今回は地元名古屋を舞台にした日比遊一監督の新作「名も無い日」を先行上映で鑑賞してきましたのでご紹介します。
日比遊一監督は、高倉健の美学に迫ったドキュメンタリ「健さん」でモントリオール映画祭のドキュメンタリー部門で最優秀賞を、また、樹木希林企画、浅田美代子主演の「エリカ36」で監督を務めています。今回の作品は、日本公開の作品しては3作目となります。
今回の作品は、日比遊一監督の故郷でもある名古屋市熱田区を舞台に二男の死により帰郷したカメラマンの長男が弟の死の真相を叙情的に辿っていくヒューマンサスペンスのような感じがしました。彼自身もほぼ私小説と述べていますがその内容を衝撃的なものでした。また、タイトルの名も無い日は二男の命日を指しているのではと思います。
長男のカメラマン小野達也を永瀬正敏が、死んだ二男、章人をオダギリジョー、三男、隆史を金子ノブアキが演じ、他にも真木よう子、今井美樹など豪華な顔ぶれです。他にも個性的な面々が顔を揃てていますが、それぞれの役柄を生き生きと演じていました。特に二男を演じたオダギリの演技は強烈な印象を受けました。また、カメラマン監督らしい独特なカメラワークも、舞台である熱田の杜の空気と相まって独特な空気が漂っていました。
ニューヨークで活躍している達也は、上辺では弟の不慮の死もお構いなく生まれ育った町を徘徊しながらカメラのシャッターを切ろうとしますが切ることが出来ません。そこには二男の幻影が憑りついているようです。二男の幻影を打ち消すように達也は、弟との幼き頃の思い出と自宅に一人残った弟の知られざる過去とを探っていきます。その光景が断片的に死の真相へと辿り着きます。また、久しぶりの帰郷により同級生や知人たちの交流の中で、大切な人を亡くしたことへの悔恨が散りばめられています。それでも人は死に向かって生き続ける。ラストは達也の章人の生きた証と達也の生きる意志を感じました。
映画は6月11日より全国ロードショー。また名古屋市美術館では7月10日より「日比遊一写真展」が開催されます。