◎高群逸枝『母系制の研究』厚生閣版の「例言」
先日、近所の古書店で、高群逸枝(たかむれ・いつえ)著『大日本女性史 母系制の研究』(厚生閣)を入手した。『母系制の研究』は、のちに高群逸枝(一八九四~一九六四)の代表作として知られることになるが、厚生閣から出た『大日本女性史 母系制の研究』は、その最初の版である。ただし、私が買い求めたのは、一九三八年(昭和一三)六月刊の初版ではなく、一九四一年(昭和一六)七月刊の再版である。ちなみに、古書価は一〇〇円だった。
巻頭に徳富蘇峰の序文が影印で印刷されている。毛筆のクセ字である。そのあとに、「例言」、「引用書目」、「目次」と続く。
本日は、「例言」を紹介してみたい。それほど長いものではないが、二回に分けて紹介する。
例 言
一、我国には未だ真によるべき女性史がない。女性史と名け〈ナヅケ〉られしものは数種あるにはあるが、其等は余りに小冊なる上に、内容においても必ずしも学的良心を満足させるものではない。女性の述作に至つては皆無である。私はよき女性史の必要と、それが女性自身によつて書かるべき意義を信ずるものである。唯私が決して其任でないことは自らよく承知してゐる。それにも拘らず進んでこれをなす所以は、纔〈わずか〉に先を為して後の大成を俟たんとするに外ならない。
一、私の書かんとする女性史は、若しすべての事情が之を許すならば、次の五巻としたい考へである。
1 母系制の研究
2 招婿婚の研究
3 通史古代 国初より大化迄
4 同 近代 改新より幕末迄
5 同 現代 維新より現代迄
一、本書はその第一巻である。母系制の研究―正しくは母系的遺習の研究は、単に女性史においての第一課題たるのみでなく、亦広く古代史闡明〈センメイ〉の鍵ともなるべきものであるが、史学界の触手は未だこの方面に及ばず、謂はゞこれは女性史家の為めに未開拓のまゝ残されてゐる処女地である。私の本書及び次の巻に試みんとする研究は、善かれ悪かれ〈アシカレ〉、この意味においての最初のものではないかと思ふ。この試みが、幸にして何程かの価値をも伴ふものであれば、たゞに著者の本懐のみではない。【以下、次回】
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます