映画館で観れなかった作品をDVDで観るシリーズ。今回は、キネマ旬報ベスト・テンから3位に輝いた長編映画「あゝ、荒野 [前篇/後篇] 」です。
今回の作品、僕の中ではベストワンだと思う作品でした。一気に前後半の5時間余りの大作を観賞しましたが、映画館で観なかったことが悔やまれるほどの存在感でした。
原作は、寺山修司の長編小説ですが、原作の骨子だけを遺して設定を2021年の東京オリンピック後に設定。今の時代と来るべき未来の時代をうまく昇華しています。2016年二重生活で長編映デビューを果たした岸善幸監督は、二作目にして寺山修司の世界を見事に表現しました。
ある事件を起こし少年院から出所した菅田将暉演じる新次と床屋で働くヤン・イクチュン演じる建二。二人はたまたま出会った片目とプロボクサーを目指すことに。見た目も性格も対照的な二人が、運命の糸でつながり対決するというボクシングをベースにした内容です。
ただし、この作品は単なるボクシングを通じたサクセスストリーではなく、宿命的な境遇の中で、苦しみながら不条理な社会と戦う青春劇と言った方が正しいかと思います。二人が取り巻く社会の問題を風景のように描きながら、二人の人生に深くかかわっていく。打ちひしがれ、もがき苦しみながら、忍耐と怒りで突き進んでいく、若者が本来持つ血潮が沸き上がる苛烈で刹那な作品です。
怒りの熱を抑えることができない激しい熱情をふきだしながら社会と向かう姿を菅田将暉が、そして、監督としても知名度のある韓国俳優ヤン・イクチュンが怯え息をひそめながら生きる若者がボクシングと新次の出会いで生きる目標を掴む姿を、監督と誓った二人の代表作として見事な演技で観る者を圧倒します。また、宿命的に登場する人物すべてが、異なる存在感を画面一面にたたきつけ、どのシーンも強く印象に残るものでした。
この作品は、寺山修司を語る上で、また、日本の青春映画史に燦然と輝く作品だと思います。日本映画に不滅の名作がまたひとつ生まれました。