◎岩波新書「発刊の辞」(1938)をめぐる謎
本年五月一二日のコラムで、岩波新書・旧赤判の「発刊の辞」、正確には「岩波新書を刊行するに際して」という文章(1938)を紹介した。
ところで、この旧赤判の「発刊の辞」は、岩波新書の旧赤版の「すべて」に載っているわけではない。初期のものには載っているが、なぜか途中から、載らなくなってしまう。
具体的に見てみよう。〇は「発刊の辞」が「載っている」ことを示し、×は「載っていない」ことを示す。
〇小泉 丹『野口英世』 岩波新書43 一九三九年七月初版
〇安田徳太郎『世紀の狂人』 岩波新書58 一九四〇年三月初版
〇木村禧八郎『インフレーション』 岩波新書56 一九四〇年五月第二刷
〇中野好夫『アラビアのロレンス』 岩波新書73 一九四〇年九月初版
×小泉 丹『常識の科学性』 岩波新書81 一九四一年三月初版
×笠間杲雄『回教徒』 岩波新書33 一九四一年八月第四刷
×ゼークト『一軍人の思想』 岩波新書67 一九四一年八月第二刷
×鈴木大拙『続 禅と日本文化』 岩波新書94 一九四二年一〇月初版
×荒川秀俊『戦争と気象』 岩波新書97 一九四四年一月初版
だいたいの傾向として、一九四〇年(昭和一五)までに刊行されたものは、「発刊の辞」が載っており、一九四〇年(昭和一五)以降に刊行されたものには、載っていないということが言える。
それにしても、なぜ「発刊の辞」は、途中から載らなくなったのか。これは、当局からの「指導」があったのか、それとも、岩波書店の側で、この「発刊の辞」は載せないほうがよいとする判断がなされたのか。【この話、続く】
昨日のクイズの解答(本日はクイズなし)
1 案山子 かかし
2 可可呑 かかのむ
3 柿浸 かきひたし
4 書判 かきはん
5 陽炎 かげろう
6 汗衫 かざみ
7 炊屋 かしきや
8 橿鳥 かしどり
9 膳部 かしわべ
10 帷子 かたびら