礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

猪苗代湖の飯場で起きた強制労働事件(1948)

2019-12-18 02:50:56 | コラムと名言

◎猪苗代湖の飯場で起きた強制労働事件(1948)

 海野普吉・森川金寿『人権の法律相談』(日本評論新社、一九五三)から、当時の人権侵害事件を紹介している。
 本日は、いわゆる「タコ部屋」における強制労働事件について論評している部分を紹介してみよう。

 飯場における強制労働 昭和二三年〔一九四八〕八月一〇日、福島地方検察庁事務官、郡山労働基準監督官ら四名は武装警官六名の援護の下に猪苗代湖からのトンネル水路開通工事施行にあたっていたA飯場〈ハンバ〉を急襲し下請人〈シタウケニン〉ほか五名を逮捕した。親方たる下請人は一六歳の時から北海道、樺太で タコ部屋生活をやっており、親方が人夫に暴行を加えることは当然のこととしており、逮捕されたときも「まるで何か悪いことをしたようで嫌だ」といったとのことである。問題の飯場は僅か一二坪位のところに荒むしろを敷いただけの部屋に約四〇名の労働者がゴロ寝をしており、豚小屋のように汚く、暗く、寝具は毛布だけ、それも蚤、しらみのため安眠もできないという惨めなもので、労働者は逃亡しようにも捕まった時の仕置〈シオキ〉をおそれてできずにいたという(労働省労働基準局編『労働基準法違反事件判決集』第一集五七頁以下)。右の者らに対する労働基準法違反並びに傷害 被告事件の判決(福島地裁二三・一一・七言渡)には、読むにたえない暴虐の数々が記載されている。
 例えば一人夫〈イチニンプ〉が昼食をしないで作業していたため空腹に堪えず仕事のすきを見て昼食しているのを見ると、被告人の一人は、怠けているとして人夫の胸倉をつかんで屋外に引ずり出し両手で身体をなぐり、その場にあった五寸角の枕木で腰を五回位なぐったため全治二〇日問の傷害を与えた。また一人夫は前日映画をみて寝不足であったため作業中居眠りしているのをみつけられ、長さ三尺位の生割木〈ナマワリキ〉で身体をなぐりつけ、むりやりにトロ押し作業をさせられた。また一人夫は疲労のため仕事にでず飯場にいるのをみつけられ、飯場内の大部屋で土間にあった下駄をもって後頭部を数回なぐられ、さらに頭髪をつかんで土間に引ずり出して暴行して腕及び右足等に出血した等々である。中には飯場に入るときの条件と実際とが甚しく違うので帰郷したいと申し出たところ「下手な真似をして帰ると承知しないぞ」と怒鳴りながら頭髪をつかんで引張り、顔面を平手でなぐり、「土方の焼〈ヤキ〉を入れてやる」といいながらステッキ代用の木で数回なぐられている。まるでラジオの「新しい道」を地でゆくようなものである。ある時は他の飯場の者が気に入らぬことをしたというので、電話で自分の配下十数名を呼寄せ、他の飯場におしよせ、その人夫を大勢で引ずり出し、小川の中に仰向けにねかせて水漬けにした上よってたかって棒切でめった打ちにし、人夫の妻が許してくれと夫の胸に覆いかぶさったのをもなぐり、人夫の顔を下にして水中に二、三分間浸し込み、同時に人頭大の石塊を二、三個人夫の上に落す等の鬼畜のような暴行を加えている。被告人等は懲役三年ないし二年に処せられている。

 文中、「トロ押し作業」とは、トロッコを押す作業の意味であろう。
 ここに挙げられているような、いわゆる「飯場」、いわゆる「タコ部屋」における強制労働は、今日では、ほとんど姿を消している。しかし、職場における暴言などのハラスメントは、今日でも日常茶飯事と思われる。なお、今日の職場で何よりも怖いのは、労働者が労働を「強制」されることではなく、労働者が「自発的に」過度な労働に従事することによって、心身を損なうことではあるまいか。

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