人間は、誰しも自分が不快と感じるものからなるべく遠ざかりたいと思うものです。
私の知り合いで、大手証券会社に勤務していた人がいました。
10数年前、その証券会社はじめ、幾つかの証券会社や銀行が立て続けに倒産したことがありました。橋本政権時代の金融ビッグバンの頃でした。
その会社の株価は日ごとに値を崩して行き、顧客といえば、まるで取り付け騒ぎでもあるかのように、毎日その窓口に並んで自分の金を引き上げていました。誰の目にも、この証券会社に危機が迫っていることを強く感じさせていました。
その時、私の友人はといえば、そういう厳しい現実に目を背け、或いは自分でも危ないと知りながら虚勢を張らざるを得なかったのかもしれませんが、「大丈夫、絶対ウチの会社がどうこうなるわけはない」と、今思えば、悲しく響く台詞を吐き続けていました。
この会社が破綻(倒産)を発表したのは、とある土曜の朝でした。
取引所が開いていない、まさにその日を狙って破綻したのだろうと思います。
でも、私の記憶には、その前日、つまり金曜日の夜に彼と電話で話した内容が今でも強く残っています。そこでも彼は、こういいました。
「大丈夫。ウチの会社がどうこうなるなんてあり得ない」
きっと、彼の心理は、自分にとって辛い現実から目を背けようという意識(無意識)が働いていたのだろうと思います。
大人ですらこうなのですから、子供であったら尚更辛い現実からは目を反らしますよね。
今日、そう感じたのは、ある保護者の方からいただいた電話がきっかけです。
最近他の塾から転塾してきたお子さんは、通塾の第一目標を苦手の克服に充てていました。何の科目の何の単元がどう苦手かをよく把握することが、その後の向上のためには欠かせません。
そのため、入会して暫くの間は、新しい単元の学習指導をしつつ、理解できていない点について、過去のある時点まで遡って調べ、そこで分かった問題点を解消するための策を練らなければなりません。
でも、保護者の方が言われることには、お子さんは、自分の何が足りていないのかといったことについて触れられることを極端に嫌がるのだそうです。そして、そうされることが嫌で、以前の塾を辞めてしまったのだとか。
私は言いました。
「以前通っておられた学習塾の指導は正しいと思いますよ。
出来ていないところを正しく把握すること、その原因がそもそもどこにあるのかを突き止めて、必要に応じて以前に遡って学修し直すことは当然の策であって、それを嫌だというのは、あるべき学習指導に大きな障害になってしまいます。」
勿論、プロフェッショナルである私たちは、それでもそう言う生徒たちの要望には最大限の配慮をして、嫌なものを嫌と感じずに済むような様々な工夫を施した上で弱点補強をしてはいくのですが。