《社説②》:日大理事長逮捕 自浄能力をどう取り戻す/12.02
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②》:日大理事長逮捕 自浄能力をどう取り戻す/12.02
国内最大規模のマンモス大学が統治不全に陥っている。
日本大学の田中英寿理事長が脱税の疑いで東京地検特捜部に逮捕され、辞任した。
16の学部を備え、付属の高校や病院を全国に展開する学校法人トップの逮捕だ。大学の学生数は6万6千人、卒業生は120万人を超える。
組織が大きい分、運営に関わる取引の規模も大きい。幹部らがこの一部を私物化して業者からリベートを受け取り、私腹を肥やしてきた構図が浮かんでいる。
日大には昨年度、全国の大学で2番目に多い90億円の私学助成金が交付されている。学生や社会に対して説明責任を負っているのは言うまでもない。
幹部らの背任事件で強制捜査が始まったのは今年9月。以降、日大は、記者会見など公の場での説明機会を設けてこなかった。
トップ逮捕という事態に際しても、公式ホームページで「誠に遺憾。捜査に全面協力する」との形式的なコメントを載せただけだ。日大は事件に関する調査を早急に進め、公表すべきだ。
事件は医学部付属板橋病院(東京都板橋区)の工事や機器納入を巡って起きた。日大の元理事と医療法人の元理事長の2人が、背任罪で起訴された。取引を利用して計4億2千万円を流出させ、日大に損害を与えたとされる。
田中容疑者の脱税容疑は2人の捜査に関連して浮上した。計1億2千万円を受け取っていたのに申告せず、計5300万円の所得税を免れた疑いが出ている。
田中容疑者はトップに13年間君臨し「日大のドン」と呼ばれた人物だ。大学施設の工事代金の還流など、過去にもさまざまな疑惑が取り沙汰されてきた。
特捜部は今回、2人との共謀を裏付けられず、背任罪での立件は見送っている。だが流出させた金が田中容疑者に渡っていたとすれば、責任は免れない。
本人は現金の受領を否定しているという。特捜部には利権構造の徹底的な解明を望みたい。
日大の関係者から聞かれる田中容疑者の人物像は強権的な独裁者と言えるものだ。相撲部監督の立場で体育会を中心に学内での地位を固め、2008年に理事長に就任。人事権を使って反対意見を封じ込めていったとされる。
大学が組織として説明責任を果たせない背景にも、長年続いたワンマン体質があるのだろう。自浄能力をどう取り戻すか。日大は重い課題と向き合うほかない。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 ニュースセレクト 社説・解説・コラム 【社説】 2021年12月02日 09:34:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。