goo blog サービス終了のお知らせ 

礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

ひとりひとりが、かけがえのない値うちをもっている

2022-01-02 00:26:07 | コラムと名言

◎ひとりひとりが、かけがえのない値うちをもっている

 昨日に続いて、吉野源三郎著『人間の尊厳を守ろう』(山の木書店、一九四八年一一月)を紹介する。本日、紹介するのは、その「あとがき」である(一二六~一三一ページ)。

   あ と が き

 戦争がすんでから二年ばかりの間に、「銀河」とか「少年文庫」 などという少年雑誌のために書いた五つの話を中心にしてできています。その五つの話は、これからの世の中を、どう考えどう生きてゆくのがほんとうか、という問題について、いろいろな角度から考えて見たものですが、もともと、雑誌社から頼まれてそのときどきの題目を選んで書いたものですから、一つ一つ独立のものとなっていて、一冊の本としてのまとまりをもっているわけではありませんでした。それで、こんどこの本に集めるにあたって、並べ方をくふうしたり、だいぶ書き直したりしました。そして、そのほかに五つ小さな話を、息抜きのために間にはさんで一冊の本にしたわけです。
 五つの話を順に読んでゆくと、次ぎのようなつながりがつくつもりです。
 第一に、人間を長い歴史の流れの中に見ること、その流れの中で人間が動物の状態を抜け出し、現在の人間にまで生長し発展して来たことを忘れないこと。――「星空は何を教えたか」には、そのことが書いてあります。
 第二に、そういう流れの中にある人間のひとりひとりが、それぞれ、かけがえのない値うちと権利とをもっていること。――「ひとりひとりの人間」があつかっているのは、この問題です。この権利は、学問的な言葉で基本的人権とよばれているものですが、その思想を、君たちの理解力でわかる限り、ここで説明して見ました。
 第三に、そのひとりひとりの人間のかけがえのない権利をおたがいに大切にしながら、おおぜいの人間がいっしょに生きてゆく上には、どんな政治が必要かということ。――その答えが「人民の、人民による、人民のための政治」です。ひとりひとりの人間を大切にすることから進んで、人民を尊ぶことを知り、基本的人権の尊重にもとづく民主主義こそ、正しい政治の原則だということをみとめること、それが第三段になっています。
 第四に、そういう民主主義を実際にやってゆくときに、その手続きとして一般におこなわれている選挙とか多数決ということの、ほんとうの精神がどこにあるかを、根本にさかのぼって知ること。――この四番目の問題をあつかったのが、「何が一番大切か」という話です。
 第五に、民主主義にもとづいて法律上すべての国民が一応平等となり、同じ政治的権利をもつようになっても、なお、実際には不平等がなくならないこと、特に、経済的な不平等があって、そのためにどんなにひとりひとりの人間の尊さがそこなわれているか知れないこと。――それを「働くものは手をつなぐ」という労働組合の話でのぞいて見ました。この話をとおして、これからの大きな社会問題と、これから政治の重要な課題とについて、一つの見当がついてくれればうれしいと思います。
 五つの話は、どれも少ない紙数で大きな問題をとりあつかっているため、肝心だと思われることだけを大づかみにお話ししたにとどまり、こまかいことや、くわしいことには入ってゆけませんでした。だから、きっと君たちには、たくさんの疑問が残ったことだろうと思います。そういう疑問については、読んだあとで友だちと話しあったり、学校の先生に質問したりして見てください。そういうふうにして、いまの時代の大切な問題について君たちが眼をむけ、考えを進めてゆく、そのきっかけさえできれば、この本としては役目をはたしたことになるでしょう。
 戦争にまけて、いま日本は荒れはてゝいます、しかし、次ぎの時代を背おう君たちさえしっかりしていれば、けっしてこのままに終ることでないでしょう。君たちが、この本でとりあつかっているような問題について、まじめな考えを失わない人として生長し、元気な人として世の中に出てゆき、君たちに残された仕事に男らしくあたってゆくならば、いま荒れはてゝいる日本の土地に、茂った森のように美しい、りっぱな世の中を作り出すことだって、けっして夢ではないでしょう。
    *    *    *
 この本ができあがったことについては、富本一枝夫人にお礼を申しあげなければなりません。夫人の熱心なおすゝめがなかったら、ここに集めたものを一冊の本にする気にはなれなかったのです。
  一 九 四 八 年 八 月       著  者

 最後に、「富本一枝夫人」という名前が出てくる。富本一枝(とみもと・かずえ、一八九三~一九六六)は、画家であり、また、この本を発行した山の木書店(東京・世田谷区祖師谷)の店主でもあった。
 富本一枝「夫人」とあるが、一枝の夫は、陶芸家として知られる富本憲吉(とみもと・けんきち、一八八六~一九六三)である。ただし一枝は、一九四六年(昭和二一)に、憲吉と別居したという(ウィキペディア「富本一枝」)。

*このブログの人気記事 2022・1・2(10位になぜかミリオン・ブックス)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする