礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

駅売りの「焼きぶた」は近年見かけない(種村直樹)

2022-06-29 02:21:48 | コラムと名言

◎駅売りの「焼きぶた」は近年見かけない(種村直樹)

 昨日の続きである。種村直樹は、その著書『時刻表の旅』(中公新書、一九七九)の第Ⅴ部「世相を映す時刻表」で、控え目ながらも、自分と鉄道との出会いについて語っている。一七二ページ以下には、次のような文章がある。

 ようやく敗戦後の混乱がおさまってきた一九五〇年(昭二五)三月号の『日本国有鉄道編集時刻表』は、表紙に「旅を楽しく」の文字を入れ、二ページながらもグラビアページを復活した。「山旅は愉し」と丹沢、相模大山の写真を掲げ、「東京丸ノ内の美観」を添えている。しかし、「鉄道司法警察職員配置駅一覧」に一ページをさき、「犯罪が起きたらすぐ公安官に」と呼びかける、まだぶっそうな時代であった。特急〈つばめ〉(〈へいわ〉を改称)〈はと〉が、東京―大阪間八時間運転と太平洋戦争前の水準に戻った一〇月大改正号になるとグラビアもふえ、「車窓展望図」や「主要旅客列車編成」が掲載されるなど、時刻表にもゆとりが見えてくる。グラビアページには、特急に乗務した「つばめガール」「はとガール」が、にこやかに展望車で笑っていた。
 僕にとっても、東海道本線の膳所から彦根の親類へ行くのに、ドアにロープを張った貨車に詰め込まれたような記憶が、愛称のついていなかった急行で東京へ行き帰りする想い出に変わる。外食券がないと駅弁を買えなかったから、道中の楽しみは、それぞれ五〇円のサンドイッチと焼きぶた。駅売りの焼きぶたは近年見かけないが、小さな箱にキャベツを敷き、それ以上薄く切れないような肉が数枚並べてあり、こんなにおいしいものはないように思えた。サンドイッチと焼きぶたをほお張りながら、NHKラジオ「日曜娯楽版」で覚えた『僕は特急の機関誌で』(三木鶏郎作詞作曲)を、何度も口ずさんだことだった。

 これもまた、貴重な体験談である。なお、最初、読んだときは気にならなかったが、こうして書き写してみると、どうしても「文章」が気になる。これが、この人の文章だと言われてしまえば、それまでだが。

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