賑わい、ロブスター漁の漁師たちは昔ながらに、早朝わなを仕掛けて色鮮やかなブイを目印に置いておき、わないっぱいにロブスターがかかったころ戻って来る。世界中からシーフードに目のない人々がこの海岸を訪れ、よりどりみどりの海の幸に舌鼓を打っている。一方、ありがたいことに捕鯨業は打ち切られたが、この巨大な海の生き物は今も住民たちの収入源となっている。メイン州沖合での鯨ウォッチングが今では観光客に人気の目玉商品となっているのだ。
リチャード・ロジャーズは彼の自伝の中で、フェレンツ・モルナール作の「リリオム」に最初に出会ったときの印象を次のように語っている。「リリオムのミュージカル化はまったくの無理難題と思われた。物語の舞台はブタペストであり、オスカーも私もまったくその土地に感じるものがなかった。」幸い、この二人の感受性がメイン州の風景とそこに住む人々に対して働いた結果、この波乱に富むハンガリーの物語にはあたらしい、そしてより楽観的な背景が与えられることとなった。物語をニューイングランドの漁村という共同体の心臓部に据えかえたことにより、ロジャーズとハマースタインはどちらかというと悲観的な「リリオム」という原作には大きくかけていた温もりと活気を加えたのだ。「回転木馬」は希望の祝歌によって幕を閉じる。そして未来に向けての熱烈な参加を唱和するとき、コミュニティは一つになるのである。この楽天観が存在するのにこれほど無理のない自然なセッティングが他にあろうか。1620年にピルグリム・ファーザーたちは希望を胸に大西洋を渡る旅に出た。「回転木馬」で私たちは、この「希望」が国民的遺産となったことを感じるのである。」