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礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

国民の中に武力内閣をも寛容せんとする意向が見える

2023-09-12 01:05:22 | コラムと名言

◎国民の中に武力内閣をも寛容せんとする意向が見える

 美濃部達吉『議会政治の検討』(日本評論社、1934)から、「テロリズム横行と政局の前途」という文章(初出、1932年5月)を紹介している。本日は、その三回目(最後)。

 第三には、軍部を中心とした兵力内閣の可能性が有る。首班者が誰れであるにもせよ、勢力の中心を軍部に置き、兵力を背景として力強い政治を行はうとするのである。これも強力内閣の中心を強力内閣の一種といへばいはれ得るけれども、そのいはゆる強力は国民の信頼を基礎とした強力ではなくして、武力に基く強力である。それは固より挙国一致内閣でもなけれぱ、又必ずしも人材内閣でもない。実力を基礎とした武断政治を行はんとするもので、その意味においては兎も角も〈トモカクモ〉力強い政治を期持し得るかも知れぬ。
 それは憲法政治の精神からいへば、無論甚だしき異例であるが、現在の如き国家非常の危機に際しては、必ずしも憲法政治の通常の原則を墨守することを得ないのはやむを得ないところで、国民の中には或は斯ういふ武力内閣をも寛容せんとする意向が見えないではない。
 唯万一斯ういふ内閣が成立するとしても、果してこの困難な時期に際して一国の政治を指導して行くだけの達見と才能とを有する偉大なる政治家を、軍人又はその同情者の間に求め得べきかは、甚だ疑問であり、殊に若し政党殊に議会に絶対多数を占めて居る政友会が、これに反対するとすれば、ここにも非常な混乱を予想し得るのであつて、われわれは安んじてこれを歓迎することに、大なる躊躇を感ずる。
 将来この困難なる政局を担当すべき内閣としては、われわれは唯以上述べた三種を想像し得るのみである。然してそのいづれもが天下万民の信頼を得て、平和と幸福とを回復し得るであらうことが、完全に期侍し難いとすれば、この時局を救ふの途が如何に困難であるかが明白であり、西園寺公爵がその奉答に如何に苦慮せられて居るかも、想像に余りある。
 私は大なる憂慮を以て時局の進展を注視する。

 美濃部達吉は、この文章を発表した時点(1932)では、すでに政党内閣に見切りをつけており、「兵力内閣」やむなしと考えていたかの感がある。その美濃部が、三年後の天皇機関説問題(1935)では、右翼・軍部と結んだ「政党」(立憲政友会)によって、完膚なきまでに糾弾されることになったのは、何とも皮肉なことであった。

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