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礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

「陸海軍とナチ化した官僚が日本を支配した」(バイアス)

2013-02-06 05:43:37 | 日記

◎「陸海軍とナチ化した官僚が日本を支配した」(バイアス)

 雑誌『世界』は、その創刊号と第二号(一九四六年一月号・二月号)で、ヒュー・バイアスの著書『敵国日本』(一九四二)を紹介している。本日は、創刊号に紹介された前半部分の最後のところ、すなわち「内閣」について解説しているところ(第四章)を紹介する。
 最初に「日本の政治に於いて、国策決定の第二の要素は内閣である」とあるが、ヒュー・バイアスの認識によれば、日本の国策の決定にあずかるのは、天皇と内閣と陸海軍の三要素であり、このうち、陸海軍が圧倒的な力を持っているという(創刊号一八四ページ)。

 日本の政治に於いて、国策決定の第二の要素は内閣である。内閣の法制上の地位は重要でなく、要するにそれが実際に於いてどれだけ政策決定または運用上に力をもつてゐるかが問題である。数年前までは随分距離はあるが、英国の内閣に似たところがあつた。閣僚は議会多数党中から選ばれ、内閣は議会の代表的輿論〈ヨロン〉を反映してゐた。大蔵大臣と商工大臣を通じて、財界と連絡を保ち、農林大臣によつて農村と結びついてゐた。陸海軍大臣は陸海軍の代表であり、外務大臣は常に外交官の出身であつた。満洲事変前の十年間は、内閣は疑ひなく日本の政府であつた。たとへ統帥部の独立と非妥協的態度に問題はあつたにせよ、兎にも角にも〈トニモカクニモ〉政府だつたのである。
 事態は今日は異る。内閣の今日の状態は、常に動揺し未完成の状態にある日本の政治機構そのものを反映して居る。選挙による代議政治の面は殆ど影をひそめてゐる。国民多数の支持を得た強力な多数党は存在しない、否〈イナ〉政党が存在しないのだ。内閣は政治上の一機関といふよりは寧ろ官僚的な制度と化して居る。閣僚は各省の意見を内閣に上達し、政府の決定を以て各省を指揮命令するのである。かきの如き内閣も一個の代表体ではある、十一名の閣僚中五人までは陸海軍部を代表するからだ。
 世界の何処を探しても、日本ほど政党の腐敗、政治家の無能が鸚鵡〈オウム〉の口真似のやうに喧伝〈ケンデン〉されてゐる国はなく、政党党首を総理大臣に任命する慣習が放棄されて以来、世界中で日本ほど国家の最高位たる総理大臣に無為無能の人物を次ぎから次ぎへと並べて来た国もない。唯一人の例外がある。即ち近衛〔文麿〕公である。政党の没落と議会政治の衰退として、日本の内閣の首班は、英国式の首相といふより、独逸帝国時代の首相に似た存在となつたのである。政党の基礎の上に組織された内閣中の主席国務大臣ではなく、政府の主席行政長官であつて、内閣閣僚はこれを政治的入閣、政党的関係をはなれて適当と思はれる各方面から選ぶのである。近衛はかくの如き変遷を代表した首相である。彼は近年に於けるどの総理大臣よりも、この新しい意味に於ける最も総理大臣らしい総理大臣であつた。前任者の多くは或ひは陸軍から、或ひは海軍から、或ひは官僚から選ばれた素人政治家であつた、その在任期間――単に任にあつたといふべきで権力の地位にあつたとは言へない――は短く、彼等は謂はば試みにためされたのであり、或る者は数ケ月続いたに過ぎない。彼等の存在は極めて影うすく力ないものであつたが、しかも彼等の間を一貫して流れる一つの原則があつた。即ち重臣は彼等を選定するに当つて常に極端な傾向の持主を避けたといふことである。五・一五事件と、二・二六事件と二度までも暗殺と叛乱の形をとつた革命の空気の激成を恐れたのである。重臣は遷延政策をとつたのである。その中〈ウチ〉に空気は和らぐであらう、「じやじや馬」は馴らされるであらうと祈つたのである。かくの如く何処から何処までも日本式のやり方は、飽くまでも青年将校を頑是ない〈ガンゼナイ〉子供と同一視し、共産主義者の如く国家を蝕む〈ムシバム〉敵とは考へなかつたのである。それは間違ひであつた。陸海軍と「ナチ」化した官僚とが今や日本を支配した。そして日本にとつて最も恐るべき二国を相手とする戦争に国の将来を賭けてしまつたのである。(つづく)

『敵国日本』の紹介は、このあとも続けるが、とりあえず明日は、別の話題を提供する予定。

今日のクイズ 2013・2・6

◎次の内閣のうち、最も短命に終わった内閣はどれでしょうか。

1 1937年の林銑十郎内閣  
2 1939年の平沼騏一郎内閣
3 1940年の米内光政内閣

【昨日のクイズの正解】 3 鶴見俊輔 ■都留重人は、経済学者。1940年にハーバード大学院でで学位取得。武田清子は、思想史家。ユニオン神学校大学院修了。ちなみに、都留重人・武田清子・鶴見俊輔・鶴見和子(社会学者、俊輔の姉)は、第一次交換船の四人部屋に同室しており、「船底の四人」と称される。

今日の名言 2013・2・6

◎陸海軍と「ナチ」化した官僚とが今や日本を支配した

 ヒュー・バイアスの言葉。『敵国日本』(1942)の第四章に出てくる。上記コラム参照。

コメント (4)
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