礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

この加筆修正は重大な問題をふくんでいる(山住正己)

2021-12-03 02:02:50 | コラムと名言

◎この加筆修正は重大な問題をふくんでいる(山住正己)

 神保町で『綴方教室』(中央公論社、一九三七)を入手し、角川文庫版『綴方教室』(一九五二)と比較したりしているうちに、岩波文庫版の『綴方教室』も読みたくなった。これは先月下旬、神保町の老舗・長島書店で入手した。豊田正子著・山住正己(やまずみ・まさみ)編『新編 綴方教室』(岩波文庫、一九九五年七月一七日)である。
 岩波文庫版『綴方教室』は、角川文庫版とは異なる編集方針を採用している。異なる点はいくつかあるが、最も大きな違いは、中央公論社版『綴方教室』の「前篇」を、大木顕一郎の「解説」を含めて再現していることであろう。
 本日は、岩波文庫版『綴方教室』の「編者まえがき」(山住正己執筆)を紹介してみよう。

    編者まえがき

 本書は豊田正子の『綴方教室』(一九三七年)前篇全文と、『続綴方教室』(一九三九年)『粘土のお面』(一九四一年)の抄録とから成っている。三冊の最初の出版元はいずれも中央公論社であった。
 『綴方教室』は、豊田の小学生当時の担任教師である大木顕一郎と清水幸治の共著として刊行されたが、その前篇について大木は「この記録は、豊田正子の個人文集と考えていただく方が適当であるかも知れない」(本書一五頁)と書いており、その内容から本文庫では「豊田正子著」とした。また大木は「各学年全般に渉っては清水幸治君が書く」(一八頁)と書いており、その部分が後篇であるが、本文庫は豊田の著作としたので、省略した。
 本文庫は中央公論社版を底本として編集作業にとりかかったが、その途中で、一九八四年に木鶏社から出された『綴方教室』が、豊田の原稿がのこっている作品については、原稿どおりに復元されていることを知った。木鶏社版で原稿から復元した作品のうち、本文庫に収録したのは『綴方教室』の「もものせっく」「光男(二)」「つづり方」「犬ころし(一)(二)」「しかられたこと」「おびのぶらんこ」「馬力」「おりえさんのおばさん」と、『続提方教室」から採録した全編である。
 文庫編集担当者から、木鶏社版にもとづいて中央公論社版に朱筆を入れたものを手渡されたときは、正直のところ呆然とするとともに木鶏社版に十分注意を向けなかった不明を恥じた。加筆修正を行なったのは教師以外に考えられない(あるいは一部は編集者であるかもしれないが、いまその真相は不明である)。この加筆修正は教育問題とくに教師の指導のあり方として、まことに興味ぶかい、というより重大な問題をふくんでおり、原文とのちがいを、数十枚の原稿にまとめ、編注にあげる予定をたてたが、あまりにも分量が多く、本文庫に示すことは不可能なので、数箇所を解説であげるにとどめる他なかった。
 木鶏社の方々は、豊田の仕事に心から敬愛の念を抱き、『綴方教室』に関連する全作品を収録した決定版づくりをはじめ、『綴方教室』以後の作品、『粘土のお面』『おゆき』『さえぎられた光』の刊行に着実・誠実にとりくんでこられた。このお仕事がなければ本文庫はありえなかったのであり、木鶏社の方々に深く感謝する。
 なお、編注作成にあたって、「デンシンぼう」「張釜でご飯を炊いた」等々、編者にはわからなかった事項は、著者に直接うかがって知ることができた。

 なお、参考のため、巻末にある〔編集付記〕も引用しておこう。

  〔編集付記〕
一、本書の底本には『綴方教室』(木鶏社、一九九一年一二月一五日発行、第三版)ならびに『粘土のお面』(木鶏社、一九八五年一二月一日発行、第一版)を用い、中央公論社刊行の『綴方教室』(一九三七年)、『続綴方教室』(一九三九年)、『粘土のお面』(一九四一年)を参照した。
一、読みやすくするために、著者の文章については、新たにふりがなを加えるとともに句読点を整理した。また、大木顕一郎・鈴木三重吉両氏の選評等の部分については、上記以外に、一部の漢字をかなに変えたり、送りがなを整理した。
一、本文中に、精神障害や民族差別にかかわる不適当な表現があるが、原文の歴史性を考慮してそのままとした。   (岩波文庫編集部)

 明日は、岩波文庫版『新編 綴方教室』(一九九五)の「目次」を紹介したい。

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