たんぽぽの心の旅のアルバム

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『カール・ロジャーズ入門-自分が”自分”になるということ』より-「宇宙そのものの形成的傾向」

2021年08月04日 00時41分08秒 | 本あれこれ
『カール・ロジャーズ入門-自分が”自分”になるということ』より-<いのち>への信頼
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/c551fedd2acf517d4a3706a9304dc459

「さらに晩年のロジャースは、「この宇宙には、ある形成的傾向(a formative tendency)」が働いていて、しかもそれはこの世界のあらゆるレヴェルで観察できる」という考えをより根本的な仮説として提示するようになりました。つまり、自らを維持し実現し強化する方向に向かっていく実現傾向は、「生命システムの傾向であるばかりでなく、私たちの宇宙に存在する強力な形成的傾向の一部であり、それはあらゆるレヴェルで顕現している」と考えるようになったのです(Rogers,1980)。

 あまり知られていませんが、後期ロジャースでは、この「宇宙全体の形成的傾向」という考えは、「有機的生命の実現傾向」という考えと並んで、「時間の経過と共にますます重要な意味を帯びてきた」、いわば二大主要命題として位置づけられています。

「宇宙全体の形成的傾向」についてロジャースは次のように言います。

「私の仮説ではこの宇宙には、ある形成的な傾向が存在しています。そのことは、星に満ちた宇宙空間、水晶、微生物、より高等な生物、そして人類において確認し観察することができます。つまりこの宇宙には、さらなる秩序へ、さらなる複雑さへ、そしてさらなるつながりへと向かって進化していく傾向が備わっているのです。人類においてこの傾向は、単細胞から始まって複雑な生命機能へ、意識下の認識と感知へ、有機体と外的世界についての意識的な覚醒へ、そして人間を含むこの宇宙の体系は調和に満ち統一されているということへの超越的な覚醒(transcendent awareness)へと向かっていく個人の変化のうちに示されています」(Rogers,1980)。

 この宇宙には、絶えず進化へ向かっていくある傾向が存在している。人間に絶えず複雑さへと向かっていく「実現傾向」が備わっているのも、それがこの宇宙そのものの進化の一部であるからだ。そう後期ロジャースは言うのです(ロジャースによればこの考えは、1970年代初頭におこなわれたヒューマニスティック心理学の理論に関するある会議においてひらめいたもので、78年にまとめられています。またその上で最も大きな影響を受けたものとしてロジャースは、ノーベル賞生物学者A・S・ジョージの「シントロピー」の概念、思想史家のワイトの「形成傾向」の概念の二つをあげています)。

 この「宇宙そのものの形成的傾向」を示す例ととしてロジャースは、生命の出現以前に存在していた単純な物質、すなわち水やアンモニアという形で存在していた水素、酸素、窒素などが電気的附や放射エネルギーによって溶解し、より重量の大きな分子が形成されてより複雑なアミノ酸が形成されていったこと、したがって私たちの生命もビールスの形成やもう少し複雑な生命体として第一歩を踏み出していったのであって、そこには、破壊的ではなく創造的なプロセスが働いていたことをあげています。

 また、生命進化の過程においては、明らかに複雑さへの志向性が存在すること、進化には明確な増大の法則があることを指摘しています。

 さらにここでロジャースは、「宇宙全体における形成的傾向」において人間の「意識」の発達が持つ意味についても論じています。ロジャースによれば、人類という種の最近の進化発達における最も重要な出来事は、意識的な注意の能力の発達にあります。そして意識的注意の集中の能力を、「意識が関与しない生命体の機能という巨大なピラミッドの頂点に位置する覚醒や象徴化能力という小さな頂点」として位置づけています。

 人間はこれまでより完全な覚醒(awareness)の発達へ向かってきたし、人類という種がこれからむかっていくべき方向があるとすれば、それはこの完全な覚醒に向かってである。だから人間は、その覚醒の力を高めれば高めるほど宇宙の進化の方向と調和しながら生きていくことができるし、そうすべきである。そうロジャースは言うのです。

 さらにロジャースは「私たちは今、自らを超越して、人類の進化におけるより新しい、よりスピリチュアルな方向性を想像する力という鋭い刃に触れているのです」と言い、人類の進化の歴史において現代という時代が持つ重要な意義をクローズアップしています。」

(諸富祥彦『カール・ロジャーズ入門-自分が”自分”になるということ』1997年10月10日大一刷発行コスモス・ライブラリー、166-168頁)


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