「STILL LIFE」 辞書では、静物、静物画。
もっと調べると、オランダ語の「stilleven」に由来しており、直訳すると
「動かざる生命」。また、装飾的テーマや「五感の寓意」としてよく描か
れている。*寓意:何かにかこつけて、それとなくある意味をほのめかすこと。
清い水色の表装をよく見ると気泡のようなものが不規則に点在しているのが
見えてくる不思議なデザイン。
主人公と知人「佐々井」との会話で「チェレンコフ光」という言葉が出て来ますが、
その光を描写しているのではないかと・・・
拡大した表紙
”この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。”
ストーリーはこの文章から始まりました。
主人公が待ち合わせの喫茶店に入ると、佐々井がコップの中の水に「チェレンコフ光」が
見えないかと透明な水そのものを真剣に見ていました。
「チェレンコフ光」は宇宙から降ってくる微粒子が水の中の原子核とうまく衝突する
と、光が出るようですが、このコップの水の量では一万年に一度くらいの確立だそう
で不可能に近い。また、「ニュートリノの飛来を感知できる宇宙的な君」、「ディメン
ションの、希薄な存在」とか、物理学を勉強している夏樹さんはさりげなく自然科学を
ストーリーの中へ織り込んで描いています。
チェレンコフ光のことや無数の微粒子のことが叙情詩のように語られ、染色工場で知り
合ったふたりの”3ヶ月間と決められた同居”へとストーリーが進んでいきます。
現実的な話しが最後には広大な話し???に、「心が星に直結していて、・・・」、
「今は、近接作用もなく遠隔作用もなくて、ただ曖昧な、中途半端な、偽の現実だけ」
となり、佐々井は存在したのか、タイムマシンでやってきたのか、大熊座へ帰ったのか。
最後まで佐々井と主人公は理想的な距離感を保ち、計画的行動も、ふたりの別れも夢の
中での出来事のように静かに終わり、それぞれの人生へと。
最後も詩のような、幻想のような文章で終わりました。
主人公は佐々井との三ヶ月という期間内で目的達成に向けて協力するうちに、成長し
受け身から能動的に変わっていったと感じています。
面白い作品でした。
「ヤーチャイカ(Я ɥaŇka)」
ロシア語;「わたしはカモメ」
この小説は、叙情詩的な表現もあり、美しい文章で書かれ読みやすく感じました。
離婚して娘カンナと二人暮らしの主人公とイルクーツク(シベリアのバイカル湖の西)
出身のMr.クーキンとのお話し。
シビアな話しからドラマチックな出来事や「ディプロドクス」という恐竜まで出てくる、
宇宙的(空間と時間)なストーリーだなと私は感じました。
軍用機の機器の開発にたずさわっている主人公「文彦」とロシア人「クーキン」との
偶然の出会い。果たして、クーキンはスパイなのか?
ロシヤの性善説、情報機関性善説。核戦力の均衡による抑止等のふたりの論争。
また、恐竜の話しは娘カンナの幻想なのか? 彼女の平均台での「後方宙返り」を物理
学的かつ叙情的に表現され楽しい~♪
最後には、カンナはディプロドクスの頭に乗ったカンナ自身を霧の中に消えて見えなく
なるまで見送っている。
そんな風にして、今までの自分と別れ、そうして新しい自分になるのだと語っています。
きっと、自分を見つけ、自信をつけ、成長し少し大人になっていったのだと思います。
それにしてもディプロドクスという恐竜は何を意味していたのか???