礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

麻生財務相のいう「ナチス憲法」とは何か

2013-08-01 05:31:21 | 日記

◎麻生財務相のいう「ナチス憲法」とは何か

 朝日新聞デジタルの記事(本日午前一時一七分配信)によれば、麻生太郎副総理が、先月二九日におこなった「ナチス発言」が、国際的に物議を醸しているらしい。
 以下は、同記事の引用。

 麻生太郎副総理が憲法改正をめぐり、ナチス政権を引き合いに「手口に学んだらどうか」などと発言したことに対し、米国の代表的なユダヤ人人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」(本部・ロサンゼルス)は30日、批判声明を発表し、「真意を明確に説明せよ」と求めた。
 麻生氏は29日、東京都内でのシンポジウムで「ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていた。誰も気づかないで変わった。あの手口に学んだらどうかね」などと語った。
 シンポジウムはジャーナリストの桜井よしこ氏が理事長を務める「国家基本問題研究所」が都内のホテルで開いた。桜井氏が司会をし、麻生氏のほか西村真悟衆院議員(無所属)や笠浩史衆院議員(民主)らがパネリストを務めた。

 麻生氏は、首相を務めていたころ、未曽有〈ミゾウ〉をミゾユウと読んで、ヒンシュクを買ったが、今回の発言は、それと比較にならないぐらい重大な発言である。自民党安倍政権は、この麻生発言によって、その政権の基盤が揺らぐなど、ミゾユウの危機に陥る可能性すらある。
 ところで、麻生財務相のいう「ナチス憲法」とは、いったい何を指すのか。ドイツのワイマール憲法は、ナチスの全権委任法(一九三三)によって死文化したとされるが、ワイマール憲法に替って、「ナチス憲法」が成立したという話は聞かない。ことによると、麻生財務相は、ナチスの全権委任法のことを、「ナチス憲法」と呼んでいるのではないか。
 このあたりについて麻生氏は、おそらく基礎的な知識を欠いたまま発言しているはずであり、日本の政治家の教養の低さを、世界に知らしめることになった。
 ところで、麻生発言のあった日のコラムで私は、西部邁氏の不文憲法支持論について論じ、その際、「ドイツのワイマール憲法は、ナチスの全権委任法(一九三三)によって死文化したと言われるが、それ以降のドイツは、不文憲法の体制と呼ぶべきなのか」という疑問を呈しておいた(投稿は、同日、午前五時三一分)。もちろん、これは、西部氏に対する問いであった。
 西部氏には重ねて、次の問いを呈しておきたい。「ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていた」という麻生財務相の理解は、史実として正しいのか。日本国憲法という成文憲法を廃止し、不文憲法体制に移行するという持論を実現しようとする場合、氏は、ナチスの「手口」を学ぶということも考えているのか。

追記 その後、調べてみたところ、戦前戦中の日本において、ワイマール憲法が死文化した状態におけるドイツの憲法状況、すなわちナチス・ドイツにおける憲法状況を指して、「ナチス憲法」と呼んでいた事実があったことがわかりました。上記コラムでは、麻生太郎副総理(当時)の「ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていた」という発言を問題にしましたが、この麻生氏の認識は、必ずしも間違いではなかったことになりますので、その点を追記します。これにともないまして、そのあとの表現に適切でない部分があることに気づきましたが、自戒の意味をこめて、原文のままにしておきます。なお、2015年7月29日のブログも、併せて、ご参照ください(2015・7・29)。

 

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