礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

加藤智大『解』を読む(付・北朝鮮の「木炭車」)

2012-09-08 05:18:41 | 日記

◎加藤智大『解』を読む

 ようやく『解』を読み終えた。読み終えるまで、だいぶ時間がかかってしまった。
『解』(批評社、二〇一二年七月)は、秋葉原無差別殺傷事件(二〇〇八年六月)の加藤智大〈カトウ・トモヒロ〉被告が書いた本である。発売に先立って、本年七月一二日のスポーツニッポンに、次のような記事が載ったもようである(スポニチ・アネックスより)。

 東京・秋葉原の無差別殺傷事件で殺人罪などに問われ、一審で死刑判決を受けた加藤智大被告(29)=控訴中=が、事件の動機や当時の心理状態、遺族らへの謝罪などをつづった手記「解」(批評社)を刊行することが12日、分かった。
 手記はまず、被害者や遺族に対し「本当に申し訳なく思っています」と謝罪。全容を明かすことで「似たような事件を未然に防ぐことになる」としている。【中略】
 版元によると、手記は加藤被告と関係のある精神科医から持ち込まれた。同被告は印税を被害者や遺族に渡す意向を示しているという。同書は13日以降、書店に並ぶ予定。
 加藤被告の控訴審は被告が出廷しないまま2日に結審し、9月12日に判決が言い渡される。

 私にとって、この本を読み進めるのはつらいことだった。凄惨な場面があるわけではない。むしろ、事件そのものの描写は、意外なほど簡略である。難しいこと、不可解なことが綴られているわけではない。文章はきわめて平明でわかりやすい。見苦しい自己弁護や責任転嫁があるわけではない。よく自己を分析し、過去を振り返った上で、犯行にいたった経緯あるいは心意を、きわめて「正直に」告白している。おそらく、その「告白」の内容は、読者の予見を裏切るものがある。しかし、この「告白」にはウソがないだろうとも思わせる。だからこそ、読んでいてつらくなるのである。
 どのような犯罪者であれ、犯罪者は、取調べの過程において、裁判の過程において、あるいは事件をめぐる報道において、犯行の「動機」を追究される。それは、警察官を、検事を、弁護士を、裁判官を、犯罪心理学者を、報道関係者を、あるいは国民一般を納得させられるものでなくてはならない。
 誰もが納得しうる犯行の「動機」、犯罪者自身の真摯な「反省」、そして被害者への「謝罪」、この三つが揃ったところで、ようやく犯罪者は犯罪者として、犯罪は犯罪として受容される。
 犯罪者によっては、弁護士が用意したストーリーに沿って、誰もが納得できるような「動機」を語る者もあるかもしれない。ところが、加藤智大被告においては、全く事情がことなる。自分なりに考え抜いた犯行の動機を、それが人々を納得させることができるかどうかについて顧慮することなく(むしろ、それが人々を納得させえないことを承知で)、「正直に」、また自分の言葉で書き綴ったのである。
 同書の「まえがき」にはこうある。

 今回、改めて全てを説明しようと、この本を書くことにしました。私はどうして自分が事件を起こすことになったのか理解しましたし、どうするべきだったのかにも気づきました。つたないながら、それを説明できる言葉も見つけました。それを書き残しておくことで、似たような事件を未然に防ぐことになるものと信じています。

 また、同書の「あとがき」にはこうある。

 私は、見ず知らずの人をまるで道具のように、人を人とも思わぬ犯行で殺傷しました。無差別殺傷事件の動機は、社会に不満があり、社会から抽出した人を殺傷して復讐した、とされるのが一般的ですが、私は社会への不満など持っておらず、秋葉原の通行人に対しては何の思いもありませんでした。むしゃくしゃして誰でもいいから殺したい、と、やつ当たりで殺傷したのですらありません。自分の目的のために、まるで道具のように、というより、まさに道具として人命を利用した、最悪の動機でした。本当に申し訳ないことで、改めて、心よりお詫び申し上げます。

 加藤被告は、自分の犯行に対してなされた世間の「解釈」を拒否している。そうした世間の「解釈」に反論するために、この本を書いたのであろう。
 加藤被告は、ここで「自分の目的」という言葉を使っている。その「目的」が何であったかについては、まだ、この本を読んでいない方々のために、ここでは触れない。しかし、彼は、その「目的」の説明が、人々を、あるいは被害者を納得させられるとは、おそらく考えていない。にもかかわらず彼は、その「目的」を、あるいは犯行の「動機」を語らざるを得なかったのであろう。
 同事件については、さまざまな解釈がある。しかしまず、犯行をおこなった本人の「解釈」を聞くべきだろう。犯行自体、前例のないものであったが、この本もまた、「稀有」なところがある。犯罪者の「告白」としては、ほとんど類書のない本だと言えよう。
 
今日の名言 2012・9・8

◎時折、真っ黒な煙を立てる「木炭車」とすれ違う

 毎日新聞・大貫智子記者(平壌)の言葉。昨7日の毎日新聞記事より。先月から今月にかけて、日本の「全国清津会」の一行が遺骨収集をめざして、北朝鮮を訪問した。これに同行した大貫記者は、8月30日、漁郎〈オラン〉から清津〈チヨンジン〉に向かう未舗装路で、真っ黒な煙を立てる「木炭車」とすれ違ったという。北朝鮮は、今日でも「木炭車」が健在であった。ただ、煙の色からして、燃料は、少なくとも木炭ではないように思われる。

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