三好春樹『関係障害論』より‐介護状況が作ったものは介護で治す
「ところが、最初のうちは、教えてくれて開けてみると、オムツが冷たいのです。これではまだまだです。つまり、出てから時間がたっていて、冷たくなって感じるいちばん敏感な冷覚だけが戻っている状態なのです。そこで、「教えてくれたのはありがたいけど、これはだいぶ時間がたっているよ。今度は出てすぐ教えてくれる?」といいますと、そのうち、温かいとか、まだ出ている最中とかになります。ここまでくると、皮膚感覚が冷感覚だけではなくて、完全に戻ったということになります。
今度は、「出そうになったら教えてくれる?」と尿意にアプローチしていきます。そこで「おしっこが出そうだ」と言うようになると、「ああ、尿意が戻ってよかったね」となるんですが、そのとき「はし、オムツの中にしなさい」というのはダメです。ここがオムツを外す第一歩です。「ちょっと我慢してよ」といって、車イスにのってトイレに行くとか、ポータブルトイレにするとかして、オムツ以外の場所に排尿してもらいます。そういう形で、昔のオムツ外しというのはやっていました。
これでかなりオムツは外れましたが、介護が大変なのです。”大”のほうから入るというオムツ外しの提案をしたときに、なんで早くそれを教えてくれなかったのかと、現場の人からかなり怒られました。でも、私もやってみるまでわからなかったんです。これは、なぜ老人が皮膚感覚、尿意がなくなっていくのかという、原因に即応した形でオムツを外していくという方法です。
コンチネンス協会の人たちの言ってることだと、最初からマニュアルをつくって、感覚のない人はオムツで仕方がないから良いオムツを選びましょうとか、感覚が残っている人はこういう対応をしましょうというふうに分けてやりますね。でも、何で感覚がなくなるのかという、疑問も怒りも反省もないというのがおかしいと思うんです。私たちの関わり方の中で、尿意や皮膚感覚をなくしているわけですからね。それをいかに取り戻すかを考えていただきたいと思うのです。」
(三好春樹『関係障害論』1997年4月7日初版第1刷発行、2001年5月1日初版第6刷発行、㈱雲母書房、51-52頁より)