木版画家と言えば先ず棟方志功を思い浮かべる方も多いと思います。しかし、明治から昭和にかけて、浮世絵版画の流れをくみ、その卓越した技法で原画、彫り、摺りの全ての工程を行う創作木版画家の巨匠が今回の吉田博。氏自身も洋画、日本画と幅広い作品がある中で、吉田博の木版画は、技術と表現においても群を抜いていると思います。
今回の展覧会は、23歳のの若さで渡米、デトロイト美術館で展覧会を開催し、翌年にはボストン美術館で展覧会を開催するなど、アメリカでその作品は広く知られています。そうした経緯を踏まえて、今回は、熱海にあるMOA美術館の所蔵品による内外の風景作品が展示されています。
直筆画と見間違うほどの、細密な描写はすべて木版画の彫刻刀によるもの、また多色刷りの繊細な色遣いは、江戸浮世絵版画の摺り数をはるかに上回り、和紙にしみこんだ色は奥行きを感じさせます。
たとえば、瀬戸内海集「光る海」光さす水面を彫刻刀の小さく無数の彫りを施し、紙の生地だけで光を表現しています。また、日本の名所風景の水面に映し出される影の表現は吉田の技量と表現が重なって叙情的な美しさを感じました。
今回の展覧会は、いつになく多数の鑑賞者がいて、吉田博の作品を見ながら旅の世界に浸っているようにも思い、ぜひ、この展覧会をたくさんの人に楽しんでほしいと強く感じる展覧会でした。